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星にネガイを  作者: シロクロウサギ
第四部 星のお姫様
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第二一九話 鈍る切先

 薄暗い竹林の中、剣戟のぶつかり合う音が響く。

 ヘレンとターニャ、そしてユーシィが剣を交え戦場を駆けまわる。

 ただし戦っているのはデブリではない。自分と同じスターライトだ。


「この程度ですか? 特攻隊長が聞いて呆れますよ?」


「抜かせ! んな昔の事掘り返しやがって…」


「でりゃあっ!!」


 ヘレンの素早い突きを軽くいなし、それと同時にもう片方の剣がターニャの剣による一撃を簡単に受け止めてしまう。

 この一合だけでも、ヘレンやターニャとユーシィがどれほど戦闘力に差を持っているかが見て取れる。

 だが、それだけではない。


「この三人の関係にしたってそうです」


「関係…だぁあ?」


「はい あの頃は防御担当だったというのに、ずいぶんと衰えてしまったようで」


「涼しい顔しやがって…」


 ヘレンの言う通り、ユーシィは顔色一つ変えず剣を振るう。

 かつての共に刃を向ける事に、微塵も躊躇いもせず。

 ただ淡々と作業をこなす機械のように。


「それになぁ! 人の事盾にしてたのはっ! お前っ! だったろうがぁ!」


「そうでしたか? いけませんね、たった数年前の事も上手く思い出せない…」


「忘れてろ忘れてろ… その方が…都合がいいっ!」


 ルミナスの壁でなんとかユーシィの攻撃を耐えるヘレンだが、その目が見ていたのはユーシィの剣ではない。

 視線。

 ユーシィの視線が出来る限り長く自分に集中するよう会話を続ける。

 そうすることで、注意を逸らす。

 一度距離を取って、背後で剣を銃へと変形させて構えるターニャから。


「……そこっ!」


 的確な射撃がユーシィの剣を握る両手を捉えた。

 織姫のようなルミナスを用いた実弾兵器ではなく、彦乃のようなルミナスのエネルギーをそのまま利用したビーム射撃が撃ち出される。

 だがその弾丸が命中する事ことはない。


「残念ですが、見え見えですよ 変わりませんねターニャは」


「くっ…」


 最初から見えていたかのように易々と避けられてしまう。

 そしてターニャの方へ注意が向いたが、このままではまずい。

 ユーシィの攻撃をターニャが受け切れない事は、かつての戦友であるヘレンはよく知っている。

 だからこそ、隙が生じる。


「もうちょい距離を取れ! コイツの戦闘スタイルは」


 ヘレンが叫んでルミナスの壁をユーシィとターニャの間に展開するが、ほんの少しだけ遅かった。

 壁が展開されるほんの一瞬の隙に、ユーシィはターニャは無視してヘレンとの距離を一気に詰める。

 ターニャへとターゲットを変えるだろう事を見越しての防御補助だったが、これが裏目となってしまう。


「優しい事も良い事ですが、もう少し本気を出してほしいものですね」


「ぐっ! 掠ったか… 誰が本気なんか出すかよ、お前なんかに!」


「ヘレンッ?!」


 咄嗟の判断で地面を蹴って距離を取ろうとするが、それでもユーシィの剣がほんの一瞬早く届く。

 全速力で回避しようとしたヘレンの頬に切れ目が生じて血が流れ出した。

 薄く切れた程度で済んだものの、ヘレンの瞬発力をもってしても傷を負った訳で。

 これがターニャだったとすると反応に追い付けないのもあるが瞬発力の差で首ごと斬り飛ばされていた事だろう。

 冗談だろうと願う気持ちは心の中にあれど、それが真面目に切り捨てにかかってくるのだから性質が悪い。


「仕損じましたか… 流石はヘレン、よく見ていますね」


「舐めやがって… 絶対連れ帰って元に戻してやる」


「元に戻す? 意味が分かりませんが」


「言った通りの意味だよ! 私とヘレンとユーシィ、またあの頃みたいに戻ろうよ!」


 ヘレンとターニャが想起するのは、二人とユーシィを含めた三人がチームで行動していたあの頃の記憶。

 同じ学校へ通い、その裏側でコンペイトウのスターライトとしてデブリの侵攻を何度も阻止し撃退してきたあの日々。

 趣味や性格こそ全然違っている三人が、同じ目的の為に全力を尽くして敵へ立ち向かう。

 果たしてそれはユーシィも同じなのだろうか。


「あの頃…?」


「まさか… それも忘れたとか言うんじゃないだろうな」


「そうだと言ったら…どうしますか?」


「思い出すまでぶっ叩いてやる… 覚悟しろよ」


 古い機械を叩いてなおすような感覚で、人の記憶が戻って居たらどんなに楽だった事か。

 それはヘレンもよーく分かっている。

 なにより記憶を失っている彦乃の話も聞いているだけに、理解出来てしまう。

 一度失った記憶を再び取り戻す事がどれだけ難しく大変かと言う事を。


「非現実的だとか理想に逃げるなとかな、そんなもんどれだけぶつけられようが構うもんかよ!」


「根性論ですか? あの頃の貴女らしくもない」


「いっつもそれだ! いっつもいっつもそうやって! ありもしねぇ私を基準にして計りやがって! いい加減にしやがれ!」


 何度となく繰り返される攻防の中で、かつての仲間へ刃を向ける事への躊躇いが、ヘレンの胸の内から徐々に無くなっていく。

 まるでそう誘導されているかのように、守るので精一杯だった剣筋が攻撃的な物へと色味を変えて行った。


「実際そうではないですか あの頃の冷静で冷徹で冷血で冷然で冷艶で冷淡で冷酷で… そんな貴方とは程遠い」


「まだ言うかよ!」


「ええ、何度でも繰り返しましょう 今の無駄に熱く無駄に篤く」


「もうやめて… もうやめてぇ!」


 何度となく繰り返され続けるヘレンとユーシィによる剣と剣のぶつかり合いが響く中、それを止めに入った者が居た。

 ついさっき不意打ちが失敗に終わり、ヘレンの指示で距離を取っていたターニャが割り込んでくる。

 よりにもよって、ヘレンとユーシィが剣を交えるその中へ突っ込んできた。


「た、ターニャ?!」


「ではまずターニャから」


「っ?! こんのっ…」


 ユーシィの剣が向きを変え、割り込んできたターニャを向く。

 動き出すその剣を、防ぎきる程のパワーはヘレンには無い。

 きっとヘレンはこの時ほど自分に相手を押し返すようなパワーが無い事を悔やんだ事はないだろう。

 瞬時にそれを理解した上で、ヘレンが取った行動とは。


飛び込んできたターニャを庇うように手を引っ張る事だった。


 次の瞬間には、その剣先がヘレンの右肩を貫く。


「ヘレンッ!!」


「がっ! ぐっ…ばっきゃろぉ… 怪我、してねえな?」


 身を切り裂かれるにも等しい激痛に叫びたくなる気持ちをぐっと抑え、無事だったターニャを見てむしろ安堵する。

 こんなところで痛みに負けて倒れる程、ヤワな作りをしてはいない。

 そう自分に言い聞かせておかないと、すぐにでも倒れて動けなくなってしまいそうだった。


「……やはり面白いですね… ヘレンは」


 今まで無表情だったユーシィが、ここにきてやっと笑みを見せた。

 それは勝利を確信した優越感などではない。

 ヘレンに見出した可能性に面白みがあったからだ。

 突き刺した剣を一度引き抜くと、ユーシィは追撃をかける事も無く、ある提案を口にする。


「友を助け、代わりに窮地に陥ろうと折れる事のないそのまっすぐな瞳… きっとあのお方も気にいってくれる事でしょう」


「あのお方…?」


「ヘレン、素晴らしい提案があります 貴女も私達と同じように、デブリの尖兵となりませんか? あのお方の悲願成就の為に、その身を捧げるのです」


「狂信者みたいな事いいやがって…」


 まあ実際狂ってはいるだろう。

 正気だったらまず最初にこんな言葉なんて出てこない。


「貴女にもいずれ理解してもらえると信じています その力強い心は、きっとあのお方の為にこそある」


「はっ… イカレてやがる…」


「さあ、どうしますか? 私と共に忠誠を誓いますか? 誓わないなら」


 いきなり仲間に引き込もうとしてきたかと思えば、さっきまでの比にならないほど強い殺気がヘレンとターニャに襲い掛かる。

 一目見られただけで一瞬の内に息の根を止められていたかと錯覚するほどの殺意。

 背筋が凍りそうな殺気が急に湧いて出てきた。


「殺します」


「結局それかよ」


「はい 私がこの星へ戻ってきた理由はさっき話した通り、裏切り者とその手段の抹消ですので 勿論、それらを守る貴方たちコンペイトウのスターライトも抹消対象です」


「だったら答えは決まってる…」


 もとより答えは一つしかない。

 名前も出てこないような奴にへーこら従え?死んだ方がまだいくらかマシってものだ。

 そして、死ぬつもりなんて毛頭ない。あるわけがない。


「利き腕動かず体力ジリ貧、ルミナスもそんなに残ってないと来た。 負けを認めてはいそうですねと従うしかない? はっ! 笑わせんな!」


「ヘレン…」


「自分の心の中で、欠片でも屈しそうになった自分が心底恥ずかしい!」


「それでは…」


「かかってきやがれ大馬鹿野郎! 右腕一本やったくらいで勝ち誇ってんじゃねえぞ!」


 もう剣を握っているのでやっとだった右手から、まだ装備が少し切られている程度で済んでいる左手へと持ちかえた。

 これでまだ戦える。

 むしろここからが本番だ。

 もう躊躇はしないしターニャにも迷わせない。


「殺します」


「そんなっ…」


「上等じゃねえか… 穴だらけにしてやらぁ!」


ヘレンはもう吹っ切れた。

ターニャは仲間意識に引っ張られてしまっている。

なら、どちらが前に立って戦うべきかは最初から決まっていた。


異常な殺気を纏うユーシィを相手に、負傷したヘレンがどれほど戦えるのか。


続く

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