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星にネガイを  作者: シロクロウサギ
第二章 七夕怪奇譚
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第二十八話 女子マネは見た!


 土曜日の昼、彦乃は部活動に関しての準備をしていた。

 いよいよ明日はソフトボール部の待ち望んでいた他校との練習試合だ。

 最近は全くそんな話を聞いていなかったらしく、久々の試合だと彦乃を始め一年生どころか上級生も張り切っている。

 何より顧問の教師が浮足立っているのが見ているだけで分かるというものだ。


「みんな張り切ってるねー…」


「彦乃ちゃんも出場出来たら良かったのにね…」


 彦乃と織姫は、部員の着替え部屋にもなっている屋内から準備運動に取り組んでいる仲間たちを見ていた。

 長テーブルに並べられた椅子とホワイトボードには、明日の練習試合に向けての対抗策の数々が寄せ書きのように書き連ねられている。

 どれもこれも、ソフトボール部の皆が考えてくれた素晴らしい作戦の数々だ。


「え? 出るよ?」


「……えっ?」


「だから、私も試合には出るよって。今日部活に行ってないのは、こうして織姫ちゃんと明日の作戦についてまとめる為だってさっき言ったじゃん」


 彦乃の言葉を聞いて、織姫の口は開いたまま暫く塞がる事は無かった。

 そんな話など聞いていない。

 右目は未だに気を抜くと目玉を抉られるような痛みが走るのだ。

 彦乃の事を思って、補欠枠に彦乃をコッソリと入れてあるのだが、きっとこれを顧問に提出したとなれば何故かと問い質される事だろう。

 まぁそれに関しては「実は捻挫してるのを隠してる」とでも言えば信じてくれるだろうが。

 問題は、当の本人が大会に出る気マンマンだと言う事である。


「言った…? えっ……さっき…?」


「うん。ここ来るまでの間に言ったよ?」


 そこまで聞いて織姫はハッと思い出す。

 土曜日の授業が終わり、部室棟へ移動するまでの間という事だ。

 確かに、織姫は部室棟で彦乃と合流した訳ではなく、授業が終わって一緒に移動してきている。

 その移動途中は彦乃をどう理由付けて不参加にさせるかを考える事で頭の中が一杯だった。


「えっと……ごめん、聞いてなかったかも…」


「えー…織姫ちゃんだから許しちゃう!」


「彦乃ちゃんステキ!抱いて!」


「ハグだよね?」


「ううん、性的な意味で」


「ならダメー!」


「そんなー」


 といった感じのコントが繰り広げられていた中、誰かが部室棟へ入ってくる音が聞こえて互いに頭の中が一気に冷える。

 誰かが持ち物を取りに来たのだろうか?

 そう最初は思っていたが、どうやら違うようだ。


「雲類鷲さーん、居ますかー?」


「あれ? 文佳ちゃん?」


 どうやら入ってきたのは文佳だったらしい。

 カメラ持参で来ているという訳ではなく、どうやら単に人探しをしていると言った感じだ。


「ここに居たんですね。応援団長の先輩が呼んでましたよ」


「応援団長…あっ! そうだった!」


 持っていたノートを机に叩きつけるように置くと、彦乃は慌てて立ち上がると外へ出て行く準備を始める。


「ごめん織姫ちゃん、また後でね。文佳ちゃん、団長さんどこに居るって?」


「あ、はい。いつも通り音楽室で皆と打ち合わせしながら待ってるって言ってました」


「ありがとう、ちょっと行ってくるね!」


 靴を履くと彦乃はあっと言う間に部室棟から飛び出して行ってしまった。

 残された織姫は、真面目にマネージャーとしての仕事をしようとしていたのだが、文佳に呼び止められる。


「…会長、第二弾、やってみませんか?」


「第二弾…? 何の…って、まさか…」


 先日やった操への尾行調査。

 最初こそ好奇心からのスタートだったが、今回は少し違う。


「ええ、そのまさかです」


「昨日あんな盛大に失敗したのに? しかも相手は彦乃ちゃんだよ?」


「いいえ、雲類鷲さんだからですよ…」


 そう言って、文佳は一枚の写真を取り出す。

 そこに写っているのは、彦乃と応援団長の二人だ。

 何やらお喋りしているらしき所を遠くから隠し撮りしたらしい。


「これは…」


「丁度一カ月ほど前に撮った写真です」


 一カ月ほど前と言うと、彦乃がスターライトの力を手に入れる少し前と言ったくらいか。

 なぜそのような時期にこの二人が接触するのだろうか。

 ヒントはその写真の中にハッキリと写り込んでいた。


「見て欲しいのはここなんです」


「これは……え、嘘…」


 写真に写る彦乃が持っていたのは、一枚のキャンパスノートだった。

 授業でよく使っている物とは表紙の色が違う。

 彦乃がよく使っているのは青と緑だが、これは赤いキャンパスノートだ。


「写真の解像度があまり良くないので分かり辛いかとおもうんですが、このノート、漢字四文字である事が分かりました」


「……うん?」


「ノートの表紙に漢字四文字。さあ、何を思い浮かべますか?」


 普通に考えるなら使う授業の科目だろうが、あいにくちょうど4文字の教科はこの学校には存在しない。

 と、なると、次に思い浮かべられるのは授業以外に用いる際の用途で…

 携帯電話技術の進歩したこの時代に置いて、紙媒体である必要性がある使用用途と言えば…


「……交換日記?」


「そうです!」


 なんと乙女チックな事か!

 と、ここまで来て彦乃のカバンがどうなっているのかという方に気が向く。

 確か彦乃は部室棟のこの部屋に入ってすぐの場所にカバンを置いてあったはずだ。

 見てみるとカバンはしっかり回収されている。


「雲川さん、準備を…」


「はい?」


「彦乃ちゃんの後を追うの!もし彦乃ちゃんに手を出すようなら先輩だろうが神様だろうが…関係ない!」


 織姫に、変なエンジンがかかったようだ。

 それを半ば怯えながら、それとは別に面白そうだと文佳は織姫の後に続く。

 忘れ物が無いかの確認と戸締りをキッチリとし、織姫たちによる捜索が始まった。


=====


 とりあえず、彦乃が向かったであろう音楽室へと出向いた織姫たち。

 しかし、そこに彦乃の姿はどこにもなかった。


「失礼します!」


「…ありゃ、いませんねー」


「失礼しました!」


 あっと言う間に音楽室を出て行ってしまう。

 彦乃が居ないのであれば用など無いのだ。

 だが、織姫を追いかけて部活に取り組んでいた一人の女子生徒が呼び止めてきた。


「会長ちゃん会長ちゃん」


「? なんですか?」


 織姫を会長と呼ぶ、即ち彼女も織姫と志を同じくする者という事だ。

 同志の言葉を無下にするような真似、織姫にはとても出来ない。


「彦乃ちゃんがどこに言ったか、聞きたくない?」


「ええ、是非」


 どうやら行方を知っているようだが、どうにも出し渋ってくる。

 これは、どうやら交換条件が必要な気がする。


「それじゃーね……今度、彦乃ちゃんと一緒にご飯に行くとか」


「……はい、大丈夫です。それで、彦乃ちゃんはどこへ?」


 一瞬黙っていたのは、スケジュールを確認していたのか、それとも怒りを抑えていたのか。

 何はともあれ、美味しい餌を垂らしたのだから、あとは食い付くのみ。


「まいどありー! 応援団長さんと一緒に学校出て行ったよ? デートなんじゃないー?」


「っ! ありがとうございました! 行くよ、雲川さん!」


「はいー!」


 大急ぎで彦乃たちを追わなければ。

 まだ学校を出て間もない筈だ。

 となれば、急いで追いかければ追跡も可能だろう。

 何も大きな学校ではない。

 学校の正門までは数分と掛からない訳で。


 そして、校門を出た訳だが…


「……どっち行ったんでしょうね…」


「…」


 校門を出てすぐの所を、通りが走っている。

 スーパーや大手の本屋、病院やレストランなどがズラリと並ぶその通りは、いつも車が多く行き交っている。

 それらが鳥の向こう側で、こちら側はと言えばガソリンスタンドや葬儀場に貸倉庫と、どれも高校生が立ち寄るような場所ではない。


「うぅん…」


「どうしますか? とりあえず聞き込みでも…」


「…そうしようか。とりあえずスーパーの方に…アレ?」


 通りの向こう側、本屋の方から出てきた人物に織姫は見覚えがあった。

 コスプレ趣味の人でもなければあんな恰好はしないだろうからすぐ分かると言う物だ。

 家の中ならまだしも、買い物に行く時なんかもあの格好のままで出かけているのだから驚きだ。


「結衣さんだ…とりあえず彼女に聞いてみようか」


「そうですねぇ…おぉ! あれが噂のメイドさんですか!」


 どうやら文佳の方はすっかりテンションが上がっていたようだ。

 面白い物を見つけた時のような、キラキラとした目をしている。 


「おやおや?」


 少し先にある信号のボタンを押して待っていると、向こうもこちらに気付いたらしく、方向を変えて歩いてきていた。


「お嬢様、お帰りですか?」


「ええ。貴女は買い物?」


「はい、もう終わりましたが」


 見れば、彼女の手には本屋の袋が握られている。

 食材の買い出しなどではないようだ。

 趣味をとやかく言うような性格でもない織姫は特にこれといって追及はしない。

 だが、文佳がそれを無視するかな?


「すみません、ちょっといいですか?」


「あの、お嬢様? こちらの方は…」


「私の友達の雲川さん」


「そうでしたか。はい、どうかなさいましたか?」


 結衣が文佳に聞くが早いか、彼女はペンとメモ帳を取り出して結衣の手に持つ袋を凝視していた。

 中身が知りたいらしい。


「メイドの人ってどんな本を買うのかなーって、気になっていたんですよね!」


「はぁ…」


「是非とも、袋の方を検めてもよろしいですか?!」


 鼻息が聞こえてきそうな程迫る文佳を、織姫が引き留める。

 そうしなければ、彼女の趣味が赤裸々になる所だっただろう。


「雲川さん、私たちは彦乃さんを探してるの、違う?」


「あ、そうでした。ええと、この辺りで髪の赤めでサイドテールな…」


「彦乃さまなら存じませんが…? お嬢様、今日は土曜日ですよね?」


 唐突に曜日を聞いていたが、暗号か何かだとは文佳は想像もできまい。

 実際、投げかけられた織姫自身も忘れ去っていたのだから何も返す言葉が無い。


「……っ! ありがとう、結衣さん。後は私たちが…」


 ゆいは なかまになりたそうに こちらを みている!


「……」


「え、なんですか、あのぶりっこモード…」


「分かり易いでしょ?」


 ゆいは なかまになりたそうに以下略


「…あぁ、もう。好きにすればいいじゃない」


「っ! はい、麻倉結衣、お嬢様にお供致します!」


 やったぞ! ゆい がなかまに くわわった!

 なんてやってる場合ではない。

 こうして足を留めている間に、一体彦乃とはどれほどの差が広がってしまっただろうか。

 なんて考えている文佳を余所に、織姫は携帯電話を取り出した。


「……分かった、あの公園ね」


「え、なんですかそr」


「貴女は何も見なかった。そうですね? お嬢様のご学友さま…」


 織姫にツッコもうとした文佳の手が、ガシッと握られる。

 漫画なんかでギリギリという効果音と共に握る力が強められる描写はよく見るが、まさかその状況に文佳が置かれるとは。

 横から感じる黒いオーラを感じた文佳は、結衣と目を合わせる事が出来なかった。


「さぁ、行こう?」


「あ、はい!」


「行きましょう!」


 彦乃探偵団改め(元々名乗ってないけど)、織姫探偵団、ここに結成!

 携帯の情報を頼りに、織姫たちはぐんぐん進む。


====


「あ、いた」


 少し歩いて、帰り道の途中にある小さい公園へとたどり着く。

 小さな川にかかる橋を越えた先にあるその公園は、滑り台と砂場とベンチくらいしかない小さな場所で、お年寄りの休憩スポットにもなっている。

 そのベンチに、二人は座っていた…というよりは…


「なんですか、なんですかアレ?! 一枚撮っちゃお!」


「スクープですよスクープ!」


 二人してカメラが向ける先にあった光景は…


 彦乃が、一人の少年に膝枕をしてうたた寝している光景だった。


「………」


「あの制服、同じ学校の人ですよね?」


「ええ、ウチの応援団長こと穂鳶翔太先輩です。カワイイですよねー」


 見た目からして小学生か中学生くらいの少年は、さっき彦乃が部室を飛び出していく原因となった人物だった。

 どうやら足を怪我してしまったのか、靴を脱いでベンチに横になっているようだ。

 そこへ彦乃が膝枕をしてやり、そのまま互いに眠ってしまったらしい。

 今日は初夏の割に珍しく気温は低めで、春のぽかぽかとした陽気が二人を夢心地へと誘ったのだろう。


「起こしちゃかわいそうですし、我々はこれで…」


「……お嬢様?」


 カメラを収めた二人は、隣で微動だにしない織姫を見て固まった。

 ドス黒いオーラが見える。

 なんかヤバそうな。


「……」


 そのままベンチの方へ向かっていくと…


「ごめんね、彦乃ちゃん…」


 彦乃が手に持っていたノートを、本人にも気取らせない程の自然な動きで奪って見せた。

 もしかするとスリのテクニックなんじゃないかと思う程の手際の良さだったが、突っ込む者は居ない。


「……っ…」


 ノートの中を見てみると、そこに書かれていたのは…


「お、応援歌マイベストセレクション…?」


 応援団が演奏する曲をどれにするかという事についてズラッと書かれていた。

 曲の良い所や好きな部分、どういった感じで演奏して欲しいかなどが詳細に書かれていた。


「…交換日記とかじゃなかったんですね」


 表紙には、「応援歌帳」と書かれていた。


「んぅ……おりひめちゃん…?」


「あ、彦乃ちゃん…これは…」


「あぁこれ? 穂鳶先輩、そこの橋で足挫いちゃって。ちょっと休めば痛みも引くよって事でここに…」


 と言うのが事の真相だった。

 別に恋愛がどうのとかいうのではなさそうだ。


「鳶と鷲…」


「結衣さん? 次余計な事言ったら、集めてる薄くて高い本、皆燃やすから」


「ひぃっ!」


 こうして、一連の事件は幕を閉じた。

 翌日、練習試合に織姫は結局見学という事になり、彦乃が応援団に何の曲をリクエストしていたかは分からず仕舞いで終わってしまった。


 つづく

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