第1話:勝利へのプロローグは、始業ベルの1秒前に
「――勝った……!!」
始業を告げるチャイムが校内に鳴り響く、わずか一秒前。
教室の引き戸が、爆音と共に開け放たれた。
そこに立っていたのは、乱れた長い黒髪を振り乱し、肩で激しく息をする美少女――勝呂みゆきだった。
彼女は、窓際の席で呆然としている俺、森下航太に向かって、鋭い人差し指を突きつけた。
「航太……。今日の、登校タイムレース……私の、勝ちよ……!」
「……あのさ、みゆき」
俺は手元の単語帳を閉じ、大きく溜息をついた。
「俺、今日は一本早いバスに乗ったから、最初からレースしていないんだけど。っていうか、そんなに全力疾走したら校則違反だろ」
みゆきは、端正な顔立ちを悔しそうに歪め、制服のスカートについた埃をパンパンと払った。
「関係ないわ。同じ目的地を目指して、私が先に着いた。これは厳然たる事実であり、私の正当な勝利。これで通算……百四十二勝、百四十一敗、一引き分けね」
彼女は、誰もが振り返るような学園の女神だ。
成績優秀、スポーツ万能。凛とした佇まいは「パーフェクトガール」の名を欲しいままにしている。
だが、幼馴染の俺だけは知っている。
彼女がその称号を維持するために、どれほど「ロジック」という名の泥臭い計算と、狂気じみた努力を積み重ねているかを。
「ねえ、聞いてるの航太? 勝負はまだ終わっていないわ。今日の第一限、数学の小テスト。そこでも私はあなたに完全勝利を収める予定よ」
「はいはい。勝手に戦っててくれ」
みゆきは自分の席に座ると、すぐさま教科書を広げた。
その指先には、鉛筆の持ちすぎでできた小さなタコがある。
彼女は天才なんかじゃない。ただ、誰よりも「負け」を病的に嫌っているだけなのだ。
ふと、みゆきが俺の視線に気づき、勝ち誇ったような笑みを浮かべた。
「どうしたの? 私の勝利の予感に、恐怖したかしら?」
「いや……。お前、髪に桜の花びら、ついてるぞ」
俺が手を伸ばして、彼女の髪に絡まった小さなピンク色の破片を取ってやると、みゆきは一瞬だけ、計算機がフリーズしたような顔をした。
「なっ……!?」
みるみるうちに耳まで真っ赤に染まる。
彼女の「勝利のロジック」には、こういう不測の事態への耐性が組み込まれていない。
「……そ、それは……! 季節の情緒を味方につけた、私の高度な演出よ! つまり、この美しさも私の勝利……!」
「無理があるだろ、それは」
彼女はプイと顔を背け、猛然と教科書を読み込み始めた。
震える背中を見て、俺は小さく笑う。
勝呂みゆき。
常に一番を目指し、常に勝ちにこだわる不器用な女神。
そんな彼女との、勝敗のつかない日常が、今日もまた幕を開けた。
【今回の勝敗:みゆきの1勝0敗(自称)】
新連載『勝利をわが手に』の第1話をお読みいただき、本当にありがとうございます!
ここから、また新しく熱い物語の幕開けとなります。タイトルに込めた「勝利」という言葉が、これから登場するキャラクターたちにとってどんな意味を持っていくのか、そしてどのようなドラマを生み出していくのか――作者自身も非常にワクワクしながら執筆しております。
前作から引き続きお付き合いくださっている皆様も、この物語から新しく出会ってくださった皆様も、ここから始まる新たな挑戦を一緒に楽しんでいただけたら幸いです。
どのような展開が待ち受けているのか、ぜひこれからの更新に期待していただけると嬉しいです!
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次回、第2話の更新をどうぞお楽しみに!
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