第十六話 この道は、いつも来た道?
すみません、更新ではなく差し替えです。
ちょっと違和感のあった部分を変更しました。
薄明かりに照らされる空間、右に左に不規則な運動を繰り返しながら発光体が移動している。
その発光間隔と、ふよふよと動き回るさまは、まるで大きな蛍が飛んでいるようだ。
その動きに合わせて歩みを進める。
隣を歩くラキの足音は分厚い肉球のおかげかどうかは分からないが、ほとんど聞こえない。
光源は目の前を飛ぶリナリー。
ヒカリゴケのような発光植物があるおかげで周囲の様子が思ったより把握し易い。
今現在いる場所は洞窟。
そのはずなのだが、日光のないこの場所で何故か植物が生い茂っている。
樹木や大きめのシダ系植物、コケ類、キノコ類と多種多様だ。
洞窟というには植物の比率がやけに高い。
そこは『古道』と呼ばれる洞窟とはやや趣の異なる特殊な場所。
洞窟と聞いて一般的にイメージするものとは少し様子の違ったその場所は天井も高く、いくつも分岐した空間がその奥へと続いている。
比較的大きな空間に出た所で何かを確認するようにあっちにふらふら、こっちにふらふらと飛び回るリナリー。
心なしか発光間隔がせわしない。
これは……。
「まさか迷ったのか?」
「そ、そんなワケないでしょ! ちょっと自信がないだけよ……」
「……おい」
「い、行きの道は良く覚えていても帰りがあやふやになる事ってあるでしょ! それよ、それっ!」
「帰り道で逆から景色を見ると不安になったりとか、確かにそういう事はあるけど。ここで迷うとか、シャレにならんぞ……」
まあ、いざとなれば来た道をそのまま戻ればいい。
他力本願になるけどラキに任せれば、帰る事くらいは匂いでなんとかなるはずだ。
そう考えながらラキの首元を撫でる。
大丈夫だよな? なんとかなるよな?
「クゥン?」
いつも通りの態度のラキを見てると逆に不安になる……。
今回、先に進むという事に限って言えばラキの鼻は頼りにならない。
通行者の匂いはおろか魔力の残滓すらないこの状況ではラキも能力を発揮しようがない。
ラキもこの古道を使ったことがあるのかと思ったが、どうやら未体験のようだ。
したがって記憶を頼りに先に進む、という方法も使えない。
「本当に大丈夫なんだろうな?」
古道の性質を考えると迷って長時間うろつくのは本気でヤバイ。
そこはまあ、完全に迷ってしまったらの話だが。
それ以外にも移動にそこまで時間をかけていられない、という事もある。
「だ、大丈夫よ! 紐さえ見つかれば迷いようがないし!」
「それを探して迷ってるわけだが?」
「うっ……」
このお遣いイベント先が思いやられるなあ。
なんでこんな事になったのやら。
~~~~
あれからリナリーの話を一緒に聞こうかと思ったが、よく考えたらオレが聞いていい話なのか、聞いて分かる話なのかが怪しいので、とりあず聞き役はイグニスに任せてオレは魔法の訓練を兼ねて欲しいと思った道具を作ったり射撃の訓練をしたりと自由な時間をすごした。
夕食の時間までもう少しという所でラキと模擬戦をする事になった。
予定していた狩りの代わりにオレと対戦しようというつもりらしい。
広場の中央で尻尾を振りながらオレにせがむように吠える。
いつものように20分程度の模擬戦を終わらせて食事の準備でもしようかと、イグニスとリナリーの方へ戻ると眉間にシワを寄せた表情がひとつ。
「デタラメだわ……」
そんな事を呟いたのはラキとの模擬戦を見ていたリナリーだった。
「何が?」
「何もかもよっ!」
模擬戦についてらしい。
疑問にも思ってないという態度に見えたのかハッキリと言い切られた。
そう言われても、こっちに来てからの日課だからなー。
何がどう可笑しいのかさっぱりだ。
ああ、そういう事か。
まあ格闘技をやった事のない人間と比べると色々とおかしいのは自覚がある。
それもこれもジイちゃんとの稽古のおかげなんだけど。
格闘技経験がある人間から見ても、気持ちの悪い動きや理屈を無視したように見える動きをしているらしいからな。
そう感じるのは無理もないと説明したのだが、返ってきた言葉は予想と違うものだった。
「そういう事を言ってるんじゃないの。ラキちゃんとまともに戦えてるのがオカシイって言ってるの」
「これをまともって言うんかね? オレの攻撃はかすりもしねえんだけど」
「はぁ……、自覚がないって怖いわね」
「何だよ?」
「いいの、何でもない!」
「そうか? まあいいけど。ところで話は終わったのか?」
「え、うん。終わったわ。現状の説明と今やっている対応の是非なんかをね」
ん? なんか雰囲気が柔らかくなったか?
イグニスに会って話をするっていう目的を果たせたから気持ちが軽くなった、てな感じかな?
「その事だがの。おぬしにリナリーと一緒に行ってもらうぞ」
「えっ、オレ?」
「えっ」
って、おい。リナリーも聞いてなかったの?
「オレが行って役に立つのか? いや、妖精の里? に行くのが嫌な訳じゃないから行くのはいいんだけど何をすればいいのか分からん事にはなー。行っても邪魔になるだけじゃ?」
「おぬしの役目は、指し当たっては魔力タンクじゃ」
「魔力タンク?」
「順を追って話そう。ワシはちと他に気になる事があっての。同行できん。そして、なるべく急がねばならんとなると移動手段が問題になる。通常の移動では飛行可能なリナリーでさえ3週間以上かかる。現にこちらに着くのにそれだけかかっておるしの。それだけの時間が経過してしまうと事態が急転、または加速した場合、手遅れになりかねん。そこで別の移動手段として『古道』を使う」
「古道?」
「少々やっかいな場所になるが、おぬしが一緒なら問題ないじゃろう」
「もう少し詳しい説明が欲しいんだけど」
「古道というのは異界に存在する通路じゃ。洞窟を模したようなこの通路を使えば、妖精の離れ里に2日程度で行ける。リナリーよ、確かそうであったな?」
「えっ、あ、はい。ここから古道の入り口までの時間を含めてもそのくらいです」
「便利ではあるのだが、それ相応のリスクもあっての。古道の性質が長時間の滞在を難しいものにしておるのじゃ」
「長時間滞在出来ない性質って」
「生気を吸収されるのじゃ」
「危ねえ洞窟だな……」
「生気というより魔力と言い換えてもいいかも知れんの。古道内に生育している魔性植物が侵入者の魔力を吸収してしまうのじゃ。魔力の多い妖精族でも2日間が限界じゃろう。万が一の事を考えて単独ではまず潜らんがな」
「魔力が吸収される以外に万が一の事があるように聞こえるけど」
「古道内が迷宮になっておるのじゃ。世界各地に古道と言われるものが無数に存在するが、それが全部繋がっていると言われておってな。確立された通路から外れた場合、出口に辿り着く前に倒れるのは確実じゃな」
「要するに迷子になったら死ぬって事か。確立された通路って事は何か目印が?」
「そこは大丈夫よ。ちゃんと神域近くの入り口から里の出口側まで紐が通してあるわ」
リナリーの口ぶりからすると、初めて古道を使うってワケでもなさそうだ。
通り道がはっきり分かってるなら魔力が吸収されるといっても、それほど心配しなくてもいいという感じか。
「本来ならば魔石を用意して妖精2人以上で潜るのが望ましいが、おぬしがおるからのう。魔石の代わりに魔力の供給源になれば古道の通過も問題ない。最悪迷っても魔力的には1ヶ月は平気じゃろう」
「えっ、一ヶ月……ですか? さっき吸収した量と計算が……」
「回復途中の量で申告しただけのようじゃな」
「……イズミってほんとに人間?」
「失敬な……。どこからどう見ても人間だろう」
「姿形はそうでも、むしろ竜の一族って言われたほうが納得できるかも」
「おぬしが実は人間ではなかったとしてもワシは驚かんがな。それはいいとして、いくら迷っても平気とは言っても今回はそこまで時間的な余裕はないじゃろうな」
二人とも言いたい放題だな。
魔力量はクイーナのおかげのような気もするけどな。
「オレに対する認識がおかしいけど、ひとまずはオレの役割が魔力タンクなのはわかった。リナリーを無事に送り届ければいいんだな」
「そうじゃな。到着後の行動はおぬしに任せる。解決の手助けをしてやってくれ」
いつになく真剣な表情と声のトーンに意外感を覚えながらも、それを了承。
出発は明朝という事になった。
すぐにでも里に戻りたいという感じのリナリーだったが、3週間の単独移動で精神的にも体力的にも疲弊している状態を回復させたほうが良いというイグニスの言葉に、今日はしっかりと休む事にしたようだ。
離れ里に向かうメンバーはリナリーとオレ、そしてラキ。
ラキはリナリーの護衛として、オレはその二人の魔力タンクとして、という事のようだ。
ラキには外部補給なんて必要ないとは思うが、突発的な戦闘などで魔力を消費した場合に、という事だった。
付け加えるなら、ラキの同行は帰り道の迷子防止の意味もある。
リナリーが里に戻れば帰還時に道案内がいなくなるためだ。
といっても、一応古道の中にはアリアドネの糸ではないが、紐が通してあるようなのでいらぬ心配かも知れないが。
それに、一度通ってしまえばオレの記憶能力を使って覚えてしまえばいい。
相変わらずの肉系植物の夕食を終え、武術の鍛錬と神樹の刀の砥ぎをして、いつものように過ごす。
その後、就寝までの空き時間で多少の雑談をした。
主にオレがどんな世界から来たのかという、リナリーの好奇心からの質問に答える形で。
「魔力のない世界なんて想像もつかないけど、面白そうな所よねイズミのいた世界って」
「まあ、大抵のものがそろってる世界だったな。オレが住んでた所は田舎だったから不便な事もあったけど」
まだまだ質問は尽きそうになかったが、明日のことも考えてこれ以上夜が深くなる前に寝る事にした。
朝、ラキに起こされるより先に目が覚めた。
いつもなら模擬戦に誘うためにラキが起こしにくるが、今朝はそれは無しだ。
なんか久しぶりに自発的に起きた気がする。
里に向かう準備は昨日のうちに既に終わらしているので、今からバタバタとしなくても済む。
無限収納に手元にある分の食料を入れるだけで準備は終了。食料以外は基本そのままで移動可能だから、それ程の手間じゃない。
起きてからの鍛錬メニューをこなし食事にする。
……炭水化物が食いてえ。
リナリーは果物を食べているようだ。
自分の身体より大きいビワを両手で抱えている。
あれ、そんなデカいビワどこにあった?
って、それ全部食う気かリナリー。
食ったよ。しかもタネも残さず。
「ん、なに?」
「その身体のどこに入るんだよ……」
「魔力に変換してるのよ。ここで育った木の実は効率がいいの」
そういう事らしい。
なんとも不思議な光景だった。
小さい口でかじりついたと思ったら、ゴソっと果肉が消えたのだ。
こっちの世界には慣れたつもりだったけど、まだまだ地球の常識が抜けてないな。
と、歯も磨いたし、そろそろ出発の時間だ。
「対応策はリナリーに伝えてある。リナリーを無事に送り届ければ解決に向かうはずじゃ」
「ん、わかった」
背負い袋を肩に斜めにかけながら、そう返事をして出発の準備が整った。
ラキの背にリナリー、オレはそれに並走する形で目的地まで移動。
神域の外に出て、今度は街道のある南側ではなく北側に向かう。
強化を使い一時間程で目的の場所に到着。
高さにして30メートルはありそうな、植物に覆われた壁が目の前に現れた。
左右を見渡せば壁が延々と続いている。
壁の上にも変わらず樹木が立っている事から、要するに崖になっていて、その奥に森が続いているのだろう。
巨大な刃物で地面を切って強引に地面を段違いにしたような、ズレた断層のような構造なのか。
今いる場所はその断層の下段に位置している。
「私が飛ぶより早いって、どういう事……」
リナリーがそんな事を呟いていたが、ラキのペースに合わせるとこうなるんだから仕方ない。
そこが入り口と言われて周囲を見回したがそれらしい所が見当たらない。
岩壁に太い木の根なのかツタなのか、とにかく茶色と緑色がまだらになって壁を覆いつくしている。
それ以外で目立つものはないので何を指して入り口と言っているのか、ちょっとわからない。
「――――――!」
何やらリナリーが詠唱らしきものを唱えたと思ったら、壁を覆っていた植物がわさわさと動きだした。メキメキと音を立てながら太い木の根もヘビのように動く。
動く植物なんてオジギ草くらいしか見たことなかったけど、こうしてみるとちょっと、いや、かなり気味が悪い。
動きが止まるとそこには洞窟の入り口が現れて――いなかった。
「なあ、普通ここは洞窟が目の前にあるとかじゃないのか?」
「見えないだけで、ちゃんとあるから」
そう諭すように言いながらラキの背から飛び立ち、岩壁に向かって飛び込むようにして消えてしまった。
そういえば異界の通路と言っていたな。そういうことか。
ラキも迷う事無く壁に向かって飛び込んだ。
壁に見える部分に手を伸ばすようにして確認してみたが物に触ったという感触はなく、何の抵抗もなく腕が壁に吸い込まれていく。
一旦腕を引き抜き、もう一度腕を突っ込む。
面白いなコレ。
おっと。そんな事をしてる場合じゃなかった。
色々と調べてみたい衝動に駆られたが先に進む事にしよう。
壁の中に身体ごと入ると一瞬の暗転の後、薄明かりに照らされた洞窟内にいた。
十数メートル先でリナリーとラキがこちらを向いて待っているのを見て、そこへ歩みを進める。
「ここが古道か。太陽の光りもないのにホントに植物が生えてるな。それに壁全体がぼんやりと光ってる」
キョロキョロと周りを見ながらの感想を述べながら。
「ここにしかない魔性植物がかなり多いわね。壁が光ってて周りが見えるのも、その植物のおかげだしね」
と言っているリナリー自身も実は発光したりしているんだけど。
「んで、目印の紐ってのはどこだ?」
取り敢えず目に入る範囲にはなさそうなので聞いてみた。
「もう少し先に行った所にあるわ」
「じゃあ、早速そこまで行くとするか」
ひとまずの目的地に向かうまでの間、何とはなしにいくつか聞いてみた。
神域に来るときに古道を使わなかったのは、二人以上の人員を確保出来なかった事と、魔力を充填済みの魔石を用意出来なかったのが理由らしい。
現在の里の状況から人員も魔石も割く余裕がなかったと。
そう聞くと、結構ジリ貧なんじゃないかと思ってしまうが大丈夫なのか?
「確かもうすぐのはずよ」
ここまで、いくつかの分岐はあったが一番大きな洞窟を通って来たので間違いようが無い。
そうこうしているうちに紐があるはずだという場所の近くまで来たようだ。
今までの道よりも少しずつだが広くなってきている。
大分道幅がひろくなった辺りで何かを探すようにリナリーが首を巡らせる。
「ないわ」
「えっ?」
「やっぱり短くなってる」
「短くなってる? 紐が? それってマズいんじゃないのか?」
「大丈夫、短くなってるのはいつもの事だから。定期的に魔力の補充はしてるけど古道に吸われちゃって、どうしても短くなっちゃうの」
「短くなった先までは問題なく行けるんだな?」
「結構先までは覚えてるから、まだ大丈夫よ」
「まだ?」
「やぁね、そんなに心配しなくても大丈夫だってば」
その手のセリフは危ないんだよ。
フラグが立った! フラグが立ったよ!
どこかの山脈で元気な少女が叫んじゃうって。
やっぱりこうなったか。
案の定、迷った。
大きな空間に出て、迷った云々のやり取りをしてからしばらく経つが、未だに紐が見つからない。
まあ、ここでオレが焦ってもしょうがないし、リナリーを必要以上に焦らせるのも良くないだろう。
少しあたふたしてるようだが、「確かここを――」とかなんとか呟きながら割りと淀みなく進んでいる所を見ると必死で記憶の紐を手繰っているんだろう。
その調子で古道の紐も手繰り寄せて欲しい。
最悪の場合、引き返す事になるかも知れない。
引き返す程度の事ならオレの記憶能力でなんとかなるかと思ったが、同じような景色ばかりで、それも若干怪しいかも知れないと思い至る。
完全に迷ってしまったらオレとリナリーは全く役に立たないだろう。
そうなったらラキに丸投げだ。
などとネガティブな思考にはまりそうになっていたらリナリーの身体の発光度合いが、その強さを増した。
なんだ、どうした? ショートでもしたか?
「あった! あったわよ!」
紐を見つけたことでテンションが上がったらしい。
そのせいで高輝度LED並みに発光したようだ。
「見つからなかったら、どうしようかと思ったぞ」
結局、迷ったのか? という疑念を抱いてから2時間近く洞窟内をふらふらして、ようやく紐を見つけた。
その後、順調に歩を進めてから遅めの昼食を取る事にした。
「紐を辿って大分進んで来たし、そろそろメシにしよう」
「ウォンッ」
「そうね、じゃあ早速」
ガプッ
「……おい。なんで二人してオレに吸い付く」
ラキは右手首をまるごと、リナリーは首筋に。
「ふぇ? はっておなふぃほひゅうははいふみのまひょふのほうふぁ」
「何言ってるかわかんねえよ! 吸うかしゃべるかどっちかにしろ!」
「…………」
「そこで吸うほうを優先させるのか」
「ぷはっ! 相変わらずいい味出してるわね」
「ウォン!」
ラキも同じ感想らしい。
「人を出汁みたいに言うな。そもそもラキはともかくリナリーは食べ物でだって魔力の補給が出来るんじゃなかったのか?」
「もちろん食事だってするけど、お腹が一杯になればそれ以上は変換出来ないのよ? それに、同じ補給ならイズミの魔力のほうが好みだし、簡単で安心安全」
「ものすげえ言い分だ」
「いいじゃない、減るもんじゃなし」
「減ってるんだよ! 目に見えるくらいハッキリと!」
分かってて言ってるのが丸分かりだから、これ以上突っ込むのも疲れる。
軽口が叩けるって事は、迷った時の精神的疲労からは回復してきたんだろうけど。
「まあ、いいか。ここには襲ってくるような動物もいねえから魔力の補給くらいはどうって事なさそうだしな」
調理済みの食料を無限収納から取り出してかじり付く。
岩塩プレートで焼いたサツマイモの串焼きをラキとオレが。
リナリーには果物を。
デザートに神樹の森製果物のミックスジュース。
「その補給が原因で普通はこんなに呑気にしてられないんだけどね。古道の中でのんびり座って食事なんて誰もしないわよ?」
「食べながら歩くのは行儀がよくない。それにジュースが飲みづらい」
「何そのワケの判らない理由は――って、何やってるの?」
「植物の採集。持ち帰って何かに使えないかと思ってな。コレだけの密度で魔力含んでるならどうにか出来そうな気がするんだよなー」
串焼きを食べジュースを飲み干しながら、その片手間に植物を土ごと掘り出す。
土の部分は魔法で少し固めて崩れないようにして無限収納に放り込む。
「確か人間に役立つ薬草がいくつかここにあるって聞いた事はあるわ。私はそういうの詳しくないからどれが何の役に立つかは分からないけど」
「そなのか。じゃあちょっと多めに採って行くかな」
軽く周囲の植物を見て回る。
「いいけど、程々にしなさいよー。ホントはそんな事やってる場合じゃないんだから」
離れた場所から呆れ混じりに言うリナリーを尻目に手早く採取を続行する。
「問題ない、すぐ終わらせる」
言うと同時に片っ端から魔力を使って掘り出して無限収納に突っ込む。
「魔力にモノを言わせて無駄遣いしまくりね」
「ま、このあとは使う予定がなさそうだからな」
「え、どういうこと?」
紐が見つかりさえすれば、ね。
~~~~
「きゃああーっ! は、はやっ! 早すぎぃー!」
そう、紐さえ視界に確保してしまえば、あとはそれを辿って行けばいいだけ。
馬鹿正直にえっちらおっちら歩いていく必要なんてどこにもない。
オレとラキは強化を使って森のようになっている洞窟の中を高速で移動した。
リナリーは振り落とされないようにラキの毛の中に潜り込んで耐えている。
3時間後。
妖精族の離れ里側の出口が見えた。
出口を抜けるとやはり一瞬の暗転。
内側からは外の景色は普通に見えたが出た先で古道の出口に振り返ると大きな岩が一つあるだけだった。
森の中にコケに覆われた岩がたたずんでいるが、これがこちら側の古道の接合点のようだ。
古道から出た事で間断なく続いていた魔力の減少を感じなくなった。
移動しただけなのに、コレだけの魔力を消費させられたのかとちょっと感心した。
「ひ、ひどい目にあったわ……」
途中からリナリーが妙に静かだなと思ったら、自分の腰にくくりつけていたラキの毛が絡まり、そして強化で更に締め付けられ、その上移動の振動でシェイクされて若干グロッキーになっていたようだ。
「とりあえず古道も抜けたし、いったん休憩にするか?」
「こ、ここからそんなに離れてないから、里に着いたらでいいわ……」
「大丈夫か? まあ近いならその方がいいか」
飛び方がカクン、カクンと落下と上昇を繰り返してるけど本人が言うんだから大丈夫なんだろう。
それに同じ休むにしても落ち着く場所で休んだほうがいいのは確かだ。
妖精の里にはここから北に向かへばいいとの事。
神域に帰るには里から南にだけ進めば帰れるのか。覚える事がなくて楽でいいな。
里に向かうまでの間、生き物の気配をいくつか感じたが、襲ってくるような事もなかったのでよかった。
一時間かからないうちに着いたそこは、なんの変哲もないただの森。
今まで移動してきた森とどこがどう違うのか。
そんな疑問が顔に出ていたのか、リナリーがからくりのタネ明かしをしてくれた。
「結界で里の存在を隠してるのよ。色々な仕掛けで隠蔽してるの」
神域と違い、別の空間というわけではないらしい妖精の里は、様々な魔法によってその存在を知られないようにしている。
ひとつは方向感覚に干渉する魔法。
いくつか例を挙げると。
木漏れ日を利用した光の明滅による一種の催眠や、風音に紛れ込ませた三半規管への干渉派動、意図的に作り出された同じ景色、などなど。
古道からの道中でもあったようだが、リナリーと一緒だったおかげで対象外としてすり抜けていたようだ。
説明された以外にも膨大な数の魔法がそこかしこに仕掛けられているらしい。
「まさしく隠れ里ってヤツだな」
「そう。だからちょっと待ってて。到着の報告をしてくるから」
そう言うと、飛んで行った先でリナリーの姿が霧の中に入っていくように消えた。
『だから』の言葉の意味は、最初は何の事か分からなかったが、人間が同行した事について説明が必要、という事で間違いないだろう。
今聞いたばかりの魔法が何の為に使われているのか考えれば当然といえば当然だ。
それから、ほどなくして何もない虚空からリナリーが姿を現す。
「長達に話は通したわよ。って何してるの……」
「ラキの肉球マーサージ」
オレがラキの肉球でマッサージされるのではなく、オレがラキの肉球のマッサージをしている。
お手の状態で肉球をこちらに向けてもらっている。
「そんな事はいいから!」
「はいよ」
リナリーの後を追って進むと薄い膜のような魔力を通り過ぎる感覚。
その後、目に飛び込んできたのは、これぞファンタジーという風景。
森の中なのは変わらないが、樹木の姿かたちが一変。
神樹ほどではない巨木から放射状に果樹園のたなのように枝が伸びている。
いや地面から生えている木の枝が、継ぎ目なく巨木の枝と繋がっていると言った方が正確か。
そしてそれら張り巡らされた枝全体が、巨木を中心にドーム状に形成されているようだ。
樹木以外の植物も、淡い色の花をつけ、いたる所で咲いている。
ファンタジーというよりファンシーか?
その光景に目を奪われながらもリナリーと共に先へ向かうと、高音のキーンという音に混じって、どこからともなく声が聞こえてきた。
「人間だ」「人間だわ」「里に人間が…」
やっぱり、そうなるよな。
話に聞いた扱いを受けていたなら、人間の前に姿を見せないのも当然だ。
と思っていたら、そこらじゅうからワラワラと妖精達――リナリーと同じような背格好だから同じ妖精だろう――が出て来た。
しかし、ごくわずかだが忌避や恐怖などの感情を感じられる。
が、何故か敵意や憎悪といったものが混じってないように思う。
隠れてこちらを観察すればいいのではと思うのだが、リナリーが言っていた『種族の特性としての好奇心』が前面に出てしまって様子を見にきているのだろう。
好奇心優先とはいっても全くの無警戒というわけじゃなさそうだが。
「不思議?」
「ん? ああ、なんか思ってたのと反応が違うな。もっとあからさまに拒絶の意思をぶつけられるかと思ってた」
明らかに拒絶というより興味を抱いていそうな表情の妖精がいたりするのがちょっと不思議な感じだ。
「本来なら妖精族は他者に対して憎悪とか、そういった負の感情をあまり抱かない種族なのよ。不思議に思うかも知れないけど、そう出来ているの。でもね、やっぱり人間に対しては警戒しちゃうの。ホントは人間の事が大好きなのにね」
「根が善良なんだな」
「ううん、妖精族自身もどうしたらいいか分からないっていうのがホントの所なの」
「いいのか、それで」
「良くはないけど、こればっかりはね……」
まあ、そうだろうな。長い間この状態だったのだから、すぐに何かが変わるという事はないだろう。
「あ、あそこに長がいるから、まずはそこに行きましょ。紹介するわ」
向かったのは中心の巨木だった。
そして、うろを利用した通路を通り、人間でも数十人くらいは普通に入れそうな大きさの、部屋のような場所にラキと一緒にリナリーの案内で通された。
木の中なのに、ここでも花がたくさん咲いているなあ。
日光のような光りもあるし。
それはいいけど、誰もいないぞ?
「ほっほ、お前さんがリナリーの言っておった人間だな?」
周囲を観察していたら背後から声をかけられ振り向くと、あれ? いないぞ。
「下じゃ、下」
「おおっ、そんな所から」
飛んで現れるかと思っていたら、足元の花が咲き乱れてる所からガサゴソと出てきた。
白く長いヒゲを蓄えた老妖精。
ローブのような物を羽織って、杖をもっている姿はまるで小さな魔法使いだ。
老妖精はフワリと浮いて、目の前の大きな白い花の上に降り立った。
「ラキ殿も久しぶりじゃな」
「ウォン!」
「さて、自己紹介の前に、今回の事、おまえさんが解決してくれるということじゃが相違ないかの?」
「は? えっ?」
初耳です!
リナリーを見ると目を逸らした!
えっと、どゆこと?
差し替えも含め超難産でした。
次回更新はまた遅くなる可能性が……(´・ω・`)




