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メイディ-ブラッド=吸血鬼リヴァイヴ=  作者: 綾
吸血鬼リヴァイヴ
9/14

08「前夜」

短めです。

 館の修復はケルディの使い魔のワーフルフに任せた。 使い魔と言っても、4代目ブラッドの代に、攻め混んできた魔物を支配かに置き、その権限をケルディが貰っただけだが。


 俊敏性と凶悪性を持った彼らが、せっせと壁の残骸を運んでいるのはシュールだ。

 全くもって、用途違いだ。


 ワーウフルはグリーンウルフとは違い二足歩行の人間に似たフォルムを持つが肉付きや骨の形などは狼とほぼ同じだ。

 唯一の弱点は腕力が弱い点だが、それでも人間の2倍近くある。

 戦を冠するのは、強靭な脚による突破力を持っているためだ。彼らに狙われれば、脚力を生かした俊敏さで蹂躙されることだろう。

 夜には黒い毛並みを生かして闇に紛れ込み、気づいたときにはーーということだ。


 戦と名のついた彼らが補修作業を行うことをどう思っているのか興味はあるが聞くつもりはない。

 これから待ち受ける戦争を思えば、よろこんで本領を発揮してくれるに違いない。ワーウルフも本望であろう。


「勝手に決めちゃったけれど、いいのよね」


「問題ありません。もう隠れるのは終わりです。次は戦うための兵隊を集めなければなりませんよ」


 この部屋にいるのは、メイディとケルディだけだ。

 天窓から差し込む月明かりが、金の床を反射して幻想的な光景を作り出している。

 鼻につく血の臭いは、まだ微かに残っていた。


「やはり、教えてはくれないのかしら?」


 夜明けと共に街へ戻る事を決めた戦士たちは既に眠りについていた。

 カールには細胞の再成速度を一時的に上げる薬を与えておいた。とてつもなく苦いが、既に痛みは和らいだようで今は仲間達と眠っている。


「はい。これは先代方の悲願ではありますが、方法は私に一任されています。あれの強さを知るということは、強さに対して目標をつけることになる。目標は、指針にもなりますが限界にも成りうる。メイディ様には限界を作っていただきたくはありませんので」


 ケルディはブラッドを初代から支えている執事だ。

 元々は子犬だったらしいが、命を初代エンペラーに救われ、恩返しのために生まれ変わったらしい。

 知識や魔法、戦い方を、ブラッド8代全てを見てきた経験から教えてくれるが、何のために戦っただとか、そういう詳しい背景は教えてくれない。


 一度主の命令だと、強制的に聞き出そうとしてみたけれど断られてしまった。


 話せない理由は、彼の過去を語るには"あれ"は避けて 通れないかららしい。

 しかし、そもそも"あれ"についてメイディは一切知らないので、推測することすら出来ない。

 一つだけ分かっていることは、ケルディと、先代は"あれ"を恐れている。強者である彼らが恐れるくらいなのだから、想像することすら不可能な、理不尽な強さを持っていると考えられる。が、そこまでだ。それ以上は考えることはできない。所詮ただの予想である。

 推測と予想は違う。予想はプラスの面でもマイナスの面でも拡大解釈をしがちになる。


「"あれ"が分からない以上、それに振り回されるつもりはないわ。まずは、緑狼の出所を叩く。100年も付きまとわれて、うざいったらありゃしない」


 街を襲うバケモノを処分する理由は3つある。

 一つは父の結んだ不干渉締結の解消のため。


 一つは緑狼の出所を突き止めて潰す。

 緑狼は、黒の館がある丘の、奥の森から来ている。そしてその森は湖へと繋がっており、街の領地に入る。つまり街に出入り出来ない今は緑狼を追うことは出来ない。


 メイディには見えている。森で蠢く無数の存在を。

 恐らく森にはグリーンウルフが1000はいるだろう。あれは潜伏させるのにも使える。生きるためのエネルギーは光合成で得ることが出来るので、1000体いようが生物を食い散らかし生態系を崩すようなこともない。


 ずっと気配が気になって仕方がなかったので、駆除をするのに良い機会だし、どうせならアウダウンを手に入れるために利用させてもらおうと考えている。


 一つは、"あれ"を考慮してだ。まずはこの街を手に入れる。私は街を隠れ蓑にしつつ、その支配地を拡げていくつもりだ。そうすればいずれは炙り出せるだろうし、引っ掛からなかったとしても数の上では有利になるだろう。


 まとめると、戦争を効率的に進めるために街を手に入れる。邪魔な奴は潰す。


「なんだか……嬉しそう。気のせいかしら?」


 メイディは窓から月を見上げていた。 季節はそろそろ冬になる。窓に写る滅多に喜怒哀楽を顔に出さない執事が、頬を弛ませていた。


「……気のせいではありませんよ」


 執事が踵を返し、部屋のドアへと歩んでいく。主に背を向けて会話するという暴挙は、二人がただの主従関係ではないことを物語っていた。

 ケルディは従者であるが、先代の意思を直接継いだ者でもある。先代達の敵わなかった"あれ"を倒すこと。それが託された悲願であり、メイディのためでもある。


「あそこは、初代ブラッド、エンペラー様が造られた街であり、ブラッドが支配すべき土地です。再びブラッドの元に返ることが願いそうで、何よりも嬉しいのです」


 ブラッドが手に入れたものは多い。しかし今はこの館を含む領しかない。ブラッドと共に歩んできたケルディにとっては、全て奪われたも同然の感覚だ。そして執事として全てを取り戻し、元に戻したいというのも当然の願いだ。


 しかし例え全てを取り戻しても、"あれ"に勝てなければまた全てを失うことになってしまう。

 事は慎重に、しかし迅速に進めなければなるまい。


「"ロード"の構築をしてきます。明けには終わらせますので、それまでメイディ様はお休みください」


 メイディは振り返らずに、黒の館の7階から街を見下ろした。

 丘の上に建っているので、全域を見渡すことが出来る。その街を撫でるように窓へそっと手を添えた。


「……眠れないわよ。眠れるわけないじゃない」


 うっすら笑みを浮かべる。

 人間にとってのバケモノなどたかが知れている。それを処分するというロウコストで出入りが解かれる。


 窓に映る顔は宛ら、遠足へ行く子供のようであった。

次回、

09「思い出される苦痛と、予想される恐怖と」


少し期間が開いてしまう……かも。

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