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性根が腐り果ててるわ

「これだから高慢な悪役令嬢がっ! 恥知らずな」

「殴られて痛がる仕草すら見せないなんて鉄の女だな」


 尋問とは名ばかりの私刑の場に引き立てられたルーナは冷めた目で狂乱する生徒達を見ていた。高位貴族の令嬢に対する扱いとは思えない暴言や暴力。魔法で作った防御膜で全身を覆っていなかったら大怪我をしていたに違いない。それほど加減がなかった。事実教室の一部は焼け焦げたり、机は粉砕されたりしている。魔法を使って害を与えられそうになったのだ。


〈子兎ちゃん、こんな奴等の言葉なんて聞く価値なんてないわ〉

「ええ。分かっています」


 彼女が意識を向けるのはそんな様子を気に食わないように見ているアズリア王女と、青い顔で目を逸らしている従者の少女カオル。


「……アズリア殿下、何故、狂言誘拐など?」


 カオルの魔法は自身の姿を変えるものなのだろう。そうでなくてはあの場で急に現れたことに対して理解ができない。何よりあの時のアズリアは明らかに別人のようだった。するとアズリアはふんと鼻を鳴らす。


「貴女が邪魔だからですわ。それにしてもどうして私の下僕にならないのかしら? その鉄壁のせい?」


 なるほど。やはり魅了は自覚して使っているらしい。涼し気な顔をしているルーナをイライラしたように見ていたアズリアだったが、やがてニンマリと醜悪に唇を歪めた。


「カオル、この女の姿に化けなさい」

「えっ……でも……ルーナ様に化けたら私まで」


 カオルが怯えたように顔を引き攣らせる。するとアズリアが首を傾げカオルを睨めつけた。


「文句があるのですか? まぁ逆らえませんよね。貴女には腕輪がついているのですから」

「……はい」


 ヒカルがルーナに近付いてくる。そして。


「……ごめんなさい」


 その姿はルーナと瓜二つになった。小柄だった身長も変わっており、ルーナと目線が同じになる。だがその表情は先程の怯え顔のままだ。自分自身のこんな顔をまじまじと見ることがないルーナはつい驚くこともせず、凝視してしまう。


〈すごぉい……でも表情で丸わかり……あぁ、だからアズリア殿下に違和感があったのね〉


 先程のアズリアはカオルだったから。言葉を無くしたルーナを見て、アズリアは薄く笑った。まるで何も悪いことなど考えていないと言わんばかりの無邪気なそれはこの場には似つかわしくなかった。アズリアはルーナの姿をしたカオルの髪を掴む。痛いのかカオルは軽く呻いた。


「驚いたかしら? カオルには隷属の腕輪をつけてあります。つまりこの姿で悪事をしろと言うだけで貴女の未来は終わる。これなら私の魅了が効く効かないなど関係ない。いい気味」

〈下衆ねぇ……性根が腐り果ててるわ〉


 たすけて。

 自分と同じ形になったその唇がそう呟いたように見えた。痛みを感じているということは外見が変わるだけで魔法は真似られないのだろう。となれば、ルーナの姿でいればアズリアの狂信者に害されても防ぐことが出来ないということだ。

 一体どうすれば。

 ルーナが唇を噛み締めた時だった。


「ーールーナ・セレスティア。選びなさい」


 そのどこか楽しそうな涼しげな声を聞いた瞬間、全ての感覚が置き去りになるのを感じた。


「世界を壊すか、それとも未来を変えるか。迷えるのはこの刹那だけよ」


 あらゆるものの動きが止まった世界に一人優雅に踊る闇色の乙女。その瞳は暁よりもずっと血のように赤く。そして何よりどこかで出逢ったことがある、そんな気がして。


〈アンタ……何者……!?〉

「声だけしか届けられない死に損ないはお黙り。私はルーナに聞いているの」


 乙女は不快そうに眉を顰める。この目の前の何かはオネエの声を認識できているらしい。


「自分の死の真相を知り、そして裏切り者に罰を与えるため、私と契約した愚かな貴女。二度目の人生はどうしたい?」


 私は。

 口を開こうとして、頭に激痛が走る。ルーナの顔を覗き込もうとしているのか、乙女の漆黒の髪がサラリと揺れるのが見えた。その血赤の瞳に映る自分の姿は紛れもなく、死んだ直後の自分の姿だった。


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