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なんというか三重苦?

〈子兎ちゃん、ネズ熱病について知識はあるかしら?〉


 こくんとルーナは頷く。数十年前にこの国で流行した、そして二年前にレニアを蹂躙した致死率の高い病だ。特徴として罹患者は眠ることができなくなる。延々と上がり続ける高熱に魘されながら睡眠により体力を回復させることが出来ずに衰弱死するという恐ろしい病だ。原因は分かっていないが、先程のサンの口振りでは未来ではその辺もわかっているようだ。


〈あれはね、異世界から漂流してきた人についてくるの。多分あちらでは毒でもなんでもない存在。現地人は抗体があるのでしょうねぇ……実際セバスチャンは全然平気だったみたいだし〉

「……え?」


 どうしてそこでセバスチャンの名前が出てくるのだろう。つい、ルーナは固まる。だが、サンは気付かないようでそのまま溜息をつきながら喋り続けている。


〈四年後、あんたが死んだ後、ある国に空から変わった服装をした女の子が落ちてくるの。保護するためにこの国に運ばれてきたんだけど……彼女の周辺の人は次々とネズ熱病にかかった。そのおかげでネズ熱病の原因がわかった。そして調べていくうちに周囲がネズ熱病にかかっても一人だけピンピンしてるセバスチャンの存在が明るみになって……洗ったら数十年前、彼の戸籍が捏造されていたのが分かったの。ま、それがわかった頃には既にセバスチャンは殺し屋に戻ってたけど〉

「オネエサン、それが本当なら」


 レニアには今、二年前に異世界から流れ着いた人間がいる。そしてレニアはそれを隠している。公表していれば四年後の段階でもう少し動き出しが早かったはずだ。

 嫌な匂いがする。ルーナは渋くなった紅茶を無理矢理飲み干した。


◇ ◇ ◇


 ルーナはサンによって伝えられた流行病のことを考える。まず原因が原因だけに防止は難しい。そして感染経路を伝えようとしても、異世界から人が流れ着くことなど基本的にないので説明できない。セバスチャンが異世界出身であることすらルーナは知らなかったのだ。そして明るみに出すのも宜しくない。ただでさえ異世界とは嫌悪の対象なのだ。刑罰として異世界送りというものがある辺りそれは根強い。また相手が人間であるがために下手な迫害を生み出しかねない。

 となるとルーナが取れる手段は一つ。グリニッジ商会から早い段階で特効薬になる薬草を仕入れて領内に行き届くだけの量を確保する。


「前途多難ですわ……」

〈そうねぇ……なんというか三重苦?〉


 三重苦とはなんだろう、と思うが確かにアレクサンダー、処刑回避、流行病の三点セットだ。とはいえ、リズと交流を持てた段階で最後の一つは多少マシだ。それにまだ時間はあるのだ。なんとかそうやってルーナは心折れそうな自分を立ち上がらせる。そんな彼女に対し、サンはどこか楽しそうだった。


〈今の段階でそんなに考えすぎてたら禿げちゃうわよぉ? まぁ子兎ちゃんの場合美人さんだから禿げても美人僧侶とか言われそうだけど〉


 魔性の美貌、なんて罪な女……! と感極まった様子で叫ばれてもよく分からない。

 とはいえ方針は決まった。


「オネエサン、いいことを思いつきました。グリニッジとの取引を公式に増やすように父上を脅しましょう」

〈……まって、なんでいきなり脅すの? というか、アンタ、やること、本っ当に極端ね!?〉


 ルーナの決意にオネエの呻き声が響いた。


◇ ◇ ◇


 相手の気持ちを考えろ。

 それはアレクサンダーにとっては初めての課題だった。今までは逆に人の気持ちは考えるな、と言われてきたのだから。情に絆されては判断に迷いが生まれる。だから粛々と決断できるようにと教えられてきたのに、彼女はそんな教えをあっさりと否定していくのだ。


「……嫌われてしまった」


 自らの婚約者の顔を思い浮かべる。

 ルーナ・セレスティアという令嬢は少し前まで彼からすると振り返る価値のない、面白みのない淑女だった。完璧で、それ故、人間味が薄い。他の令嬢達のように甘ったるく媚びてくることは無いが、どこまでも機械的な仕事人間。可愛げが無さすぎて好意を抱くのは難しいと思い続けていたからつい冷淡な態度を取り続けていた。

 それなのに。

 あの不愉快な変な声が聞こえるようになってから、彼女は変わった。控えめながらも心から笑い、目が輝くことになった。


「何者なんだ……? あの声は」


 周囲の反応からして恐らくあれが聞こえているのは自分とルーナだけ。アレクサンダーは珍しく心から不愉快だと思い表情を歪ませた。

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