10.1 お貴族様が来るってよ
今回は現場作業員目線でのお話となります。
「お貴族様が来るってよ」
「What?」
ここは現場。それも惑星開拓の最前線。
新型基地が無事に地表に降り立ち、今は側面のゲートを展開してプリンターの稼働準備を行っているところである。
ん? 俺はしがない現場作業員さ。
さすがに給料はそれなりにもらってるが、一応新惑星開拓は命の危険もあるからな……お貴族様の事前調査がずさんというか、捏造や改ざんデータがあったりしたら下手すりゃ空気が爆発して木っ端微塵だ。
で、そんな危険な最前線にご本人が来るってんだから、俺たちは右往左往だ。
「シャトル発着場は一番奥だ、早く引っ張り出せ!」
「資材が邪魔なので少し時間がかかります!」
「ええいそいつらはその辺に転がしておけ、リフトは動かせるか!?」
ひとまず惑星に降下するにはシャトルが必要なので、シャトルの発着場を引っ張り出して急いで設営。
安全のためベースから少し離れたところに設営し、展開。急ごしらえとは言っても万が一不備があれば俺たちの首が(物理的に)飛びかねないので確認・点検は怠ってはいけない。
事務の方も周辺地形データを求められたりして、カメラや書類を抱えてどたばた走り回っている。あっちはあっちで大変らしい……
「この辺の地盤データも欲しいらしい、ちょっと行ってスコップでも突き刺してこい」
「そんなんでいいの!?」
「この基地の着陸である程度は分かっているから、場所によって違いがないか確認してほしいらしい。なるべく急いでくれ」
「こういうのは探査ドローンがやることじゃないのかよ……」
という訳で、宇宙服を着て船外活動をする羽目に。しかも徒歩でだぜ?
俺の他にも何人か外に出て、あちこちでスコップを突きさしていく。
ウィイイイィィィィィン……
見ると、上司はドリルで基地の近くに穴をあけて何かやっていた。ボーリング作業だな、ありゃ。
こうして、惑星開拓初日はいきなりあわただしく、現場は混乱の渦中に叩き落されていくのだった……
「一体何のために慌ててシャトル発着場を出したんだ……」
「まあ、明日のためと思って。無駄にはならないから……」
午後。お貴族様が来られる時間になって、俺たちは目を疑った。
突入用シャトルではなく、見た事のない平べったい船が地表に突撃してきた。いや、意味が分からん……
その船はシャトル発着場の隣に着陸。しばらく見ていると、コックピットらしき部分の後ろにタラップが下りて、2つの人影が歩いてくる。
おそらく片方が貴族様、もう片方が操縦士兼護衛と言ったところか。宇宙服を着ているのでどっちがどっちかよく分からないが。……そういえば、女性の貴族らしいっけ。
「まさか船で突っ込んでくるとは……あれって降りたらもう上がれないとかないよな?」
「まさか。変なこと言わないでくださいよ」
いや、俺も一瞬考えたが口に出したらマズイ気がして言わなかったんだよな……これであの船が飛び立てないとかなったら、恨みますよ上司。
と、無事に2つの人影は基地の中に入ってきた。
エアロックの表示がグリーンになり、内側の扉が開く。
「ようこそいらっしゃいました、レミ・レア様。まだ何もない基地ですが」
「別に作業しててよかったのに。興味本位で来ただけだから、そこまで気にしなくていいわよ? ほら、自己紹介くらいなさい」
「アッハイ。レミ・レア直轄艦隊の総司令官、鈴です。あの船のパイロットもしています。
今回は事前情報通り、プリンター用の資材102トンをカーゴに入れています。積み下ろしの際は僕に言ってくれれば、カーゴハッチを開くので……ただちょっと特殊というか、他にない構造の船なので問題があれば言ってください」
なるほど、この人が。ヘルメットを脱ぎながら話されたが、かなり綺麗な人だな……
そしてその隣の艦隊総司令官、なんだか軍人という感じがしない。非常に若く見えるし、もしかしてお貴族様に気に入られたかな? お気に入りの人を側近にするのはよくあることだ。
「わかりました。それでは基地の方を案内しましょう」
「ありがと」
「僕は船の方にいるから。積み下ろし作業とかあるし」
「ええ、わかったわ」
そう言って、上司がレア様を案内していく。
この司令官、タメ口で話してたぞ……こりゃ相当気に入られてる人みたいだな。
「では、船のカーゴは開けておきますね」
「アッハイ」
「手伝ってほしいことなどあれば、言ってくれれば出来る範囲で協力しますよ。一応探査用ですが、ローバーもありますので」
まじか、という事はあの船は探査船なのか? 新型探査船のプロトタイプとか?
まあ何でもいいか、ひとまずシャトル発着場を出すためにどかした資材の整理から始めないとだな。
上司がいないので大変になるなこれは……とりまフォークリフト取ってくるか。




