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10:訣別

『必ず、にい様は姉さまのことを切り捨ててくるはずだから。』

『キールエラの名を捨てることにはなってしまうだろうけど、でも、それは』 


 この場から、この国から離れる理由となる。


 待ちに待っていたリューンハルトの言葉(台詞)に、歓喜を抑えきれず、震えてしまった指先。

 でも、きっと周りからは、流石のエリザベス・キールエラでも家からの追放宣言には耐えきれなかったのだろうと捉えられるはずだ。


 ならばこのまま、僅かな悲壮感を滲ませながら受諾と退室を宣言しようと、エリザベスが口を開く―――よりも早く、リューンハルトの方が大股で歩み寄ってきたかと思うと、その腕を力強く掴んできたのだった。


「皆さま!このような宴の席を騒がしくしてしまい、申し訳ありません。全ての責はこの愚かな妹にあります!今すぐに退室させますゆえ、キールエラへの咎は、何卒見逃していただけますよう……ほら、早く行くぞ!!これ以上オレに恥をかかさないでくれ!」


 そのまま、己の保身も忘れずに会場へ頭を下げたリューンハルトは、引き摺るようにしてエリザベスを外まで連れ出したのである。


「……ざまぁ、みやがれ」


 扉と地面の境に設けられた短い階段の上へ、投げ捨てられるようにエリザベスは突き飛ばされた。

 転がり落ちていくエリザベスを見つめながら、吐き捨てるようにそう呟いたリューンハルト。


 その顏は、未だ憎しみに満ちていて――一瞬だけ、それが幼い頃に見た、両親と無邪気に戯れるエリザベスとレノンバルトを見つめていた()の寂しそうな顔と重なって見えた。


 でも、だからと言って、全てが今更である。

 どんなに願っても、時間は巻き戻せない。

 あの頃には戻れないのだ。


 数秒にも満たない沈黙と交わることは無い視線。破ったのは、遠くから聞こえ始めた雷鳴だった。


 やがて降り始めた滴が、次々と土の上を跳ね、起き上ろうとしていたエリザベスの服を、肌を、容赦なく濡らし、汚していく。


 リューンハルトは、無様な姿になっていく妹を見下ろし、ふんっと鼻を鳴らすと踵を返した。

 

 ゆっくりと、閉ざされていく扉の向こう側。


 煌びやかな音楽に身を委ねる者。ワイングラスを片手に、笑い語り合う者。

 先程までの出来事は無かったかのように優雅なひと時が繰り広げられていた。


 その中へ紛れていくリューンハルトが振り返るようなことは、一度もなく。


 エリザベスもまた、強まる雨風への心配の方が勝り、彼の行く先などには一片たりとも意識を向けることは無かった。理由など言うまでないだろう。


(……早く、此処を立ち去らないと)


 これがきっと最後の好機となるだろう。無駄にするわけにはいかない。


 立ち上がり、泥を払うこともなく歩き出す。

 向かう先はただ一つ――――『不可侵の森』へ。



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