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「テオさん」


私は、決意する。

叶わなくてもいい。ただ、伝えたい。私の初めての恋だから。


「私、あのときテオさんに助けてもらってからずっと、あなたのことが好きでした」


言うまでにはあんなに緊張して苦労したのに、いざ決心をして言葉に出すと驚くほど平常心ですらすらと言葉が出てきた。


テオさんはというと、私の突然の告白に彼のトレードマークの笑顔はすっかり消えてしまった。見たことないような真剣な表情で私を見ている。


こうなることは分かっていた。


私の告白がテオさんを困らせてしまうこと。だって、テオさんは私のことなんて何とも思っていないから。それでも、私はテオさんが好きだから、伝えたかった。


重たくなってしまった空気に、私は無理にでも笑顔を作った。


「返事は下さらなくて結構です。叶わないと思っているので。私、実は結婚するんです。………来週、お見合いがあって。相手は王都の大財閥の御曹司様です。……お父様が、その縁談をとても喜んでいて。だから……私は断れなくて…その申し出を…受けようと思っています」


作った笑顔はどんどん崩れていって、代わりに涙が瞳から溢れてくる。泣きたくない。テオさんをよけいに困らせてしまう。なのに、涙はひいてくれない。


「でも、その前にどうしてもテオさんに伝えたくて。私は…テオさんが好きです」


伝え終わる頃には瞳から溢れた大粒の涙がほろほろと頬を伝っていた。私は手の甲で必死にそれをぬぐう。泣いたらテオさんを困らせてしまう。だから、止まって。


こわくてテオさんの顔を見ることができなかった。


言うだけ言って逃げるなんて失礼なのかもしれないけれど、気まずくてとてももうこの空間にテオさんと二人きりでなんていられない。


告白をしたことできっともうテオさんとは前のようには話せない。この詰所にも来ることができない。


でも、どうせ私にはもう関係のないこと。だって私は大財閥家の御曹司様と結婚して王都で暮らすのだから。このエリスールの街とはもうさよならなのだから。


「…ごめんなさい」


私は涙をぬぐいながら立ち上がると、足早に扉へと歩き出す。


「待って、シェリー様」


しかし、テオさんに呼び止められる。私は立ち止まって振り返ってしまった。大好きな人の声にはどうしても反応してしまう。


テオさんはゆっくりとソファから立ち上がると私の方へと近付いてきた。


「返事はいらないなんて言わないで、俺にも言わせてよ」


背の高いテオさんが私と目線を合わせるように少し屈んでくれる。


「団長とアリスちゃんを見て思ったんだ。団長は不器用だからアリスちゃんに想いを伝える前にキスしていたけど、俺はちゃんと言うよ。少し長くなるけど、ちゃんと聞いて」


私は鼻をすすりながら、黙ってテオさんの声に耳を傾けた。


「俺もね、好きな人がいるんだ。相手は貴族家の娘さんで、俺はたびたびその家族の護衛についていたんだけど、その頃からずっとその子のことが好きだった。一目惚れってやつかな?その子が自分の父親をとても大切に思っているのが行動や言葉からよく分かって、親思いの優しい子だと思った。こんな子と結婚できて俺の奥さんになってくれたら幸せだろうなぁと思ったよ。でも、ムリなこともすぐに分かった。護衛のときにその子のお父さんがよく言っていたんだ。お父さんは一人娘のその子のことをとても大切に思っていて、娘には幸せな結婚をしてほしいと望んでいた。だから、俺はその子の旦那候補にはなれないと思った。ほら、俺は騎士だからさ。危険な仕事でしょ。その子のお父さんはきっと自分の娘の結婚相手が騎士だと知ったら反対するだろうし、そうなればお父さんの気持ちを第一に考えているその子はきっと辛い思いをしてしまうと思って」


そこまで聞いて、勘のいい私はすぐに分かった。テオさんの話に出てくる子はたぶん、私。


「俺もずっとシェリー様のことが好きだった。まさかシェリー様から先に想いを告げられるとは思わなかったから驚いたし、正直焦った。俺が言えばよかった」

「テオさん…」


止まりかけていたはずの涙が再び溢れだして頬を流れていく。テオさんの手が私の涙をそっとぬぐってくれた。


きっと今の私はすごく不細工だ。けれど、仕方ない。涙が止まらないのだから。


叶わないと思っていたのに、叶った。


「言ってよかった…」


泣いているはずなのに、同時に笑みもこぼれてきて。私の感情はもうぐちゃぐちゃだ。


「先に言わせてごめんね」


するとテオさんの両腕が私に伸びてきて、そっと抱きしめられた。


「お見合いなんてしなくていいよ。結婚なら俺とすればいい。君を大事に思っているお父さんには俺がきちんと説明するよ。絶対に君を幸せにできるってね」

「テオさん」

「だから、俺と結婚してください、シェリー」

「はい、喜んで」


叶わないと思っていたのに。


私は今、とても幸せだ。


お父様は私の幸せをお金持ちの家に嫁ぐことだと思っているけれど、それはやっぱり違うと思う。私は亡くなったお母様と性格がそっくりだから、幸せの価値観もお母様と同じ。


お父様ならきっと分かってくれると思う。王都の上流貴族家出身のお母様がエリスールの下級貴族家のお父様のもとへ嫁いだ理由は一つしかない。お父様のことが大好きだったからだ。上流貴族家という地位やお金を捨ててでもお母様は大好きなお父様との生活を選んだ。だからきっとお母様はとても幸せだったと思う。今ならその気持ちがよく分かる。


だから私も、大好きな人と一緒になりたい。私の幸せを願ってくれるお父様ならきっと私とテオさんのことを認めてくれると信じている。


お読みいただきありがとうございました!

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