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乙女の勘がそう言ってるわ

「待たせたな、ルーナ」


 教室に着くと既にアレクサンダーが登校していた。ブレイクも酷く冷たい顔をしている。その眼下では青い顔で生ゴミの始末をしている何人かの生徒がいた。


「御機嫌よう、殿下、ブレイク様。そしてまた、ですか」

「愚か者には自分の不始末はしっかりと片付けしてもらってる。なんでもついうっかりゴミ箱をルーナの席にぶちまけてしまった、とか。そそっかしくて近くに置く気にもならない」


 箒を手にしている生徒の中にはよく見ればそれなりの高位貴族のご子息もいた。つまり彼の言葉は実質的に将来上には絶対引き上げないという宣言だ。彼はアレクサンダーの言葉に震え上がる。だが今のルーナには同情する気はなかった。対抗策がある魅了にまんまと引っかかってこんな稚拙な嫌がらせをするような人間は確かに王族の側近に相応しくないだろう。


「そうそう、この週末に宮廷でアズリア殿下をお招きした歓迎パーティーがあるのだが、婚約者として私に付き添ってくれないか? あとドレスは手配しておく」

「かしこまりました」


 招待状はまだ彼女に届いていない。否、わざと送られていないのかもしれない。つくづく馬鹿にしてくれている。アレクサンダーが事前に通達してくれてよかった、と内心思いながらルーナが微笑んだ時だった。


「殿下! 大変です!!」


 血の気が失せた顔でアズリアが駆け込んでくる。


「カオルが! カオルが連れ去られました!」


 ◆ ◆ ◆


 カオルというのはあの従者の少女らしい。


〈……やたら日本人みたいな名前ねぇ〉


 廊下を二人で歩いていたところ突然押し入ってきた男子生徒達に拉致されたという。学園内で身元などすぐ割れるのに何故。


「どうしましょう! あの子、私を庇って……!」

「落ち着いて下さいませ、殿下。何人でしたか?」


 ブレイクが落ち着き払った様子で問いかける。それに対し、細い指が示すのは三。拉致したのがカオルだけだったのは人手が足りないからか。


「時間を考えるとまだ犯人は学内にいる可能性が高い……手分けして探しましょう」


 従者といえど、カオルもまた留学生なのだ。放置するのは国際問題になるかもしれない。


「ガイアはミアとお願いします。なにか仕掛けてくるかもしれないので」

「分かった」


 ミアは後方支援型の魔法使いのため自分では戦えない。一方自分は魔力でガードしてしまえば毒さえ飲まされない限りどうとでもなる。


「でも、それだとルーナ様に何かあったら……!」

「そうだな。私が一緒に行こう」


 ルーナの提案に真っ青になるミアに対し、手を挙げたのはアレクサンダーだった。


「これでもトレイに扱かれているからな……色々と」

「……愚兄が申し訳ありません」


 遠い目のアレクサンダーにルーナも乾いた笑いしか出なくなる。と、そんな二人をじっと見ていたアズリアが口を開く。


「殿下、私もご一緒してよろしいですか?」

「……かまわないが、貴女はルーナが苦手なのでは? ブレイクを相手につけるつもりだったが」


 何を考えているのだろうか。また何か仕掛けてくるつもりなのか。だが、彼女は縋るように待ち続けている。


〈……妙ね。さっきまでの小娘ならもっとぎゃあぎゃあ大袈裟に騒いでそうなのに。別人みたい〉


 だが、その瞳に浮かんでいるのは紛れもなく真剣な何かだった。


「……殿下、彼女も同行させましょう」

〈そうね……乙女の勘がそう言ってるわ〉


 まぁアタシは男だけどぉ、と付け加えられ、ルーナは思わず噴き出しそうになった。見ればオネエの声が聞える者は皆同様に笑いを堪えていた。

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