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 草木も寝静まる頃。深い深い森の奥にひっそりと遺されていた、朽ちかけの小屋が一つ。

 斑に空いた天井の穴から差し込む青白い光が照らし出すのは、一組の男女。


 ベッドどころか毛布になるような布もない空間の中で、絡み合い、互いの熱を交わし合う2人。

 乱れる吐息と軋む床の音が、張り詰めた夜の空気を塗り替えていく。


「……本当に、いいのだな」


 はっと、息継ぎの合間。唇の端に残ったキスの余韻を荒々しく拭った男が、鋭い瞳を更に細めて、問う。

 それに対し、女は潤んだ唇をつっと舌先で辿ると、口の端を持ち上げて微笑んだ。


「もちろんよ」


 だって、これが、今この状況に於ける最適解なのだから。


 女の脳裏に過るのはこれまでの記憶。


 大切で大好きだった家族と過ごしたあの港町での思い出。そして、それを壊したあの男の、完璧な姿。


 あの男から、逃れることが出来るならば、何だってする。


 何度も繰り返してきた覚悟をもう一度込めた指先で、目の前の青年の逞しい首筋を抱き寄せた。びくりと跳ねた眉根の下で、揺れる碧い瞳。勢いのまま巻き込んで仕舞った彼には申し訳なく思うけれど、今更止めることなど出来ないのだ。


「あなたが助けてくれると言ったのだから。その体で、私を救って?」


 甘えるように耳元で囁いた女の心情など知る由もない男は、己の理性が打ち砕かれるのを察した。

 

 俺はこんなにも自制の聞かない人間だったろうか。


 堪え性の無い己の本性に苛立ちが込み上げるけれど、もう男も止まることは出来なかった。


 込み上がる衝動を誤魔化すように交わされた口づけの熱さは、先程よりも強く。

 女の本音も男の己に対する嫌悪も全て飲み込んで、掻き消されていく。


 ただ、繋ぎ直された手のひらだけは解かれることは無かった。

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