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第十五話 話は往々にして逸れるもの

 


 オレとラキが仕留めた獲物は主に猪と熊が多かった。

 中にはネズミ系のヤツもいたり爬虫類系のヤツもいたりと一度の狩りで仕留めたにしてはバラエティに富んだラインナップだ。

 カピバラに似たような顔してるくせに鎌のような鋭い大きな爪を持ったヤツ、サイのようなツノをもったイグアナに似た爬虫類と、どれも見たことも聞いたこともない生物だ。

 地球ではないのだから当然といえば当然なんだが、なまじ外見に類似性があるから軽い困惑を覚える。

 とはいえ似ているのは外見だけで、どれも5メートル前後の体長を誇っており地球の生物より著しく大きい。

 しかしそういった巨大な生物を相手取った勝手の違うこの世界での狩りも魔法のおかげもあってか、上々の結果で終える事が出来た。


 見たこともないモノが見れたという点でもなかなかの成果だと思う。

 その成果の中でも最たるものがラキの口元にぶら下がっている。


「妖精、だよな? 気絶してるのか?」


 成果の確認とその狩った獲物の無限収納エンドレッサーへの回収のあいだ、ラキには待っていてもらっていたが、いまだに目を覚まさない妖精。

 

 透き通った蒼い昆虫羽に似た羽は想像していたより大きめで、1枚の羽の大きさが本人の身体と同程度。それが約20センチの身体から2対4枚飛び出している。

 着ているモノも特殊な繊維で出来ているのか薄桃色の非常に柔らかそうな素材だ。

 普通このサイズの服、例えば人形の服なんかこんなにひらひらと風に揺れたりしないだろう。 

 髪もそうだ。人間の髪の毛とは比べものにならないくらい細いのだろう。腰の辺りまで伸びた赤みを帯びた銀髪はサラサラと風に流れている。

 外見からだと、どう見ても女の子に見える。

 15、6歳くらいの美少女をそのまま縮尺を変えたような外見だ。

 ラキと一緒で性別がない可能性もあるけど、まさか女装趣味の男の妖精って事はないよな?

 事前に神話や物語に出てくるのような者達がいる世界だと聞かされていても、実際に目にするのはやっぱり一味違う。自分でも思ったよりテンションが上がっているようだ。

 

 最初は死んでしまっているのかと思ったが、魔力の様子から伺うに意識がないだけのようだ。

 ラキの口元でプラプラ揺れている姿が何ともシュール。

 特に怪我のようなものも見当たらないが、さて。


「全然目を覚まさないけど、大丈夫かね?」


 一向に目を覚まさない妖精に少し不安を覚えるが、ラキが慌てる様子もない事から問題ないのだろう。

 そう判断して目を覚ますまで取り敢えず待つことにする。

 と思った矢先にピクリと妖精の手が動いた。

 お、目を覚ましたか? と顔を近づけてみると、ゆっくりと見開いた目が虚ろだ。まだ意識が朦朧として焦点が合ってないのだろう。

 しかし、それも僅かな時間で回復したのか、オレと目が合った。


「―――――ッ!」


 ラキにつままれたままバタバタと暴れる妖精。

 うおっ! なんだこの耳鳴りのような音は。

 あ、もしかしてこれって――


「すまん、声が高すぎて何言ってるか聞き取れない」


 声帯が小さいからか、または違う要因で発せられた声が人間の可聴領域をわずかに超えているのだろう。断片的にモスキート音のようなものが聞こえるという事はその可能性が高い。

 ラキは気にした感じがないけど、もしかして聞き取れてるのかな?

 妖精はオレの言葉にハッとしたようなリアクションの後、暴れるのを忘れたかのように大人しくなった。


「――ぁ、あ~、これで聞き取れる?」


 どことなく不機嫌、いや警戒した表情でこちらを伺い、会話が成立しているのかを確かめる為に質問を返す妖精。


「ああ、ちゃんと聞き取れてる」


「そう、よかった。人間としゃべる事なんて滅多にないから調律が難しいのよね。……ねえ、ところで、いつまで私は吊るされてるの?」


 ラキの口でつままれた状態でキョロキョロと自分がどういう状況になっているか確認して、不満気な声でそう呟いた。やっぱりシュールだ。

 どうしたもんかとオレがラキを見ると、それにつられて後ろを見た妖精の態度が変化した。


「あら、もしかしてラキちゃん?」


「うぁふ」


 妖精を咥えながらなのに器用に鳴くね。


「どつしてここに? あ、もう大丈夫だから。ありがとね」


 妖精がそう言うと、そっと口を開け妖精を開放するラキ。

 すると妖精は羽をひらひらと羽ばたかせ、ふわりと浮いた。


「おお、飛んだ!」


「あたり前でしょ。そういう種族なんだから」


 オレの反応に微妙な表情をしながら、少し疲れた様子で切り株に降り立ち、その淵に座り込む。


「確かにそうなんだけどな。それよりラキを知ってるのか?」


「ええ、ラキちゃんがこんなちっちゃい時からね」


 えーっと、犬ってそんなに小さい時あったっけ?

 多分赤ん坊の頃からって言いたいんだろうけど、その身体の大きさで手を広げてジェスチャー付きで説明されても、ハムスター? としか思えない大きさなんだよな。


「ふ~ん、で、なんでラキに咥えられてたんだ?」


「気を失ってたみたいだから良く分からないけど、ラキちゃんに助けられたみたいね」


 先程の謝意の言葉は、自分がラキに助けられたという事を理解してのものだったらしい。


「そうなのか? ラキ」


「わふっ!」


「て事はあの時、魔力で威圧してたのは、えっと――」


「リナリーよ」


 オレがどう呼ぼうか言い淀んでいたのを察したらしく自ら名乗ってくれた。


「リナリーを助けるためだったのか?」


「ウォンッ!」


 そうだよっ! と言ってるとしか思えない鳴き方。

 そしてオレの顔を見て満足そうな表情に変わる。えらいでしょ? とでも言わんばかりの表情だ。

 ああうん、えらいえらい。

 口には出さなかったけど代わりに首周りをワシャワシャと撫でてやった。

 ふーむ、おおよその事情は分かった。


「それでリナリーはこの近くに住んでるのか?」


「名前は教えてくれないの?」


 基本的な疑問を口にした所で自分が名乗るのを忘れていた事を指摘された。それを付け加えてさらに質問を重ねる。


「え? ああ、オレはイズミだ。すまん、そう言えば言ってなかったな。――それで、たまたま外出してて襲われたとか?」


「ん、イズミね。私が住んでるのはここじゃないわ。この森には用事があって来てたの。でも急にドルーボアの暴走に巻き込まれて、それかを避けて隠れていたら、いきなり魔法に巻き込まれてそこから記憶がないの」


 うっ……これは、もしかしなくてもオレ達の狩りに巻き込まれたんじゃ……。

 あのでかい猪はドルーボアって名前なのか、なんて事よりそっちの方が気になってしまう。


「なあ、ラキ。これってオレ達の勝負のせいか?」


 ラキの耳元でリナリーには聞こえないように呟くと、ラキも気付いたらしく耳を伏せて「キュゥ」と小声で応えて困ったような空気をかもし出している。

 ラキの知り合いらしいから正直に話した所でそれほど険悪にはならないとは思うけど、どうもオレへの対応が硬い気がするんだよな。だからちょっとここは、その辺の事は先送りにして様子を見たい。

 

 おそらくだが、戦闘中にラキもすぐ気付いたからこそ、あそこまでのプレッシャーを放ったのだと思う。もしかしたら最初から気が付いていて、そちらに向かった可能性もある。というのは都合が良すぎる解釈かな?


「ところで、なんで人間のあなたがラキちゃんと一緒にいるの?」


「ん? それはオレがラキに色々と世話になってるからだな」


 何故一緒にいるのかと驚きの混じった疑問に、オレがそう答えると更に驚いたようだ。

 そんなに不思議な事なんだろうか? 大きな目をさらに見開いてるけど。

 この反応からするとラキの種族は人間と一緒に居る事があり得ないとかそういう事か?

 今までのラキを見ると、そうは思えないんだけどな。すげえ楽しそうにオレと模擬戦するし。

 それもまあ駆け引きが面白いんだろうけど。


「え……どういうこと? ラキちゃんが今ここに居る事と関係あるの?」


「ん~、関係無くはない、かな? 今日、外の森にいたのも偶然に近いし」


「外の森……? まさか世話になってる所って神域っ!?」


「お、知ってるのか?」


「知ってるも何も、神域に来るのが目的でこの森に来たのよ」


「用事ってそれか」


「そう。だから正直ラキちゃんがいてくれてよかった。私だけだったら神域の入り口を見つけるのに2、3日かかったかも知れない。悪くすればもっとかも。運がいいわ」


 リナリーが言うには周期的に入り口の位置が感知し易くなるらしい。運良くタイミングが合えばそれ程苦労することなく神域に入れるのだが、そうでないと二日、三日は当たり前で一週間入れない場合もあるとか。

 そう聞くと人間でもいけるんじゃね? となりそうだが、やはり人間には不可能に近いというのは変わりようの無い事実のようだ。ラキに置き去りにされたらオレは確実に帰れないな。

 チラっとラキを見ると「なぁに?」と不思議そうに首を傾げてオレを見ている姿が、多少だが不安を覚える。いや、だって、わりと天然で置き去りにしそうなんだもん。

 ラキが賢いのは承知してるから、うっかりという可能性が低いのはわかってる。でもイグニスから「置き去りにして来い」とかの極秘指令が出てないとも言い切れないから、そこが何とも言えず始末が悪い。


 そうは言ってもイグニスがオモチャをそう簡単に手放すとも思えない。

 オレとしても魔法を覚える為に当分は神域から離れるつもりはないから、その辺りでは利害は一致してるはずだ。

 最悪、街に向かえば何とかなるかも知れないけど、その場合ラキが隠れて監視するんだろう。

 で、頃合を見計らって神域に連れ戻すとか。

 なんだ。鈴はついてるんだから、どっちでも結果は一緒か。

 考えるだけ無駄だった。


「難しい顔して黙ってるけど、なに?」


「いや、ラキに置き去りにされたらどうしようかなって。良く考えたら、どう転んでも同じだったわ」


「よく分からないけど……?」


「あー、オレも良く分かってないから」


「何それ」


 そりゃ訳が分からないって表情になるよな。

 オレだって未だにイグニスの価値基準とか全然理解出来てないし突っ込まれても困るけどな。


「それよりも。神域に帰るけど動けるか? ダメならラキに乗ってきゃいいんだけど」


「えっ?」


「急ぎだろ?」


「……何で、そう思うの?」


「なんとなく?」


「そう……ね、早いほうがいいのは確かね」


「じゃあラキ、予定変更だ。神域に帰ろう」


「ウォン!」


 ラキも特に依存は無いようで神域に帰る事が決定した。

 背中に乗るようにラキに促され、背中と言うより首にしがみついて毛に埋もれるリナリー。

 振り落とさないように駆け出すラキに、今度はオレが着いていく形で神域の入り口を目指した。






 ~~~~






 神域との境目――やっぱりオレには感知出来ない――そこに到着するとラキが鼻をヒクヒクさせて、ポイントを探るように周囲を歩き回った。

 立ち止まったかと思ったら、おもむろに何もない空間に鼻を突っ込んだ。消えた鼻先を中心に同心円に波紋が広がる。

 一度空間から鼻を戻し、一鳴きしてオレに注意を促す。

 神域から出る時はいいが入る時はラキの身体に触れているようにしないと入れない。

 イグニスにそう言われオレ自身その辺は注意していたが、ラキもオレが忘れないようにちゃんと声をかけてくれたようだ。

 いやほんと出来るコだねえ、このコ。

 ラキの身体に触れながら少し歩くと、すぐに神樹の気配が感じ取れた。


「半日ぶりで帰宅~。短い外出だったな」


 そんな事をオレが呟いていると、相槌のようなタイミングでリナリーが呟く。


「ホントに神域でラキちゃんと一緒だったのね……」


 神樹の気配を感じてオレが呟いた言葉の意味に気付いたようだ。

 出る時と違い、入る時は何故かすぐには神樹の気配を感じない。

 なにやら神域と外界との境界にもうひとつの曖昧な空間があるように思う。どうやら出入りで違う手順を踏まされてるようだ。歪みから進入したのは理解出来てはいるが実際にどこからが神域なのかは視覚的には判別し辛い。

 半信半疑だったリナリーだが、そこでオレが神樹の気配を感じたタイミングで帰ってきたと言ったので、神域にいたと信じてくれたらしい。意識して言った訳じゃないんだけどな。

 そんなに真実味がなかったのか。

 それとは別にオレが神域にいると聞いてリナリーが驚いたのには理由があった。

 入り口が探し出せない人間が何故神域にいるのかというのがひとつ。人間が神域に入るというのは偶然が何十と重なって、やっと、と言うほど難しい。

 神域の存在自体が人間には信じられていない上に、ここ数百年、神域を訪れた人間がいたという話を聞いた事がなかったせいで頭から信じる事が出来なかったという。

 ラキが神域住まいなのはリナリーも承知していた。

 そのラキがオレと一緒にいたのに何故にと思ったが、そこにも理由があって、ラキが外の森でたまたま助けた人間と二、三日一緒にいただけかも知れないと最初は思ったそうだ。

 実はそれさえもあり得ない話ではあるが、神域に一緒にいるよりは信じられるという消去法のような理由で自分を納得させていたと。

 そして最大の理由が神樹からの干渉。

 イグニスは何も言っていなかったが精神への働きかけがあるとリナリーは言う。

 ここは自分の居場所ではないと無意識下に働きかけ、自然と神域を離れるよう仕向ける。

 明確な証拠がある訳ではないが、意識誘導されたのではないかという事例が文献に記されていたとかいないとか。

 背中を押されるように帰るべき場所、居るべき場所に自然と足が向かう。

 だからなのか、神域には長居をする人間がいないという。

 この場所で何を得て何を目指すのか、そんな事を題材にした物語もあるのだとか。

 やる気スイッチでも押されるの?

 

 その話を聞いて得心がいった事がある。

 それが本当だとしたらオレには効いていないのかもしれない。

 いや、効いているからこそ今ここにいるのではないかと。帰るべき場所に物理的に帰れない事と、帰る為の条件であるサシャの発見の為には魔法の向上が必須であるという事から、居るべき場所というのが、この神域だと誘導されている。

 と、考えるのはそう不自然ではないと思う。そうと気付かせないのは暗示等の強制ではなく状況と心理から合理的なロジックで導き出されたものを、ほんの少し増幅して後押ししているに過ぎないからだろう。

 

 そんな事を考えながら駆け出すとラキの首の辺りから声が聞こえた。


「外の森でも思ったけど、なんでラキちゃんと同じ速さで移動出来るのよ……」


「同じじゃないだろ。ラキは軽く走ってたけどオレは結構頑張ったぞ。今だってちょっと頑張ってる」


「頑張ったからって追いつける速さじゃないと思うんだけど……」


「そういうもんか?」


 どこか納得していない様子のリナリーを見ても何を基準にそう言ってるのかが分からないので、正直それ以上の反応は返しようがない。

 ここで、そういえば確認していない事があったと思い出し立ち止まると、ラキもすぐに気が付いてこちらに駆け寄ってくる。


 どっちか聞いてから移動したほうがいいよな。大した手間じゃないけど二度手間は面倒だし。


「リナリーの目的は神樹かイグニスだろ?」


「イグニス様を知ってるの?」


「いやいや、ここであのデカイ魔力の塊を無視する方が難しいって」


 最初は魔力感知が全くといっていいほど出来なかったからイグニスの魔力に気付くのが遅かった。

 不思議なのは、そんな状態でも神樹の気配を察知出来た事だけど、このエリアが神樹を中心に成り立っているのを考えれば、違う空間に存在するという違和感の中心地として捉えていただけという事になるかも知れない。 


「確かに……そうよね」


「で、正解は?」


「イグニス様よ。イグニス様のお知恵をお借りしたいの」


「じゃあ広場のほうだな」


 ラキに視線を送ると広場に向けて走り出した。

 ラキもまるで承知していたみたいに広場に向かってたみたいだし、わざわざ確認する必要は無かったかな?

 などと思いながらオレも駆け出した。





「なんじゃ、もう帰ってきたのか?」


 広場に到着すると変わらず丸まっていたイグニス。

 オレ達の姿を見て、何かあったのかという事を感じ取ったかのように首をめぐらす。


「予定は明日までだったはずじゃが」


「そのつもりだったんだけど、予定にはない事が起こってな」


 そのセリフの途中でイグニスの視線がラキに向けらると、リナリーがラキの毛皮の中から飛び出してきた。


「イグニス様!」


「ん? おお、久しいの。息災であったかリナリー」


「はいっ! お久しぶりです!」


「馴染みの顔だったのか?」


「最後に会ったのが3年程前になるか。それまでは定期的にこちらに来ていたのじゃ」


 イグニスにしてみれば3年なんてあっという間のはずだけど、オレやリナリーに合わせた時間感覚で話してくれているのかも知れない。妖精の時間間隔がどうなってるのか分からないからリナリーについては違う可能性はあるが。


「なるほど、それでラキの事も知ってたわけだ」


「あの……イグニス様。何故人間がここにいるのですか? それに、かなり親しげなご様子ですが……」


「なんじゃ、何も話しておらんのか?」


「いや、なんか急用だったみたいだし、こっちに連れて来るほうが先かと思ってさ」


「ふむ、そうか。イズミの事はそれ程警戒しなくても良いぞ。おなごの尻にしか興味がない男じゃからの」


「え……」


「何、尻押さえてんだ! そんな小せえ尻に興味はねえよ! っていうか変な偏見植え付けないでくれる!?」


「微妙に否定はせんのじゃな。それは置くとして。こやつはこの世界の人間ではない。妖精フェア・ルー族を捕まえてどうこうという事はまずあり得ん。価値観的にも魔力的にもな」


 これまたあっさりバラすね。

 イグニスが問題ないって判断したなら文句を言うつもりはないけどね。別に隠してもいないし。


「この世界の人間じゃ、ない……?」


「そうじゃ。このルテティアに来たのも事故のようなものじゃ。それも、ここ一ヶ月程の事。妖精フェア・ルー族がどういう扱いを受けていたかも知らぬし、また、そのような価値観も持ち合わせておらんようでの」


「なあ、話がよく見えないんだけど。リナリーがオレを警戒してたのは何かされるかもって思ってたのが原因?」


妖精フェア・ルー族というのは人間にとって非常に有益な存在での。契約をすることで様々な恩恵を受ける事ができるのじゃ。主に外部の魔力供給源としての魔力拡張が知られている。一般的に妖精フェア・ルーは人間より魔力量が多い。そしてその魔力を契約者に譲渡する事が出来るのじゃ。他にも妖精フェア・ルー個々人によって違うが、代謝量の操作や演算の補助などの支援能力は多岐に渡る」


「まあ、そこからは何となくわかる……。無理矢理なパターンが増えたんじゃないのか?」


「……」


 オレの言葉に表情を暗くするリナリー。


「有益となれば人間はどこまでも貪欲じゃからな。それに愛玩の対象としても拘束される事が多かった。今はいずれの妖精フェア・ルー族も人間には見つからない場所で暮らしておるが、二百年程前までは少なくない頻度で交流はあったのじゃ。しかし強制契約の方法が発見されて一変した」


「そう、殺されることはなかったけど自由を奪われるのは当たり前だったわ。契約と言えば聞こえはいいけど実態は隷属だったの。私は直接そういう経験はないけど里にはそういった扱いを受けていた人達、主に年齢を重ねた妖精の中に、そういった経験をしたものが少なからずいるの。人間全てが私達に対してそういう行動を取った訳じゃない、一部の人間だけかも知れない。それが証拠に、契約を禁止しようという国もあったの。だけど、今でも見つかればどうなるかわからない」


「なるほどね……だから警戒してたのか。でもよく逃げようとしなかったよな。あっ、そうか、ラキが一緒にいたからか」


「それも理由ではあるけど、同行しても大丈夫かもって思った切っ掛けは違うわよ? あなた――イズミが最初に『すまん、聞き取れない』って言ったでしょ? 長期間、人間からは隷属種のように見られていたから、第一声に『すまん』なんて言葉を聞くとは思わなかったの。それが切っ掛けで大丈夫かなって。決定的だったのはラキちゃんが一緒にいてあなたの事を気に入っているようだったからね」


「ふむ、価値観の違いがそういう所で出るのじゃな。だからといって全面的に信用出来るものでもない、と。リナリーの態度が硬かったのは仕方のない事じゃな」


「まあなぁ。そういう事情なら警戒しないほうがおかしい」


「ならば不安を解消するかも知れん情報をひとつ提供しよう。先ほども言ったが――イズミ、異相結界を展開してみよ。規模は適当で構わん」


「? よく分からんけど――――こんなもんか?」


 言われた通り、適当に5メートル四方の壁状の異相結界を展開。


「なっ!? 人間が異相結界? それに、何……この魔力……」


「今のイズミの状態であれば異相結界の展開時に魔力規模を測り易い。魔力的にも、と言ったのはこれが理由じゃ。ワシにはまだ及ばぬが尋常ならざる魔力を持っておるゆえ、外部供給など全く必要ない。むしろこの先、漏れ出る魔力をなんとかせねばならん」


 今、さらっと自慢も入ったね。でも確かに漏れてる魔力の扱いが進歩してないんだよな。


「それなー、全然要領が掴めないんだよな」


「仮に妖精フェア・ルーの特性を知っていたとしても興味を持つには至らんかったじゃろうな」


 あれ、オレの合いの手は流されてるな。

 まあいいや、結界消しておこう。


「さらにもうひとつ、耳寄りな情報がある。今こやつの側にいると特典がある。ラキ」


「ウォン!」


 え、なに? なんで今、手をしゃぶり出すのさ!

 って何で通販みたいな煽り?


「レアものじゃ。ラキもお気に入りでの」


「別に餌付けしてる訳じゃないんだけど……」


「え? お気に入りってどういう事ですか? 手を食べさせても生えてくるって事ですか?」


 何、気持ち悪い事言ってんだ。プラナリアじゃないんだぞ。

 ていうか、そういうセリフがさらっと出てくるのがちょっと怖いんですけど。


「魔力じゃ。味わえば納得すると思うがの」


「魔力……ですか?」


 イグニスの顔を見れば、何をすればいいかイヤというほど伝わってくる。


「はいはい……。左手はラキが食いついてるからこっちな」


 そう言って右手を差し出すと、ふわふわと飛んでいたリナリーが戸惑いながらも人差し指を両手で掴んで、おずおずと唇を近づけた。なんかくすぐったい感じもするけど左手をベロンベロン舐められてるから気にならないな。

 それにしても何だこの絵面。

 右手に妖精、左手にデカイ狼。歌の歌詞でもこんなシチュエーションはあり得ん。


「んーっ! ぷはっ! 美味しい!」


「あ、やっぱりそういう感想なんだ」


「人間の魔力を味わうなんてと思ったけど、これはラキちゃんが好きそうな、というより嫌いな種族なんているのかしら……」


 独り言みたいに聞こえるな。オレの問いに微妙に答えてないし。


「もうちょっともらってもいい!?」


 ガバッという音が聞こえそうな勢いでこちらを向き、拒否する間もなく指に吸い付くリナリー。

 

「まあ、好きにしてくれていいけど……。って、うおっ!」


「あ、ごめん」


「えらく、ごっそり持ってったな」


「さっきは味わっただけだから、今度はどこまで吸えるかなーって思ってたら、つい」


「ついって……ラキだってもうちょっと遠慮してるぞ」


 まだ左手を、んぐんぐとやってるけど、いきなり大量にもってかれた事はないんだよな。


「だって全部回復できそうだったんだもん。ちなみにだけど私がもらったのは何割くらいだったの?」


「あ~、どれくらいだろ? 半分はいってないけど、それに近いくらいだな」


「あれで半分以下なんだ……。人間だったら四、五人じゃきかない量だったんだけど」


 あれ、なんか驚いてるぞ。全回復してない状態での半分って言ったつもりだったんだけど。

 これは、まだ回復途中だった事は言わないほうがいいのか?

 しかし、あれで四、五人か。普通の人間ならって意味だよなきっと。

 魔法に長けた人間がどの程度かは今のじゃ参考にはならないか。

 それはそれとして。ってことは普通の人間一人分の量は大体……


「ちょっと待て! 普通の人間だったらどうするつもりだったんだ!?」


「どうもしないよ? ただ魔力枯渇で気絶するだけ」


「気絶するまで吸収するつもりだったのか?」


「そんなワケないでしょ。気絶する前に止めるつもりだったわよ。だけど、そうなる前に私の魔力が回復しちゃったの」


 心外だとでもいう口調でオレの指をぺちぺち叩いて反論する姿に、多少警戒心もなくなってきたのかなと、安心する。

 すると、ひらひらと飛んでいたと思ったら、おもむろに「んしょっ」とオレの手の平を開かせてその上に降り立つ。


「ねえねえ、イズミのいた世界ってどんな所だったの?」


 何が興味を引いたのか表情をコロっと変えてオレを見上げる。


「そう言われても、こことは全然違うからどう説明したもんか……っていうか、いいのか?」


「?」


 オレの魔力の試食に気を取られて当初の目的から逸れた行動をさせても良くないだろう。

 そのオレの意図にリナリーが気付く前に、今までオレ達のやり取りを黙って見ていたイグニスが、それを察してここで会話に入ってきた。

 

「リナリーよ、何か火急の用があってこちらに出向いたのではなかったか?」


 ラキも気になったのか左手を開放してリナリーに視線を向ける。


「あっ! そうでした!」


「気になることは多々あろうが、そういった話はいつでも聞ける。まずはリナリーの用とやらを優先しようかの」


「はい、ありがとうございます! イグニス様にご相談したい事があり、お知恵を拝借できれば、と」


 そこでリナリーの口から語られたのは、驚愕の事実だった。



 なんて事にはならなかった。

 だって、まだ聞いてないし。

 だけど、そこそこの大型種のいる森を単独行しようというのだから結構切羽詰まっているのかも知れない。

 


 さて、どんな内容の話なのか。


 



書いてるうちに何が面白いのか分からなくなってきた……(´・ω・`)


5/5 リナリーの外見描写を追加

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