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メイディ-ブラッド=吸血鬼リヴァイヴ=  作者: 綾
吸血鬼リヴァイヴ
7/14

06「死人は生者を復讐へと駆り立てる」

……久々の更新

 そうと決まれば、早速ダダンは編隊にとりかかった。と言っても、7部隊のうち第1,6部隊と第2部隊の一部以外は既に失っているので悩む事もない。数にして130人と少し程度だ。


 捜索には第2部隊から10人を黒の館に向かわせることにして、他は街の警備に当たらせる事にする。幸い、バケモノは未だに街へと侵入はしてきていない。

 壁の強化もあと7日もすれば竣工し、内側の安全は確保されるだろう。


 ベストは黒の館の主にバケモノを排除してもらう事だが、最悪断られた場合はバケモノの動向を常に把握できるような仕組みが欲しい。

 ようやくバケモノに関する情報が入ったのだ。この流れで対策も立てておきたいところだ。


「第2部隊10名、集まりました」


「分かった」


 バケモノに遭遇してしまえば100人いようが結末は変わるまい。それに目的地は黒の館と決まっているのだから、大勢で探すような真似は意味がない。だから10人という少数で隊を組むことにした。


 報告を受け、詳細を部隊に伝えるべくドアへと向かう。

 するとダダンがドアノブへ手を掛ける前に向こう側から開けられた。


「ーー俺も、行く」


 ドアを開けたのは安静にしているはずのカールだった。

 服で見えないところ以外が包帯で覆われて未だ満身創痍なカールに向ける言葉は一つだ。


「無理だ。お前に何が出来ると言うんだ」


「分かっているさ。分かってはいるが」


 ドア枠に全体重をかけてやっと立っていられるような人間に何が出来るのか。だがそんなことカール自身も分かり切っている事だ。ただでさえカールは兵士なのだ。自分の体のことくらい把握出来ている。


「俺のせいで、カレンが……殺されたんだ。それだけは、俺の口から伝えないといけないんだ。ユージは恨むだろう。恨むだろうな、そんなのは当たり前の事だ。とにかく俺はーー」


 カールの肩を叩き、ダダンはその先を言わせなかった。

 お前との付き合いも長い。


 当たり前のことだが、妹のカレンのことを知ればユージは間違いなくバケモノを殺そうと考える。

 だが、一介の兵士である彼が挑んだところで容易く命を散らされるだけだ。

 だからユージの恨みの矛先を、自分に向かせる事で救おうと言うのだろう。


 そうだとして、お前の恨みは何処に行くと言うのだ。

 自分の娘を殺され、部下も殺されたお前の悲しみや怒りを、どう処理するのか考えているのか? 考えてないだろうな。だからそんな、死んだような顔をしているんだ。


「……わかった、いいだろう。だが出発は1時間遅らせる。それまでに準備を済ませておけ」


 自分の息子のために行くのは嘘じゃないだろうが、それと同じくらい、壊れかけている自分を留めおくために何かをしていないと気が済まないんだろう。


 ここで行くなと止めた所で、行動を起こすことは予想された。そういった事を諸々考慮して、ダダンは許可したのだった。


 カールは苦笑いを浮かべ頷いた。

 親友が考えている事は、ダダン同様にカールにだって分かっていた。ダダンの思考を通じて自分の弱さを見せられたカールは、それでも良いと、部屋を後にした。



 ーーーーーーーーーー



 1時間後、医者から鎮痛剤やら10種類以上の接種を受け、体の感覚を麻痺させることで動ける状態にするという荒業で、カールは普段と遜色ない状態にまで強制的に持ってきた。


 医者からは「俺は科学者やないで!」と終始渋られたがなんとか説得できた。きっと交渉時間を考えての1時間だったのだろうと思うと、あいつの頭はどうなっているのか理解し難い。


 カールを加えた11人の部隊はカール指揮下の第2部隊で構成されているとあって問題なく、迅速に進行し現在黒の館前に来ていた。


 感覚を鈍らせることで歩くことができているが、同時に地面の感触も朧気になるために何度か部下に支えてもらいながら、カールは館の鉄扉を叩いた。


「館の主よ! どうか開けてもらえないだろうか! 闘いに来たわけじじゃないんだ!」


 数秒してガチリと鉄扉が開錠される音がした。

 実は、そもそも施錠されておらず、音はフェイクだ。ならず者であれば、扉を叩くような真似はしないだろう。


「我が主に何用ですかな」


 館から出てきたのは服越しでも分かる屈強な肉体をもった老執事だ。

 その不釣り合いな格好に一瞬たじろぐが、そういえばそんなだったなとカールは昔を思い出した。

 魔物から助けてくれたときも、この老執事がいたような気がする。しかし40年近く経っているなら、80はいっていると思うのだが、老執事の見た目にさほど変化は見られない。


「もう40年近く前になりますが、かつて貴殿方に助けていただいた者です。再び領地へ踏み入れてしまい、申し訳ありません。しかし、何卒!我らを迎え入れ対談を望ませていただきたい……!」


「なに……? ああ、あのときの少年ですか。随分年をとったものですな」


「おお、覚えていただいていたとは……!」


「良く覚えていますよ。ここに立ち入る人間はいませんから。主の元にお連れしましょう。後ろの方々もどうぞ」


 一同は扉の中へ。玄関にあたる空間は思っていたような荘厳なものではなく、骨組みを剥き出しにした武骨なものだった。

 高い鉄骨が多く、それらが死角を作り上げている。実際、裏では老執事の使役するワーウルフが潜んでいる。


 玄関を抜けるとそこからは金の床と赤の壁。金は光が多量に反射しないように研磨に細工が施されており、そのことがまた高級感を漂わせている。


「こちらの部屋に、先に来たお仲間の方がいます」


 そう案内された部屋のドアを開けると、そこには確かに10人の、見知った人間がいた。

 間違いなく街の人間たちだ。部隊長等とは関わりがあって顔も見知っている間柄だが、他部隊の兵士たちの名前と顔が一致するのははせいぜい十数名といったところだ。

 それでも彼らが、街の兵士だと思うのはそこに良く知っている者がいるからだ。


「お、戻り組の奴等が呼んだのか?」


 残り組がカール達に気づいた。

 老執事は来客が部屋に入るのを確認すると、ドアをそっと締め、音もなく退出していった。


「ユージ……」


「オヤジーーって、どうしたんだよその怪我!!?」


 カールの息子であるユージは声に気づくと、驚きの声をあげた。

 カールは息子の声に安心したのか、よろめいたところを仲間に支えられて転倒せずにすんだ。彼の体は薬で痛覚を麻痺させることでなんとか歩ける状態になっているが、ここまでくる道中に縫われた傷は拡がり、更に悪化していた。包帯を通り抜け、服すらも血で滲み始めていた。


「あいつら無事に帰れたみたいだな。今ごろはベッドで寝てやがるな」

「俺はその前にベッドで横になりたいね」

「まずは風呂だろ。で、どうだった?」


 てっきり戻り組がそのめま来ると思っていたが、顔ぶれが違かったため、恐らく来るのが面倒になって他の奴らに頼んだなと考えながら居残り組が訊ねた。


「ーー死んだよ。皆、バケモノに殺された」


 カールが応えた。

 躊躇わずに言った。

 非情と言われるかもしれないが、カールにとって10人の死など一人の死に比べればどうでよかった。だから次の言葉が、喉につかえてなかなか出てこない。


「10人は死んだ。全員、喰われちまった」


「オヤジ……どういうことだ」


「どうもこうも、ない。身元の確認は取れない。今ごろバケモノの腹の中で溶かされてしまっているだろう」


「ーーッ、そんな言い方、ねえだろがよ!!」


 オヤジと呼んで掴みかかってきたのはユージ=デビッド。カールの24歳の息子である。

 冷めたものの言いように、きっと怒りを露にしたのだろう。


 五体満足なことを認めると、息子が無事であることにカールは救われる思いを感じた。その瞳に輝きが戻るが、同時に涙が溢れてくる。しかし、先に言うべきことがある。


「ユージ、無事だったか……本当に良かった。皆も、良く聞いてくれ。帰還途中だった10人は死んだ。その様子からして既に分かっていると思うが、ここの主は、俺たちが探しているバケモノではない。……俺はバケモノと戦った」


 バケモノと戦ったという言葉に居残り組が驚愕する。今までバケモノに殺された者はいても、生きて帰ったものはいなかったのだ。当然気になるのはそのバケモノの正体だ。

 子供を、妻を、友人を殺したのは一体どんなやつなのか。

 

「一言でいうなら、毛むくじゃらの熊だ。ただし4本の長い爪を持っていて、3mはある。強い。とにかく、強い……んだ……ああああ!」


 突然カールは蹲り頭を抱えて嗚咽混じりに涙した。皆傷が痛むのかと心配する中ぽつりぽつりとカールは話した。


「すまない……!すまない……カレン……!!俺はああ!!お前を!ぐっ守ることが!っできながっだ!ああ」


「なあ!オヤジ、どうしたんだよ?カレンがどうしたって?!」


 父親の肩を揺すり詳細を聞こうとするが、なんとなく嫌な予感をユージは感じていた。

 これはそう、ユナのときとーー


「殺されだんだ。カレンはバケモノに殺された。殺されたんだよーー!!!」


 カレン。カールがバケモノから守ろうとしていた女性。名をカレン=デビッドという。名前から分かると通りカールの19歳になる娘だ。

 これから結婚し、幸せな家庭を築こうとしていた、愛しい娘。


「俺は父親なのに!!何も出来なかった!!」


 床をガンと殴り付ける。何度も何度も。血が滲んでも殴るのを止めなかった。そしてそれを止める者もいない。ここにいる人間は、大切なものを失う辛さを知っているからだ。いくら殴り付けても足らないくらい、どうしようもない悲しみと苦しみに襲われるのを知っているから。


「……証拠は?証拠はあるのかよ?!」


「……証拠は、ない」


 カールは見たのだ。薄れゆく意識の中で、自分の娘がバケモノにーー


「丸呑みだ。カレンを丸呑みしやがったんだ。血すらも残していない……ッ」


「……」


 ユージは恋人であるユナと、妹であるカレンという大切なものを続けて失った。ユナが死んだ時点で壊れかけていた何かが、妹の死という追い討ちをかけられ完全に壊れさった。

 ほんの少しだけ目に涙を浮かべ、次の瞬間どうしようもない怒りと憎しみによって高ぶった感情が、涙を蒸発させ行動させるのだ。殺せと。


「俺が、殺す」


「まてーーッ!!」


 ユージの異変を察してカールが止めようとしたが、鎮痛と止血の効果が切れたのか、体に激痛が走り、服の下にミイラのように巻き付けられた包帯を通り越して服を一気に血で染め上げた。


 カールには困惑していた。

 ユージは俺のことを責めるはずだった。怒りの矛先は俺へと向くはずだったのに。

 一つだけ、彼は見落としていたのだ。


 ユージの心は、ユナを失った時点で既に壊れかけていたことに。

 そうでなければ、そもそも黒の館になんて来ていない。


「レジには、生きていてもらう……それがきっとカレンの望みだから。きっとレジも怒り狂ってるはずだ。あいつが行動する前に俺がバケモノを殺す」


 部屋の隅にやっていた鎧と剣を装備し、そう言ったユージの目は憎しみに燃えていた。

 だが、ギラギラとした復讐の炎は、カールの次の言葉で霧散することになる。


「……レジは死んだ」


「ーーは?」


「あいつは、カレンを庇って死んだんだ」


 鈍く、どこまでも沈んでいくのをユージは感じた。

 体が動かなくなる。

 体を動かす脳が、止まった。


 ユナが死に。

 カレンが死に。

 レジが死んだ。


「ハッーー」


 乾いた笑いが出た。

 とっても肺の奥が苦しくて。

 何か支えたものを吐き出したくて。

 でもこれ以上息を吐けなくて。

 呼吸のために吸うしかなくて。


 それで、苦しくて。


 息を吸ったら苦しかった。

 息を吐いても苦しかった。


 きっとこれから、ずっと辛いんだろう。


 せめて、バケモノは殺してやろう。


「おい!! ユージ!待て!!!!」


 父親の制止を無視してユージは駆けた。


 バケモノが何処にいるかなんて宛はないが、走っていればいずれ見つかるだろう。

 方法とか、非効率だとかどうでも良かった。

 殺すために探し、探すために走るだけだろう?


「あ、あ。あ、あ、あ、アアアアアアアアアアアーー」


 ユージが居なくなった部屋で、カールは麻酔切れで苦しみながら後悔していた。


 勝ち目がない戦いに、その身が壊れてでもユージを止めたいカールであったが、思考とは別に全く体が言うことを利かない。


(本来の役目を果たすしかないか……それが結果としてユージを救うことにもなる)


 街にとっては裏切りの行為であると同時に、このままではバケモノに虐殺されゆく街を救うための一手。

 ダダンが権限を行使してしたためた書簡を懐から取り出した。


「……落ち着いて、聞いてくれ。俺が8歳のとき、魔物に襲われた。勇者に憧れて、冒険をしようと……誰も近づこうとしないこの館へと、来たんだ。聖剣があるなんて、考えてな」


 家族も誰も知らない物語を、カールは話始めた。




 今でも覚えている。あの死にかけた日のことは。

 本当は皆が寝静まった夜に出掛けるのが一番だったんだ。でも真っ暗は怖いから、早朝に出掛けたんだ。母親に遊びにいってくるって告げてな。

 道には迷わなかった。黒の館は目立つから、その方角に適当に進んで行けばいい。

 転べば立ち上がればいい。怪我をしたら痛みが少し引くまで待てばいい。でも奴はそんなことは待っちゃくれない。

 そいつは目玉が8つある狼だった。緑色をしていて、周りの風景と溶け込んで全く気づかなかった。

 8つ目の狼が飛び掛かってきたとき、運良く転んだ俺は初撃を回避することができた。でも8歳だったんだ。そこから全力で逃げたとしても直ぐに追い付かれ、殺されただろうが、恐怖で足が全く動かなかった。


 その時俺は思ったよ。俺は勇者じゃないんだって。ただの人なんだって。弱っちい人なんだ。ただ助けを願うしかないんだ。「助けてくれ、勇者。僕を聖なる力で守ってくれ!」


 でも勇者は守ってはくれなかった。そりゃそうだ、この世界には多くの悲劇で満ちている。俺はその一つの悲劇にいるに過ぎない。でも俺は救われたんだ。




「だから頼むーー俺を……俺たちを救って下さい、黒の館の主よ」


 懇願の先。いつの間にか部屋に入ってきていたメイディは


「頭低くしたほうがいいわよ。そいつら今から来るから」


 何もない壁を指し告げた。次の瞬間。

 壁が衝撃音を伴って破壊されることによって消え、外の風景が露になった。その背景の茶から出てきたかのように現れる獣が10体。


 今は冬。

 葉が落ちて裸の木がゆらりと揺らめき、緑へと変色して現れたのは12つの目を持った緑の狼。それはカールにとっては子供だったときの悪夢の再現であり、他の兵士に対してはカールの話が本当であることの裏付けとなった。

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