豹変
一日に二回投稿を目指します。
少しの浮遊感、その後にゴツゴツとした感触を靴底に感じる。
「なっ!?」
「ここは...?」
凛と克也も居るようだ、良かったのか悪かったのか…。
それより現状把握だ、僕達以外の人間はいるのか、ここはどこなのか、ドッキリか何かの類か?
「ようこそぉ!妾の領地へ!」
幼女の声が困惑した俺達の鼓膜に響く、甲高くいかにもわんぱくといったような声だ。
「ほれ見よ!人間の召喚魔法など妾にとっては児戯に等しいな!」
「流石です、お嬢様。あんな適当な呪文で出来るとは感服いたします」
声のした方を見ると、角を生やした幼女と少しバカにした表情を浮かべるメイドが立っていた。
何だあの人達は...コスプレ大会でもやっているのか?
「そうじゃろそうじゃろ〜?もっと褒めよ!」
「すごく凄いですね」
「ふへへへ!」
何か適当だな、あのメイド。幼女も馬鹿っぽい。
ここがどこか分かっているようだ。話を聞こう。
「それより魔王様、あの人間達はどうするのですか?」
「殺すに決まってるじゃろ?」
背筋が、凍った。ヤバい、コイツらはヤバい!逃げなければ、確実に殺される!
「克巳ぃ!逃げろぉ!」
「昴!?何言って」
「いいから凛連れて逃げろよ!早く!」
「させぬぞ」
幼女の手に力が集まるのが分かる、自分でも何故分かるかなど分からないまま背を向け逃げようとする。
だが、幼女は、凛に手を向けた。
「やめろぉおぉおぉ!!!」
咄嗟に凛を突き飛ばす、間に合った!これで時間が稼げる…!?そう思った瞬間突き飛ばした右手からの激痛で顔が歪む。
あった筈の右手が、宙を舞っていた。
「ゥァァァァァアアアア!!右手が、俺の、あ、あぁあ!」
「なんじゃ、右手ぐらいで情けない」
「昴!くそぉ!お前ぇぇぇえ!!」
「嘘、昴、いやぁぁぁぁあ!!」
克也が激昴し幼女、いや、魔王に突貫しようとする。ダメだ、確実に殺される!
「ぐっ...やめろ...!克也!!」
「昴!」
「おぉ、まだ口は聞けるようじゃな、虫けらにしては上出来じゃ」
冷や汗と脂汗が止まらない、右腕の激痛と喪失感で気が狂いそうだ。でも、ここで親友は殺させない。
「じゃがモタモタしてると王国の人間らがゲートを繋げてきおるからの、ここまでじゃ」
考えろ、考えろ、考えろ!ここを生き残るための方法を!親友と惚れた女だけでいい!生き残る人間に俺は入れない!
「あんた、何が目的なんだ」
「言う必要があるかのう、それ」
「どうせ死にゆく虫けらなんだ...それぐらい偉大な魔王様なら教えてくれるだろう…?」
「ほう、分かっておるではないか!虫けらの分際で!良かろう、教えてやる!」
偉そうに俺を見下ろし、ムフーっと言って魔王は言う。
「貴様らは勇者に選ばれたんじゃ!
じゃが勇者が呼び出されると、妾達魔族にとって都合が悪くての、じゃから王国の召喚魔法に横入りして座標を変えたんじゃよ!」
苦労したんじゃぞ?と魔王は言う、勇者だと...?ということはここは異世界か?そんな馬鹿な、何故俺達だけ、何故あの場所を選んだんだ。
「選ばれると言ったが選ぶ人間に特徴はあるのか?」
「二回目の質問は許可してないんじゃがなぁ…まあいいじゃろ!それは元の世界に未練がない人間、あとは基礎能力がずば抜けて高いことかの?」
まさか…あの教室での俺の、異世界だったなら…っていう女々しい考えか?
あれに基礎能力の高い克也と凛が巻き込まれた。
まさか本当に異世界転移するとはな…笑えねぇよ…
「もういいじゃろ?というか時間も無いのでな」
そう言って力を溜める魔王。だがそのとき、魔王の顔が歪む、それはもう不愉快そうに。
「ちっ!来おった!ベル!戦闘態勢に入れ!」
「はい、魔王様」
眩い程の光が空から降ってくる、それと同時に羽の生えた天使のような、ロボットのような生物が落ちてくる。
「第二級天使か、妾も舐められたものだな?」
次々と降ってくるが魔王は一歩も動かずに俺の右手を吹き飛ばしたあの力で天使達を塵に帰していく。
「仕方ないでしょう、ただゲートを繋いだだけのようですから」
「まあいい、とりあえず全部潰す」
横を見ると克也と凛が天使に抱えられている、どうやら空にあるゲートとやらに連れていかれるようだ、魔王の言葉を聞くとここよりはマシなのだろう。
浮遊感が襲う、俺も連れていかれるようだ、右腕が無い分軽いのでは無いかな?などと場違いなことを考え、ひとまずは無事な場所に行けることに安堵していた。
魔王が克也と凛の天使を破壊するまでは。
「逃がすと思ったか、マヌケ」
凄惨な笑みを浮かべながら魔王は言った。まずい、これはまずい!そう思った俺は咄嗟に自分を抱えている天使を振りほどく。
「克也!凛の手を握れ!」
「「昴!?」」
俺は凛の手を克也の左手に握らせた。そして、克也の右手を残った左手で握り、思いっきり空に投げた。
「っっっなろぉぉ!!」
自分でも何でこんな力が出るのか分からない、所謂火事場の馬鹿力というやつだろう。だが、今ので全てを使い果たした。
もう指一本動かない、重力に従い落ちていく自分の身体。凛と幸せにな、そう言うと克也と凛はこちらに絶望した顔を向け、門に消えていった。
「ちっ!二人行ったか!」
下から悔しそうな声が聞こえる、ざまあみろ。
人間を舐めるからこうなるんだ、そう考えたそのとき、右腕を奪った凶弾が左腕にも当たり、吹き飛ばされた。
「せめて残った一人は、惨たらしく殺す」
そう聞こえた瞬間、俺は地面に激突した。背中を強く打ち付け、息ができなくなる。
「ほう、あの位置から落ちてまだ生きとるとは、だがもう終いじゃ。この地は妾の領地の中でも特殊でな、凶悪な魔物がウロウロしとる。せめて最後は潔く魔物の餌となって死ね」
そう言ってメイドと一緒に消える、そりゃ嫌な死に方だな、生き残ったとしても餓死、かと言って食われても地獄だろう。
俺の人生も終わりのようだ、何もかも上手くいかなかった、両親は目の前で殺され、親友と恋人は浮気していた。最後に畳み掛けるように魔物の餌となって死ぬ、最悪だ。
頭の端っこの方で声がする
嫌だ
どんどんと大きくなる
嫌だ
心が侵食される
嫌だ
嫌だ、嫌だ、嫌だいやだいやだぁあぁ!!まだ死にたくない!生きたいよ!嫌だ嫌だ嫌だ!もう何もいらない!不幸なままの人生でいい!
けど、死にたくない!何で俺がこんな目に、なんでなんでなんで、ほんとうは憎いよ!親友とか言って俺の彼女と浮気していたアイツも、俺を騙していた女も!最後は罪悪感でいっぱいみたいな顔して居なくなったアイツらが、俺の両親を殺して逃げた俺の姉̀も!
全員憎い、憎い、憎い!!何でいつも俺が耐えなくちゃいけないんだ!毎日毎日人殺しの弟と言われ、蔑まれ、好奇の目で見られ、苦しかった、悲しかった、逃げ出したかった!!
そして、一番憎いのは…
俺だ......!!何でいつもいつも平気な顔して笑ってる!何を言われても!何をされても!なんで、他人事みたいなツラしてヘラヘラしてんだよ!
だから
だから俺は、
だから、俺は、まず、自分を、殺してやった。一番憎い俺自身を、殺してやった。




