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4:“しあわせ”


 最悪の形で終わった、誕生日パーティー。


 夜、仕切り直して差し出された大好きな母のお手製ケーキは生温くて。

 一言も喋らず、早々に食事を終え立ち去って行ったリューンハルトの空白が寂しくて。

 笑顔なのに、ふと難しそうに眉根を寄せる父の顔が、少しだけ怖くて。


 無邪気な弟の、いちごを頬張る笑顔だけが、眩しかった。


 この日、エリザベスは結局、ケーキを半分も食べきれなくて。

 悲しそうで、それでいて仕方ないと言う諦めの感情を瞳に滲ませた母の「いいのよ」が、今も。

 深く心に突き刺さっている。


 そうして、エリザベスにとってのしあわせが満ちた時間は、ゆっくりと、しかし、確実に。

 狙う、運命の手によって黒く塗りつぶされていくのであった。


 最初は手紙。当たり障りのない、これからの交流を求める、お伺いのような内容だった。でも、拒否権など最初からこちらには無いもの。向こうは全ての貴族の上に立つ公爵家。対する此方は、辺境の片隅にある小さな港町を維持することで精一杯な地方男爵。身分が、それを許してはくれないのだ。


『すまない、エリザベス』


 あの日と同じ難しそうな意味合いを瞳に宿して、悔しそうに自分を抱き締めた父。

 その肩が震えていたから、怖さを押し殺して、エリザベスは筆を取ったのだ。これは、大好きな父のため。毎週のように届けられる大量の手紙を前に、習いたての文字で一生懸命、言葉を振り絞って書き続けた。


 返事を出すようになって2週間。手紙には贈り物が添えられるようになった。


 女の子が喜びそうなぬいぐるみや人形、絵本。

 王都にしかないという珍しいお菓子。

 子どものサイズに態々リメイクしたのだろうことがわかる高そうな装飾品の数々。


 そして、豪華で綺麗なドレス。


 どれも色は金色か赤。その徹底ぶりが、どうしてもうれしいとは思えなかった。


 ただ、手紙の返事を書くのに困らなくなったのだけが、少しだけ助かったというのは、言うまでもないだろう。

 なので、お菓子は作ってくれた人に申し訳ないからと町の子達に譲り渡したりもしたけれど、おもちゃや装飾品、ドレスは見る気にもなれなくて、クローゼットの奥深くに仕舞いこんでしまった。


 手紙と贈り物が届いては、形ばかりのお礼の返事を出す。の、繰り返しで、半年が過ぎた頃だろうか。


 ベネディクトが、訪ねてくるようになったのは。


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