十五話 俺の城
止まってしまった筆のリハビリをば、、
「ええっと。ついこの間は、無駄遣いしないとかなんとか言っていませんでしたか?」
「違うぞナターシャ。これはな、無駄遣いじゃなくて男のロマンなんだ!」
「……はあ、そうですか」
今日は、完成した自宅にナターシャを招待した。
ドワーフのおっさんどもに拵えてもらった自宅は外から見てもただのボロ屋にしか見えないが、一旦中に入ると増改築を済ませた住み心地良い空間が広がっていた。
今居る地上1階から、掘り下げて貰った地下2階まで行き来出来るようになっており、地下2階は風呂と寝室。地下1階はリビングとキッチンとトイレ。今いる地上1階もドワーフのおっさん達にわがままを言って魔改造をしてもらっている。
「ケンタ様、このカウンターは5人程しか座れないようですが」
「まあ、狭いからな」
家に入ってすぐ、正面と右手の壁二面の上半分に幅狭めな棚を取り付けてもらい、下半分は作業台にし、一部簡易キッチンを取り付けている。
ひと1人分の通路を挟んでその棚の向かいはL字型のカウンターキッチンになっており、最大5人が座れるようになっていた。
「まるで呑み屋のようですね?」
うん。その通りだ。
最初は、缶詰めを売るだけなら昔懐かしい《たばこ屋》のように窓から顔を出して「ちーっす」とやりとりする形式にしたかったのだが、ドワーフのおっさん達曰く、ガラス窓にする事によって中身が丸見えではないにしろ住人の有無がわかってしまい防犯上危険だという事、ガラス自体が高価なので調達の難しいという事、なにより俺が希望していた秘密基地にガラスはそぐわないと説得されてこういう形に落ち着いた。
防犯対策したいならガラスは割れやすく盗難にも遭いやすいし、なによりガラスは高価でなかなか手に入らないらしい。
俺的には、男のロマンである秘密基地は居場所もわからない、営業しているかも不明なくらいひっそりとするのが理想だったのだが、大通りにある大きな商店ならまだしも、路地裏のボロ屋にガラス窓だと自己主張が激しく非常に目立つのでやめておけと言われてしまった。
その結果、地上1階は何故かあっという間にドワーフのおっさん好みの呑み屋形態になってしまったわけだが、それ以外は希望通りなので良しとしている。
「……えーっと。それは、木枠の窓でも宜しかったのでは?」
「うあっ!? 確かに!」
あんにゃろーどもめ! わかってて言わなかったな!?
《たばこ屋》の外観に気を取られすぎて気が付かない俺もアホだが、あのおっさん達は絶対わざとだろ!
罰として、奴らは店に1週間出禁にしてやる! 今でさえ正式な営業許可が下りるまではとギリギリまで我慢しているんだ。そこに出禁を喰らって禁断症状に悶え苦しみ、俺を欺いた事を後悔するがいい! あーっはっはっは!
「まあまあ。今からでもカウンターテーブルから覗ける様に、木窓を取り付けて貰えば大丈夫ですよ。ほら、この辺りとか」
「……む、むむぅ」
憤慨していたところに、実に冷静なアドバイスをくれたナターシャ。
だがこのままじゃ、俺の腹の虫がおさまらん!
「それに、親方さん達に販売しないってケンタ様諸共共倒れではないですか。この外観では新規のお客様獲得は難しくなるでしょうし、既存のお客様は大切にして下さいね。ローンも組んでしまわれたのですから、頑張って働いてお金を返していきましょう」
「…………あい」
借金を作ってしまった俺には、もはや反論の余地がなかった。




