第二一八話 有り得ざる再会 後編
目の前で剣を振るうかつての戦友。
あの日あの時あの姿のままの彼女が持つその剣の切先が向けられていたのは、敵たるデブリではなくヘレンとターニャだった。
「戦うなんてイヤだ、武器を降ろせ さっきからずっとそればかり… そんな事しか言えないんですか?」
「っ! あったりまえだろうがっ! 積もる話もあるが…暴れるお前が悪いんだ、恨むなよ?」
仲間だった、友だった者へ力を振るうのに少しの躊躇を覚えながらもヘレンはその手をユーシィへとかざす。
意識を集中して、力を込めるとルミナスの壁がユーシィを包囲するように展開される。
ただし、それは護る為の壁ではない。
理解の及ばない行動を繰り返すユーシィをその場に閉じ込める為だ。
「……ヘレンはしっかり成長してるみたいですね…?」
「いっぺん黙れ まずは説明しろ なんで私達に武器を向け」
「けれど、まだまだ詰めが甘い」
「くっ… 人の話は最後まで聞けよ…」
身動きが出来ないよう四方を壁で囲ったヘレンだったが、それだけでは足りなかった。
ルミナスの壁がまるで服のファスナーでも開いたかのようにはらりと口を開き、内側に閉じ込められていたユーシィは楽々と外に出てくる。
手に持つ剣に仕掛けがあるとかではない。
剣の切れ味が、そして何よりそれを扱い振るうユーシィの腕がヘレンの壁の堅さをよく知っていたからこそ出来た芸当と行っていいだろう。
「よいしょっと… そういえば、説明しろと言っていましたね それならまずは私の目的から教えておきましょうか」
「目的?」
「はい そうした方がきっと戦いやすいと思いますから」
ついさっきまで戦う姿勢を崩さなかったというのに、目的を話す前にユーシィは剣を腰の鞘へと納めた。
そういう律儀で姿勢や形から入る所は昔通りの、ヘレンやターニャの見知ったユーシィそのものだ。
彼女が剣を収めたのに合わせて、ヘレンとターニャも剣を収め話を聞く体勢を整える。
「……合わせてやったんだから、説明しろよ?」
「ええ、勿論」
「ユーシィ… いったいどうして…?」
一瞬の間を置いて、ユーシィは自分の目的について語り始める。
ヘレンとターニャに、武器を構えさせるのに十分な目的を。
「まずは自己紹介からとしましょうか ユーシィ・シュヴァリエ、ポルクスの騎士にしてデブリを率いる尖兵…それが今の私です」
「デブリの尖兵…そんな…」
「騎士の誇りがどうのとうるさかったくせに… お前は!」
「続けますが、私がここへ来た理由はただ一つ そしてそれはかつての仲間との再開に涙する事ではありません」
心の中でそうだろうなと思うヘレンだが、本当にそう感じる。
なにせ涙どころか表情一つ変えてないんだから。
まるで感情が無いかのように。
「私の目的 それは我らに弓引く愚かな裏切り者、そして彼らの用意した切り札とやらの始末にあります」
確認しなくたってそれがライトと彦乃、そして光の事だというのは瞬時に理解出来る。
「悪いが、せっかく出来た妹分なんだ いくらお前に頼み込まれようが髪の毛一本渡しゃしないってわかってるよな?」
「お願いのおの字もしていませんが? ですがこれでハッキリしました ヘレン、ターニャ…貴女達は敵です さあ、剣を取りなさい」
「うぅ… どうしてもダメなの?」
「ターニャ! コイツがお前以上の頑固者ってのはお前がよーくわかってるだろ! いいから剣を取れ! 死ぬぞ!」
もう仲良く笑い合っていたあの頃には戻れない。
それはもう数年前に失って諦めていた夢のような日々。
ほんの少しでも取り戻せるなら、そう願った日がいったいどれだけあっただろう。
決して叶う事のない願いだと知っているのに。
「……みんな、大丈夫かな…」
場所は変わり、コンペイトウ地下の指令所。
各所の通信が阻害されている現状、彦乃のレーダーが反応を感じ取るくらいしか情報の入手経路が無くなっている。
出来る事と言えば、通信が回復した際のバックアップや指示程度だ。
どうなっているのか、聞き耳を立てようとしたその時。
ガシャン!
「ひゃああっ?!」
「どうした!」
「彦乃ちゃんっ?!」
背後から聞こえた、何かが割れるような音に驚いて飛び跳ねる。
意識を集中させていたのが災いして、彦乃の注意が背後の音にほぼ集中してしまって各方面の戦場の音を聞き取るなど不可能になってしまう。
抱いていた光はと言えば、驚く母親の顔がそんなにおもしろいのか満面の笑みで両手を伸ばしていた。
「あぁ、ビックリしたぁ… 光は笑ってて強いねぇ」
「うーんと? あぁ、これが落ちたのか」
「それは?」
「ヘレンとターニャ、それともう一人の子の集合写真 壁に飾ってたのが落ちちゃったみたい」
よく確認してはいなかったが、よくよく見ると指令所の壁には何枚もの集合写真が額に入れて飾られていた。
その中のひとつが落ちてしまったらしい。
「もう一人?」
「あーうん、ユーシィっていう子なんだけど… 思い返せば、ナイトみたいな子だったなぁ」
「ナイトみたいな?」
「何か呼んだか?」
「そうそう こうやってすぐに来る所とかよく似てるかも まあもう呼んでも来ないんだけどさ?」
そこから先はあまり聞くべきではない。
理解はしていても、話を聞くべきだと思った。
だからこそ彦乃はユーシィについて聞くことにした。
「…何があったの? そのユーシィって子に」
「……四年くらい前だったかな ヘレンとターニャ、そしてユーシィの三人でデブリ退治をやってたんだけどね?」
「うん…」
「ちょうど今日みたいな感じの異常さを感じて、それでも出撃して……帰ってきたのは、ヘレンとターニャの二人だけだった」
「つまり…」
戦いの中でユーシィは散った。
そう言葉に出すほどコマンドも愚かではない。
つまり、の後は言葉に詰まって黙るしかないわけで。
「ヘレンの話によれば、その時の大型デブリと相討ちになる形で戦闘を止めたんだって 今日みたいに通信阻害とまでは行かなくても、モニタリングを邪魔されてたから話で聞くしかなくてね…」
「そんな事が…」
「…けど今は! ヘレンもターニャもすっかり元気になってるから大丈夫だって」
「…そうだといいがな…」
そう深い仲ではないコマンドにだってわかる。
朱莉が無理をして笑おうとしている事くらい。
すぐ横には、もっと無茶をしてでも誰かの為に笑おうとする奴もいる。
嫌でも慣れた。
「……何か悪い事になってないといいけど…」
「大丈夫、お前はもっと仲間を信じろ」
「そ、そうですよ雲類鷲先輩… 私達をしん… 信じてください…」
「スバルちゃん… うん、そうだよね ちゃんと信じなきゃ」
この時感じた彦乃の不安感。
額のガラスに入った不吉なひび割れ。
それらが現地で戦うヘレンたちにどう影響するというのか。
続く




