第七十三話 呼び出されました
偉い人からの呼び出し。
そう聞いて少しばかり身構えてしまったが直接この辺境区のトップと、という話ではなかった。
領主さんの関係者が盗賊を捕らえた冒険者に興味を持ったらしく。
どんな人物なのか会ってみたいという事のようだった。
もしかしてガルゲンの屋敷を瓦礫の山にした事がバレたのか、なんて思ったりしたのだが。
どうもそうではかったようだ。
そういえばトーリィには異相結界の事を話したからカイウスさんにはバレるなー。
まあ、あの人の場合はやり方の見当がつかなかっただけで、オレがやったんじゃないかって確信してるような感じがするが。
「しかし、ようやく顔を見る事が出来たな。お前さんがカイウスの言っていた、ちょっと変わった青年か」
そう言って口の端を僅かに上げて、面白いものでも見るかのような視線をオレに向ける人物。
このギルドの最高責任者であるギルド長その人である。
ジェンに連れられて二階の資料室の更に奥。
ギルド長の執務室に入ると無精ひげを生やした歴戦の戦士を思わせる体躯と、精悍な顔つきの中年男性がいた。
挨拶もそこそこに簡単な事情説明がジェンの口から成され、その後の会話の第一声が先程のもの。
「カイウスさんとはお知り合いで?」
「まあ昔から色々あってな。今は商業ギルドの関連で良く顔を合わせる。そこでお前さんの事も聞かされたわけだ。それに、お嬢ちゃんの事もな」
執務机の向こうに座るギルド長に関係性を尋ねたら、リナリーの情報もあるぞと返されてしまった。
おれの背後を覗き込むような姿勢で発せられたギルド長の言葉に、フードの中身がガサっと動いた。
オレ越しに顔半分だけ出して様子を伺っていたようだが首を引っ込めたらしい。
「そんなに警戒されるとおじさん傷ついちゃうなー。伝説の存在である妖精が目の前にいたからって食いつきゃしないって。情報も漏らしちゃあいないから安心してくれ」
「えっ!? 妖精ッ!?」
おや? ジェンには言ってなかったか?
……もしかして、あとで詳しく話すと言ってそれっきりだったか?
悪かったとは思うが、この機会がそれって事で。
オレのそんな内心の呟きが聞こえたかのようにジェンが不機嫌そうな表情に。
「む~。遅すぎますって」
「いやまあ。悪かったって」
ぷう、と頬を膨らませて横目でこちらを睨むジェンに一応ながら謝っておく。
しかしそういう顔をするとますます小動物っぽい。
リスか何かかな? 何この和む生き物。
「なに和んでるんですか……」
またタレ目で睨まれてしまった。
「ジェニスラッテから面白そうな冒険者がいるとは聞いていたが、同一人物だと判明したのがつい最近でな。この娘が専属みたいに独占してる冒険者がいるって職員の間では噂になってるぞ」
「ロ、ロガットギルド長!」
「ログアットだ。何回言っても直らんな」
「もう! どっちでもいいですよ、そんなの……。独占しているわけじゃありませんから! た、たまたまタイミングが重なっているだけで……」
ギルド長はログアットと言うらしい。
しかしどうも二人の雰囲気が親しい間柄というかなんというか。親戚のおじさんとの遣り取りを見ているような、そんな気易さを感じさせる。
「タイミングねえ……くっく。しかし仮にも一組織の長をそんなのとかいうかね、この娘は。まあとにかくだ。今は話を進めるとしよう」
「わ、わかりました」
何処か納得いかない様子のジェンだが、そう切り出されては応じるしかないようだ。
もうちょっとこの二人の会話を聞いていたい気もするが。
「近々お前さんにはアラズナン家の関係者と会ってもらう事になる。ああ、アラズナン家とはこのカザック周辺を治める辺境伯家の事だぞ?」
何処のどちら様? といった表情をジェンに向けた事で、すぐに察して補足してくれたようだ。
無知なもんで、すみません。
「いつなら都合が付きそうだ?」
「明日でも構わんのですけど。しかし普通こういうのは……」
「普通はな。本来なら一介の冒険者の都合など聞かん。相手は貴族だ。『何日の何時までに指定された場所に来い』で終わる話だ。だがお前さんは目を離すとフラフラといなくなるそうじゃないか。今だって、やっと捕まったような状態だぞ? それにな。何処からとは敢えて言わんが、お前さんは自由にさせておけとの通達が出ていてな。異例中の異例だ」
「悪い大人の色んな思惑が透けて見える……」
「明らかに一人で、いや二人だったか? 死の牙なんか狩ってきた影響だろう。ほっといても何かに首を突っ込むんじゃないかという期待と、そんなのを縛っておけるかっていう本音が聞こえてきそうな話だな」
ニヤリと人の悪そうな表情でクツクツと笑うログアットギルド長。
どこからそんな御触れが出ているのか、あんまり考えたくないなあ。
「まあそんな中、ジェンがとっ捕まえてきてくれたからにはオレもイヤでも仕事をせんとな。で、本当に明日でも構わんのか?」
「差し迫った問題もないので大丈夫かと」
「では明日の10時だ。こういうのは早いに越した事は無い。ん? こっちで勝手に決めていいのかって顔してるな」
「いいんですか?」
「時間は最初から指定されていて、あとは日取りだけだったんだよ。ククッ、余程会いたいらしいぞ?」
不安になるような表情で言わないでくれますかね?
この人、絶対面白がってるよな。
といったオレの心情など、さらっと無視して今度は色々とある疑問点に対しての説明がされた。
時間は了解したが場所は? とか。
聞けばどうも、こういう時に使われる専用の屋敷があるらしい。
要は別館だという話。
いくらアラズナン家の関係者との面会とはいえ、いきなり辺境伯本人のいる邸宅になんて事にはならないだろうし、そのほうが何かと都合がいいんだろう。
警備上の手間や経費を考えてかな? ぶっちゃけコスト的にはそっちのほうが安上がりと予想。
「ああ、あとひとつ。いきなり本人だけ行かせるのは、先方とこちらにお互い余計な手間が増えかねんからな。ギルドの職員が同行する事になる。ジェニスラッテ、頼むぞ」
「わ、わたしですかッ!?」
「他に誰がいる」
「あー、うー……そうでした……」
この人選も妥当なものだろう。
正直、他の職員さんとは全然と言っていいほど交流がない。
待ち合わせの初めましてから更に自分の証明をしなきゃなんて事になりかねない。
それならそれで、その時はギルドから同行すればいいという話だが。
ジェンとしては相手が貴族の関係者という事で緊張しているのかもしれない。
「屋敷の場所は彼女が知っているから、適当に待ち合わせて向かってくれ。くれぐれも時間通りにな。職員証も忘れるなよ?」
「子供じゃないです!」
子供というには随分と攻撃的な身体つきだと思うが、全体的にコンパクトだからなジェンは。
などと要らん事を考えていると。不満をぶつけるようにジェンが「でもこういう場合はギルド長が同席するんじゃないんですか?」と尋ねた。
自分に押し付けられたのではないかと疑っているような、そんな表情で。
「俺は別件でいろいろと動かなきゃならんからな。俺でなくても平気な仕事なら任せるさ。特に今回は若い娘のほうが都合がいいだろう。一緒にいる者次第で本人の印象が変わる場合もある。オッサンが隣にいたんじゃ絵にならんどころか暑苦しいだけだ」
「まあ確かに。ギルド長はむさいですからね」
「むさいは余計だ。くどいようだが俺はやる事が山盛りだ。て事で明日は頼むぞ」
そう含みのありそうな視線と台詞を最後にギルド長は執務室を後にした。
なんというか大事にならなくて良かった。
いやまあ、大事にならないかは明日次第なんだが。
オレたちも続き執務室を後にする。
「て事で明日は頼むぞ。ジェン」
「同じ台詞なのに、こうも違って聞こえるのは若さの違いですかね? それとも見た目の清潔感?」
「毒が濃いなー、今日のジェンは」
と若干戸惑いつつも、こんな一面もあるんだなと感じていると遠くから「聞こえてるぞー!」とログアットさんの声が。
相当離れていたはずなのにリアクションがあるとはかなりの地獄耳。
それはそうと、この事も一応キアラたちにも言っておくべきだろう。
貴族と少なからず接触を持つというなら、リアの事で何か影響がないとも言い切れないからな。
解体所も寄っていこうかと思っていたが、白のトクサルテの拠点に向かうのに、ちょうどいい時間になっていた。
「今度、ちゃんと紹介してくださいね」
ギルドからの去り際のジェンからの一言だったが。
えーっと……ああ。リナリーの事か。
一瞬リアの事かとドキっとした。
ジェンにも何か手がかりがないか協力してもらったほうがいいんだろうか。
その辺りの事も含めてキアラたちに確認も必要かね。
~~~~
「随分といきなりな展開だニャ」
「そう? いずれはこうなるような気がしたけど。でも確かに、街に戻ってすぐとは思わなかったかな」
白のトクサルテの拠点。
そこそこ大きな一軒家の一室でキアラとカイナが、オレからギルドでの出来事を聞いて漏らした感想だ。
「でもこれは、ある意味好都合なのでは? 身分の高い方達と接触が持てるというのは、そうそうないですよ?」
「普通は無理。こっちからの希望なんてまず通らない」
イルサーナもウルも、この機会は生かすべきだという意見で一致している。
当然の事のようにリアの事を念頭に置いての会話だ。
というかオレが何も言ってないのに、話が通るのは楽でいい。
オレとしても今後どう動くかの方針を相談しようと思っていたので話が早くて助かる。
この場にはリアも同席している。
宿に残すのも不憫だし、何より兄妹の設定で拠点を訪問するという手が使えるという事に気が付いて試したくなったのだ。
今のオレとリアは髪の色を明るめの茶髪で揃えて、兄妹でもおかしくない見た目にしている。
今回それを活用して、妹が白のトクサルテのメンバーと仲良くなったので家に遊びにきた、という体だ。オレはその付き添い。リナリーとサイールーはそのまた付き添い。
ラキはちょこちょことオレたち二人の間を動き回って散歩の演出に一役かっている。
一応はあまり人目に付かない道を使ってここまで来た。
その際にリナリーとサイールーに拠点の場所を上から確認してもらったりしていたのだ。
ちなみにリナリーとサイールーは何故かまだフクロウの格好。
意外と便利だという事に気が付いたらしい。
多少珍しいが街中に居てもあり得なくはないという事のようで、比較的自由に飛び回れると分かったからだ。
話を戻そう。
今の会話を聞いてどう思うのか。視線で問うとリアが戸惑ったように口を開いた。
「そう、ですね……。正直に申しますと、こんなに早くその機会が訪れるとは思いませんでした……ですが……」
ここにいる全員が、リアが貴族の関係者と接触する機会を持とうとしているのは何となく察していた。
しかしその方法には問題が山積みだった事は否定出来ない。
何か決定的な身分の証明なり本人を確認する方法があれば、それでもって貴族への取り次ぎも可能だったかもしれない。
だが、今現在リアはほとんど着の身着のままである。
オレが持たせた道具とその小物入れ以外、自分が何者であるかを対外的に証明するものを何も持っていない。
強いて挙げるなら、その容貌が証明になる可能性もあるのだが、接触をもった相手がリアの容姿を知っている前提になるので、これまた難しい。
逆に知らない事を逆手に取って、何々家のイツィーリアですと宣言して相手の興味を引き、面会を取り付けるという方法もないわけではない。だが騙りと断ぜられた上で拘束や監禁なんて事になったら問題が大きくなりすぎる。
『大きくするのはイズミでしょう?』
そりゃあ助けに行くからな。
相手次第だが二度と同じ事が出来ないようにはするつもりはある。
でもリナリーだって反対はしないだろ?
『リアちゃんが、それもいいかもって顔してるわよ?』
『な、なんの事でしょう……?』
サイールーに突っ込まれてリアが頬を僅かに赤らめさせていた。
冷や汗をかきつつ笑みの表情で目を逸らす。
その表情に何かリナリーがピンときたらしい。
なんだろう。オレにはリアが何を考えてたのか、ちょっとピンとこない。
『イズミなら確実に身の安全を保障してくれるから、わざと捕まってそこから何かどうにか出来ないかって考えてたんじゃない? あとイズミにまた助けて欲しいって思ったとか』
『女の子は憧れるからねー、そういうの』
そんな事考えてたのか?
『ほ、ほんの一瞬です!』
『……そうなったら毛ほども傷つけさせるつもりはないけど……それでも自分から危険に飛び込むなんてのはちょっと賛成出来ないが……』
『……はい、すみません。でもありがとうございます』
うっ……この年頃の女の子の気持ちの変化についていけない……。
しょぼんとしたと思ったら、すぐに顔を上げ嬉しそうな笑顔で礼を言われてしまった。
しかし、わざと捕まるとかアグレッシブだな。
この娘は意外とお転婆なのかなー……。
そんなパン色の犬での遣り取りを思い出していたが、可能性としてはゼロではないだろう。
面会に漕ぎ付けたはいいが、リアの美貌を目の当たりにして邪な気持ちを抱くものが居ないとも限らない。
ここにはそんな少女など来なかったとシラを切って監禁とか。
どうにも貴族の悪事というと、そんな事が浮かんでしまう。
という懸念がオレの中にあった事もキアラたちとの会話の中で話題に上った。
そういった事は在り得るのかどうかの確認も兼ねて話を振ってみたのだ。
ここで言われるとは思っていなかったのか、リアはちょっと恥ずかしそう。
「リアっちの意外な攻めの姿勢ニャ」
「女の子には憧れのシチュエーションですからねえ。若い騎士に窮地を救っていただく……いいですよねえ……」
キアラの意外そうな顔とは対照的な、分かるとでも言わんばかりの表情でしみじみと頷くイルサーナ。
こっちの世界でも、そういうのが憧れになるのか。
逆に死が割と身近だからこそ憧れになるのかな?
「騎士というには野性に馴染み過ぎてる。イズミンの場合、要救助者が無事なら他は根こそぎ吹き飛ばすとかしそう」
そこで「ああー……」とか、ウルの言った事に全員が納得するような事、オレしてないと思うんだけど。
「まあ私は既に抱っこ付きで救ってもらいましたがね。道具も使い方次第で気持ちがいいという事がわかりましたし」
「誤解を招くような事を言うな!」
何気にお姫様抱っこをオプションみたいに言ったぞ。なんのプレイか。
手を腰に得意気にその大きめの胸を逸らし、どっちを自慢したいのか分からないような姿勢。
しかしまた余計な事を言い出しそうだなイルサーナは。
「えっ? アドバイスをもらった道具が思いのほか快適に使えた事を言ったんですけど。おやあ……イズミさんは何について言ってるんですかね」
このやろう。分かってて言ってるな?
乙女にあるまじきS顔。
と思ったら、いきなりのゆるみ顔。
「……そうですね。ハンマーを使って身体を刺激するなんて私も初めての経験でした。身体が痺れるような、とはあの事だったんですね。イズミさんももっとまさぐっておけば良かったと、さぞ印象深かったんでしょうねえ……」
「えるせえよッ! それ以上誤解を招くような事言うと本当に道具でいじり倒すぞ! 言っておくが、ここにいる誰もが思い付かないような道具でだからなッ!」
日本の性産業の真価を知れ。
そして高校生の情報収集力に恐れ戦け。
「「「「え……」」」」
なんでリア以外の全員が興味ありそうな顔してんだ……。
くそ、これもオレの体質のせいなのか? どう考えても素でこの反応のような気がしてならない。
リアはといえば、何となくは理解してるのか、ちょっとだけ恥ずかしそうに顔を逸らしている。
サイールーは小声で「あれをついに……ッ!?」とか言ってるけど作らないからな。
リナリーはリナリーで顔を赤くしてるって事はサイールーから情報が流れてるなこれは。個人的に興味があるだけだって言ってたのに。
道具関係の情報交換でサイールーにせっつかれて、そっち方面の情報を渡したのを今はちょっと後悔してる。
「ったく、ほんっとに教育に悪い……。冗談も程ほどにしないと話が進まないぞ」
「いやあ、あははは。悪ノリが過ぎましたねー」
「イルサーナのあれは単なる生き倒れだしな」
「そこは忘れてください」
すまし顔で言うイルサーナにカイナがニヤニヤした表情を向けている。
「女の子として扱われたのがよっぽど嬉しかったみたいだから、引っ張る気持ちはわかるかなー。照れ隠しって事も」
我関せずで部屋の中を探索していたラキを抱き上げ、その行為に意味があるような動きをして見せるカイナ。
そういう事か。体質のせいで異性と積極的に触れ合おうとはしなかったと言っていたな。
……そこでそっぽ向きながら顔を赤らめるなよイルサーナ。
オレまで赤面しそうになるだろ。
「ん~、でもわざと誘拐の的になるって実際どうなのかな?」
ラキを床に戻したカイナがここで話の軌道修正をすべく、リアの思い付きが有効かどうかを検証するかのように全員に向け尋ねた。
「それもひとつの手かもしれないニャ。ん~、だけどそういう悪い噂は、ここの領主様からは聞かないからニャー」
「ですねえ。しかし領主様にそういった話がなくても、末端までしつけが行き届いているかは不明ですから、警戒はしておいても損はないとは思いますが」
キアラとイルサーナがそれぞれの所見を述べるが領主一族に悪い噂が無いというのは一致しているようだ。
それでも気になりだしたら止まらないのがオレの悪いクセ。
この国がどういった支配体制を敷いているのか詳しくは知らないが、組織というのは大きくなればなるほど目が行き届かなくなる。
「たぶん今回の面会の話の出処としてはアラズナン家の情報収集専門の家じゃない? そこがギルドに働きかけたんだと思うよ。何処の家が来るかは分からないけど、それほど無茶をするような事はないはず。でもそれ以前に指名されたのはイズミンなんだよねえ……」
「おそらく同行者はジェン以外は認められない」
カイナの多少の推測を交えた見解に、ウルが同意するように言葉を引き継いだ。
否定出来ない二人の意見にオレとしてはどうしたものかという思いが込み上げてくる。
リアが躊躇っていた理由が、ここに集約されている。
「だよなあ。ギルド長の口ぶりからするとリナリーと一緒なのが前提っぽいしな。というかむしろそっちがメインか? だとすると他の同行者は余計に難しい、か?」
「あの……私は無理にこの機会でなくても良いと思ってます。他にも何か方法があるはずです。それよりも相手の出方に注意するべきでしょう。何か無理難題を持ちかけられる可能性もないとは言い切れませんから」
そうは言ってもリアにとってはまたと無いチャンスのはず。
なんとか生かしてやりたいんだが。
「確かに力で解決出来ないような事に巻き込まれると厄介だからな……。荒事なら手段を選ばなくていいから楽なのに……」
「普通は荒事を警戒するのにニャ」
「ふーむ。リアはああ言ったけど、こちらから機会を放棄するのは最後の最後だな。何処に何が転がってるか分からん。何か隙間がないか働きかけてみるつもりだ」
「ありがとうございます!」
「って事で何か良い案がないかみんなで検討したいんだが、とりあえずメシにしないか? 頭にも栄養補給しないと駄策かネタしか出てこない」
取り合えず剣術指南役とか魔法の家庭教師とかで潜り込めないか、そんなのぐらいしか出てこないわ。
「ネタが出てくるのはイズミンだけ」
ウルの台詞にみんなが頷く。
そういう時こそネタにしかならないような事が浮かんできたりしない? 違うの?
オレがそんな顔をしていたせいか分からないが、さっさとご飯にしようという空気になり皆が動き出す。
しかしここで空気を読まない者が。
「ねえイズミ」
「ん? どうしたサイールー」
「大人なグッズっていつ作るの?」
「ルー姉さん!」
一瞬何を言ってるのか分からなかった。
しかしリナリーがフクロウの翼をわちゃわちゃとバタつかせた事でハッと我に返った。
「作らねえよ! 話聞いてたかッ!?」
「ええー。作らないとは一言も言わなかったじゃない」
そうだった。考えはしたが言葉にはしてなかった。
サイールーには視線でそう諭したはずなのに無かった事になってる。
「確かに一番儲かるだろうが作らんぞ」
聞いてないフリして全員で肩を落とすな!
いや、リアだけは微妙に恥ずかしげにしているが賢明にラキをさすって聞かなかった事にしたようだ。
なんかこの家に来て、リアは赤面してばっかだな。
本当に教育によくない。
関係ないけど、ラキが意外と便利な使われ方をしてたな。
~~~~
有効な策が決まらないまま会見に臨む日になってしまった。
というか色々と考えても結局は向こうの出方次第という事で、対策の取りようがないと。
そりゃそうだ。
で、今はこうしてジェンとその屋敷に向かっているわけだが。
「緊張します……」
「ジェンはこういうのは初めてなのか? 場所は知ってたみたいだけど」
「前に何度かギルド長についてお屋敷に伺った事はあります。でもその時は控え室で待っているだけで良かったので。そのお屋敷を管理する方との顔繋ぎのようなものだったのではと」
なるほどなー。
うちにはこういう職員がいるから一応ヨロシクね。みたいな感じで連れていったのかな?
「今回は私も同席するという事なので、何かしでかしてしまったらと思うと……。イズミさんは緊張していないんですか?」
「それなりに緊張はしてるけど、一人じゃないからそれほどでもないかな」
「リナリーさん、でしたっけ」
白い大きなフクロウに目を向けるジェン。
するとリナリーは『えっ、私?』とでも言うように肩に乗ったままオレの顔を見た。
「リナリーもだけど、ジェンも一緒だからだよ。だから緊張が和らいでる」
「そ、そうなんですか? ……そうなんですか……えへへ」
自分の存在が何かの助けになっている。
その事がジェン自身の気持ちを楽にする切っ掛けにもなったようだ。
ちなみにジェンにはリナリーという妖精の少女がフクロウに扮しているとちゃんと伝えてある。
一瞬だがフクロウの口をガバッと開いて顔見せも済ませた。
人通りはほとんどなかったが、往来という事もあり極力反応を抑えてくれと注意喚起をした上で。
声は漏らさないように我慢していた代わりに、目を皿のようにして、かなり驚いていたようだが。
「あっ、あそこです」
しばらく歩くと目的の場所がすぐそこだとジェンが告げる。
閑静な住宅街の一画にその屋敷はあった。
建物の雰囲気としてはこの街でよく見る、割とお高めの物件といった感じのもの。
門の前まで来ると屋敷の入り口が見えるが警備の類の人間が立っている様子はない。
門が開いてるって事は普通に建物まで行って良いって事だよな。
「うー……そうはいっても緊張しますね……」
ドアノッカーの前まで来て素直に心情を吐露するジェン。
オレも少しは緊張してきたけど、警備の気配の消し方が気になるせいか自分でもそれほど緊張してはいないのが分かる。
この気配の消し方が何かに似てると思ったが、あれだ。
ラキが修行場所の周囲で気配を消していた時の感じに似ているんだ。
ギリギリ何者かがいるのはなんとなく分かるが、特定出来るような情報を漏らさないといった気配の消し方だ。
ラキはリアとサイールーと一緒に白のトクサルテの拠点に留守番だけど、何かお土産買っていったほうがいいかな?
オレがそんな事を考えてるのを他所に、意を決したようにジェンがノッカーでドアを叩く。
するとドアの向こうで待ち構えていたかのように扉が開いた。
「お待ちしておりました」
現れたのは五十代後半といった感じの細身の男性。
穏やかな笑顔で出迎えてくれたこの人が、この屋敷を管理してるのかな?
「ご無沙汰しております。本日面会をご希望成された冒険者イズミ殿の案内と、同行を任命されたギルド職員のジェニスラッテです」
「お話は伺っております。主がお待ちです。――こちらへ」
職員証が必要無かったように見受けられたが、お互いが顔を覚えていたという事でこの場での無粋な遣り取りよりは面会を優先したという事だろうか。
ずいぶんとあっさりした受け答えで、驚くほどすんなりと通された。
肩に止まったリナリーの事をあまり気にしていない様子からも、その辺りを承知しているのか。
応接用の部屋らしき前。そこで男性が立ち止まりドアを二回、軽く叩く。
「御招待された冒険者の方がお見えです」
「どうぞ」
聞こえてきたのは女性の声。
その事に僅かに驚くオレとジェンだったが、その共感を確認する前に扉が開かれた。
案内の男性に促され部屋へと歩みを進めると。
大きな窓の前に後姿の女性が立っていた。
逆光で際立つ、緩くウェーブのかかった明るい金の髪。
横を残し、残りを後ろに束ねている。
しかし後ろ姿だったのは一瞬の事で、すぐにこちらに振り向いた。
「初めまして。ギルド職員のジェニスラッテさん。それに冒険者のイズミさんですね。それと……」
若い女性、というより少女だった。
少女と言うには大人びているが、それでもオレと同年代くらいだろう。
柔らかな笑みで語りかけるその顔は凛とした雰囲気も併せ持った表情だった。
意外と言っては失礼かも知れないが、白の猛禽姿のリナリーに目を向けるも、いきなりそれを問い質すという事はしなかった。
『ん』と小さな咳払いの後、表情を僅かに引き締め。
「私はアラズナン家が長女。シュティーナ・アラズナンです」
わおっ。
予想以上の大物が出てきた。




