122-2
食事の時間。
俺たちはホライゾンさんに旧人類の料理をふるまわれた。
もっとも、料理自体は俺たちのものと大差なかったが。
「魚料理に肉料理……。宇宙にも魚や牛がいますの?」
「もちろん。まあ、飼育というよりも培養だけどね。一から育てるんじゃなくて、可食部位のみをカプセルの中で増殖させるんだ」
「最初から魚の切り身の状態で生み出すのじゃな」
生命への冒涜を感じずにはいられない。
いや、育てた挙句に殺すより、最初から加工品として生み出すほうがよっぽど倫理的なのか……?
よくわからなくなってきたが、食欲が減退したのは間違いなかった。
「ところでホライゾンよ。帰還派を黙らせるのに、どうしてこんなまだるっこしい手段を使ったのじゃ?」
「どういうことだい?」
「この宇宙ステーションにはあるのじゃろう? いたずらに混乱を誘発するような輩を裁く法律が」
「……」
黙るホライゾンさん。
しばらくしてから彼は静かにうなずいた。
「アガステアにおいて、扇動や騒乱は重罪に値する。国家規模の宇宙ステーションとはいえ、閉鎖された空間での社会混乱は致命的だからだ。もしも狂った一人の人間がステーションの電源を落としたらその瞬間、僕たちは即座に窒息死する」
プリシラとマリアが顔を青ざめさせている。
「1000年前と比較して、宇宙での暮らしでは人権は多少制限されている。秩序のためには仕方のないことだ。過剰な自由が国家の団結を揺らがせるのは歴史が雄弁に物語っている」
だとすると、世論を二分させるような者たちは相当な悪人とみなされてもおかしくない。
「スセリちゃんの言うとおり、アガステア管理委員会の名のもとに、帰還派を危険思想の持ち主として逮捕することも本当は可能さ。特権を行使すれば彼らは一網打尽だ。実際、それを主張する委員もいるよ」
「そんな手っ取り早い解決方法があるにもかかわらず説得に拘泥する理由は?」
スセリが尋ねると、ホライゾンさんは「単純な理由だよ」と苦笑しながら答えた。
「それを実行してしまうと、僕たちと彼らに決定的な一線を引いてしまうからさ」
フォークで刺した培養肉を食らう。
「彼らだって同じ船で暮らす仲間だ。穏便に済ませられるのならそれに越したことはない。そのための努力だけは怠ってはいけないんだ」
俺が、この人が宇宙ステーションの管理者であるのに納得した瞬間だった。
この人が地上で暮らせば、きっと立派な領主になれる。
「力でねじ伏せると、必ずどこかで亀裂が生じる。船に亀裂なんてあってはならないだろう?」




