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星にネガイを  作者: シロクロウサギ
第二部:年跨ぎスターライト半月戦争
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第九十話 此宮桜という少女

 今日は一月一日。

 そう、世界的に言う所の新年。

 ニューイヤーだ。

 カタカナだとちょっと分かりにくいって?そこはノリと気分で理解してほしい。


「…そういう手で来るの …流石ね」


 新年早々、優雅にチェスをしている少女が二人いた。

 片方はレジーナ、もう片方は朱莉だ。

 戦局は拮抗、どちらもコマが減り始めて攻め手が限られてくる頃合いか、と言った感じ。


「コレも久しぶりだけど、不思議とレジーナには負ける気がしないのよねー」


「何かしら、挑発のつもり?」


 レジーナのナイトが朱莉のビショップを落とす。

 これでまた一歩、レジーナの勝利へと近づいた…はずだった。


「そう言う訳じゃないよ? っと」


「あぁっ!?」


 きっとレジーナは予想していなかったのだろう。

 朱莉がさっきまで全然触って居なかったナイトで、さっきビショップを落として行ったレジーナのナイトを落とし返すという展開を。

 それだけではない。

 ここからは朱莉のステージであると、盤面が告げていた。


「ほい」


「んんっ?!」


「これも」


「んにゃっ!」


「そろそろチェックかな?」


「ま、待った!」


 レジーナが次のコマを狙いに行くよう配置を動かしている間に、朱莉はその手を崩すように予想外の動きをしてレジーナを混乱させていく。

 気が付けば、あっという間にレジーナはどうしようもない程の劣勢に追い込まれていた。

 正面はナイトやビショップに喰い荒され、両端もルークがいまかと睨みを効かせる。

 後はもう、王様が逃げ回るくらいの事しかレジーナに許された手は存在しない。


「待ったは無いよ? 最初にレジーナが言ったんじゃん」


「うぐっ…」


 朱莉の言う通り、レジーナは確かにチェスを始める前にこう言った。

 「勝負は一度、やり直しも待ったも手加減もどれも無しよ」と。

 それが今ではどうだ、朱莉の圧勝で幕は閉じられようとしていた。


「ま…」


「ま?」


「ま……参りました…」


「ん、また私の勝ちねー レジーナってば弱いんじゃなーい?」


 チェスを初めてはや5戦。

 現在の戦績はと言えば、朱莉が全勝の状態となっていた。

 レジーナが後一回、もう一回と粘りに粘った結果がこれである。


「…ふぅ。 まったく、どうしたの? お正月の挨拶に来たかと思えばチェスなんて」


「別に? ただ貴女と一戦交えたかっただけよ」


 互いに奪い合ったチェスのコマを専用のケースへ種類ごとに収めて行き、チェス盤と共に引き出しの中へ直してしまう事にする。

 元々が来客用の暇つぶしにと用意した物だから、このチェス盤自体引っ張り出すのが久しぶりなのだ。

 来客が無いと言う訳ではないのだが、最近はスターライトたちの集合場所のように使う事も多かったので本来の使用用途から遠ざかってしまっているのだろう。


「それと…情報交換ね」


「そゆことか で、ご用件は?」


「スターライトに…いや、人間に混じって生活してるデブリが居るんですってね?」


 レジーナが聞きたかったのは、桜についてらしい。

 その言い回しは、探りを入れているというよりは情報が不足しているといった感じの物だった。

 まぁ情報は不足していて当然なのだが。

 なにせ朱莉が意図的に情報を制限しているのだから。


「うーん… レジーナにだったらいっかな …確かに居るよ? 顔も見てるんじゃないかな?」


「本当?! あの中に… まさかヒコノがっ?!」


 どうやら顔どころか名前も容姿も情報が入っていないようだ。

 日本に居るスターライトと共に行動しているデブリが居るという程度の情報しか掴んでいないと教えてくれているような返答である。


「彦乃ちゃんじゃないよ 彼女の横で元気にはしゃぐ、ネコみたいな子が居たでしょ?」


「cat? …あぁ、居たわね…あの子がそうなの?」


「そっ 何件目だったかの人型デブリの個体… 最初は研究材料にってセレスがうるさかったけど、私は彦乃ちゃんに任せたの」


 桜がやってきた当初、彼女は実験材料となっていた筈だった。

 彦乃の懇願がなければ。


「名前は此宮桜 戸籍も作ってあるから、連れて行くなら国の、それと彦乃ちゃんの許可も取らないとダメだよー?誘拐犯になりたいなら別だけど」


「誰もそこまで無理矢理連れて行こうなんて思ってないわよ」


「そっ? ならいいんだけど… えぇと後出せる情報はー」


 桜についての情報で何かないかと頭を巡らせる朱莉。

 だが、彦乃みたいにほとんど一緒に居る訳でもないので、桜の詳しい事についてはよく知らない。

 だが、知っている事を思い出すくらいは出来た。


「あぁ、そうそう 桜ちゃんもスターライトみたいに変身できるよ?」


「何ですって?! デブリがスターライトにっ?!」


 驚いたレジーナはその場で立ち上がる。

 そのまま問い詰めようとした所で朱莉が補足を付け足していく。


「待って待って、言ったでしょ? スターライトみたいにだって」


「みたいに… つまり、模倣と言う事?」


「今はそんな認識でいいかもね 観測してみたらスターライトとほぼ同質の反応を出してるし、彦乃ちゃんの撒いたルミナスも使えるし、私とソルのサポートもちゃんと届く」


「なるほど、確かにスターライトとほぼ同じと言う訳ね… 違いは無いのかしら?」


 朱莉の説明を、レジーナは何一つ疑う事も無くすらすらと信じてくれている。

 さっきまでの情報戦っぽい何かはどこへ行ったのやら。

 まぁ朱莉の方もレジーナを騙そうなんて考えは持っていないから問題ないのだが。


「そうだなぁ…… スターライトは変身する時に輝くのは知ってるよね?」


「…? それはスターライトですから、知っていて当然の事だけど」


「桜ちゃんの場合はね、黒い光…闇かもしれない… まぁそういう良く分からない輝き方をして変身するんだ」


「…?」


 その説明の後に、基本的にはスターライトと同じだけどね、と説明を補足する。


「では、スターライトなのでは?」


「身体の大部分がデブリと同質の金属だって言っても、そう思う?」


「っ?!」


 その辺りが、デブリとスターライトの明確な違いだった。

 スターライトとは言っても基本的に生身の少女であるのに対し、桜は終始デブリの身体であるという点がある。


「ぷにぷにな頬やさらさらな髪に至るまで、質感の異なる金属性物質の集合体だって検査が出てる」


「…大部分と言ってましたわね? 生身の部分があるという事かしら?」


「そうだねー… 眼や心臓、脳なんかは生身の人間と同質の生体だってくらいかな…」


 とは言ってもほとんどが金属なので一般的なレントゲン写真とか取って見ると彼女の姿は真っ白にしか映らない訳である。

 ちょっと特殊な機械に通して初めて見つかった、桜の生身部分。

 それが眼と心臓そして脳だったと言う訳だ。


「栄養分は人間と同じ食事で賄い、睡眠も脳が生身なんで必要とし、感情も見た目相応の女の子… 私はこれをデブリだ敵だって叩くつもりは一切ないよ?」


「だって、ちょっと頑丈で身体が金属で出来てるだけの女の子じゃない、あの子は」


 その想いは朱莉の思っている桜への気持ちの全てだった。

 デブリと言っても、その姿は多種多様だろう。

 鳥類や爬虫類、魚類に哺乳類、様々な種類を模した姿を持ったデブリが確認されている。

 だったら人間と同じ姿をとったデブリが居るというのもおかしな話ではないのだ。

 しかも、仲良くしたい、一緒に暮らしたいと伸ばした手を、一番最初に掴んだのは朱莉ではなく彦乃。

 桜をどうするかは、全て彦乃次第となる。

 だが彦乃が酷な選択をする人間ではないという事など誰もが知っている事だ。

 事実、今ではコンペイトウへ定期的な検査に来ている以外は彦乃と一緒に過ごしているのだから。


「…もしも彼女が他のデブリと同じく人を襲った場合はどうするの?」


「彦乃ちゃんに任せるよ。 居ないなら来るのを待つ。 既に故人だったら…一緒の所に送ってあげる」


 三番目の選択肢は、出来れば出て来て欲しくはない物だが、朱莉にせよ彦乃にせよ、彼女たちは人間だ。

 いつまでも長生きできるという保証はどこにもない。

 ましてスターライトともなれば猶更だ。


「…まぁ、そんな事にはならないと私は信じてるけどね?」


「あら、随分な自信なのね?」


「そりゃそうよ。 なんたって今は彦乃ちゃんの妹みたいな子だからね… ん?ペットかな?まぁいいや」


 思い返せば、桜はいつも彦乃にべったりだった。

 彦乃が居ない所では少し残念そうにしょんぼりとしている事も多かったが、彦乃にお願いされた事は絶対にやり遂げるという強い意志が瞳に映る、それが桜という少女の姿。


「桜ちゃんについてはこんな所かな?」


「そうですわね…… 変身した際の武装が、どんな物か教えて貰える?」


「双剣スタイルだねー 連撃に優れたスピード重視って感じ それがどうかしたの?」


「変身した時の姿が気になったので …変身した姿は…?」


「えーとね… あー、タイトル忘れた、なんだっけ、あのアメリカの方でかなり昔にヒットしたSF映画あるじゃん?それのモブ兵士が着てる装甲服みたいな感じしてるよ 写真とか見てみる?」


「ええ、是非」


 こうして二人は、桜と言う少女についての知識を共有していく。

 一月一日の昼をこうして過ごす二人、なんと仕事熱心な事かと思う事もあるかもしれない。

 だが二人がここに居る理由はごく単純。

 居心地がいいのだ。


「…そう言えば、今日は元日では?」


「そだねー?」


「ヒコノの家は神社と聞きましたし、遊びに行こうかしら。 ハツモーデ、というやつよ」


「あー…夜以降の方がいいかも? 一人で頑張ってるみたいだし」


「…?」


 彦乃がどういう事態になっていたかについては次回にでも書いた方が良さそうだ。

 近くにある大きなショッピングモールでお土産でも買って持って行くといいとアドバイスをした朱莉はそのまま置いてある菓子のバスケットへと手を伸ばすのだった。


続く

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