九話 固定概念で判断してはいけない
「お前はまたそんな危ない事をしていたのか!? あの付近は危ないから、油断するなとあれほど言っていただろう!」
「ごめんなさい……」
奥の部屋へ通され、アルベルト商会に来るまでの経緯を話し終えると、顔を真っ赤にしたアルベルトさんがナターシャを一喝した。
ナターシャは自覚があったのか、反論する気もないようで、叱られるがままになっている。
たぶんさっきも、アルベルトさんに叱られることがわかっていたから俺の事を説明する時に歯切れ悪くもごもご言っていたんだな。
「まあまあ。ナターシャもこれで懲りてもう二度と危険な真似はしないでしょう。な、そうだよな?」
ナターシャは父親から叱られ慣れていないのか、俺が助けに入ると頭を激しく縦に振る。
叱られるのは自分のせいだから仕方ないと分かっていても、逃れたくはあるようだ。
「ですが……」
「ナターシャもまだこの歳ですし、親から言い聞かせるのも難しいですよね。10歳くらいの女の子は思春期真っ盛りで親への反抗心があると言いますし」
「「…………」」
「あ、あれ? 俺、なんか変な事言っちゃいました?」
丸くおさめようとしたのに、2人ともすごい顔でこちらを見ている。
「その、ケンタ殿。ナターシャは今年で18歳なのです」
「ええっ!」
ナターシャが18歳だと!?
それだと、俺の年齢17歳(年齢詐称?)より歳上じゃないか!
「まあ、初対面の方にはそう見えても仕方ありませんな。 ナターシャはれっきとした成人ですが、この子の母、私の妻がエルフなので、ヒューマンの私と妻の間に生まれたこの子はハーフエルフになるのですよ」
「ハーフエルフ、ですか」
えっ? ハーフエルフってファンタジー界隈では有名だけどさ、人間との混血って意味だったりダークエルフだったりすんじゃないの? ダークエルフは関係ないかもだけど、ハーフって身長がハーフって意味になるの? そっち? これから会う人種に《ハーフ》ってついてたら、皆ちびっ子ってか?
「ナターシャはハーフエルフの中でも特に小さいので、子供だと間違われやすいのです」
「そうでしたか」
「…………」
まずい。ナターシャが小さい小さい言われすぎて(婉曲にだが)凹んでしまったようだ。
さっきも思いっきり歳下扱いしてしまったし、ここは謝って穏便に済ませよう。
「ナターシャさんごめんなさい」
「…………ケンタ様は悪くないのです。 ちんちくりんな私が、すべて悪いのです」
だが、時すでに遅く、ナターシャは完全にいじけてしまっていた。
いらぬ親切心を出したばかりに、困ったことになったなと思いながら、俺とアルベルトさんで必死にナターシャを宥めすかすのであった。
あれ? 最初に怒っていたのは誰だったっけ?