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01 騎士団の危機


 あの事件から2か月が過ぎた。この2か月間、僕は積極的に死の樹海を探索した。魔物を狩って生活費を得ることも目的だが、一番の理由は自分をもっと鍛えることである。この世界でも身近な人を守るためには強さが必要だということを、先日の事件で改めて思い知った。


「おめでとうございます! イオリ様!」


 エミリアがキラキラした目をしながら、赤色に輝く冒険者カードを僕に差し出した。


「ありがとう」

「こんなに早くCランクになるなんて前代未聞ですよ! 素晴らしいですね」


 これまでの僕の冒険者としての活躍が評価され、晴れてCランク冒険者に昇格することができたのだ。特に、グランドル一派を壊滅した功績が高く評価されたらしい。


「そ、それでですね……イオリ様がもしよろしければ、このあと一緒に昇格のお祝……」

「あ~!! イオっち、おめでとう!!」


 突然リーリカが背後から僕に抱きついてきた。遅れてエルマとディアナもやって来る。


「個人Cランクか~。あっという間にイオリ君に並ばれちゃったなぁ」

「さすがは弟君ね。お姉ちゃん、鼻が高いわ~」


 紅の乙女の3人が僕を取り囲んでわいわいと盛り上がっている。この3人は本当に賑やかだが、それがとても心地よい。


「リリー、エル、ディア、ありがとう」

「これは僕たちでお祝いをしてあげないといけないね!」

「いいわね。イオリ君、このあと空いてる?」

「お姉ちゃんがいっぱいご馳走してあげるわよ」

「ええっと……」


 僕の両腕をエルマとディアナがそれぞれ引っ張り、背中をリーリカが両手で押している。どうやらこのままお祝いパーティーに突入するようだ。


「ちょっと待った~!!」


 いきなり大声をあげたのは受付嬢のニーナである。彼女は受付カウンターを飛び越えて、僕らの前に両腕を広げて立ちはだかった。


「先にイオリ君を誘ったのはうちにゃ! イオリ君を置いていくにゃ!」

「あら、あなた……私と弟君のお祝いパーティーを邪魔するのかしら?」

「こっちが先約にゃ! ディアナたちはまた今度にゃ!」


 ニーナとお祝いパーティーの約束をした覚えは一切ない。僕が昇格の話を聞いたのはつい先ほどのことなのだ。


 ディアナとニーナの間で激しく火花が散っていた。するとそこにエミリアがやってきて、両者の間に割って入り厳しい表情をして2人を叱りつけた。


「あなたたち、場所をわきまえなさい! イオリ様も困っていますよ。ニーナは嘘をつかないの! それに、ディアナたちは強引すぎますよ!」


 さすがは受付長のエミリアである。ニーナと紅の乙女の3人も、ばつが悪そうな顔をしている。


「ご、ごめんにゃ。イオリ君のお祝いをしたくてつい嘘ついたにゃ……」

「私たちも突然でごめんなさい。イオリ君の昇格がうれしくてつい……」


 ニーナとエルマがエミリアに謝罪をしている。しかし、エミリアの怒りは収まっていなかった。


「謝る相手が違うでしょ! 私じゃなくてイオリ様にしっかり謝りなさい!」

「「「ごめんなさい(にゃ)」」」

「いや、みんなの気持ちはとてもうれしいよ。本当にありがとう。それから、エミリアもありがとう」


 僕の言葉にみんなホッとしているようだった。僕の昇格を祝ってくれる人がこんなにいる。これまで孤独だった僕は、それがたまらなく嬉しかった。


「それでイオリ様……このあとの予定もないようですし、私とどこかでお食事でもいかがですか?」

「ちょっ、エミリア!?」

「ず、ずるいにゃ!」

「抜け駆け~!?」

「あなた、なかなかやるわね……」


 結局このあと、みんなでお祝いパーティーに行くことになったのだった。


『……この娘たち、私の存在を完全に忘れているようね。あとで説教だわ』


◇◇◇

 

「ふふふ~ん♪ 伊織はかわいい、ケーキは美味しい♪ どっちも食べちゃいた~い♪」

「どういう歌なのそれ……」

「作詞・作曲は女神アリューシャ様よ」


 お祝いパーティーの翌日、僕は今日も死の樹海に向かっていた。アリューシャも陽気に鼻歌を歌いながら僕についてくる。2人で会話をしながら8時間ほど歩くと、ようやく死の樹海の入り口が見えてきた。今日から樹海で4泊の予定で鍛錬をするつもりだ。


 さて、いつもなら樹海の入り口に近づくにつれて魔物の出現率が上がるはずが、今日は樹海の近くまで来てもゴブリン1匹にさえも出会わない。何かがおかしいと感じ始めた時、右手の林の方から人の叫ぶ声や金属のぶつかる大きな音が聞こえてきた。


「アリューシャ、聞こえたかい?」

「人間が7人、大型の魔物と交戦中ね……あ、1人やられたわ。残り6人よ」

「行こう! 助けないと」

「もう、本当にお人好しね。でも、ありがとう……」


 アリューシャは人族の女神で、人族の幸せを心から願っている。だから無辜の人間を害するものに対しては、魔物や他種族はもちろん同じ人族であっても辛辣だ。


 現場に僕がたどり着くと、そこには“獅子の頭と山羊の胴体に蛇の尾”がある魔物がいた。肩口からは山羊の頭も生えている。その異形の魔物と交戦しているのはどうやら騎士団のようだ。彼らの甲冑には“2本の交差する剣と1枚の盾”を組み合わせた騎士団の紋章がついている。


「固まるな! 炎でまとめてやられるぞ!」

「槍で牽制しながら撤退するんだ!」

「馬をこちらに回せ! 命に代えても副団長を守るぞ!」


 騎士たちは大声でお互いに指示を出しながら、この場からなんとか撤退しようとしている。しかし魔物は狡猾で、逃げ道を塞ぐように移動しながら騎士たちに近づく。辺りには数人の騎士たちが倒れており、すでにそのほとんどが絶命しているようだった。


 山羊が口から勢いよく氷雪を吐き出し、また1人の騎士が犠牲になった。さらに、蛇の尾が別の騎士の甲冑を簡単に貫いた。これで魔物に抵抗している騎士は残り4人だ。このままでは全滅も時間の問題だろう。


 さっそく僕は騎士団を救うべく、≪ストレージ≫から慈愛のナイフを取り出すと、覚悟を決めて魔物に向かって駆け出したのだった。

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