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イケメンチャラ男暗殺者が仲間になった

 無能。

 いつでも自分達を殺そうと思えば殺せるような相手になんて暴言を。ガイアは唖然とする。

 今までの人生、順風満帆とまではいかないが、大体のことは最終的に顔でどうにかなった。勿論、厳しい両親から顔なんぞ飾りということを幼少期から叩き込まれ、それに甘えることなく、自身の腕を磨いたり、頭が悪いなりに話術を鍛えたりはしてきた。自分の魔法が呪いじみた美貌をチャラにして実力勝負に持ち込ませてくれるそれを両親は歓迎した。彼等のように諜報じみたことをしなくてもいいと言い続けてくれた二人が喜んだ理由はシンプルだ、ただ本当の彼自身を見てくれる人が増えることを。だが、残念ながら時代がそれを許さなかった。

 だから彼は顔を捨て暗躍した。主の敵討ちをしようとした父が殺され、母の心が壊れて、憎しみに全てを燃やした。そんな彼を保護した第二の育て親は呆れた顔をしつつも彼に更なる殺しの技術を叩き込んだ。今覚えばおそらく人間ですらなかったその人に精神状態さえ万全なら神様でも殺せるというお墨付きを貰った。そんな自分を、何も出来ずに影で殺されていた無力な少女が無能というなど。

 あまりに滑稽で恐れ知らずで、なにより痛快ではないか。


「無能、無能か……そうだねぇ。ここまでお膳立てしてもらってダメでした、だったらとんだお笑い草だ」


 正直なところ、まだ心中にモヤモヤするものはある。いっそ先に全員殺しておいた方が後腐れないのでは、とか。だが。未来から過去に行く時に育て親に言われたことを思い出す。

 もし武力でない方法でやり直せる方法があるならそちらを選べ、と。殺しが上手いだけでは誰もついてこない、と。あれと同じ外道に堕ちるな、と。あの時は意味が分からなかった。でも今なら分かる。圧倒的な視野狭窄。殺せばどうにかなるという暴力一辺倒な思考。むしろ自分の方がこのままでは何も変えられないに違いない。

 本当にこの少女達は言葉で未来を変えるつもりだ。

 いきなり笑い出したガイアを少女三人はぎょっとした顔で見ている。遠くにいるセバスチャンも怪訝そうにこちらに視線を向けている。ひとしきり笑い続けて、少しばかり目元に涙を滲ませながらガイアは真面目な表情で跪いた。


「無能と言われるのは我慢ならない。セバスチャンが息子、ガイア。今度こそ、御身の盾として刃として我が命、貴女様に捧げましょう」

〈イケメンチャラ男暗殺者が仲間になった……待って、冗談だからその顔はやめて!!〉


 真面目な場面なのに鼻が詰まったようなふざけた声で呟いたオネエはルーナの冷たい視線に悲鳴を上げた。


◆ ◆ ◆

「……お嬢様、正気でございますか?」


 予想に反してセバスチャンは辛辣な言葉でルーナの希望を一蹴した。

 未来を知っている人物なら傍にいた方が色々とすぐに確認しやすいということで、ガイアを自分の傍付にできないか、と屋敷の人事権を持つ執事長のセバスチャンに打診をしたのだ。だが、彼の反応は渋かった。


「確かに色々と器用な愚息ではございます。教えてもないのに執事の真似事ぐらいはできますでしょう。ですが……生まれた時にルルティナ様に神託をいただいたのです。敬虔な信徒の間の息子ということに喜び、つい、ガイアの肉体へ祝福を注ぎすぎたと」


 神様の信託。まただ。ルーナは唇を噛み締める。手強い。それほどに頑なになるのは、きっと悪意でも下心でもなく、そう親心と忠義心からで。


「息をするかの如く存在感を消す魔法を使えなければろくに日常生活すら送れないのです。あの子が育つまでは大変でした……ザラが守っていなければとうの昔に誘拐されて生死も分からなかったでしょう。だから別邸の使用人としてお嬢様に会わせることもなかったのです。近くに侍らすだけでも厄介事を招き寄せてしまうのです。もし、この顔に惚れたと言うなら私が責任を持ってガイアの顔を潰します。だから」

「父さん、このお嬢様はそんな甘ちゃんじゃないよ」


 ルーナを説得しようとするセバスチャンの前に不意に割って入ったのは張本人のガイアだった。


「初めて俺自身をちゃんと見てくれた方々なんだ。俺は、許されるならついて行きたい。いや、許されなくてもお仕えしたい」

「……ガイア」


 初めて父親としての顔で動揺するセバスチャンにガイアは笑顔を向ける。と、無言を貫いていたザラがセバスチャンの肩に手を乗せた。


「過保護が過ぎますよ、あなた」

「ザラ……」


 そして彼女は涼し気な目元を和ませてガイアを見る。


「幼少期ぶりに無邪気に笑うこの子を私は見ました。それだけお嬢様に心を許しているということ。ならば邪魔をするのは無粋です」


 その端正な微笑みは親子なだけによく似ていた。さっと視線を逸らしたセバスチャンはどこか少年のようで、見慣れないルーナは驚く。


「ね?」

「……分かった、ザラ。私の負けだ……ガイア、お前をお嬢様の執事に任命する。だが……異動は一週間後。お嬢様が本邸に戻られてからだ」

〈えっ?〉


 すぐじゃないの、と誰もが思った瞬間だった。セバスチャンが踏み込んだ地面が割れる。


「それまでお前には我が技の全てを叩き込んでくれようぞ。吸収するといい」

〈ひえっ……天誅の大盤振る舞いとかあのチャラ男、死ぬんじゃない……?〉


 ちょっとだけ真っ青になっているガイアが可哀想に思えた。



別邸でのお話はこれでおしまいです。

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