2 過去からやってきたワクワクするもの(2)
ここまではよかったんだけど、すぐに問題が起こった。
母さんがビクトリーバーサスの前に来ちゃって、「学校」の二文字を言い渡したんだ。
目覚ましの設定、ギリギリだったんだよなぁ……。
そういうわけで、俺が取るべき行動はもちろん「仮病」。
なぁに、一日ぐらい授業休んだって俺が生きていけないってことないさ。
「母さん、俺、今日はビクトリーバーサスのために全てを尽くすからさ。かわいそうだから」
「明日は行きなさいよ、学校」
意外とあっさりOKもらえた。俺の家にスーパーロボットがやってきたこと自体、かなりのビッグイベントなわけだし。
「ビクトリーバーサス!今から庭の格納庫まで案内してやるよ!待ってて」
俺の家には、「Rヒューマン」の生き残りがいるからという理由で、「AERO」の作った非常用格納庫があったりする。庭の地下にあって、その中にはロボットのパーツや修理器具がいろいろ揃っている。
ちなみに、この地下格納庫、ボタン一つで開け閉め可能なので、俺もロボットがいないのにその中に入って遊んだことがある。
もちろん、今後はビクトリーバーサスの出撃拠点にするつもりだけど。
「よぉし……!」
緑色の「開」ボタンを、俺は何年かぶりに押した。
頼む、動いてくれえええっ!
ゴゴゴゴ……!
芝生の外側にあったコンクリートの床が、真っ二つに割れていく。
少しずつその姿を見せる格納庫。ビクトリーバーサスが入るには十分すぎる高さだ。
「さぁ、ここだ!ここにある限りで、お前を修理するよ!」
――分かった。
ビクトリーバーサスの足裏にあるスラスターがかすかに燃え上がり、ほんの少しの力で収納室にジャンプした。これくらいの距離だと、ジャンプしなくても行けそうだけど。
俺もその後を追って、格納庫の中に入る。念のため、扉は閉めておこう。
さっきもビクトリーバーサスの傷の数を数えたのに、もう一度全身を見渡した。改めて傷を見ると、ボディの下半分が相当やられている。
これは酷い。
「意外と、ダメージは大きかったみたいだね、ビクトリーバーサス」
――あぁ。気が付いたら、そこまでダメージを受けていたからな。
ビクトリーバーサスは、プラチナのように白く輝く機体が、ところどころ黒く染まっている。おそらく、使われているのは「Pシャイン26」という金属で、俺の家にもあるものだ。
けれど、それでも継ぎ接ぎしなきゃいけない金属の量が多い。1ヵ所だけだったら、その部分だけ金属を取り替えて、ということもできるけど、今のビクトリーバーサスにそんなことをやったら外面だけで何日かかっても終わらない。
とりあえず、下半身全てを全て新しいものに取り替えよう。それならビクトリーバーサスのボディラインを計測すれば、あとはここにある機械がその形に合わせてもう一度作ってくれるはずだ。
「ビクトリーバーサス、下半身の金属を全部取り替えよう。ボディラインを全部測るけど、じっとしておいて!」
――仕方がない。出撃のためには、そうしないといけないなら。
ビクトリーバーサスが、俺の方を向いてかすかに笑ったかも知れない。それが、こんな途方もない作業をする何よりも原動力になる。
格納庫の脇にあるリフトを上下させながら、ビクトリーバーサスのボディの下半分を切り取る。あらゆる金属を切断する高性能のレーザーが、ロボットの筋肉とも言うべき骨組みに当たらないように切り裂いていく。
もちろん、こんなの初めての経験だし、この先二度とやりたくないものだけど。
「ふぅ……」
下半分がきれいに骨組みだけになったビクトリーバーサスは、幸い骨組みがそこまで損傷しているような感じではなかった。
これなら、俺でも直せる。
右膝の骨組みが折れてなくなっているところに、金属で継ぎ接ぎする。これもここにあるパーツで何とかなりそうだ。
それ以外にも、傷んでいるところはないかじっと見る。時にはビクトリーバーサスに聞きながら、細かい作業だけど丁寧に修復した。
最後にボディラインの測定、そして数十分でボディの下半分に金属を当てていく。
接合できたら終了だ。
「お待たせ、ビクトリーバーサス!これでちゃんと戦える!」
ビクトリーバーサスに向かって、俺はうなずいた。
一度も経験がないのに、5時間という短い時間で修復した俺に、ビクトリーバーサスは何と言うんだ。
――ありがとう、ガイ・バトルウィン。ただ、ここは「AERO」ではない。
AEROはもうない、とここに入る前に言ったばっかりじゃん!
けれど、ビクトリーバーサスは「AERO」と何度か言い続けている。あると信じて疑わないようだ。
「『AERO』はもうないんだよ……、ビクトリーバーサス」
たぶん、これじゃ納得してくれない。ビクトリーバーサスの目を見てもはっきり分かる。
「俺たちのいるノースステイトが、サウスステイトに1機残らずスーパーロボットを破壊されたときに、『AERO』も建物ごと破壊された。格納庫だって同じだよ」
――本当か?「AERO」が、消えるはずなど……。
知るわけないよな……。
その瞬間をビクトリーバーサスは時空転送で通り過ぎているんだし。
もうあの話を出すしかないか……。
「信じてくれ。俺が、その瞬間を見ているんだから!」
俺の父さんは、もちろん「Rヒューマン」。俺が生まれる前からロボットの操縦士をやってきた、ものすごいパイロットだ。
俺と同じオレンジ色の髪だけど、顔は父さんの方が俺の100倍たくましく見える。
操縦してきたスーパーロボットは、「AERO」第67戦闘ロボット、フレイムマックス。
右手から飛び出す炎を、まるで剣のように操り、次々と強敵を焼き尽くす。俺が見たって、最強ロボットだった。
けれど、ASC152年。つまり7年前。俺が10歳の時に事件は起こった。
「今日は、父さんがガイにロボットバトルを見せてあげるよ」
「えっ、本当?」
ロボットを「AERO」の格納庫で見たことはあっても、実際に戦っている姿は聞いたことない。
襲ってくる敵を炎で焼き尽くすというのも、父さんから聞いたり、後から映像で見たりして知ったことだから、フレイムマックスの戦いがどんなものか、ワクワクした。
一度でいいから、「炎の剣」が相手を切り裂く瞬間を見てみたい。
そこに襲いかかったのがサウスステイトのスーパーロボット、デスマルク。
後で調べたら、「殲滅艦隊」などという実力もパワーも相当なロボットだった。
ノースステイトのスーパーロボットを全滅させ、サウスステイトにスーパーロボットの力を集結させる計画。それを食い止めるために、「AERO」は立ち向かったけど……。
「そこで、フレイムマックスも、他のロボットも大破されたんだ。デスマルクに」
フレイムマックスの「炎の剣」は、ハイスピードで襲いかかったデスマルクの頑丈すぎる右手で腕ごと握り潰されてしまう。
フレイムマックスも別の技で反撃しようとするが、デスマルクがその反撃する時間すら与えることなく、超電磁砲を次々と放つ。1発でも破壊力抜群の砲撃を、10ヵ所からほぼ同時に放たれ、フレイムマックスは逃げることもできない。
「父さん!」
スーパーロボットに興味を持たせてくれた父さん、そして憧れだったスーパーロボットが、目の前でその息の根を止められる。
涙で、もうそれ以上何と言っていいか分からなかった。
目の前で見た、初めてのスーパーロボットのバトルが、こんなことになるなんて!
俺が言葉を出せぬまま、信じることのできない時間だけが過ぎていく。デスマルクのあまりのパワーに、父さんとロボットはその魂ごと粉々に破壊され、俺の前で欠片の形で消えてしまった。
「ノースステイトのスーパーロボットは、これで終わりだ!」
――そうだったのか。ノースステイトに残酷すぎる歴史があったとは……。
「そうなんだ。だから、その日以来『AERO』もスーパーロボットもいない」
ビクトリーバーサスから少しの間目を背ける。その間も、過去のあの記憶が蘇ってくる。
決心がついた。
「だから、ビクトリーバーサス!ノースステイト生まれのスーパーロボットとして、父さんとフレイムマックスの命を奪った……サウスステイトともう一度勝負したいんだ!」
力を……、貸して欲しい……!
でも、ダメだよな……。
ビクトリーバーサス、「AERO」に帰りたいと言い続けてるし……。
――俺は、自力で「AERO」に帰る道を探す。俺は、この場所にいてはいけない。
やっぱり、そう言ったか。
いくら「Rヒューマン」でも、ロボットの心を動かすのは、難しいのか……。
それでも俺は、ビクトリーバーサスの目を見る。
「頼むよ!俺たちノースステイトの、最後の希望なんだから!元の場所、元の時代に帰る方法も探してあげるからさ!」
その瞬間、ビクトリーバーサスの首が、わずかながらうなずいたように見えた。
――ガイ・バトルウィン。ここまで俺を慕う「Rヒューマン」も珍しいな……。
「あぁ。だって、今の俺たちにはビクトリーバーサスしかいないから!」
さぁ、どう出る!
――なら、お前の認証刻印を俺にかざせ……。
これ、俺がビクトリーバーサスの操縦が出来るかも知れないってことじゃん!
右手を見た。「Rヒューマン」に生まれつき備わっている認証刻印は、右手の手のひらでかすかに輝いていた。
あとは、この手とビクトリーバーサスがシンクロすれば……。
この瞬間しかない……!スーパーロボットと一つになれるのは。
「ビクトリーバーサス!トライ・シンクロ!」




