な、な、何考えてるのよぉぉ!?
休暇が終わった。ルーナは久しぶりの通学に背伸びをする。あの事件の後は至極平和だった。時々セバスチャンの鬼特訓を受けるガイアの悲鳴が窓の外から聞こえてくる以外は。
〈そういえばあの後あの坊やは顔出さなかったわね……今朝の準備もセバスチャンだったし〉
なんでもガイアはサブ執事という形での所属になるらしい。屋敷でのお世話はそのままセバスチャンが続けてくれるそうだ。
〈あっ、ミアとリズがいるわよ。ハロー!〉
はろーとはなんだろう。ルーナは不思議に思いながらも特に問うでもなく、代わりに上品に手を振った。すると彼女達も気付いたらしく、足取りも軽やかに駆けてくる。
「おはようございます、ルーナ様!」
「この度は領地へのご招待誠にありがとうございました!」
「こちらこそ、御二方と楽しい時間を過ごせてよかったですわ。ありがとう」
これは事前に二人に声をかけるように言っておいたからこそのやり取りだった。万が一、アレクサンダーがこの二人も側近にする、と発表した時、後ろ盾がない彼女達をルーナが保護するため。後ろ盾がないならば彼女自身が後ろ盾になってしまえばいい。
〈あら、今日は二人ともいつもと違う髪型なのねぇ! 可愛いわぁ!〉
「ふふ、ありがとうございます。実はこの髪型、領地の方がしていて可愛いなぁ、って! 短いから少し違う感じになっちゃいましたけど」
ミアが顔の横で作った短い三つ編みの先を指先でくるくるする。一方のリズは緩やかなウェーブをつけた赤毛をサイドテールにしていた。
「似合ってますわ。また領地の方にも御一緒しましょうね」
「はいっ! 是非」
そんな三人を周囲の生徒達は観察している。これで彼女達がセレスティア家の身内になったと喧伝出来ただろう。ふぅ、と安堵の溜息をついた時だった。向こうからいい笑顔を浮かべたアレクサンダーと疲れ果てた表情でそれに付き従うブレイクが歩いてくるのが見えた。
「おはよう、ルーナ」
「……おはようございます、殿下」
つい先日まで挨拶すらおざなりだったのに、今更そんなに嬉しそうにされても、という本音は内心に隠し、礼儀正しくお辞儀をすれば、アレクサンダーは少しだけ心外そうに眉を顰めた。
「よそよそしいな。貴女は私の婚約者だというのに」
「親しき仲にも礼儀あり、という古い言葉があるそうですわ。故に殿下に対して礼節正しく振る舞うのは間違いではないかと」
〈……なんでしょうねぇ、すごいブーメラン。私の胃までキリキリしてきちゃったわぁ〉
何故かオネエまで苦しんでいるがルーナは美しく微笑んだ。
「とはいえ、あまりに最近は邪険にしすぎておりましたわ。申し訳ございません。殿下、例の件はどうでしたでしょうか?」
暗にサンが隠し場所を教えた機密文書は確保出来たか、と確認すれば、アレクサンダーもすぐに分かったらしく、うんうんと頷く。
「有意義な視察だった。貴女から教えてもらった街には確かに素晴らしい生地があった。あれでドレス作ったらますます貴女が魅力的になると思って、ちゃんと手に入れてきたよ。今度の舞踏会が楽しみだ」
ここ最近、アレクサンダーとドレスの話など一切していないから、あちらも気を利かせてくれたらしい。つまり、機密文書は確保済み、と。先日のやりとりと違う、ちぐはぐな会話をしていることに気付いたミアは首を傾げていたがリズは暗喩だと悟ったらしい。
〈ミア・ベネット、そこは神妙に頷いておきなさい。まったく貴族らしくないわねぇ〉
「そういえば、お土産があるから授業の後、サロンに来てもらえないか? そこの二人も連れてきてほしい」
「……承知致しました」
詳細は後程、ということか。仕方ない、付き合うか。
◆ ◆ ◆
「今日からこのクラスに編入することになりましたガイア・ミストフィールドです。よろしくお願いしますー」
〈な、な、何考えてるのよぉぉ!? 〉
明らかに営業用の笑顔を貼り付けた制服姿の暗殺者執事に一同は絶句した。




