第七十二話 パン色の犬に戻って
「いらっしゃいませー! ってあら? イズミくんどうしたの? しばらくは街を空けるって言ってなかった? ひと月も経ってないけど」
「いやまあ。ちょこっと事情が変わったというか」
「そうなの? っと、そちらはもしかして妹さん?」
「へっ? ああ、ミミエさんにはそう見えるんだ」
同じ黒髪の系統という事でミミエさんには血縁者に見えたらしい。
ここに来るまでは金髪に近い色に変えていたが、ミミエさんには素の状態のリアを見せたほうがいいと思い入る直前で色を戻してもらったのだ。
深い理由はないが、ワケありを受け入れると謳っているくらいだから保護のような事もしているはず。
ならば、とりあえず素の状態は把握して貰っておいたほうがいいと考えたわけだ。
髪の色を変えられるのは後で伝えればいい。
とはいえコロコロと色を変えたら、この状態で紹介してもあんまり意味はなさそうだけど。
しかしミミエさんの力を借りる事だってあるかもしれないという可能性を排除出来ないとなれば全くの無駄でははいはず。
念の為というヤツだ。
ま、それ以前の話として、これだけの美少女をそうそう見間違えるとは思えないがね。
「でも良く見ると違うのが分かると思うけど。このコのほうが上品な顔立ちで目の色も違う。薄紫っぽい色でキレイだ。オレの「濁った色とは違うよね」面白みのない、って誰が死んだ魚のような目だ」
「そこまでは言ってないもん」
「あははは。相変わらずね二人とも。……ということは、もしかして増えたの?」
食い気味どころかしっかり被せてきたなリナリー。
オレが言い終わるまで我慢しなくなってきたな。
スミレのような色だと説明しようとしたのに。
しかし、まだ何も説明してないのに察したミミエさんもすごい。
というか両肩に乗ってればイヤでも分かるかー。
「白いフクロウからリナリーちゃんの声が聞こえたって事は、そういう事だよね?」
気のせいではなく驚きの中に若干だが呆れたような感情が混じっている。
ちょっと目を離した隙に何故増える、と顔に出てる。
「なんというか、色々と事情があって増えたんだ。後で紹介したいけど……部屋って空いてる?」
「ええ、以前にイズミ君が使っていた部屋が開いてるわよ。ああ、二人部屋のほうがいいのかな?」
「いやいやいや。そういうワケにはいかんでしょう。リアは年頃ですぜ」
「あははっ! イズミくん言葉遣いがおかしくなってるよ。そっか、そのコはリアちゃんっていうんだ。初めまして、私はこの宿で働くミミエって言います。よろしくね」
「初めましてミミエさん。私はイツィーリアと申します。唐突な来訪でご迷惑とは存じますが、何卒宜しくお願いします」
お手本にでも出来そうなお辞儀で言葉を締めくくったリア。
その所作を見てミミエさんが僅かに驚いている。
しかし硬いな。言い回しもだし、表情もだ。初対面でちょっと緊張してる?
いや、リアにしてみれば何処の誰とも分からない相手なんだから、いくらオレが信用出来ると言った所で警戒するなというほうが無理か。
おや。今の遣り取りで何か感じたらしい。
何かに引っかかりを覚えたと、ミミエさんの表情がそう物語ってる。
「……何処で誑かしてきたのかなー、イズミくんは。こんな可愛らしいお嬢さんを」
「ミミエさんまで、そんな人聞きの悪い事を。何もありませんって」
「ふふっ、冗談よ。でも部屋割りは本当にどうするの? 何かあった時に近くに居たほうが何かと安心出来ると思うのだけど?」
既にワケありという前提で話が進んでいるのが、さすがというか。
そりゃそうだ。冒険者と育ちの良さそうな若い娘の組み合わせならミミエさんだったら、そう考えても不思議じゃない。
普通の宿だったら怪しまれて通報案件かもしれん。
まあその場合でもリアが嫌がってないから、いくらでも言いようはあるだろうけど。
「あの! 私はイズミさんと同じ部屋で構いません。現状、私には返せるものが御座いません。ならばせめて……」
ミミエさん。何を顔を赤らめて「ほう……もしや身体で……」とか言ってんの。
しっかり聞こえてんだけど。
子供にそんな事させるわけないでしょうよ。
まあリアが気にしてるのはこっちだろう。
「宿代の事なら心配しなくていいぞ?」
「そこまでご迷惑をお掛けするわけには……」
「リアが思ってるより金持ってるんだけどなオレ。それにな。一応だがオレの裸を晒すわけにはいかないってのもある」
「あっ……そうでした……」
「んん? 裸って何の話? すごく気になるんだけど」
脈絡なく裸って単語が出てくれば、さすがに怪しい話に慣れてそうなミミエさんでも何事かと思うわな。
「……それも後で説明するんで部屋のほうを先に何とか」
「そう? じゃあ……続き部屋でどうかな? 完全な同室という事にはならないし、完全な別室にもならないから、それなら双方がそこそこ納得出来る落しどころだと思うけど、どう?」
「じゃあ、そこを取りあえず一週間で。あ、あと実はこっちのほうが聞きにくい事なんだけど……」
もう一人の同行者の事を確認しないといけない。
胸元の下あたりまでファスナーを下ろすと眠そうな顔をしたラキが顔を出した。
「わっ、わっ! かわいいっ! 何このコ!」
「この子犬も一緒ってのは……」
「全然、構わないわよ! そのかわり私にも抱かせて!」
あれ、なんかラキの身柄を売ったような感じで承諾を取ったみたいになっちゃったよ。
まあいいか。犬はちょっと、とか言われたらどうしようかと思ったからそれよりは。
そいえば鳥だって、何故かイメージ的に無条件で大丈夫だろうとか思い込んでたけど、本来なら聞かなきゃダメだよな。
「まっ白でかわいいコねー。鼻がピンクでかわいい!」
どうやら本当に問題ないみたいだ。
ミミエさんはかわいいもの好き? それとも単なる犬好き?
抱きあげてラキの感触を堪能してる顔が、すごい満足気だからどっちでもいいか。
やはり二足歩行のニセモノのラキとはワケが違うな。
というわけで当初の予定通り、パン色の犬にみんなで滞在する事に。
ふう。どうにか満足いく形で拠点を確保出来てよかった。
~~~~
「結構広いな。じゃあ、こっちの大きい部屋は女性陣で、あっちの部屋はオレが使うから」
リアとリナリーとサイールーが主にこっちの広い部屋を使うのが人数的にも妥当だろう。
ていうか妖精ふたりは、ほとんど場所を必要としないけどねー。
「わふっ!」
「わかってるよ。締め出したりしないから好きにしろって」
朝のオレの目覚まし役はどうしても譲らんか。
何がそんなに尻尾振るほど嬉しいのかね。
「やっと脱げるー」
フクロウからローブ姿になったサイールーが胸元をパタパタさせて、やっと一息つけるといった感じでテーブルの淵に座る。
やっぱり暑かったか。
オレ達がパン色の犬に着くまで、フクロウ姿の二人には先にパン色の犬に来て貰っていたのだ。
ただ、何処で待つか打ち合わせをしていなかったので二人は屋根の上で待っていたらしい。
太陽が照りつける屋根の上で。
で、オレが到着して一緒に宿に入ったわけだ。
「日陰で休んでれば良かったんじゃないのか?」
「いやあだって。街の様子とかもちょっとは見たかったからねー。ここの屋根の上も結構見晴らしが良かったからついね」
なるほど。初めて直に見る街の様子に色々と興味が惹かれたという事か。
確かに妖精の瞳の映像だけじゃ分からない事も多いかもしれない。
「とはいっても、今から街に繰り出すのも時間的に中途半端だよなあ。もう少しすれば夕食の時間になるはず」
「ん~、街の散策は明日以降で構わないよ? 一度、白のトクサルテのみんながいる家にも顔を出さなきゃなんでしょ? その帰りとかでもいいし、別の日にサーナちゃんに『メイドの土産』に案内してもらうのもいいかなとも思ってるから気にしなくていいよ」
そうだな。街を見て回るのはキアラたちの家に行ってからでもいいか。
最初はそのつもりは、というか取りあえず宿だけ確保して他は何も決めていなかったのだが森の出口で休憩中に白のトクサルテの面々から、一度顔を出してくれと言われたのだ。
『イズミ。街に戻ったら一度うちに顔を出して欲しいニャ。このまま一緒にうちまで来てもらうのも考えたけど、ぞろぞろと連れ立って歩いたら目立っちゃうのニャ。だったら、一旦別行動にしてイズミたちはパン色の犬で、取り敢えずの拠点になる部屋を確保するのがいいと思うニャ。この時間なら部屋もいくつか空いてるはずニャ』
休憩用に椅子とテーブルを木陰に用意しているとキアラがそんな提案をしてきた。
森の中だろうが何だろうが、お構い無しでテーブルセットを設置するという、このスタイルを貫いてきたので既に誰も突っ込まない。
『ですねえ。本当はこのままうちに来て泊まって欲しい所なんですが、それだとかえって動き辛くなる可能性も無きにしも非ず、なんですよねえ』
『変なやっかみで闇討ち発生。白い花の蜜は自分以外は独占不可。と勝手に思い込んでるちょっと頭のおかしい輩が結構いる』
『それは面倒だな……』
イルサーナの言葉にウルが補足するように、その可能性の中身を端的に言う。
もうちょっと言い方がある気がしないでもないが、ウルの思う偽らざる本音というヤツなんだろう。
以前の言いようからも、おそらく実際に似たような事があったのかもしれない。
『いっその事、イズミさんが実力にものを言わせて宣言しちゃえば大半の問題は解決するんですけどねー』
解決策と言う割にはイルサーナの表情にかなり不安を覚えるんだが……。
一応、確認はしておくか?
『何の宣言だよ……』
『この女達はオレのもんだ! 尻を追うなら命はないと思えッ! とかなんとか』
『無茶苦茶言ってるな、おい。オレみたいな若造が四人も囲えるわけないだろう……』
『おや、微妙に拒否しませんね? にひ』
『なんでそんなに嬉しそうなんだ。それに普通「手を出すなら」じゃないのか?』
『あれ。お尻好きですよね?』
そこでわざわざ椅子から立ち上がって尻をこちらに向けなくてもよろしい。
ご丁寧にメイド服のスカートをお尻に張り付けてラインまで際立たせて。
目が離せないじゃないか。
『そうやって熱の篭った目で見られると結構恥ずかしいですね……』
『普段は殊更に目で追ったりはしないが、見ていいよと目の前に尻があったら目を逸らすとか絶対にしないぞオレは』
『そういう事は宣言するんだニャ』
『目を逸らしたら失礼になるだろう』
『……なんか違うニャ』
キアラにはこの感覚はわからんかー。
……分かってたまるかって顔された。
『まあ大体言いたい事は分かった』
『えっ、愛人宣言してくれるんですか!?』
『そっちじゃねえよ! って、愛人宣言って何ッ!?』
恋人を飛び越えて愛人とか、何がどうしてそうなった。
『じゃなくて! 白のトクサルテの拠点に顔を出すほうだよ!』
『ああ、そっちでしたか』
『分かってて言ってるだろ……』
『さて……?』
そんなイルサーナとの掛け合いを、やれやれと見ていたカイナが放り投げられた会話を拾い上げるように。
『とにかく一度、うちに顔を出してね。パン色の犬に集まってもいいんだけど、大人数でおしかけて迷惑になっちゃいけないし』
『ある意味、そういうのに一番向いてるのがパン色の犬だとは思うがね』
『それでも、何処の誰に目や耳を向けられるか分からないからさ』
『まあ、な』
オレも今回に限っては下手に巻き込まないほうがいいかもしれないとは思ってるのも確かだ。
助力を請えば、それに応えてくれそうではある。なので余計に迂闊な事は控えるべきだろう。
『じゃあ、詳しい時間なんかは夜にでも共鳴晶石で決めるようにすればいいか』
『あ、そういえばソレがあったのニャ……』
『初めての道具だと咄嗟に出てこないものですねえ』
キアラとイルサーナが言葉にして反応したが、ほかの二人も同じく忘れていたようだ。
トーリィも「ああ、そういえば……」などと忘れていた様子。
『詳細もそれで詰めるって手もあるんだけどな。まあオレとの連絡用の石は渡しておくけど、早めに自分たち用のヤツも作ったほうがいいかもしれん。使い慣れておかないと今みたいに意識から抜け落ちる場合もあるだろう』
『ん、帰ったら早速作る』
『て事で、ここからはリアも歩きになるけど、いいか?』
『はい、大丈夫です。ご迷惑をおかけしました。ラキちゃんもありがとうございました』
『わふッ!』
『ラキも気にするなって言ってるから気にするな。いきなりオレたちの移動速度に合わせるのは無理だろうからな』
『いずれは、みたいに聞こえるニャー。リアをあたし達と同じに考えるのはどうかと思うのニャ……この歳の女の子をこの速度で移動可能にさせるって、将来どんな戦闘民族にするつもりニャ』
『持続的な付与魔法の扱いに慣れればリアの魔力量なら、この速度で一日走っても余裕になるはずなんだけどな』
『だから。なんでそんなにいいとこの子を戦闘民族にしたがるのニャ』
『戦闘民族になれとは言わないが、いろいろ出来たほうが便利じゃないか?』
『それはそうかもしれないけどニャー……』
『キーたん。戦闘民族の思考は私達には理解出来ないから』
『誰が戦闘民族だ』
ウルに突っ込みを入れたら、全員におかしなものを見る視線を向けられた。
なんでじゃ。
~~~~
その後街に入る手続きに手間取るかと思ったが、その心配は無用のものだった。
ほぼフリーパスの状態で通行が許可されたのだ。
身分証明のないリアが一緒だったので、その辺りの事でいろいろあると考えていたのだが……。
『その事かい? 君にはなるべく便宜を図るようにとね。ギルドからも言われてるんだよ』
『ギルドから? そこまで優遇していいんですか?』
手続きをしてくれた門番のお兄さんにオレが疑問をぶつけると。
『正直、人手不足でね。今は使える人材は出来るだけ確保しておきたいんじゃないかな。優遇してやるから馬車馬のように働けって事かもしれないね』
『悪辣だ……』
『その台詞が出るのはギルドの意向を無視出来ないって証拠だからねえ。その辺を見抜かれてるんじゃないのかい?』
『ぐっ……誰だ、変な情報流したのは……』
『あっはっはっ! 盗賊討伐の件が大きいんだろうね。俺も君とは数回顔を会わせた程度だけど、他人の意見を無碍に出来ない人と評していたギルド職員とだいたい同じ見解だね』
『そ、そうなんだ……』
ジェンか? そのギルド職員って。
悪い情報をばら撒かれるよりはいいけど、これはこれで恥ずかしいというか、むず痒いというか。
するとトーリィが笑顔で。
『ふふっ。うちの御館様もイズミさんを優遇しとくほうが、こちらにとって何かと得だと言っていましたから、独自の線で広めているのかもしれませんね』
何してくれちゃってんですか、カイウスさん。
大店の商会の情報網なんて使われたら、どんな事になってるんだか想像するのが怖いんですが。
そんなこんなでパン色の犬に来たわけだ。
ちなみに街に入るときは、白のトクサルテのみんなには先に入ってもらい、ちょっと時間をずらした。
リアのペースに合わせて移動だったので丁度良かった感じだ。
トーリィはそのままレノス商会に戻るという事で直前で別々に。
「ふむ、空いた時間をどうするかな。オレは鍛錬でもなんでもして時間が潰せるけど、リアの場合は何もしないってのも勿体無いな。いや、疲れてるなら休むのもありか」
「それほど疲れてはいないので大丈夫ですよ?」
「そうか? じゃあ、中途半端になってた龍脈操作の魔法陣の勉強の続きをやるか。といっても後は書いて覚えるくらいしかないんだけどな。あっ、あと実際に書く時に遣う道具の使い方があったか」
「どういった道具を使うのでしょう?」
「単純なものだと、杭と紐を使ったコンパス。魔力を含んだ砂で直線を描く時に便利な専用の墨つぼとかだな。その魔力を含んだ砂も用途によって種類がいくつかあるから、それも覚えておいたほうがいいか? まあ砂は一種類でも問題ないんだけどな。若干、効率が良くなる程度だから無視しても問題無いといえば問題無い」
「イズミのプリントアウトが使えれば楽なのにね」
「まあなあ。リナリーの言う通り、里の職人みたいに覚えられれば良かったんだけどな」
「やっぱり難しい?」
「どうだろうな。ひとつの図形だけなら、それを描く過程を解析して術式として再現出来るかもしれん。でもその場合、術式を脳に焼き付ける事になりかねんから演算領域にどういった影響が出るか分からないってのがな」
「ちょーっとリスキーだね」
サイールーも使えるようになった一人だが、使う感覚が分かっているだけに術として組み上げて使用可能にするとどうなるのか。そこに問題が在りそうだと、なんとなく感じているんだろう。
「だよなー。下手な事をして、リソースを食い過ぎて他の魔法が使えなくなった。なんて事になったら目も当てられない」
オレの生まれつきの能力を応用したものだからな。
他人に無理矢理、付加するなんて事をしたらどうなるか。正直、不安材料しかない。
「だから普通に覚えたほうがいいはずなんだよ」
そのオレの言葉にコクリと「なるほど」と頷くリア。
「演算領域という単語の他に耳慣れないものがチラホラありましたが、そもそも教えて頂くその事が何ものにも代え難い経験なのです。これ以上望んでは天罰が下ります」
「そこまで大げさに考えなくてもいいと思うけどな」
拳を握り締めて力説するリアに苦笑するも、「大げさではないです」と窘められてしまった。
その事にまた苦笑しそうになったところで扉がノックされる。
これは、ミミエさんが仕事の合間に様子を見に来たかな?
「どうぞー」
「失礼します。って、わお! 本当に妖精さんが二人になってるのね」
「ラキがオレの所に来るために何かあっちゃいけないって事で一緒に来たんだ」
「サイールーって言います。うちのイズミが大変お世話になっております」
「嫁か。手のかかる旦那みたいに言うんじゃない」
「えっ? 旦那は捨て難いけど、どっちかというと別宅に入り浸ってる猫だよ?」
「猫かよ」
「あははっ。サイールーちゃんとも仲いいんだねー。よろしくね。で、このコはラキちゃんっていうんだ。イズミくんを追いかけて来たって事? えらいねー、こんなに小さいのに」
いや、ホントはすごい大きいんです。
ビックリさせてもいけないから子犬で押し通そう。
ミミエさん、相当気に入ったのかベッドの上で寝そべっていたラキを撫で繰りまわしてる。
ラキも全然嫌がってないな。
むしろ鼻をピスピスさせて、撫でたり、かいたりするミミエさんの手の動きに合わせて足が自然に動いてるよ。
触りなれてるなー。
ラキも今日は長時間背中に人を乗せたせいか意外と疲れてるのかもしれない。
街に入る直前でオレの服の中に入れろと強請ってきたくらいだ。
それを抜きにしてもミミエさんのマッサージを全面的に受け入れている。されるがままだ。
で、ラキを撫でながら「さっきの続きなんだけど」と裸の件について尋ねてきた。
一瞬大丈夫かと疑問が沸いたが、見える範囲で脱ぎさえしなければ問題ないという事で素直に話す事にした。
「それはまた厄介な、いえ便利な能力ねー」
「便利って」
「だって、好きな人の前で脱げばいいんでしょ? すごく便利じゃない」
「……目の前でいきなり脱ぐとか、どう好意的に解釈しても変態でしょうよ……」
「えっ?」
「えっ?」
ミミエさんがそうなの? みたいな顔で驚いてるけど。
まさか……。
「……そりゃあミミエさんが目の前で脱いだら逆らえる男なんていないと思うけど……えっ? 本当に?」
「い、いやあねえ。そそ、そんな事するわけないじゃない。知り合いの話よ? しかも実行しようとして直前でヘタレたとか、そういう感じよ?」
ジトーっとミミエさんを見ると、誤魔化すようにラキの腹を猛烈な勢いでさすり始めた。
火が出そうな勢いだが、当のラキは「おうふっ」とか言ってやけに嬉しそう。
いやしかし、この反応だけで知り合いの話じゃないと確定してもいいくらいだなあ。
「ミミエさんが目の前でとか、羨ましい」
「えっ、そ、そう? そうかな? えへへへ」
「あれ、知り合いの話では?」
「えっ、あっ! そうだったわね! ……って、意地悪ねイズミくんは……!」
「あはははっ。まあ羨ましいと思ったのは本当だから、それで許して貰うという事で」
「もう! でもありがと」
何に対しての礼かは深くは追求しなかったが、表情を見る限りは嬉しかったのだろう。
相当気分が良くなったのか、スキップしそうな程の上機嫌な様子で「夕ご飯の時間まで寛いでてね」と仕事に戻っていった。
「「「……」」」
「三人ともどうした?」
黙ってミミエさんを見送っていた三人が、今度はこれまた黙ってオレの方を見ていた。
「今度は年上を転がす気?」
「全年齢対応?」
「イ、イズミさんは年上の方が宜しいのですか!?」
転がすってなんだリナリー。いつオレがミミエさんを口説いたんだよ。
サイールーはオレが玩具か何かに見えてんのか?
そしてリア。何故そうなる。
「ちょっと誘導尋問しただけだろう。どうしてそこまで飛躍するかな」
「そ、そうだったんですか……?」
ホッとするリアだったが何をそんなに不安に思ったのか。
保護者的な立場のオレが他所の女にホイホイと付いて行くのを不安視した?
なんとなくオレに好意を寄せてくれているというのは分かるが、それは保護者としてのようなものだろう。
仮に男としてそう見てくれていたとしても、それは特殊な状況下による刷り込みと錯覚ではないか、と思っている。
それとオレが年上という事で、その年齢差で幻想に拍車がかかっているように思う。
少女期に年上に憧れるとかいうヤツ。
こんな育ちの良い美少女に好かれるなんて普通ならないわー。
まあ悪い気はしないので、それが勘違いだったとリアが気が付くまで時間を置けばいいだろう。
それまでは役得だと思って、お互い楽しく過ごせばいいのだ。
「優しいのも時には残酷なんだけど?」
オレ以外には聞こえないようにボソっと呟いたリナリーに「心配し過ぎだ」と言うも、「ふぅ」と肩をすくめて溜め息を返されてしまった。
それにしても。なんとなくでもオレの考えてる事を察するリナリーに脱帽する。
それがオレの勘違いって事もあるかもしれないが。
~~~~
昨日の夕食後はリアは魔法陣の勉強。そしてオレの鍛錬の様子を息抜きで見学して寝るまでの時間はあっという間に過ぎた。
リアは途中で耐え切れなくなって寝てしまったが、白のトクサルテのみんなともこの時に具体的な時間とあまり人目につかない訪問の方法を話し合った。
その結果、昼くらいに訪ねる事に決まった。一緒にランチをしながらという話だ。
場所は事前に聞いてあるし、分かり易い建物だという。
分からなければ共鳴晶石で連絡すればいい。
という事で午前中はそこそこ時間が空くので、ギルドに顔を出してみる事にした。
街への帰還時に狩ったものをいくつか売却出来ればと。
随分と久しぶりのような気がするな。
朝一で来てみたが相変わらず結構人がいる。
ちなみにリアとサイールーとラキはお留守番。
サクッとギルドの様子を見て帰る予定だから、みんなで行くのはまた今度という事で。
「さて、ジェンはどこに……お、いたいた」
いつもの受付にいなかったジェンだが掲示板のある一画で何やら作業をしていたのか?
掲示板エリアに確認をするような視線を走らせつつ、受付に向かって歩く姿が見えた。
丁度いいと声をかける前にジェンがこちらに気が付いた。
「イズミさん!」
小走りで駆け寄ってくるジェンは何やら小動物みたいだ。
「久しぶりだなー」
「ほんとですよ、もう。すごい忙しかったんですからね」
「あれ。なんでオレ怒られてんの? 忙しかったのってオレのせい?」
「む~」
「え、マジで?」
「……イズミさんが大規模な盗賊狩りをしたからなんですけど」
上目遣いに小声で、そんな事を言われてしまった。
えーっと。その残務処理とかで色々と大変だったって事?
「詳しい愚痴は受付で聞いてもらいますから」
詳しい説明ではなく愚痴が確定してるのか。
それで発散出来るなら付き合うとするかね。
「了~解」
受付まで来るとジェンがいつもの作業スペースに収まる。
オレを見上げる視線が何かに気付いたように一点に釘付けになっている。
ああ、正面からは気付かなかったけどオレが周りを眺めてたから気が付いたのか。
「フクロウなんて連れ歩くようになったんですか?」
オレのフードを巣のようにして鎮座しているフクロウ。
白くてデカイ猛禽類。それを見てジェンがそう聞くのは何もおかしくはない。
リナリーがごそっと動いたと思ったらジェンがビクッとしたから、たぶん目が合ったのかな?
「ジェンは何回も会ってるぞ」
「……あっ! そういう事でしたか。見た目がすごいですね。本物にしか見えません」
少し眉を寄せて思案していたが中身が外見とは違うものだという事に思い至ったようだ。
今度は感心するように視線が固定されている。
「あら、何がすごいの?」
そこへ、奥から隣の受付カウンターに戻ってきた女性がジェンに声をかけた。
二十代半ばくらいに見えるなかなかキレイな人だ。髪をアップにして、いかにも仕事出来ますって感じの。
フクロウに集中していたからか、ジェンはその人の声にまたもビクっと反応している。
「ナ、ナリアさん、驚かさないで下さいよ。いえ、白くて大きいフクロウなんて間近で見た事ないものですから……」
「そんなに集中して見てたの? あら、ほんと。大きいわねー」
中身がリナリーだという事をジェンなりにうまく誤魔化せたようだ。
オレのほうへとジェンがチラっと目配せしたが、そういう意味が込められた視線だろう。
「って、あらあら? ジェン、もしかして彼じゃないの?」
「あッ! そういえば!」
ん? 何かあるのかな?
「大変ですイズミさん。偉い人がイズミさんを呼んでます」
「……ギルドの最高責任者とか?」
「もっと偉い人です」
もっと偉い人?
ズイっと肩に乗ったリナリーと目が合う。
「このカザック周辺を治める領主様です」
……はい?
今回はある意味ミミエが主人公でした(´・ω・`)




