なな。
今回のみ残酷描写ありです。気をつけてください。
……お姫さまは、目覚めませんでした。
なぜって起きれるはずがないのです。
お姫さまの美しい顔は傷だらけで見る影もなくなっていました。大理石のような白い肌と、蜂蜜を溶かしたような金髪は真っ赤に染まっています。華奢な身体は王子さまの手の中で力を失い、その瞳が開くことはありません。
王子さまは叫びました。
神さま! 神さま! もしいるのなら、教えてください! どうして、こんなことに……っ?
すると、あの、王子さまを幾度も幾度も助けてくれた不思議な声は、ケタケタと笑いながら言いました。
それをやったのはお前さ、オウジサマ。お前が彼女を殺したんだ。
王子さまは思わず言いました。
嘘だ!
しかし、声は愉しそうに告げました。
嘘じゃないさ。ほうら。
まるで夢が覚めたようでした。いまのいま、ここにいたって、王子さまははじめて気がつきました。
巨大な筋肉で膨らんだ脚、鉄をも切り裂く牙と爪、金属のように硬く冷たい皮膚、大きく広がった無骨な翼、身体の中で渦巻く灼熱の火炎。
オウジサマは、もはや人間ではなかったのです。
お姫さまがバラバラだったのは爪で掴んだからで、顔がズタズタだったのは牙を押しつけたから。
あまりのことに、オウジサマはぎゅっと手を握りしめてしまいました。
その瞬間、お姫さまは嫌な音を上げて、オウジサマの手のひらの中で弾けました。お姫さまの身体の中につまっていたものが、雨となってオウジサマを濡らします。
神さま! どうしたらこんなひどい仕打ちができるのですかっ?
オウジサマは声をなじりました。
ひどい? なぜ? お前が望んだんじゃないか。わたしはただ叶えただけさ。
声は詠うように答えました。
そうです。これは全てオウジサマ自身が望んだ力なのです。抱きしめることも、愛することも許されない、ただ傷つけるためだけの力。
どうして、これがあればお姫さまを守れるだなんて思ったのでしょう。
オウジサマは願いました。
神さま! どうか、神さま! これが本当に最後のお願いです。お姫さまを生き返らせてください。そして、僕を元に戻してください!
すると、あの不思議な声はこう言いました。
嫌だね! これはわたしを殺そうとしたお前への罰さ! お前は一生その姿のまま、力を望んだ代償を払い続けるがいい!
そうして声は消えてしまいました。
そう。声の正体は、オウジサマが倒したはずの悪い魔法使いだったのです。
オウジサマが幾度となく後悔し、謝っても、声が答えることはもうありませんでした。
え? オウジサマはどうなったかって?
それは、あの深い森の奥にある城まで行けば分かりますよ。オウジサマは、いまでもそこにいますから。
オウジサマが何になったのか、わかりましたか?
『力をください。』を読んでくださり、ありがとうございました。




