自分の顔面の理性破壊力を学びましょうね?
予約投稿し忘れたとかいやそんなまさか!!(目をそらす)
数日後。
〈ぐっもーにん! 子兎ちゃん……って、何その本の山こわっ〉
オネエが久しぶりに声をかけてきたのはランチの後の自習時間だった。随分いつもとタイミングがズレているな、と思いながら、ルーナはページを捲る。隣ではミアが先程出た経済学の課題の資料を読み込んでいる。
「……山という程では無い気がしますわ」
「……いや、その量は山ですね」
不意に呟いたルーナの言葉を自分に対してのものと誤解したらしいリズが信じられないような表情を浮かべている。ちなみに彼女自身は課題ではなく帳簿や交易資料を点検していた。
あれからルーナは時間ができるとミアやリズと勉強するようになっていた。彼女達は王太子妃教育では得られなかった視点や見解を持つことに気付き、単純に意見を聞くのが面白かったという理由からだが、人柄の良さもあるのか、二人と一緒の場にいるのは苦ではなかった。ちなみに時々ブレイクも顔を真っ赤にしながら入り込もうとするが女子会に割り込むな、とリズに追い払われている。
「ルーナ様、っていつも優雅に振舞っている生まれながらの天才だと思ってたんですよ……でも実態は努力ができるタイプの天才が更に精進してるんだからそりゃまぁ普通にしてたら適わないというか……すごいなぁ……憧れるなぁ……」
〈……子兎ちゃんが努力家っていうのは知ってたけど、ここまでとは思わなかったわぁ……〉
努力家や天才と言われても、あまりしっくり来ない。今までの王太子妃教育ですり減ったルーナの自尊心はどこまでも鈍っていた。
「私が天才……? はて、今まで無能やら物覚えが悪いなどと言われてきておりましたけれど」
〈よし、やっぱり連中は一回締め上げましょうね! 子兎ちゃんは天才、リピートアフターミー!〉
リピートアフターミーとはなんだろうか。割と大きめの野太い声で自分のことを賞賛し始めるサンのことは無視して、ルーナは二人に声をかける。
「そういえば、今度の休み、領地の視察に行く予定なのですが、よろしければ御二方も御一緒しませんか?」
今まで休みと言えば王太子妃教育一択で領地のことをろくに実地で学ぶことも、そして領地に訪れることも出来なかった。だから他の令嬢達とお出かけして遊んでみたい。そんな内心を隠すように二人を誘えば、二人の手が止まる。何か気分を損ねただろうか。心配になってルーナが二人の様子を伺えば。
「はへっ……」
「なんでしゅと……」
興奮で顔を真っ赤にした二人が目をきらきらさせていた。
「ルーナ様と、デート……!」
「美少女同伴婚前旅行!」
「ひっ!?」
怖い何この子達怖い。ルーナが悲鳴を堪えていると、オネエがぷくくと笑う声がした。
〈百合ねぇ……百合の花園が香ってるわァ……肉食獣の気配もするけどっ……〉
「ど、どうして……わ、私はっ、お友達とお出かけしてみたかっただけなのに……!」
自分の長年の願いをそうやって皆で茶化すなんて酷い。潤み始めた目できっと二人を睨むと、二人が突然倒れた。何故か大量の鼻血を噴き出して。
〈あー……うん、子兎ちゃん、自分の顔面の理性破壊力を学びましょうね? クール系美少女の可憐な泣き顔は餌にされちゃうわよォ〉
その顔を野郎相手に出来ればイチコロなのに、と呆れた様子のオネエの言葉は耳をすり抜けていく。慌てて二人の鼻にハンカチを押し付けながらルーナは天を仰いだ。
「すひまへんへひた」
「ひゅうたひをさらひまひた」
最終的に駆けつけた校医によって、鼻に脱脂綿を限界まで押し込められるという女子にあるまじき見た目になったミアとリズだが、その表情は晴れやかだった。
「本当に、大丈夫なのですか?」
話しにくいのか肯定するように頭を振られるのだが再び鼻血がだばだば出てきている気配がするので心配である。
「詳細は後程お手紙でお伝えするとして……初めての友達とのお出かけなので胸が弾みますわ」
〈はじめて……あー、うん。子兎ちゃん、幸せになりなさいねぇ、本当に。これからの人生まだまだ長いんだから今までの分も取り返すの。オネエとの約束よ〉
控えめな笑みで喜ぶルーナを見る第三者がいたらきっとこう思っただろう。
守りたい、その笑顔。




