<二十二>対面!
<二十二>対面!
「はじめましてやね。うちは名前は明かしぇまっしぇんの。アルファ組織ん者ばい。あんたくさベータ組織ん方やか?」
(はじめまして。私は名前は明かせませんが、アルファ組織の者です。君はベータ組織の方ですね?)
華子ががっくりとして再びタヌキのぬいぐるみを探し始めた途端、背後から変な日本語が聞こえてきた。華子が振り向くと紛れもないタヌキのぬいぐるみを持った男性が立っていた。身長は百八十センチくらいで、顔の彫りも深く活動家らしい精悍な印象だった。言葉は日本語の訛りがきついので、華子には十分に意味が理解できなかった。しかし自己紹介をしたらしいことはわかった。
「どっどうも。私の父がベータ組織のボスです。私は……あの」
「あんだ日本の言葉、ちょーおかしかやね。だけん、聞き取れんけんこつはなかね。会話できそーばい」
(君、日本語少し変ですね。でも聞き取れないことはない。会話はできそうだ)
「あの。日本語下手なんです。特にリスニングが苦手で。ごめんなさい。英語で話しませんか?」
――ああ、一体どこの方言なのよう……。訳わからない。それに、何で私が謝らなきゃならないのよう!
「英語、話しぇるけんかや? 聞いやないない。うちは英語まるっきしいかんばい。遠い昔に忘れてしもうた」
(英語話せるのですか? 聞いてないな。私は英語はまったくダメです。遠い昔に忘れてしまいました)
華子は相変わらず言葉がよくわからない。しかし、相手は英語をあまり話せないということだけはわかった。華子は時計を見た。もう一時半を回ってしまっている。一刻の猶予もない。早く破談に持ち込まないと、女性に気付かれて組織へ連絡されたらアウトだ。
「お食事しましょう。最上階って聞いてますから、そちらのエレベータで」
「あんだべっぴんしゃんやし、ちかっぱきびきびしてからよか感じやね。気に入ったんやけん。結婚しようや」
(君、美人だし、とてもきびきびしていていい感じですね。気に入りました。結婚しましょう)
華子はエレベータホールの方へ歩き出し掛けていたが、驚いて振り返った。
――ええええ!? ちょっ、ちょっと待ってよ。まだ殆ど話してないじゃん。いきなりそこへ行っちゃうワケえ!?
「あの。ちょっと待ってください。会ってすぐ結婚って。それはないでしょ。それは! ははは」
「うんにゃ。もう決めたとたい。まずは婚約披露パーティーん予約ばしようや。婚約指輪は五カラットんダイヤでよござすか?」
(いいえ。もう決めました。まずは婚約披露パーティーの予約をしましょう。婚約指輪は五カラットのダイヤでいいですか?)
「ごっ、五カラットですって!?」
何故か『カラット』だけは華子にははっきりと聞こえるのだ。五カラットというと市場価格では通常一千万円をゆうに超える。
「いかんやか。やい、十カラット!」
(駄目ですか。じゃあ、十カラット!)
「うう……」
華子は唸った。いやいや、唸っている場合ではない。華子の任務は破談に持ち込むことなのだ。だいいち、そもそも華子が結婚する話ではない。もう時間がない。華子は万一破談が困難であった時のために日々練習していた、殿下の宝刀とも言うべき最終手段に出た。
渾身の力を振り絞っての『変顔』。
すると彼が言った。
「むぞらしかなあ」(可愛いなあ)
変顔のまま、どじょうすくい。合わせ技だ。
「踊りもうまかね」(ダンスもじょうずだ)
さらに連続技へと持ち込む。変顔でどじょうすくいから下品を極めた大股開き。ついでにお尻ぺんぺんしてアッカンベー。
「色っぽかね」(セクシーだね)
――駄目だ。完璧に文化が違う。考えていたイメージと全く違う。もう駄目だ。私には荷が重すぎた。そうだ。ビンさんに頼もう。って、もう遅いよ。自己紹介しちゃってるし。騙されたと知ったら何されるかわからない……。




