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前世安全管理者の異世界ホワイト戦記~死にたくないので安全部隊を作ったら、勘違いで不敗の魔導名将に。夜の放電メンテナンスを求められて困っています【R15】~  作者: トール
第九章:水上プラットフォーム編(海難ハザードと第一王女フィオナのOJT)

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第064話:白き女帝の誕生と、水上プラットフォーム建設

 


 朝の柔らかい陽光が、かつては血と鉄の匂いに満ちていたカストル帝国の帝城を静かに照らし出していた。


 広くて豪奢な寝台の上で、ルディの腕の中にすっぽりと収まっていたヴィクトリア(二十五歳)は、穏やかな寝息からゆっくりと目を覚ました。


「おはよう、ヴィクトリア。心拍数も体温も正常値だな。薬物の離脱症状(禁断症状)も見られない。徹夜で強制的だが徹底的なデトックス(放電アース)を施した甲斐があった」


 ルディ・フォン・バウムガルトは、自身の網膜に展開した【ガス・温度検知ディテクター】の数値を確認しながら、淡々と告げた。


「あぁ……ルディ様……っ」


 かつての『鉄血の女帝』は、その冷酷な仮面を完全に脱ぎ捨て、恋に落ちた乙女のように頬を染めてルディの胸板にすり寄った。


 睡眠を削る過酷な日々や、恐怖支配を維持するために自身に課していた重圧。そのすべてが、昨夜ルディが徹夜で施した『極低周波パルスによる自律神経の強制弛緩(物理療法)』によって、彼女の体内からすっかり抜け落ちていた。

 目の下のどす黒い隈は消え去り、肌は健康的な薔薇色に輝き、本来の息を呑むような美貌を取り戻している。


「こんなに身体が軽くて、頭がスッキリしている朝は生まれて初めてですわ。それに……身体の芯まで、ルディ様の心地よい電気パルスが染み渡っていて、お腹の奥がとっても安心するの……っ」


 ヴィクトリアは、シーツの下でルディの足に自らの柔らかな脚を絡ませ、甘い吐息を漏らした。


「私、もう誰も支配したくありません。どうか私を、あなた様の『ホワイト子会社(忠実な労働資産)』として、一生そばに置いてくださいませ……っ!」


「よし、雇用契約オンボーディングの意思確認、完了だ。まずは帝国の狂った法案をすべて廃止し、『バウムガルト労働安全衛生法』を国教として布告しろ。週休二日、ハサップ基準の給食の提供、そして過重労働の完全禁止だ。これらが守られない現場は即刻操業停止とする」


「はいっ……! ルディ様の、お望みのままに」


 数時間後、帝城の謁見の間。


 かつて処刑と粛清が繰り返されていたその冷たい大広間で、ルディの側近であるテレーゼやエリーゼ、そしてヴォルフガングが見守る中、ヴィクトリアによる新たな法の布告が行われた。


「これより、帝国における一切の不当な労働と、薬物を用いた戦闘を禁じます。すべての将兵に十分な休息と、ハサップ(HACCP)基準の温かい食事を約束しましょう」


 ヴィクトリアの清らかな声が響き渡ると、集まった帝国の将兵たちは一瞬の静寂の後、感涙にむせびながら歓声を上げた。


「おおおっ……! これが、人間としての扱い……!」


「俺たち、もう痛みを消して、部品のように死ぬまで戦わなくていいんだ……!」


 兵士たちが涙を流して抱き合い、「ルディ様万歳! 女帝陛下万歳!」と絶叫する光景を見下ろしながら、ルディは心の中で特大のガッツポーズをキメた。


(よっしゃあああ!! カストル帝国の完全子会社化(M&A)、100%成功! これで俺の有給ライフを脅かす最大の軍事ハザードは消滅し、莫大な労働力と資産が手に入ったぞ!)


 だが、優秀な安全管理者の脳内スプレッドシートは、すでに次なる「ボトルネック」を検知していた。


「テレーゼ」


 ルディが声をかけると、丸眼鏡の美しい財務主任が静かに歩み寄った。


「はい、若君様」


「帝国が新たな生産拠点として稼働し始めれば、膨大な物資が生まれる。だが、それを大陸全土に流通させるには、現在の陸路だけでは限界がある。このまま物流量が増えればすぐにオーバーフローを起こし、過積載の馬車が重大な交通事故(物流ハザード)を引き起こすぞ」


「おっしゃる通りです。これほどの物資を捌くには、今の街道だけではいずれ麻痺してしまいますわ」


 テレーゼは真剣な表情で頷いた。


「だからこそ、次なるインフラ構築だ。……これより、南方の大河から海へと通じる『巨大水上プラットフォーム(港湾物流施設)』の建設プロジェクトをキックオフする!」


 ルディの宣言に、周囲の幹部たちが息を呑む。


「だが、水上作業は陸上とは次元の違う危険が伴う。最大のハザードは『転落による溺死』だ。全作業員に『ライフジャケット(救命胴衣)』の着用を完全義務化し、流体力学に基づいた絶対に転覆しない作業船を設計する。水上作業の新たな安全基準の策定を急ぐぞ!」


「はっ! 直ちに職人たちを集め、船の建造と資材の調達に取り掛からせます! 安全第一、ヨシ!!」


 ヴォルフガングが力強く黄色いヘルメットを被り直し、胸を叩いて敬礼した。


 ◇ ◇ ◇


 一方その頃。


 カストル帝国の崩壊と、バウムガルト陣営の急激な勢力拡大の報は、東のもう一つの超大国――『オルテンシア王国』の王宮にも届いていた。


 王宮の最深部、色とりどりの薔薇が咲き乱れる温室のバルコニー。


 優雅なティーカップを傾けながら、冷たい、しかし知性に満ちた瞳で報告書を睨みつけていたのは、オルテンシア王国の第一王女、フィオナ・フォン・オルテンシア(二十歳)であった。


 かつて、国境の遭遇戦でルディに軽騎兵部隊を泥濘の罠(コンパクション逆用)で全滅させられたオルテンシア王国。その裏で密かに糸を引いていたのは、高度な風水魔術を操り、権謀術数に長けたこの第一王女であった。


「信じられませんわね。恐怖で統治されていたあの帝国が、バウムガルトの少年にいとも容易く降伏するなど。それも、休息や食事(福利厚生)を与えられただけで……」


 フィオナは長い銀髪を揺らしながら、冷酷な笑みを浮かべた。


「これ以上、彼に好き勝手をさせれば、我がオルテンシアは完全に孤立し、国力が衰退してしまいます。……聞けば、彼は南方の水域に、巨大な物流の拠点を建設しようとしているとか」


「はっ。密偵の報告によれば、大河の河口に大規模な港を築く準備を進めているとのことです」


 傍らに控える騎士の言葉に、フィオナは妖艶に唇を舐めた。


「よろしい。水軍を海賊に偽装させ、その建設現場を襲わせなさい。大地の魔術を得意とする彼であっても、足場の不安定な水の上では勝手が違うはずです」


 フィオナは手にしたティーカップを静かにテーブルに置いた。


「私の風水魔術で嵐を呼び、波を操って、彼の現場とやらを冷たい海の底へと沈めて差し上げますわ。……そして、あの生意気な少年の首を、私の足元に跪かせてあげる」


 オルテンシア第一王女による、水上の物流ルートを巡る陰謀。


 ルディの有給ライフを守るための「水難ハザード完全防除」と、王女の野望が激突する【第九章:水上プラットフォーム編】の激波が、今、静かにうねりを上げ始めていた。




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