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星にネガイを  作者: シロクロウサギ
第三章 夏の思い出
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第五十二話 打ち上げ花火、誰と見る? 前編

「んゅ……ちょっときつい…」


「ガマンだよ、桜ちゃん」


「彦乃ぉ~…」


 彦乃と桜は現在、とある場所へ向かう為の準備をしていた。

 織姫から貸してもらった浴衣を着て御洒落に着飾り帯を締めていく。

 彦乃はなんとか一人で着付ける事が出来たが桜にはかなり苦戦している。


「うぅ……もーやだぁ!」


「うぁっ!」


 ついには我慢できなくなった桜が服を無理矢理に脱ごうともがき始める。

 飼い犬でももう少し我慢できるだろうと頭によぎる彦乃だったがそもそも桜は動物なんかじゃない。

 嫌がるならと脱ぎ捨てられた浴衣を片づけようとしていた彦乃だったが。


「…ん~…」


「どうしたの?」


「……」


 モジモジとしたまま何か言うでもなく彦乃の持つ浴衣をじーっと見つめる桜。

 彦乃がやっぱり着たい?と聞くと桜は迷ったような顔をする。

 着たい気持ちはあるのだが、どうにも身体を締め付けられる感じがイヤなようだ。


「それなら、いつもの服から選ぶ?」


「うぅ……それは…いや…」


「なら、こっち着ようか…?」


 改めて桜の着る物が決まった所でインターホンの鳴る音が聞こえてきた。

 そっと窓から覗いてみると、そこにはしっかりと浴衣姿になっている操の姿がある。

 しかもその後ろには美波と輝もついてきているようだ。


「彦乃ー、居るんかー?」


「ちょ、大きな声出さないでよっ!」


「んもー…折角驚かせようとしたのにー…」


 どうやらサプライズを考えていたようだ。

 それにしたってそんな大声でしゃべって居ては隠している意味がないと思うのだが。


「はいはーい、ちょっと待っててー…いらっしゃーい」


「早っ! 隣の部屋にでも居たの?」


 まぁ実際そんな所だから、と彦乃は笑ってその場を濁す。


「とりあえず上がらせてもらうで?」


 ファッションチェック第一弾、操編!

 黄色い地に何匹もの黒いツバメが飛び交うような柄はなんとも操らしさを分かりやすい形で表していた。

 着着け方も比較的ラフで動き易さを重視した感じが伺える。

 …のだが、こと操においてはそのスタイルの良さが災いしてか、余計に彼女の艶やかさを強調させている気がする。

 普段はポニーテールにしている髪型も、この浴衣に合わせてなのか結ったりせずに降ろしている。

 金髪なのが災いしてか、布地が保護色になって髪が隠れているような気がしないでもない。


「お邪魔しまーす」


 ファッションチェック第二弾、美波編!

 白地に散りばめられた桜の模様が綺麗なその柄は、美波っぽいと言うよりは誰かから借りてきたような感じが見て取れる。

 何も似合っていないと言う訳ではないのだが、着慣れていない感じと言うか着させられている感が見ただけで分かってしまう。

 借りてきた猫のようにいつもの威勢はどこへやら。


「お邪魔しますー…んー、畳の良い香り…」


 ファッションチェック第三弾、輝編!

 黒地に紫の撫子の花がいくつも咲いた柄は、輝の幼さを覆い隠してしまうような美しさがあった。

 きっとこちらも借り物なのだろう。

 若干サイズが大きめなのも気にせず着こなせている辺り、輝のマイペースさが伺える。

 人の家の匂いを嗅ぎ回るのはどうかと思うが、何も臭いと言っている訳では無いのでよしとしよう。


「はーい上がっていってー。織姫ちゃんは現地で合流するって言ってたから、後は桜ちゃんだけなんだー」


 ファッションチェック第四弾、彦乃編!

 赤地に白く大きな牡丹の花が刺繍された柄は、彦乃の母親から拝借した物だ。

 今ではすっかり彦乃でも着れるサイズとなって彦乃の物となっているが。

 小さい頃から母親の着た姿を見ていたからこそ一人で着れたようなものである。


「なんや? 桜まだ着れてないんか?」


「全く、何してるのよ…雲類鷲さんも居たんでしょ?」


「お姉ちゃんも着るの難しくて「てるさまたすけてー」とか言ってたよねー?」


「輝ー、私はそんな事言ってないし捏造しないでよね!」


 この姉妹はいつもこうだった。

 なのに最終的には仲良しな辺り、やっぱり姉妹なんだなぁと思い知る事になる。

 一人っ子だった彦乃にとっては桜が妹になるのかもしれない。

 まぁ既に妹というか家族として彦乃は迎えているつもりなので関係ないだろうが。


「ひこのー…」


「ん? 彦乃、桜呼んでんで?」


「うぇ? 桜ちゃんどうし…うわぁ!?」


 彦乃が様子を見に行くと、どうやら自分で帯を巻こうと頑張っていたのだろう桜の姿があった。

 ただ、巻き方がどうにもおかしい。

 帯で梱包でもするつもりなのかと言いたくなるほど全身を覆うように帯を巻いていたのだ。

 引っ張ってやればさぞかし綺麗に回ってくれる事だろう。


「たーすーけーてー」


「うん、今助けるから待ってて…あ、コレっ!」


 桜の足元から垂れ下がる帯の尾を見つけた彦乃はそれを掴んで一気に引っ張る。

 普通なら帯がしわくちゃになるか破れるかしてしまいそうだが、彦乃の力が絶妙だったからか破れる事は無い。

 その代わり、桜には災難だったわけだが。


「にょあぁぁぁぁ!」


「あっ、ご、ごめーん!」


「なんの声……彦乃、んな悪代官みたいな事してまで桜の事…」


 操は見てしまった。

 桜が帯をベイゴマのように引っ張られ、目を回しながら彦乃へ倒れ込むのを。

 昔の大河ドラマとかでこんなシーンがあったような気がしなくもない。


「操ちゃん、そんな事言ってないで手伝ってよー」


「みさおー」


「しゃーないなー…ほれ、帯貸してみ?」


 起き上がった彦乃は操に帯を渡す。

 どうやら秘策があるらしく、操はニヤリと笑って桜の方を見た。

 その視線に何か感じる物があったらしく、桜は悪寒に身を引き攣らせていた。

 危険を前に体を硬直させる小動物のように、一切の抵抗ができなくなっている。


「そーらよっと!」


「はにゃぁぁぁぁ!!」


 思いっきり鞭のように桜へ帯を振り回す。

 あまりに乱暴であまりに適当。

 だが、その結果は驚くべき物となった。


「ほいっと」


「あうぁう…」


 またもや回ってしまった桜を手で止めてやるとあら不思議。

 今まで散々手こずっていた筈の帯締めが一瞬で完了しているではないか。

 一体どういう原理でこうなったのか、全く分からない。

 もしかしたら操はこの一発芸一本で食っていけるんじゃないだろうか?


「すっごーい! どうやったの今の?」


「ん? 中学生ん時やったかな…着付けに手間取っとる時に教えてもろたんよ」


「えー、誰に?」


 興味ありげに聞いてくる彦乃だったが、操は悪戯っぽく笑うと「秘密や」とだけ言って口を閉ざしてしまう。

 むぅと膨れる彦乃を余所に、操は桜の着付けの仕上げに取り掛かる。

 何もあれだけで完成と言う訳では無いのだから当たり前だ。


「これをこうして…どやろ?」


「うん、すっごく良いと思う! ねぇ美波ちゃん!」


「ふぅん…? 良いんじゃないかしら?」


「おー、美人さんの出来上がりだー」


 ファッションチェック第五弾、桜編!

 黒地の中に赤や黄色、紫といった何種類もの紫陽花が花を咲かせている、カラフルなのに主張の大人しいデザインをした浴衣は桜を程よく飾ってくれているようだ。

 銀の髪も暗い色の浴衣だからだろうかよく映える。

 「そうや!」と何かを閃いた操によって髪を結われ、あっという間に彦乃とは左右が反対になったサイドテールが出来上がった。

 これには桜も大喜びのようで、彦乃にピタリとくっついてニコニコとしている。


「おー、可愛い! 操ちゃんありがとー!」


「操ー、ありがとーっ!」


「どういたしまして…にしてもやっぱこれ、ええなぁ」


 双子のように髪を合わせて一緒に並ぶ彦乃と桜。

 見れば見る程姉妹のようだ。

 顔は似ているという訳では無いのだが、雰囲気がそうさせているのだろうか。


「うん…うん! すっごくいい! お姉ちゃん、私達もやろう?」


「えー…はいはい分かったわよ…雲類鷲さん、櫛貸してちょうだい?」


「いいよー? はいどうぞ」


 彦乃から櫛を受け取ると、美波はさっそく輝の髪を梳いていく。

 いつもやっているからなのか、あっと言う間に出来上がった。

 流石に髪の長さは一緒と言う訳ではないからか、形はどこか似ている程度のものだったが輝は満足しているようだ。


「ほら、出来たわよ?」


「むっはー! お姉ちゃんと一緒!お姉ちゃんと一緒ー!」


「こら、はしゃぎすぎだってば!」


 上機嫌で舞い上がる輝をどうにか押さえつけ、彦乃たちは最後に家の戸締りを確認して出かける事とする。

 これだけ着飾って出向く先。

それは、少し離れた街でやっている夏祭りの会場だ。


つづく

前後編と続きます

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