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星にネガイを  作者: シロクロウサギ
第三章 夏の思い出
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第五十五話 決意の価値は

 迎えに来たヘレンを含め、桜も含めたデルタ隊全員がコンペイトウへ到着した。

 そこへ朱莉とセレスが加わった事で作戦会議は開始となる。

 以前にも使った事がある部屋だった事が懸念材料だったが、操の嫌がる顔を見てか最初にあの射出装置は使わないと言う。


「ホンマかいな…」


「ホントホント、約束するってー」


「ブリーフィングルームはここしかありませんので仕方ありません」


 セレスの説明を操はしぶしぶだったが呑み込んでくれた。

 それによってやっと作戦説明が始まると言う物だ。


「さって、状況説明を始めるよー」


「ではまず雲類鷲さん、移動中にいくらか説明は受けました。 詳細な説明をここに居る全員へお願いします」


「はい、えっと…」


 彦乃によるあの時の詳しい説明が続けられていく。

 どこか遠くから感じ取れてしまった誰かの恐怖や悲観にも似た感情の数々。

 それらが一気に彦乃の意識の中に入り込んできた事。


「うんうん…で、調べてみたんだー」


「レーダータイプのスターライトにはごく稀に発生する現象だったそうですが、ここ数十年で同様の現象が確認された事は無かったので情報量が圧倒的に不足していたんです…」


 すみません、とセレスが深く頭を下げ謝罪する。

 もちろん彦乃はあたふたとするが、これが礼儀と言う物だ。


「えっと、エコー隊の件について聞きたいんですけど」


「分かりました。 モニターの方を」


 立ち直りが早いのも大人の特権という奴なのだろうか。

 それともここでクヨクヨしている場合じゃないと一番思っているのがセレスだからなのかもしれない。

 ともあれ、ポケットから取り出したリモコンを操作するとモニターが降りて来て部屋が暗くなっていく。


「アメリカの宇宙関係局に出向中だった早乙女、熊森の二名が先程…大型デブリの殲滅を行う為に自爆したという報告を受けました」


「自爆? 爆弾でも抱えてたんかいな」


「いんや? 彦乃ちゃんならよく知ってるんじゃないかな?」


 確かに、彦乃には心当たりがある。

 いつかの夢に出て来た「アルターノヴァ」というキーワード。

 気が付けば彦乃はそのワードを口にしていた。


「うん正解。 所謂自爆モードね 最終手段だからって封印しようにもメテオーブを破壊しなきゃ封印出来ない仕様らしいから、縛るに縛れない機能なんだよねぇ」


「はぁ?! なんでんなもん付いてんですかっ!」


 驚く操の意見ももっともだ。

 そしてその問いにはセレスが答えてくれる。

 メテオーブに秘められた機能の一つ、アルターノヴァモード。

 光の粒子でありエネルギーであるルミナスを物理的な破壊力が伴うレベルにまで圧縮し、メテオーブそのものの圧潰をスイッチとして周囲を破壊し尽くす爆発を引き起こす一発逆転の切り札である。

 ただし、スイッチがメテオーブの圧潰でありそれは同時にスターライトとしての力を失う事を意味する。

 その上で破壊力の極めて高い爆発の爆心地となるのだ、身体が無事でいられる筈もない。

 今までにもいくらかこのアルターノヴァモードを使ったとされる記録は残されており、それによる生存者はやはりというかゼロである。


「私達のコレにそんな機能が…」


「…ったく…んなビビんなって」


 不安そうな表情で自分の手にあるメテオーブを見つめる織姫たちだったが、そんな中でヘレンは堂々としていた。

 ついでに言うと彦乃もそんなに落ち込むような顔はしていない。


「死にかけになんなきゃ使えないらしいし、あの二人もそんな状態まで追い詰められてたって事だろ? なぁ、社長」


「そだよー。 大型種二体に二人で立ち向かったんだから、凄い子たちだったよ…」


 いつもニコニコしている朱莉でも、流石にこんな時には表情が陰る事もある。

 なるべく隠そうとしているようだったが、彦乃やヘレンはその一瞬の表情を見逃しはしない。

 まぁそれを指摘したり口にしたりするような空気じゃない事くらい分かっている事だが。


「でも、報告によるとEFの範囲が極大クラスだったらしいし、彼女たちの功績は大きいよ」


「敵まで自由なんやなぁ…自由すぎやろ」


「……」


 操の言葉を最後にその場の空気はどんどん暗くなっていた。

 どんな理由を付け加えようとも、顔見知りが二人も死んだ事に変わりはない。

 それが悲しくない訳がない。


「彦乃、彦乃ぉ…」


「…? どうしたの桜ちゃん?」


 しんと静まり返った空気の中、桜が彦乃の服を引っ張る。

 このしんみりとした空気が嫌だったのだろうか。


「お茶、買ってきてもいい?」


「喉乾いたの? なら一緒に行こっか」


「あ、彦乃ちゃん! ここに居るみんなの分も買ってきてー?はい、お金」


 朱莉がポケットからお金を出して渡してくれた。

 これぞホントのポケットマネー、なんてねっ!とか言ってケタケタ笑っている辺り、この暗い空気をどうにかしたかったのだろう。

 どことなくポケットマネーのくだりが言いたかっただけのような気がしないでも無いが、言い始めると買いにも行けない。

 事実、朱莉のアシストのおかげかその場の空気は少し明るくなっていたのだから。


「…」


「彦乃、彦乃…」


「うん? どうしたの?」


 みんなの集まっていたブリーフィングルームを出て少し行ったところにある自動販売機で何を買うか迷っていた彦乃だったが、桜がさっきと同じように服をちょいちょいと引っ張ってくる。

 まるで何か危険を感じ取った動物が飼い主へそれを知らせようとしているように。

 勿論の事だったが、その危険を彦乃も見逃していた訳では無い。


「…大丈夫だよ……アレは、私しか狙ってないから」


「うん、彦乃を信じる……でも」


 でも、と言葉を続けようとした桜だったが、彦乃が指一本で桜の口を塞ぐ。

 ちょっとロマンチックとも思ったりするが彦乃にそんな意図は全くない。

 たまに織姫にだってやっている事であって彦乃にとっては何気ない仕草の一つである。


「桜ちゃん? 信じてくれるんでしょ?」


「あぅ……そうだけど…」


 彦乃の言っている「アレ」とは、以前に戦ったネビュラデブリの事だ。

 あれがまた彦乃の所へやってくるんじゃないかと桜は気が気でならないらしい。

 輝の回復能力が無ければあの場で死んでいたかもしれない程に叩きのめされたからこそ、桜はネビュラデブリの恐ろしさをよく分かっているのだろう。


「だーいじょうぶだって! それより桜ちゃん何飲むの?」


「え、あ…彦乃と同じの…」


 はぁいと彦乃が注文通り「彦乃が飲む予定の」麦茶を購入した。

 そしてそのまま織姫は何がいいかなぁと考えだし、すぐに桜と同じく彦乃と同じ物を注文するだろうと麦茶を購入。

 次に操は何がいいか、美波は輝はヘレンはと考えていき、気が付けば…


「あ……あっちゃぁ…お茶…」


 気が付けば人数分全てが麦茶となってしまっていた。

 自動販売機相手なのだから払い戻しなど通用しない。

 仕方ないからこのまま持って行くしかないだろう。


「彦乃、手伝う!」


「ありがと、桜ちゃん。 それじゃ半分お願いね」


 だいたい半分を桜に任せてブリーフィングルームへ戻ろうとした時、異変に気付く。

 これだと言える証拠や根拠は無いはずなのだが、どうにも違和感を感じる。

 しんと静まり返る廊下が目の前にあるだけの筈だというのに、身体が違和感を感じてしょうがないのだ。

 桜もそれは理解しているようで飲み物をそのへんに置いていた。


「……桜ちゃん…」


「…うん…なんか変…」


 桜は警戒レベルを上げたらしく、その場で変身していた。

 そういえばこの変身した姿だが、一緒に見た映画に似たような姿のキャラが居たからなのか「サクラトルーパー」と呼ぶようになってしまっていた。

 敵のモブ兵士の総称だったんだが、なんでも「ヘルメットが気に入った」んだそうな。

 近場のディスカウントショップでそのキャラの胸像型をしたペットボトルのキャッブに被せるオマケ品があったので買ってあげたらかなり喜んでくれていたのをふと思い出す。

 因みにそれから数日経てばもう飽きて見向きもしていない。


「なんだろ…何かが近づいてきてる…?」


「彦乃、守るから後ろに…」


 庇うように前へ出てくれる桜のなんと頼もしい事か。

 けれど、今回に限ってそれは誤算だったと言う他無い。

 なにせ敵が来ているのは前からではなかったのだから。


「…っ?! っガボボッ…」


「彦乃…? 彦乃っ!?」


 気が付けば彦乃は、背後から液状の何かに頭を覆われていた。

 いや、これは液状というよりはもっと粘度の高い何かだ。

 丁度少し前に同じ体験をした事を彦乃は鮮明に思い出せる。

 ネビュラデブリと対峙した時、まるで吸収しようと包み込まれた時のあの感覚と同じだ。

 と言う事は。


「彦乃っ! 彦乃を返せぇっ!」


 溺れるようにして意識が薄れていく中で、桜が何度も剣を振り下ろしているのがうっすらとだが見える。

 本当なら逃げて皆を呼んできてほしい所ではあるが、桜がそれを了承するとは思えない。

 自分で戦おうにも、口を塞がれている状態ではアルタイルを呼んでも変身できるかどうかすら怪しい。


「(……そうだよね…まずはお話…)」


 せっかく訪れた再開の機会だ、前はロクに話も出来ず終わってしまったが今回こそは。

 そういう考えを覚悟として、彦乃はもがいたりせず身を委ね意識を沈めて行った。




『あぁ…また会えたっ…!』


『犬塚さん…なんだよね?』


 ぷかぷかと浮かぶような意識の中の世界。

 その中で彦乃はもう一度彼女と出会った。

 相変わらずプラネタリウムみたいに星が周囲に散りばめられたような空間だ。

 そんな中に居た彼女の姿は今回、とても鮮明だった。


『うん、そう! また会えて嬉しいっ!』


『私もだよ…? 楽しそうだね?』


 前回と違って、今回の彼女はなんだか活気に溢れているようだ。


『だって誰かとお話しするのが久しぶりなんだもん!』


『そうなんだ…ごめんね、この前はすぐ引き戻されちゃって』


 彦乃の言う前、とは初めて会った時の事だ。

 あの時は会ってすぐに意識が引き戻されたから、ろくにお喋りも出来なかった訳である。


『それより…私、どうなっちゃったの…?』


『大丈夫、安心して? 今は私の意識が強まってるから、あそこの子猫ちゃんも手出しできないから』


『桜ちゃんの事…?』


 きっと光が言っているのは、外で彦乃を助けようとしている桜の事なのだろう。

 子猫ちゃん、という響きにちょっとクスッと来た事は言わない方が良い。


『うん 珍しいよねー、人間の姿をしたデブリなんて…』


『ちょくちょく居るらしいよ?』


『えっ?! そうなのっ?! へぇー、良い時代になったねー』


 暢気に語る光だが、彼女の時代には人間の姿をした、要は桜のようなデブリは存在しなかったのだろうか。


『…ねぇ、彦乃ちゃん?』


『なに…?』


『一つ、お願いしたい事があるんだけど…』


 彼女から提案された”お願い”

 その内容は、脅しか冗談の類かとも思った。

 が、それが偽りの無い言葉だと理解していたのは彦乃である。



『…人間を辞める勇気と決意…ってある…?』


彼女の言葉の意味とは一体?

人間を辞める、それに対する彦乃の答えとは。


つづく

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