クロと初夏のお散歩
クロがたまねぎを食べてからしばらくは、生きた心地がしなかった。
一日目は有給をどうにか取り、つきっきりで様子を見ていた。
クロが今この瞬間にも苦痛を見せるかもしれないと考えると……それだけで胸が締め付けられるように苦しい。
そんな私の気持ちを知ってか知らずか、平日だと言うのに一日中私がそばにいるのが嬉しいらしく、どことなく、いや、明らかにはしゃいだ様子のクロ。
……人の気も知らないで。
二日目の有給は無理そうだった。職を賭ける覚悟――少なくとも、職場の雰囲気を悪くする覚悟がいる。日数は十分残っているのに。
理由が説明できれば、また違っただろう。けれど、正直に話せる理由はなかった。ちょうどいい嘘も思いつけない。
それでも、私はクロについている事で何かできるなら、せめてそう思えるなら、そうしただろう。
クロが苦しんでいるなら、何もできなくても、そばにいてやりたいと――いいや、ただ、私自身のためにでも、そばについていたいと思っただろう。
だが、クロは今の所どこをどう見ても元気だ。一日私と遊んで、むしろ元気さを増したようにすら見える。
なので、この国の一般的な有休制度への徹底抗戦を諦めて、後ろ髪を引かれる思いで職場への道をとぼとぼと辿った。
帰った時に、クロがいないかもしれない。
いや、変わり果てた姿で倒れているかもしれない。
そんな、最悪の想像が頭を駆け巡っていた。
が、とりあえず丸三日経ってもクロに変わった様子は見られず、もうしばらくは様子を気にかける事にしつつも、今回は大丈夫だったのだと思う事にした。
――今回は。
「今回はよかったけど、次から、床に落ちたのとか食べちゃダメだからね?」
言って分かるのかは不明だが、歩きながら隣のクロに言って聞かせる。
見通しがよく、聞こえる範囲に人気のない事が分かる昼間の河川敷なので安心だ。
全く今回は寿命が縮んだ。
隣のクロは分かっているんだか分かっていないんだか、いつもと同じどことなく機嫌のよさそうな調子で歩いている。歩いていれば幸せなのかもしれない。
それとも私と歩いているから? そうだったら嬉しいんだけど。
風が吹いて、私の履いている白いスカートの裾をはためかせた。
その風の行く先を追うように、空を見上げた。
「ねえ、クロ」
空の青さが濃い。雲の白さとのコントラストが目に眩しく、日差しも強くなって来た。けれど、まだ風は涼しさを含んで肌を撫でていく。
目を細めて、もう一段高い空を見上げた。隣を歩くクロも同じように首を上げて、同じ空を見上げる。
「夏が来るねえ……」




