第十五話 カートリッジ
「………」
「よっ!とぉっ!……なんや、どうした織姫?彦乃なら大丈夫やって」
彦乃が落ちて行った穴を、身内の仇でも見るかのような眼で睨む織姫はただ黙々と襲い来るデブリの軍団を撃ち抜いている。
流石に様子が急変しすぎている事にも気付いている操が話し掛けたところで反応一つ示しそうにない。
流れ作業をこなすような冷淡さで一発、また一発とトリガーを引いて行く。
「…んにしても、敵さんどんどん変わってきとらんか?」
「一緒ですよ、どいつもこいつも…私から彦乃ちゃんを奪った畜生共…」
「うわぁ…眼がマジや…本気書いてマジとか読む眼しとるわ…」
トリガーを引く指に、相手を狙う瞳に、鉄の身体を穿つ弾丸に、それら全てに尋常ならざる殺気を込めて、一撃一撃に想いを込めて撃ち放つ。
その相手がモグラだろうがカラスだろうがゾウだろうがサソリだろうが変わらない。
「彦乃を自分から奪ったのはデブリたち」その結論に変わりはない。
「返してなんて弱気な事は言わない…盗んだなんて不確定な事も言わない……早く殲滅して弱気になってる彦乃ちゃんを安心させなきゃ…」
「………相当重症やな…八つ当たりで打たれるのもアレやしちょっと距離とるか…」
弾丸を撃っては狙いを替え、一撃必殺を淡々と何度もこなしていく。
その圧倒的とも一方的とも思える様子に操は身の危険を感じて少し離れて戦おうとするようになる。
「…多方面?……無駄っ!」
前からも後ろからも右からも左からも、四方向から同時にカラスたちがミサイルのように突っ込んでくる。
普通なら回避に専念するか盾でも使うかしなければ間に合わないだろう。
だが、織姫の場合は少し違っていた。
「ベガ!!」
構えていた銃を真上へ投げた。
すると投げた銃は輝き、落ち始めると共に輝きを増していく。
両手で受け止めた織姫が輝きの中から引っ張り出してきたのは、一回りほど小さくなった二丁のライフルだった。
「はぁぁ!」
銃を引き抜き、その勢いのままに振り回してトリガーを引いて行く。
先程4方向から飛んできたのと同じように、4発を振り抜きざまに撃ち込んでいく。
そして発生した爆発は4か所。
要は全方位の迎撃に成功しているのだ。
「まだまだっ!」
再び銃を放り投げた織姫は、今度は羽衣に掴ませる。
輝きの中から引き抜いた時には、形状こそ変わっていないものの銃が4丁に増えていた。
それらを腕は一切使わず、羽衣に握らせて次々に掃射していく。
ここまでくると狙いが追い付いていないのか、ちょくちょく弾丸が外れるようになってきた。
「っ!?こんのぉ…」
ギリギリでかわせたものの、顔を掠った跡が斬れて少しだけ血が流れる。
ヒリヒリとした感覚が織姫の心を煽り立てて、余計に集中が乱れ始めてきた。
だが、そのヒリヒリは同時に織姫の頭を冷やす事にもなる。
「…………うん、もう大丈夫…」
再び、全ての銃を真上へ放り投げる。
今度はその場に立ち止まって羽衣の全てと両腕も一緒に輝きの中へと突っ込み一斉にそれを掴みとる。
全部握った感覚を覚えた次の瞬間には全ての腕を一斉に引き抜いた。
銃はさらに増えて今は8本にまで増えている。
「今度は絶対…外さないからっ!」
両腕と羽衣全てに握られたライフルが一斉に発砲しカラスたちを撃ち抜いて行く。
さっきと比べて銃口は倍になっているはずだというのに、さっきと比べて格段に狙いを付け易くなっているような感覚が織姫に走る。
こうやっているのが一番自然で一番分かりやすいのだとでも言うように、ライフル一つ一つを正確に動かし、その場でダンスを踊っているかのように足踏みしながらクルクルと回る。
「外しちゃダメとかそういうのじゃない……外れる気がしない…」
織姫の言うとおり、トリガーを引く手や帯には一切のブレも無く特攻を仕掛けてくるカラスたちに続々と命中していくのが分かる。
集中しているからか、時間の流れが少しゆっくりとしているようにすら感じられるほどだ。
ただの一発だって外しはしない。
「……?弾が…」
元よりマシンガンのような「ばら撒ければいい」タイプの銃ではないのだ、すぐに弾丸は尽きる。
しかもそれを狙っていたかのようにカラスたちは一斉に織姫へと襲い掛かってきた。
まぁ、その程度でやられるような織姫ではないのだが。
「好都合…かな?」
弾切れを起こした物から順番に銃をその場に投げ捨てていき、空いた帯が織姫の腰のポーチからマガジンを次々と引っ手繰っていく。
投げ捨てられた銃は、その場で光の粒子となって消えていき織姫の身体の中へと溶けていく。
最初からそうするのが分かっていた織姫は、銃を半分の4本だけ残して後はリロード用に2本、移動用に2本をローラーへと変形させて対処にあたる。
「これ、マガジンの種類との相性があるんだ……これならっ!」
コンクリートの地面を滑るようにして走る織姫は、ポーチから取り出すマガジンの種類に目星を付ける。
今までは青色のラインが入ったものを使っていたが、空となったそれを外して今度は紫色のラインが入ったものを銃へと装填した。
淡く紫色の光を発したかと思えば、すぐにその光は収まる。
リロードや弾種変更が済んだという合図であるとすぐに分かった。
「……爆ぜてっ!」
4丁のライフル全てから同時に発射された弾丸は、密集して飛んでくるカラスたちの丁度まんなかへと吸い込まれるようにして飛んでいく。
そして織姫が叫んだのとほぼ同じタイミングで、大爆発を引き起こした。
大型の手榴弾でもあそこまでの威力は出ないだろうという程の大爆発と爆炎が特攻をかけようとしていたカラスたちを一瞬の内に焼き鳥に、いや消し炭にしてしまう。
「この調子で…?」
集中的になっている所を探している織姫だったが、不意に敵の様子がおかしい事に気付く。
集まって行動している、というよりは仲間が死んだ位置から動こうとしないのだ。
「………っ!? 味方を…喰ってる…っ?!」
織姫に届く事無く潰えた仲間たちの黒焦げになった身体を、さも当たり前のように何匹かがハゲタカのように集り貪り始めたのだ。
機械の身体を易々と貫き、クチバシの力だけで中身を抉り出し欲しい部分だけを丸呑みにしていく。
そこに一切の感情は無く全てがそうするような習性でも持っているかのような。
「でもっ!」
集中しているという事はこの弾丸にとっては好機と言う物だ。
何か所かに、先程と同じ弾種を次々と撃ち込んでいく。
爆炎が何発も上がるが、その先にあった結果に織姫は驚いた。
「次は……なっ!?」
次の標的を探していた織姫だったが、何かに気付いて身体を急に捻る。
ついさっきまで織姫の頭があった場所を、何か閃光のような物が通り過ぎるのが分かった。
翻っていた髪の毛の一部が千切れると言うよりは「焼き切れる」
アニメなんかでよくあるようなレーザー兵器がそれっぽいイメージになるだろうか?
爆炎と黒煙の向こうから撃たれたそれは、煙が晴れるとすぐに誰が撃ったのか分かった。
「コイツ…普通のと違う…」
カラスと言えば、黒い鳥を想像するのが普通だろう。
さっきまで撃ち落としていたのだって、鋼鉄っぽくはあったが鉄らしく銀というよりは闇夜に紛れるような黒色だった。
だがコイツらは違う。
まるでさっき食った仲間たちの血を浴びたかのように赤い身体、そして食って育ったのかと聞いてやりたくなるほどに巨大化した身体を持っていた。
そんな連中が、何匹も口を大きく開いてこちらを見つめていたのだ。
「…っ!?」
ヤバいと思ってその場で大きくジャンプした織姫の、すぐ足元で何かが爆発した。
爆竹が爆ぜるような勢いだったら何の影響も無かっただろうがその威力はまるで織姫の弾丸が返されたような威力を持っていた。
つまりは爆炎に巻き込まれる訳で。
「あぁっ! くっ……いっ…」
強烈な痛みと共に身体中が裂けるような衝撃に襲われ、吹っ飛んだ先は民家の外壁だ。
壁へ叩きつけられ、お菓子みたいに崩れた瓦礫が織姫に襲い掛かる。
「ひ……ひこ…の……ちゃん…」
たった一撃でボロボロになってしまった不甲斐なさもあり、身体に上手く力が入らない織姫。
彼女の手は銃を探す事よりも彦乃の温かい手を求めて伸ばされていた。
攻撃こそ飛んできていないが、これは織姫を倒したと思っているのだろうか?
「………」
「……?」
倒れ伏したまま動けないでいた織姫だったが、不意に何かが聞こえた気がした。
何かの聞き間違いではないかと思って地面に触れてみると、微かに揺れているのが分かる。
そしてその声は次第にはっきりと聞こえるようになってきた。
「…織姫ちゃんそこどいてーっ!!」
「彦乃ちゃんっ!」
確かに彦乃の声だった。
言葉に従ってその場を飛び退こうとすると、足元の揺れが更に激しくなっていくのを足と帯で感じ取っている。
ガタガタと瓦礫や小石が揺れて、地面に亀裂が走る。
「こっち! 彦乃ちゃん!」
「りょおおおおかぁあああいい!!」
織姫が呼びかけると、確かに彦乃の声が返ってくる。
どこから聞こえてくるかと言えば、地面の中からとしか答えようが無い。
暫くすると、地面からは確かに彦乃が姿を現した。
「よっしゃ出たぁぁぁぁぁぁ!!」
地面の中から姿を現した彦乃。
彼女は槍の穂先に、大きなモグラの化け物を携えて飛んでいた。
しかもその姿は、ついさっき落ちていくまでに見た彦乃の姿とわずかに違っているのだった。
その姿とは一体… 続く
毎週更新としていますが、時間まで明確にした方がいいと思いまして、「毎週水曜日の15時頃更新」とさせていただきます。




