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星にネガイを  作者: シロクロウサギ
第二章 七夕怪奇譚
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第三十四話 雲類鷲彦乃の冒険 邂逅編

今回は同タイトルでの三話構成になっています。


「おー……オスプレイだー!」


「オスプレイだー…じゃねえよ、早く乗れ」


目の前で発進準備が進められる飛行機に、彦乃は興奮冷め止まぬと言った具合だ。

隣で呆れた様子のヘレンが彦乃の背中を叩いて機体に乗り込むよう急かす。

急かさなければいけない理由がある。


「彦乃、なんで私ら二人だけでこれに乗るのか分かってるか?」


「はい。海に出たEFの破壊ですよね」


「んー…65点。目的は分かってるが大雑把過ぎる」


 ヘレンからの評価は高いのか低いのか微妙な所だった。

 本来ならば、今日は突然の台風により学校を休んでいる筈だった。

 家で大人しく台風が過ぎ去るのを待つ。

 ただそれだけだった筈なのに。


 デブリが関係しているとなれば話は別だ。


「いいか、もう一回おさらいだ。 和歌山の沖合をずーっと行った先に、ユニットが落着してEFを形成、それが気流をを大きくかき乱した結果、日本は史上稀に見る頻度での台風襲来に直面してる。半日おきに台風が上陸してくるとかうるさくて眠れもしねーぞ全く…」


 EFは沖合に固定されて座標を変えず、周囲の気流との差異によって嵐を発生させ続ける台風製造機と化している。

 これを一刻も早く破壊しなければ複数の台風がいくつもの国を襲い甚大な被害を及ぼす。

 現に今回の台風ではいくらか死者の報告も挙げられている。

 EFの効果外ゆえにリセットしたりする事も出来ないという訳だ。


「っと、そうだ。 どうして私とお前の二人なのか、答えられるか?」


「飛行・滞空が可能なスターライトがその二名のみ、ですよね?」


 そう、この二人以外は戦闘はおろか戦場に向かう事すら許されなかった。

 場所は海の上なのだ、海上を水上バイクのように走れる織姫はともかく、他のメンバーでは同行する事すら出来ない。

 織姫にしても、得物はライフルだ。

 敵は海中に居るだろう場合を考慮すると、海水での減退もあって銃弾などまるで意味を成さない。

 適しているのがこの二人という事もあり今回は二名での討伐任務が朱莉から言い渡された訳である。


「まあそうだな。 お前は槍で飛べばいいし、私はルミナスの壁で足場を作れば問題ない」


「いいですよね、あれー。 空飛ぶ絨毯みたいで…」


 なんてメルヘンチックな事を言う彦乃の言葉を遮るように、二人を乗せたオスプレイの搬入ゲートが閉じられていく。

 おかげで彦乃の夢物語は遮られてしまっている訳だが本人はどうも気にしていないらしかった。

 というより話していて途中で恥ずかしくなっていたという方が正しいか。


「アレは…付けてるな」


「はい。小さいのに高性能ですよね、コレ」


 そう言って彦乃が指でツンツンと突くのは、以前にも紹介したハンズフリー型の通信機だ。

 今も送信部のLEDが点滅を繰り返し、ヘレンに彦乃の声を届けている。

 これが無ければ、発進準備を開始してプロペラを回し始めたオスプレイの駆動音で声が聞こえ難くなっていた事だろう。

 飛んでいる時は聞こえにくいと言った事は無いらしいが、発進時はどうしてもうるさいんだそうな。


「……なんかヤケにウキウキしてねーか?」


「え? そりゃそうですよ! だってオスプレイですよオスプレイ!」


 まるで有名人にでも遭遇したかのような高揚っぷりだが、ヘレンには分からない。

 どうして、女子高生が兵器に乗り込んだというだけでこんなにも喜べるのだろう。

 普通なら不思議そうに見る事こそあれど、近づこうとはしない物だろうに。


「そーかい…っと、ベルトはちゃんと付けろよ?」


「えっと……あ、これですか?」


「違うわ! それは隣の席に付けるやつ! お前が座ってる所に付けるやつはこっち!」


 怒鳴ってこそいるが、ヘレンは席の横からベルトを引っ張り出してやる。

 慣れている故にテキパキと彦乃のベルトをセットしてやると、慌てて自分の座っていた位置に戻って自分の分のベルトも素早くセットした。

 どうせなら隣に座ればいいのにと言おうとした彦乃だったが全て言い終わる前に「機体バランス!」と怒鳴られてしまう。

 そんなに変わらないんじゃと言いそうになる彦乃だが、言葉が出て来る前に機体が浮かび始めてテンションも一緒に急上昇する。


「おぉ~! このお腹がくすぐったい感じ…」


「口閉じてろ、舌噛むぞ?」


 ヘレンの指示に、彦乃は素直に従う。

 別に反抗しようとしてるとかそんな考えは全くなく、話を聞くのが当たり前という感じで大人しく従う。

 窓の外から見える景色が灰色のコンクリートから同じ灰色とはいえ空に出たのだと分かると気分がまた昇り詰めていく。

 それをヘレンが抑えてを何度か繰り返している内に、耳が痛くなるのを感じた。

 どうやら相当の高さまで飛んでいるらしい。


=====

===



「見えてきたな…」


「おぉー! おっきーい!」


 皆さんは、台風を上から眺めた事はあるだろうか?

 神秘的にも思えるような、雲の絨毯が一面に敷き詰められている光景をイメージして欲しい。

 その上を歩けるんじゃないかと錯覚してしまいそうになる程の密度を持つ雲が、見渡す限り続いているのだ。

 それ故に、それ以外の物が見えていれば分かり易い。

 色彩が真逆なら猶更だ。

 ドーム状のEFが、台風の目にあたる位置に異質な存在感を滲ませていた。


「しゃちょ…周防社長、EFを目視、かなりデカいぞありゃ…」


『あ、もうそこまで来たの? なら早めに彦乃ちゃんと一緒に飛び降りて?』


 飛び降りて、とはどういう事かと思ったヘレンだったが、もう既に時間切れだ。

 目の前で搬入口が開いて行っているのだから。

 要はそこから飛び降りろという事だろう。


「なのなぁ……私ならともかく、スカイダイビングの経験とか無いような彦乃には」


『だって要らないじゃん、君達空中移動できるんだから』


「あ、ちょ! 社長!……あんのクソ社長!」


 どうやら一方的に通信を切られてしまったらしい。

 今すぐにでも通信機を外して放り投げたかった所だったが、自分の理性がなんとかそれを思い止まらせてくれた。

 ここで通信機を投げ出してしまえば、きっとまたからかわれる。


「ヘレンさん、準備いいですか?」


「あ、おい彦乃…飛び出して行きやがった……待てってのっ!」


 彦乃がヘレンの準備を見計らって、まるでプールに飛び込みにいくかのようにはしゃぎながら大空へと飛び出した。

 オシャレをしてきたという訳では無かったが、着ている犬のロゴが刻まれたポロシャツやジーンズが破けてしまうんじゃないかと思う程の突風が彦乃をオスプレイへ押し戻して行きそうな勢いで吹き荒ぶのを全身で感じる。

 事実、履いているスニーカーにも至ると今にも飛んで行ってしまいそうだ。


「行くよ、アルタイルっ!」


「だぁぁぁ、もうっ! 起きろ、ベテルギウス!」


 オスプレイから飛び降りた彦乃とヘレン。

 二人はほぼ同時に光の中に姿を消し、一瞬にしてスターライトの姿で再び姿を現す。

 彦乃のブレスレットとヘレンのネックレスに提げられたドッグタグが同時に輝き、二人をスターライトの姿へと変えたのだ。


「牛頭っ!…よっと…あ、これなんかいいかも…おぉっとと」


「馬鹿か! 曲芸師じゃねーんだから、そんな真似してないで安定して飛ぶ事だけ考えてろ!」


 呼び出した槍に飛び乗った彦乃は、まるで空中でサーフィンでもしているかのような体勢になる。

 だが、高高度を飛んでいる故か風に煽られてすぐにバランスを崩しそうになってしまった。

 ヘレンが傍へ来て支えてくれたからこそ滑落せずに済んだものの、あのまま足を滑らせて落ちていたかと思うと背筋が冷える。

 よくよく見てみればヘレンの移動法も大概サーフィンな気がするが「私よりまず自分を気にしろ」と一蹴されてしまう。


「うーん…良いと思ったんだけどな~…それに …んっ、股が…」


 槍の穂先を魔女の箒で言う穂先部分に見立てて、ブースターを外へ向けて炎の噴射で空を飛ぶ。

 一見すると突っ込む事しか出来なさそうだが、腰のブースターを使えば急制動も可能である。

 そんな槍な訳だが、跨るとなると少し工夫が必要なようだ。

 そのまま跨ると、牛頭の名が刻まれたレリーフ部分に跨る事となり、ザラザラとした感触が内腿を擽る。

 どうにも気になって上手く飛べなさそうな程に、だ。

 直接肌に触れている訳ではなく袴腰だからそこまでの刺激は無いが、これがスカートを履いていたりで素足のままこの感触を味わっていたらと思うと表情が硬くなってしまう。


「それっくらい我慢しろっての! 先行くぞ?」


 言うが早いか、ヘレンは足場を次々に作り出しては飛び跳ねて行く。

 あれを魔法の絨毯よろしく乗って移動すればいいのではと思ったが、どうやら作ってもすぐ消えてしまうらしくすぐ答えは出た。

 現実は非情である。


「ま、待ってください…っと、パイロットの皆さん、ありがとうございました!」


『頑張ってきなよ、新人の御嬢さん』


『ミス・ヘレンはちょっと気難しい所もあるけど、おだててやればすぐに』


『聞こえてんぞ近江に松坂ぁ!お前ら帰ったら覚えてろよなぁ!?』


 どうやら通信越しに怒鳴られてしまった。

 彦乃の事ではないと分かっていても、思わず彦乃も苦笑いしてしまう。

 パイロットの方はと言うと、どうやら慣れているらしく、それほど気にしていないようだ。


『へいへい、ひめこちゃんに怒られないよう職務を全うしますよーっと』


『それより新人の御嬢さん、彦乃ちゃんって言ったっけ? 帰ったら食事でも』


「それじゃ行ってきます。皆さんもお気を付けて!」


 空を浮かびながら悠長にお喋りしている暇はない。

 一応、コクピットから見える位置で手を振って、後は思いっきり加速を付けてヘレンを追いかける。

 どうやらダイブポイント自体はEFの発生箇所から程よく近かったらしく、ヘレンと合流する頃にはすぐ目の前までEFの壁が迫って来ていた。


「彦乃、中に突っ込んだらまずは索敵だ。お前の索敵能力がカギなんだから、しっかりやれよ?」


「は、はいっ!」


 ヘレンからの忠告を受け、そのまま突っ込んで行こうとした彦乃だったが、すぐにヘレンから「待った」と言われその場でブレーキを掛ける。


「やれやれ…ちょっとは肩の力を抜け。ガッチガチになってんぞ」


「あ、あはは……分かりました! もう大丈夫です、行きましょうか」


「……大丈夫みたいだな。それじゃ行くぞ」


 傍まで来て様子を見ていたヘレンだったが、大丈夫だと判断すると彦乃の背中をバシンと叩きゴーサインを出す。

 笑顔で子供を死地へ送り出す、と言えば聞こえは悪いかもしれないが、ヘレンの場合は少し違う。

 笑顔を向ける事で、少しでも彦乃にとって助けになれば恨まれていようがそれでいい。

 そう思って、彦乃と一緒に笑おうとしている。

 彦乃は、その思いをちゃんと分かっていた。


「はい! 早めに済んだら、ヘレンさん奢ってくださいね?」


「ん…? あー…良いぜ? 美味い店知ってっから、そこ行くか」


「さんせーい! それじゃ、すぐにでも終わらせますよ」


「討ち漏らして帰るなんてゆるさねーからな」


 互いに意見をぶつけ合い、そうしている内に二人の身体から緊張感は緩んでいた。

 だがこれは緩ませてはいけない緊張感ではない。

 逆に、緊張しすぎているのが丁度良く緩んできた、と言った方がいいだろうか。


「さって……行くぞ、彦乃!」


「了解…あ、そうだ」


 彦乃が、槍の跨っている位置を調節し、後ろにヘレンを乗せれるだけの余裕を作る。


「どうぞ!」


「……あん?」


「二人乗りですよ、二人乗り! 二人一緒の方が安全に突入できますから」


「二人乗りのどこが安全で……あぁ、もう。時間ねぇからやるぞ、ほれ…」


 ああだこうだと言っても、結局ヘレンは彦乃の提案を飲むしかなかった。

 ただ…足場になっている板から槍へ飛び移ったのがいけなかった。


「いぎっ!」


「…? ヘレンさん?」


「な……なんでもねぇ…」


「だいじょうb」


「なんでもねぇっつってんだろうが! 早く行け!」


 彦乃は位置的に見えていないだろうが、ヘレンはこれまで自分がした事のない程に足を閉じて内股になっていた。

 股間に強い衝撃を受けて、苦痛を感じるのは何も男性だけではない、という事だ。


「……? しっかり掴まっててくださいね!」


「おうよ!」


 彦乃の腰に手を回し、振り落とされたりしないようにしっかりと掴まる。

 それを確認した彦乃は、槍のブースターを全力で噴かせ、一気に加速をつけた。


「雲類鷲彦乃」


「虎姫ヘレン」


「「ミッション・スタート!」」


 二人の声が重なって聞こえるのと、二人がEF内部へ突入したのは同時であった。

 これから先、二人の戦いがどうなるか…

 それは、次回のお話で。


つづく

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