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メイディ-ブラッド=吸血鬼リヴァイヴ=  作者: 綾
吸血鬼リヴァイヴ
8/14

07「不干渉協定」

 嘆願を忠告で返され思考がフリーズしたが、壁が吹き飛ぶという事態に瞬時に現実に戻る。

 カールが昔見たのと同じ魔物だと思う。しかし決定的に違っているのは、目の数が8つではなく12つになっていることだ。


「小さくなったような……?俺がでかくなっただけか?」


「あなたの感覚は間違ってないわ」


 メイディが答えた。


 黒の館には度々緑狼<グリーンウルフ>が襲撃してきていた。緑色の体をしていることから、メイディはグリーンウルフと名付けている。

 回を増すごとに進化しているのがこの魔物の特徴で、その進化スピードは突然変異と言っても良いレベルのものだった。


 40年前の緑狼〈グリーンウルフ〉は8つ目で体長が1.8メートルあった。それに対し今目の前の緑狼〈グリーンウルフ〉は12つ目で体長1.4メートルである。


 メイディが初めて緑狼を見たときは、2つ目で2.5メートルの巨体で、ただの大きな狼といった印象だったが、それから3つ4つと目が増えていき、サイズも小さくなって、5つ目のとき、光学系の魔法を扱うようになった。


 成長と言うには余りに突飛すぎる。突然変異か、メイディとしては何者かによって改良されているような精錬さが気になる所である。

 そもそも何故、不自然なまでに自然に草木に溶け込むことができるのか。その欺瞞能力の高さに興味を持ったメイディは緑狼を解剖したことがある。その結果、緑狼は葉緑体をその身に宿していることがわかった。


 欺瞞能力は、葉緑体を持つことによって、葉緑体を持ちうる植物の中に溶け込むことを可能にしているのである。


 そして厄介なのは欺瞞能力だけではない。

 狼はご存知のとおり肉食で、生物を食べることで活動エネルギーを取り入れている。では、葉緑体による光合成で得たエネルギーは何処で消費されるのか。


 緑狼の12の目が赤く光った。キイイと迸る閃光。

 そして


 ーーちゅぃン


 一閃された場所が綺麗に切断されていく。

 亀裂のない一線が、床と壁に走った。


 その赤い光線は光合成から得たエネルギーを放出した、大陽熱レーザーだ。


「な、やべえぞ!!?なんだあいつ!!」


 兵士達がレーザーの威力に後退り、散り散りに逃げていく。それを緑狼は逃がさない。目の動きに合わせてレーザーが戦士に追随していく。


「氷檻」


 遂に追い付かれ、真っ二つにされそうなった戦士の前にメイディの言葉と共に冷気が走った。


「な!? 魔法だと!」


<氷檻>は文字通り氷製の檻を出現させる魔法である。しかし檻というには隙間はなく、完全に半球に型どられた氷であった。

 薄さ1センチ、直径50センチの研磨された12個のそれらはまるで鏡のようであった。


 本来対象を閉じ込めるための檻は地面との接点を持たず、何故か浮遊しているのだ。


 緑狼<グリーウルフ>はうざったいが、こいつらのお陰で氷を風で研磨することで鏡を作るという発想をすることができた。その点だけは感謝している。


 メイディは向かってくるレーザーに対してそれぞれを上手く角度を合わせて反射させた。


 反転したレーザーは戦士を狙った緑狼の頭部を、見事に12本一点に貫き、一瞬で絶命させた。


 剣の技術といい、感情で大地を揺らす力技といい、見た目に反してその強大な力で捩じ伏せていくタイプかと思っていた兵士達は氷の緻密さと操作の精密さに驚きを隠せない。

 単純な力も、魔法力も技能も十分に持ち合わせた幼子の中には、何かが棲んでいるのではないかと誰もが思った。


「チッ、家を壊しやがってーー」


 住みかとする黒の館を壊され、怒りを露にする館の主は決めた。

 狼にどの程度まで知能があるのか分からないけれど、腕を削ぎ落とし、足を折り、目玉一つ一つを潰してから圧殺してやろう。さぞかし恐怖することだろう。それでも館の損傷とは釣り合わないけれど、少しは心晴れるものがあるに違いない。

 ついでに生かしたまま解剖して、自分の体を細かに調べ尽くされるという恐怖体験をお土産に地獄に行って貰おうか。


「次はオマエだ、ワン公」


 メイディは、それで終わらせない。

 先程射殺したレーザーを〈氷檻〉で反射させて回収し、2体目の腹を貫通したところでレーザーは減衰し消滅した。

 腹を熱されてぐずぐずにした緑狼<グリーウルフ>はビクン、ビクンと二度痙攣して死体になった。


 ーー残り8体。


 メイディにとってコイツらの相手は手慣れたものだった。


 レーザーの発射本数が120本になろうが、彼女を殺すことはできない。

 3桁程度では彼女の脳の処理と、脳の指令を実行する体の能力を上回る事など無理な話しだからだ。


 幾ら本数を増やそうが、半年に一度のペースで来られては流石に飽きてきて、今では単調な攻撃にしか見えない。


「直線攻撃って、不便よね」


 兵士達を狙ったレーザーを〈氷檻〉で反射させてまた一体、頭部から左足まで焼かれて絶命。


「打ち出した瞬間に、何処を狙っているのか分かるのって、攻撃としてどうなの? 意味なくない?」


 今から顔を殴ります! そう言って殴ってきたら誰だって避けることは容易いだろう。そう、メイディは言う。


 確かにその通りではあるが、それがレーザーとなれば話しは別で、兵士達の目には、狼の12目が光った瞬間に何故かレーザーを放った狼が死んでいるという摩訶不思議な現象が起きていた。


 もちろん、何が起きているのかは分かるのだが、分かるのと理解できるのは違うというのを思い知らされた。

 レーザーの軌道を視認し、カウンターを行うということは、光よりも速く思考し行動するということに他ならない。

 はっきり言って、不可能だった。

 少なくとも人間には。


 12のレーザーを飛ばしつつ特攻してきた緑狼<グリーウルフ>を、迫り来るレーザーを反射させつつ腰に帯刀していた"不動"で首を刈り取った。


 反射されたレーザーが6、6に分かれ、左右から忍び寄っていた2体の頭部を貫いた。


 ーー残り5体。


(そろそろね)


 魔物の攻撃の手が途端にやんだ。


 奴らは数が半数以下になると離脱を試みだすのだ。

 それがまた、何者かに設定されたかのような気がしてならない。

 情報を持ち帰るために? そう考えてしまう。


 崩壊している壁目指して逃げ出そうとする魔物だが、そんなものを許すはずがないだろう。


「 グゥっーークルルルルルルーー 」


 1体は首から鋭利な何かで貫かれ、もう1体が首を捕まれ苦しい声をあげるが、宙に吊るされた状態ではどんなにもがいたところで逃げることは叶いそうにない。


「ふふ、犬かきみたい」


「主に噛みついてくるあたり、犬以下だ」


 顔色ひとつ変えずに老執事は不快だと、腕に込める力を強めた。


 老執事によって喉の骨をボギ、とへし折られた魔物は絶命し床に無造作に放り投げられた。

 音速を越えるスピードで。


 衝撃波を発生させながら飛ぶ死体の先には逃げ出そうとする緑狼<グリーウルフ>がいる。


 ド、と鈍い音を立ててぶつかったあと木を数本折りながら吹き飛び、止まったときには4本の足はグズグズになっており、視界に飛び込んできた赤い閃光に焼かれて死んだ。


「申し訳ありません。数が多く、対処出来ませんでした」


「仕方ないわよ。あなた防御専門だもの。で、数はいくらだったの?」


「全部で32。22体は既に処分しました。それと今の3体で、残りは……そこに見える2体です」


 老執事の右腕には黒い毛並み揃い、手の甲からは5本の20センチ程の爪が延びていた。

 爪は抵抗なく、緑狼の首から抜き取られた。


「どうなされますか?」


「んー、そうね……どっちも捕まえとこうかしら。きっと直ぐに死んでしまうから、スペアがあったほうが良いかもしれないし」


 逃げられないと悟ってか、レーザー攻撃を仕掛ける2体の魔物であったが、それをメイディは会話しながら反射させて相殺し続けていた。


「集まって」


 展開されている12の氷檻が、1体の緑檻を取り囲む。

 舌足らずを、長年の経験によって克服したかのような撥音で言葉を紡ぐ。


「拡いて」


 壁を破壊されたお陰で循環する空気から水分を補給することによって、檻はその体積を拡げていった。


「捕まえて、結べ〈氷檻〉」


 氷檻が取り囲んだ緑狼目掛けて一気に加速。互いをつなぎ止め一つの球体となってその中に緑狼を閉じ込めてしまった。


 その様子を21人の兵士達は立ち尽くして見ているだけしかできなかった。

 自分達だけで、今の魔物を殺れるだろうか。

 例え1匹だったとしても、あの赤い光線で射殺されてしまうだろう。


 そんな魔物を10も相手にして余裕の表情を見せる彼女らは一体何者なのだろうか。


 最後に残った魔物も新たに生成された〈氷檻〉によって捕獲され、館に平穏が訪れた。


「こいつらに見覚えはある?」


 氷越しに見える魔物を指差してメイディは尋ねたが、全員首を横に振った。


 兵士達は少し悩んだ素振りを見せた後、否定したが何もそんなことを確認したかったわけじゃない。

 自分が再度掛けた魔法がしっかりと、新規のお客サマに鎮静作用を及ぼしているのかの確認のためだった。


「助かった……のか……?」


「なんなんだ、こいつらは。見たことのない魔物だ」


 メイディの魔法がなければ、今頃彼らは恐怖にあてられ冷静さを失い発狂していたに違いない。


 些か、話し合いの場としては不適切な場ではあるけれど、彼らの精神状態が正常ならば問題ないだろう。


「それではお客サマ方、私は貴方たちの求めるバケモノではないと、ましてや一切の関わりすらなかったと、そうお認めいただけましたか?」


 10体の魔物で描いた赤い華のアートをバックに、幼子は語りかける。


 結果として彼らは助かったが、救ったわけではない。

 見殺しにしておいても良かったが利用価値があるので置いておいただけに過ぎない。


「お前達はてめえらが持ちかけた協定を破ったにも関わらず今もこうして生きていられるのだから、少しくらい対価を払われても良いような気がするんだけど……? カール、だったかしら」


「ーーうっ」


 少しだけ鎮静を緩めてやれば、立ち込める死の腐臭に耐えきれなくなった者が吐き出した。

 外に放置されているケルディが殺した22体の死体が、外からの新鮮な空気を寄せ付けないでいた。


 偶然ではあったが、非常に良いイベントであった。

 人では倒せないであろう相手を容易く退け、力を示した。


 お前のその手に持っているものが欲しい。それはきっと、第一歩へと繋がるもののはずだ。それを寄越せ。


 お前達が恋い焦がれるバケモノを殺せるのは、私以外にいないぞ。


「……統括長ダダンに、託されたものがありますーー」


 自分がそうするように勧めた、不干渉協定を破棄する書簡を手に、カールは前へと歩み出た。


 これしか方法はないと、確信していた最善は、本当に正しい選択だったのだろうか?

 まだ、今ならこの書簡を破り捨てて破棄することもできる。できるがーー


 幼子がそれをさせない。


 妖しく光る紅い目は、あの頃と変わらない。

 それどころか見た目容姿が一切変化していないように感じられる。


 背の高さも、髪の長さも、声も何もかもがあの頃のままだ。


 40年前に救われた、あのときと同じままなのだ。


(その目はなんだ……?)


 黒の館の主である目の前の存在は私を見ていない。

 その違和感に気づき、この"書簡を持っている私"を見ているのだと感じた瞬間、背筋が凍る思いをした。


(40年前、救われただとーー何を勘違いしていたんだ)


 小さいながら感じた、あの一時の出会いはカールが青年時代に、なんとも言い表せない気持ちにさせたものだった。

 恋をしていたのだ。

 あの子は元気だろうか。

 いつかまた、会えるだろうか。

 その時、どんな言葉を掛けようか。


(可能性として、残していたに過ぎなかったのだ。事実、こうやって実を結びーー)


 老執事と目が合った。獣を思わせる腕は今はなく、普通の人間の腕を燕尾服からのぞかせている。

 その執事が、無表情の仮面を外して、笑ったのだ。


 にやりと、掛かったと言わんばかりに口元を三日月に歪めて。


(ーーッ! ッ!! やはり、これは破棄するべきものなのか?! いやしかし!!)


 考えるが、結局手詰まり状態であることに気づかされるだけだった。


(こちらが協定を破ったことは事実。そして侵入どころか戦争を吹っ掛けてたのだ。書簡を破棄したところで、こ館の主が戦争を仕掛けてきても不思議なことではない。正直、バケモノよりも強いと、俺は思う」


 バケモノは人間を簡単に殺して見せた。


 黒の館の主は、人間では敵わない魔物を簡単に殺して見せた。


 カールは手中にある書簡を見やる。


(まだ、これを渡したほうが被害はまだ少ない……はずだ)


「統括長は、兵士部隊のトップにあたる……ダダンには有事の際には独断権が与えられています。独断権によって認められたこの書簡は、アウダウン街長と同等の権力の下で発効されています」


 差し出された書簡を、メイディが受けとる。

 撥水のための円筒の黒革の紐を開封する。


 中から出てきた書類は、カールの言うとおり独断権により発効された旨がはじめに書かれており、そのあとに書かれた内容はメイディが望んでいたものだった。


 ーー不干渉協定を解除するに伴い、黒の館には現在アウダウンの直面している問題解決に当たっていただきたいーー


 つまり、こいつらの言うバケモノを殺せば不干渉協定を破棄する。

 まあまあまあまあまあ、良いじゃないか。


 こいつを書いたやつは、相当図太い神経をしているんだろう。

 協定は人間によって既に破られているというのに、交換条件を持ち込んでくるなんてね。


 うん、いいさ。どのみちバケモノとやらは邪魔だから殺すし、どうせなら"人間に頼まれて殺した"ということを利用してやろうじゃないか。

 そこから支持のない街長を落としてーー良いんじゃないか?


 不干渉が締結された原因はメイディの父、テンペストにある。街に大型の魔物が出現した際に、処分するために放った魔法が魔物の防御力を完全にオーバーしてしまい、その衝撃によって街の十分の一が消滅した。

 付近の住民は避難していたため幸いにも怪我人も出なかったが、これを機にブラッド家の出入りが禁止されたわけである。それがおよそ200年前の話だ。


 メイディとして出入り禁止というのは面白くない話なのだ。

 黒の館には娯楽と言えば本やボードゲームくらいだ。他にやることと言えば剣術を研いたり、魔法の訓練をしたり。正直飽きて面白くない。平野錬次をコックとして雇ってから飯が格段に美味しくなったので、それが唯一の楽しみと言っても良いくらい。


 何よりも、こんな小さな街を手に入れるのに力を使ってしまうのは簡単過ぎる。

 支配したいのではないのだ、統治することが目的なのだから、皆が納得する形がいいだろう。


 例えそれが、作られた、偽りのものであっても。


「正直、もっと便宜が図られてもいい気がするけど、まあいい」


 そのあとにアウダウンという、大きいプレゼントをいただけるなら我慢しようじゃないか。


 血で塗られ、戦闘によって破壊された一室はまるで廃墟のようだった。

 そこに血と肉を多分に吸い込んだ風が入り込んでくる。


「黒の館はこれを受領する。ご苦労だった」


 夜空の下の真っ赤な血の華をバックに、口を三日月に歪める。

 思わず笑ってしまう。

 丘の上にある黒の館。その3階からは、アウダウン、その奥に森が続き、僅かにだが城壁が見える。


 館の文献によれば、王国と呼ばれる人間の最高権力者達の集う場所のはずだ。


 そこを全て、黒の館のものにーーいや、取り戻すのだ。


 かつて全てを統治していた初代ブラッド、エンペラーから奪われたこの世界全てを取り戻す。


 そしてそう遠くない内に来るであろう、まだ見ぬ勢力を排除するために備えるのだ。

本日は19時頃にもう1話投稿予定です。

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