表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
星にネガイを  作者: シロクロウサギ
第二部:年跨ぎスターライト半月戦争
98/219

第九十八話 取り戻す、絶対に!

 何か、長い夢を見ていた気がする。

 どんな内容だったかは思い出せない。

 いつもどおりの日常が続くほのぼのとした夢だったかもしれないし、デブリと戦っている戦士としての夢だったかもしれない。

 ただ一つ言える事があるとすれば、目を醒ました彦乃は見慣れた部屋に居るという事だ。


「…あれ……ここ、桜ちゃんの部屋…?」


 自宅の二階にある、桜の部屋だった。

 古くなった家具や家電が集中して置かれているのも、ここが元は倉庫のような使われ方をしていた故である。

 普通の子供だったら新しい椅子や机が欲しいと強請って来たかもしれない。

 けれど桜はそんな事は言わず使ってくれている。


「桜ちゃん… そうだ、お腹っ?! あれ…?」


 桜から受けた不意の一撃を思い出す。

 アレは確かに致命傷だったはずだ。

 腹を貫くように桜の剣が突き刺され、確かに倒れたはずだった。

 けれど服をめくって確認してみても自分の腹に突き刺されたような跡は残っていない。

 なら、ここは死後の世界というやつだろうか。


「死んじゃったのかな、私…」


「違うな、生かされているんだ」


「っ?! 誰っ!?」


 不意に隣から聞こえてきた聞き慣れない男の声に、彦乃は慌ててめくった服を直す。

 振り向いてみれば、そこには銀髪に赤い目をした男が立っていた。

 どことなく桜のような面影があるその男は、桜のベッドで横になっている彦乃の傍へ椅子を持って来てそれに座る。


「俺の事はコマンドとでも呼んでくれ」


「コマンド…司令官って事?」


「良くは知らんが、そうなんじゃないか? とりあえずそう呼んでくれて構わない」


「それじゃあ…コマンドさん、私どうしてこんな所に…?」


 彦乃の投げたその問いに、コマンドはうっすら笑って返す。

 何かがおかしいという訳ではない。

 この状況を彦乃が飲み込めて居なかった事に意外性を感じていたのかもしれない。


「ふふっ… いやスマン。 ここがどこか分かるのか?」


「えっ… それは私の家…っ?!」


「やっと気付いたか」


 意識を少し散らして周りを調べようとした彦乃はやっと気付く事が出来た。

 ここは桜の部屋でもなければ自分の家ですらない事に。

 確かに見た目は桜の部屋と同様に作られているようだが、そのどれもから小さなデブリと同じ反応を感じ取る。

 コマンドの座る椅子からも、ベッドの向こうにある机からも、彦乃の寝るベッドからすらも、彦乃がいつも戦うデブリと同じ反応を感じ取ったのだ。


「おっと、動かない方がいい」


「うぐっ!」


「言わんこっちゃない… 一体化してる奴に感謝するんだな」


 彦乃が起き上がろうとすると、腹部に強烈な痛みが走る。

 まるで突き刺されたような痛みだ。

 あまりの痛みに起き上がろうとしていた身体も反射的に元へ戻ってしまう。

 痛みのあった場所に触ってみても、血は出ていないらしい。

 ただ激痛だけが身体を駆け廻って行ったようだ。


「一体化…? 光ちゃんの事?」


「名前は知らんが、そいつなんじゃないかな? ほら、ありがとうって言っておけ」


 心の中の光に呼びかけるように、彦乃は何度も自分の心の中で感謝し続けた。

 その声が光に届いているかはよく分からない。

 けれど、感謝する事が重要なんだという事は彦乃だって分かっている。


「…うん、言ったよ」


「そうか」


「たっだいまー」


 二人が話していると、一人の少女が部屋へ入ってきた。

 その姿に彦乃は見覚えがある。


「ミカゲか サクラはどうした?」


「お仕置きしてるとこー あ、起きたんだ」


「ミカゲちゃん…? それにコマンドさん、今桜って…」


「あぁ、居るが…会うか?」


 コマンドのその言葉が、彦乃には引っ掛かった。

 なぜそんな、止めようとしているような言い方をするのかが気になってしまう。

 でも、会わない事には何も進まない。

 彦乃はコマンドの問いに無言で頷く。


「…だそうだ 何させてるのか知らんが連れてこい」


「はーい…面白くないなー」


 露骨に残念そうな声を出しながら、ミカゲは部屋を出て行った。

 そこから暫くはまたコマンドと二人きりになる訳だが、ここで彼から忠告が入る。


「あー… どうせミカゲの事だ、お前の面白い顔を見たがってるだろうからそれを潰すか…」


「え、それってどういう…」


「まあ聞け」


 ついまた起き上がろうとしていた彦乃を押さえつけ、コマンドは話し始める。


「今のサクラの頭の中で、お前は敵で俺たちは家族だと思っている。 俺がそうしたからな」


「っ?! どうしてそんな事を…」


「そうするのがあいつの…サクラにとっての最善策だったんだ」


「最善策…?」


 彦乃にはコマンドの言っている事の意味が分からなかった。

 何を以て最善策と言い張るのかは知らないが、再会した時の桜を思い出してみれば言いたい事は山ほど出てくる。


「なんで桜ちゃんにそんな…」


「恨んでくれて結構だ。 俺たちとサクラが出会った時点で選べたのは三択だったからな」


「三択…?」


「ひとつ、俺たちと戦いただの鉄くずになる ふたつ、その場から逃げ出す まぁ、このふたつは俺が封殺していた訳だが」


 であれば、実質的に残された三つ目を選ぶ事しか桜には許されなかった訳だ。

 その三つ目とは。


「そしてみっつ、自我を上書きして俺たちの所で飼う」


「っ!?」


「っとと、動くな動くな」


 そんな、桜をネコか何かと勘違いしているような物言いを聞いて、彦乃が黙って居られるはずもない。

 腹の痛みさえなければ、コマンドの止めようとする腕を叩き伏せてでも起き上がっていた所だ。

 確かに、彦乃からしてみれば桜は血の繋がりもなければ、それこそ出会って一年にも満たない浅い仲かもしれない。

 だがそれを否定されるような生き方をしては来ていないという事だけはハッキリと胸を張って主張できる。

 誰一人として、彦乃のその生き方を否定する事など出来る訳もなかった。


「それに、まだこの話には続きがある」


「…続き?」


「ああ 続けるから動いたりするんじゃないぞ?」


「……分かった …続けて?」


 躊躇ったりもしてみせたが、彦乃自身そんなに動ける自信が無かった。

 起き上がる事は出来るし、立ち上がる事も歩く事も出来るだろう。

 だが走る事や、ましてコマンドたちと戦えるような力の出し方はまず無理だと彦乃の身体中が悲鳴を上げて伝えてくる。

 身体に上手く力が伝わっていない状態とでも言えば伝わり易いかもしれない。

 とにかく、彦乃はコマンドの話を聞く事に集中する。


「助かる …結果として、俺たちは三つ目の方法でサクラの自我を上書きした…だが、これはまだ未完全な物でな」


「未完全…? 完成したらどうなるの…?」


「完成すれば… そうだな……本当の意味でさっきの…ミカゲの妹になれる」


 未完成だとか本当の意味でとか、よく分からない事の連発だったが一つだけ分かる事がある。


 まだ終わりじゃない!


「まぁ、まだ未完成なんだがな」


「それで…?」


「表層部分は人格データを上書きしたんだが、深層部分は非情に壊れやすいからそのままにしてある。 そのせいで弊害が発生している」


「弊害…?」


「人格が不安定になっていてな、深層部分が強く出てこようとすると表層部分の人格が破壊される」


 破壊、と聞いて彦乃は反応するが身体を動かす程の力が出せずそのままビクンと身体が揺れる。

 またかと抑え込もうとしていたコマンドも、落ち着いたと見ると安心して元の椅子へ座り直していた。


「…それを防ぐために、こんな部屋を用意していた…って言う事ですか?」


「そう言う事だ。賢いな。 そこで、あるテストに協力して欲しいんだが」


「テスト…? それに協力って…」


「サクラが帰って来てくれるかもしれない、なんて言ったら協力してくれないか?」


「…話を聞かせてください」


 やはりチャンスは残されていた。

 いや、これは桜が残して行ったチャンスなのだろう。

 ならばこれを拾わない手は無い。

 藁にも縋るような思いで彦乃はコマンドの話に集中した。


「…よし 話は簡単だ。サクラの表層意識を破壊してみて欲しい 手段は問わん どうだ?」


「やります」


「即断即決か。悪くない 面白い人間だな、お前は」


「…よく言われます」


「ふっ…俺もだ」


 二人してふふふと笑っていると、部屋の向こうから近づく気配に気付く。

 反応が二つな事もあったし、そのどちらも彦乃は理解していた。

 確実に桜とミカゲの気配だ。


「表層意識を破壊出来れば、我々は手出しはしない、好きに連れ帰ってくれ 感動の再会を邪魔するのも無粋だしな」


「…一つ、いいですか?…」


「…どうした?」


「どうして、そんなチャンスを私にくれるんですか…?」


「そうだな……探究心と知的好奇心、かな?」


 それを聞いて、彦乃は警戒するでもなくどこか安心していた。

 きっと、この人も桜と同じく好奇心を原動力にしている人なんだと心の中で理解する。

 そうやって考えてみると、ミカゲも含めて三人の兄妹のようにも見えてくる。

 長く兄弟の居なかった彦乃にとってそれは、とても羨ましく見えた事だろう。


「やれそうか?」


「取り戻します、絶対に!」


「良い返事だ。期待している …さあ、準備は済んだな?」


「はい」


「ついでだ… これで身体も動かせるだろう」


コマンドがそっと彦乃の腹に触れると、あっという間に痛みが消え去って行く。

今の彦乃ならきっと全力で暴れ回る事だって出来るだろう。

けれどそれは後回しだ。

まずは桜を取り返すのが先である。


続く

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ