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幼女と同衾することになった。決してロリコンではない。

 買い出しから帰る頃にはすっかり日も落ち、まばらな街頭に明かりが灯っていた。家の扉を開けると、玄関前で小豆が待っていた。


「ただいま」

「おかえりなさい、ニノさん。遅かったから心配したじゃないですか」

「いや、悪い。ちょっと用事があってな」


 確かに、朝はドタバタしてたから、普段より帰るのが遅いって言い忘れてたな。これは反省。


 すると、奥の方からヒョコッと真白も顔を出してきた。


「さては……女じゃな?」

「ち、ちがわい!」

「ふ〜ん?」


 真白め……余計な詮索をしよってからに。


「遅れること自体は特に気にしませんが、よければ事前に言ってくださいね。心配しますから。ではニノさん、鞄、お預かりしますよ」

「おう、助かる。真白も小豆を見習ってくれたらありがたいんだけどな〜」

「ぬぅ〜……」

「鰹節増量!」

「な! ならばその白い袋を寄越すがいい。中身は食材じゃろう?」

「あぁ。冷蔵庫に頼むな。……こっそり食うなよ」

「ぎくっ」


 ……一人暮らしをする筈だったのに、なんだか賑やかになっちまったなぁ。この温かみを知ってしまったら、もう一回一人暮らしをする決心なんて出来そうにもないな。


 と、しみじみ思った。


 俺はパパッと風呂を済ませて夕飯を作る。今日のメニューは和食! 白米焼き鮭味噌汁の黄金コンボである。ちなみに、我が家の味噌汁の具は豆腐、わかめ、麩が主流。オーソドックスなのが一番美味しい理論だ。


「うむ、やはりお主の作る食事は美味じゃな」

「ですね。慣れてしまうのが怖いくらいです」

「ははは、お褒めに預かり光栄だよ」


 焼き鮭の身をほぐしながら白米と一緒に食べていると、ふと思い出したかのように真白が言った。


「そういえば、今朝の件じゃが」

「「!?」」


 今朝の件とは恐らく、誰が布団で寝るかどうかの話のことだろう。俺はドキッとして、思わず鮭を喉に詰まらせてしまった。


「結局、何か代案はあったのかえ?」

「「……」」

「なら決まりじゃな。今夜は二人でゆるりと楽しむと良い」


 カッカッカ、とどこかの悪役みたいに笑う真白。


 こいつ、他人事だからって調子乗りやがって……


「……真白さんもですよ」

「へ?」

「真白さんも、一緒に寝ますよ!」

「いやいや、あの布団にそれほどのスペースは無いじゃろう!?」

「いえ、私たちは背丈がそこまで無いので行けます!」

「そんな無茶な!?」


 ……真白は一人だけ逃げるつもりだったようだが、そうは行かない。小豆は真白もろとも巻き込むつもりらしいので、結局三人で寝る羽目になりそうだ。


 この状況を落ち着いて整理しよう。幼女二人と同衾する男子高校生……俺、完全に犯罪者じゃね!?


 一応弁明しておくが、俺はロリコンではない。断じて。


 夕食を食べ終え、順番に風呂に入って、俺は今日の分の勉強を終わらせ。ついに消灯時間がやってきた。


「じゃ、じゃあそろそろ、寝るか……」

「で、ですね……」

「なんで我も……」


 俺は一枚しかない敷布団を敷き、そこに横になる。その左右に小豆、真白が寝転がる。


「「「……」」」


 三人共に無言。軽い身じろぎでも触れてしまいそうな距離。人も妖怪も、等しく温もりがあるんだなぁと感じた。


「……電気、消すぞ」

「……はい」

「……」


 ……気まずい。あまりに気まずい。電気を消そうと伸ばした腕に、小豆のサラサラな髪が触れる。いくらくすぐったかろうが、俺に身じろぎは許されない。忍耐だ。強い心で耐え凌ぐのだ。


 というか、どうしてこいつらはこう、いい匂いがするのだろうか。シャンプーの匂いだとは思うが、同じの使ってる筈なんだよなぁ……あ、こいつらってメンズのシャンプーで大丈夫だったのか……?


 そんなことを考えていると、いつしか右側からすーすー、と寝息が聞こえてきた。


 真白の奴は、案外あっさり寝てしまったらしい。小豆の方はと言うと、俺に背を向けているが、恐らく寝ているだろう。


「……ニノさん、起きていますか?」

「ん? あぁ、ちょっと考え事しててな」

「そうですか」


 しばしの沈黙のあと、小豆は俺に背を向けたまま、ゆっくりと口を開いた。


「……私、嬉しかったんです」

「へ?」

「初めて会った時、座敷わらしを名乗る私を気味悪がらずに置いてくれたこと。自分のためなんて言って、私たちにも美味しいご飯食べさせてくれたこと。私に、『小豆』なんて素敵な名前をくれたこと。とても嬉しかったです。ですから──」


 ずっと背を向けていた小豆は、ようやくこちらを振り向いてくれた。


「ありがとうございます、ニノさん」


 カーテンの隙間から差す月明かりが、ほんのり赤みの差す彼女の頬を映し出した。


 実に不本意なのだが、その姿を見て不覚にもドキッとしてしまったのは内緒だ。

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