アタシ達はあいつらの掌の上にいたみたい
三人が担当になったのは運動場と倉庫だった。
「……だいぶ埃っぽいな」
〈見てるだけでこっちまで鼻がムズムズしそうよぉ〉
運動場は既に見終わった。普段は施錠されている倉庫の一つのドアを開けた瞬間、舞い上がった埃の量にルーナは思わず眉を顰める。
「……殿下、ここは私が確認します。お外でお待ちください」
「だが」
「この床の様子からしておそらく内部には誰もいないと判断できます。危険性は薄いと思います」
床にも厚く埃が積み重なっていた。これなら誰かが出入りしていればすぐに足跡が残るだろう。それだけの証拠を示されて流石にアレクサンダーも納得したのか、頷く。
「アズリア王女はどうしたい?」
「じ、じゃあ私も一緒に中に入ります……!」
つい動きが止まる。てっきりこんな所に入らずアレクサンダーの傍に擦り寄ると思っていたのだが。もしくはこっそり鍵をかけて閉じ込めようとするか。それなのにその好機を自ら手放した。何を考えているのか。ルーナは問いかけようとしたが、オネエに止められた。
〈ここは相手の思惑にのりましょう。いざという時はアタシがいるから〉
「……わかりました。埃を吸い込まないように、ハンカチで口元を覆ってついてきてください」
こんな所で噎せたら気管支が痛くなってしまいそうだ。素直にアズリアはハンカチを取り出す。そして一歩踏み出した。
◆ ◆ ◆
倉庫の中は暗かった。明り取りのための小窓はあるものの、普段は使われていないせいで防犯のため燭台などはない。一番奥まで確認したがやはりカオルの姿はなかった。魔法で体を覆っているおかげでルーナの足跡は残らないが、それでもアズリア以外の足跡は見当たらない。
「……戻りましょう」
積極的に探すつもりがないのか、アズリアはずっと後ろに付き従うだけだ。
はぁ、と溜め息をつきながらルーナが振り返った瞬間。
「ルーナ様、申し訳ありません。後で謝罪はいたします。今は目を瞑ってください」
「えっ」
〈……やられたわね。アタシ達はあいつらの掌の上にいたみたい〉
そこに立っていたのはアズリアではなかった。零れ落ちそうなほどに目に涙を溜め、拐われたはずの黒髪の少女はルーナを睨みつけていた。
「誰かっ! 誰か助けてっ!」
カオルの悲鳴が倉庫の中に響き渡った。
◆ ◆ ◆
ルーナ・セレスティアがアズリア王女の侍女の誘拐に協力した。その噂はたちまち校舎内に広まった。それこそ意図的ではないかと思うほどに。
「あんたがついていながらどうしてそんなことになった!?」
怒り狂ったガイアにアレクサンダーは詰め寄られるが、彼もどうしてそうなったのか分からないのだ。倉庫から出てきたルーナは近くにいた他の生徒達に取り囲まれ、取り調べのために一人別室に隔離された。ルーナは平気だろうか、それだけがアレクサンダーの胸中にあった。
「幸い決定的な証拠は無いからすぐ解放されると思うが……」
「その間に何されるか分かったもんじゃないだろう!? 使えない殿下だなっ」
ガイアを宥めようとするブレイクもまた険しい顔だ。好きな相手が敵の手に落ちたと聞いて気が気でないのだろう。その様子を見て、アレクサンダーは決意する。自分に危害を与えかねない相手に弱点を晒すのは嫌だ。だが、自分の代わりに彼女の身に何かあったらそっちの方がもっと自分を許せなくなる。
だから、彼はあえて自分より彼女のことをよく知る人物に語りかけた。
「オネエのサン……ルーナは今どうなっている。教えてくれ」




