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時を超えし者  作者: 高遠 真也
第一章(仮)
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第二十七話 投擲

 天枷さんと海に行ったあの日から約1週間が経ち、訓練にもそれなりに慣れてきた。素人であった自分の腕は信濃大佐から直々に教わったこともあり、すぐに上達していった。信濃大佐からはセンスが元々あるから飲み込みが早いといっているが。それでも足りない所は色々とある。そのような所は近未来的技術の力に頼っている。そのおかげであと1ヶ月あれば並大抵の兵士と同等の戦力になるとのことだ。最も、実際に前線に立つ訳ではなく自衛として、護身用として教わっているのだが。しかし、自分が会得したいワンホール・ショットは1ヶ月ではどうにもならないそうだ。信濃大佐も言った通りに心技体すべて揃って初めてワンホール・ショットを成せる。自分にはどうも銃を持つことに心の何処かで否定しているらしい。星原さんを助ける時に敵に救出隊が狙撃された時のことを今でも心の片隅で怯えているらしい。あの時初めて人の死を自覚したのだ。人が簡単に死んでいくという恐怖を。それが人を殺したくないという思いに昇華されつつあるのだ。道徳的にではなく、生理的にだ。


 それもさておき自分は射撃場にある休憩スペースで他の人の射撃を見ていた。その中でも一際目立つのが上林さんであった。30m離れた的に容易く当てていく。それもワンホール・ショットでだ。自分はこれを凄いとは思いつつも素直になれなかった。上林さんがこちらに気がついたのかこちらに向かって歩いてきた。


「ちょっと、あの的に向かって撃ってくれる?」


 それに従うように席から立ち上がり、所定の位置へと足を進めた。そして、腰にあった自分の一四式拳銃を取り出した。


「いつでも撃っていい。」


 そう言われ、自分は構えた。そして弾丸を走らせた。いつもなら大抵は的に収まるのだが、今回は外れたようだ。


「これはお恥ずかしいところをお見せしてしまいました。」

「いや、そうでもない。」

「と、言いますと?」

「じゃあ、もう一回撃って。」


 何か考えがあるのだろうか不思議に思ったが、促されるままもう一度同じことをした。結果は先ほどと変わらず命中せず。それを見て、上林さんは表情を緩めながら彼女の持っている一四式拳銃に指をさした。


「これで弾丸を撃った。」

「冗談はやめて下さい。」

「ならもう一回する?」

「勿論。」


 ユーモアがあると思えば良いのだろうが、余りにも冗談が過ぎていた。怒りを通り越して呆れへと感情が変わっていった。しかし、そんな情緒が不安定なままで撃つのもよろしくないので、深呼吸してから撃った。結果は先ほどと同じだ。


「だから言っただろう。」

「これは参りました。」


 素直に頭を下げた。未だに納得はしたくないが3回も同じことをされたのならそれで納得するしかないのだろう。第一、特殊作戦群所属というエリート中のエリートなのだから。


 そんなところに信濃大佐が訓練場に入ってきた。信濃大佐はこっちを見るや否や近づいてきた。表情は訓練時のものであるのですぐさま敬礼したが、今は自由時間との理由で敬礼はやめさせられた。


「大空、今はどんな気分だ。」

「これと言って良いというわけでもありません。」


 自分の答えに納得したのか、表情を少し崩して訓練場の武器庫に入っていった。それと同時に他の隊員も自由に行動した。その中でも、何人かは射撃に移っていた。2人は拳銃で、1人は軽機関銃で、1人は投げナイフだった。一際目立つのはやはり、投げナイフだ。射撃訓練場なのに射撃でないのはなぜかと思って近寄ってみる。近寄ってみると20代後半と思われるスリムな男性隊員であった。ヴィジュアル系バンドに居そうなその風貌からは、おちゃらけた感覚は一切感じなかった。その目は30mは離れているであろう的を捉えていた。その男の右手には順手でナイフが握られていた。それはコロッセオに居た猛獣を目の前にした剣闘士のようであった。


 男の周りの世界は彼を除いてゆっくりと動く。刹那、野球のフォームのようにナイフを投げる。しかし、男がナイフを放った時は音など発さなかった。それは無音。男の手を離れたナイフは縦回転して的に一直線に向かう。否、ナイフが的に吸い寄せられているのだ。そこまで軌道が美しいのだ。スパッ、という音も出さずにそれは刺さった。男は態度には表していないものの、そこはかとなく嬉しそうであった。思わず拍手を送りそうになったが、こんな時にするのも不自然なので嫌々我慢した。


 さらに男は腰につけてあるナイフを二本取って、片手に一本ずつ持つ。まさかと思ったら、自分が予想した通りにそれを同時に投げた。結果は言わずもがな。見事に当ててみせたのである。


「俺の名は高橋明だ。よく覚えておきな。」

「は、はぁ……。」


 確かにカッコいいと言えばカッコいいのだが、何かズレている。やっぱりこの国の人はどこかおかしい。それはともかく、互いに自然と右手を出し、固い握手をした。

何かがおかしい。

それは本能で大空誠一は悟っていた。

しかしながら、彼も生きる為には手を貸すほかなかった。


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