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第10話 理想の偽物の聖女

 国のためとはいえ、偽物の聖女となり、聖女様の力を使い、知らなかったとはいえ男性恐怖症を経験している彼女たちに手伝ってもらった。

 私は利用しただけ。何も聖女様を自由にするためのことなんて何もしていない。


「私が説明しましょう」


 困惑する私に、神父が穏やかな声で説明をしてくれた。



 聖女の存在は知られていないとはいえ、癒しの力が漏れ出れば誰かに気づかれる可能性は常にありました。

 王国内の食糧難を大っぴらに改善しようものなら目をつけられます。

 アッフェル侯爵家の領地から離れた所から徐々に改善しようにも、現地に行くか、癒しの力を込めた薬瓶を土に撒いてもらう必要がありました。それではどこで誰が目をつけるかわかったものではありません。出所を探られでもしたらすぐに知られてしまいます。

 孤児院のみなさんは聖女様の事を知っているとはいえ、もし貴族や王族に疑われでもしたら上手く誤魔化せるかも不安ですし。困ったものです。

 私が頭を悩ませているとき、まだ四歳のデイジーがある提案をしてくれたのです。


「あたしがせいじょさまになってあげる! そしたらみんなこわいかおしないでしょ?」


 きっと教会に来た方々の食糧難の話を、アッフェル侯爵との会話を、みなさん聞いていたのでしょう。だから孤児院の空気は少し暗かったのです。

 私はデイジーに諭しました。


「聖女というものは、誰かに押し付けていいものではないのです。聖女だというだけで、ありとあらゆる悪い人が寄ってきて、デイジーに嫌なことをしてくるかもしれません」


 これは先代聖女の件を知っているからこその言葉でした。

 デイジーはまだ幼いながらに間違ったと判断してくれました。



「でもデイジーの提案は良いものではないでしょうか?」



 夕食時の全員が集まる場で、一日の報告がてら軽くみなさんに話したところ、最年長のダリアが賛同したのです。いくら自分の娘の提案だからと何でもまず肯定するのはいかがなものかと苦言を呈す前に、他にもロザリーやリリーも賛同してきました。

「そのままデイジーや孤児院の誰かを聖女様の身代わりにするんじゃなくて、こことは関係ない人が聖女だって言ってくれたら良いですよね」

「なんなら王族の誰かがなってくださったら楽──いや好都合ですね。それかアッフェル侯爵の権力がとどく範囲の女性とか!」

 具体的な例を考えて盛り上がり始める彼女たちを止めるのは一苦労です。

 いつの間にやらマーガレットもフローラも混ざり、みなさんでもしも誰かが聖女の代わりをしてくれたなら、という話題に花を咲かせてしまいました。


「聖女様はどう思いますか?」


 普段は聖女と呼ぶことを禁止していましたが、この時の私は咎めませんでした。

 もしもの話をしている時くらい、普段は隠している本音を出して欲しかったからです。





「そんな話してたのか、お前ら」

 神父の話を遮るアッフェル侯爵に、ジャスミンが口を尖らせた。

「だってずっと隠れているんですから少しくらい夢見たっていいじゃないですか」

「いやそういうことではなく……」

「侯爵様にお話したらなんでも権力で解決しようとしますからね」

「おんなごころがわかってないってやつ?」

 ジャスミンに続いてロザリーとデイジーの言葉が胸に刺さったのか、アッフェル侯爵は何も言い返せずに項垂れた。

 私は、なんとなくアッフェル侯爵の言いたいことがわかる。けれど彼女たちが求めているのはそういうことではない。

 アッフェル侯爵がその気になれば、私でなくても偽物の聖女は用意できる。だけど王族の問題に切り込むには時間がかかりすぎる。


 それならば、第二王女()は本当にちょうどいい、彼女たちの理想の偽物の聖女だった。


 彼女たちがアッフェル侯爵に物怖じせずに文句を言うのは、きっと今まで聖女様が溜めこんでいた小さな我慢の積み重ね。その代弁だ。

 神父様も彼女たちを咎めることなく笑ってみているだけ。きっと聖女様は我慢することに慣れすぎている。アッフェル侯爵も理解しているから黙って受け止めているのかもしれない。


 私も似たような時期があった。王位継承権が無ければ発言力も持たない、ただの第二王女(政治の道具)でしかないと自覚していた頃、あの時の私に彼女たちのような友人がいたら、私は今の聖女様のように穏やかな笑みを浮かべられたかしら。


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