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【プロット公開】【完結】等価交換したくないので錬金窯を自作してみました  作者: 若菜みかん


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6/26

二年目 食品 1

「包丁を作ろう」


 年が明けて最初の仕事の日。


 マードックは鉄を錬金窯へ入れた。


「普通じゃない?」


 ローレライが言った。


「普通でいいんだよ」


「去年は金を作ろうとしてたのに」


「忘れてくれ」


「無理ね」


 去年までマードックは鉄を精製して、そのまま素材として売っていた。


 今年は違う。


 同じ鉄から完成品を作る。


 最初に選んだのが包丁だった。


 理由は単純だ。


 家にあるから形が分かる。


「これを作る」


 マードックは台所から持ってきた包丁を錬金窯の横へ置いた。


「私の包丁なんだけど」


「参考にするだけだ」


「使うから早く返してね」


 マードックは包丁を観察した。


 刃の長さ。


 厚み。


 形。


 柄との接続。


 今までの錬成とは少し違う。


 鉄を精製するだけなら、完成した鉄の形はそれほど重要ではなかった。


 今回は違う。


 使える形にしなければならない。


 マードックは紙に包丁の形を描いた。


「……絵、下手ね」


「分かればいい」


「これ包丁?」


「包丁だ」


「魚かと思った」


「包丁だ」


 術式へ完成形を設定する。


 鉄を入れる。


 柄に使う木材も入れた。


 錬金窯を起動する。


 魔石から魔力が供給され、去年一年かけて改良した調整器が必要な量へ整える。


 錬成が終わった。


 マードックは窯を開ける。


「できた」


 中には包丁があった。


 少し歪んでいる。


 柄も太い。


 それでも包丁には見える。


「貸して」


 ローレライが受け取った。


「重い」


「鉄だからな」


「そういう意味じゃないわよ」


 台所へ持っていく。


 野菜を置いて切る。


「切れない」


「そんなに?」


「使ってみる?」


 マードックが受け取った。


 野菜へ刃を当てる。


 押す。


「……切れないな」


「でしょう?」


「形は合ってる」


「包丁は形が合ってればいいものじゃないの」


 マードックは自分で作った包丁を見る。


 鉄を包丁の形にした。


 それだけだった。


「刃か」


「刃ね」


 そこから作り直した。


 厚みを変える。


 刃先を薄くする。


 材料も変える。


 硬さも調整する。


 二本目。


「切れるけど使いにくい」


 三本目。


「柄が痛い」


 四本目。


「悪くない」


 五本目。


「これなら使える」


 ローレライから合格が出た。


「最初のと比べてみる?」


 五本の包丁が机に並んだ。


「最初のひどいな」


「魚みたい」


「まだ言うのか」


 五本目は店で売られている包丁と比べても悪くない。


 問題は値段だった。


 マードックは材料費と魔力の使用量を計算する。


「いけるな」


「儲かる?」


「ああ」


 鉄を精製して売るより利益が大きい。


 同じ材料でも、使えるものに加工すれば値段が上がる。


 去年考えたことは間違っていなかった。


「付加価値だ」


「気に入ったの? その言葉」


「いい言葉だろ」


「私は普通に包丁を買うけど」


「なんでだよ」


「五本作って一本成功するなら、まだ買った方が安心だから」


「そこは改善する」


 次は鍋を作った。


 これは比較的簡単だった。


 皿も作った。


 金属製の道具もいくつか試した。


 木材を使った箱にも挑戦した。


 作れるものが増えるたびにマードックは帳簿へ数字を書き込んだ。


 素材のまま売るより利益が出る。


 だが別の問題も見えてきた。


「面倒だな」


「何が?」


「覚えることが多い」


 包丁には包丁の作り方がある。


 鍋には鍋。


 箱には箱。


 材料を入れれば何でも完成品になるわけではない。


 形。


 材質。


 厚さ。


 用途。


 それぞれ条件が違う。


「職人さんがいる理由が分かった?」


「分かった」


「じゃあ任せれば?」


「それだと俺が楽にならない」


「またそこ?」


 マードックは完成した包丁を見る。


 同じものをもう一本作る。


 今度は成功した。


 三本目も同じだった。


 条件さえ決まれば、錬金窯は同じものを作れる。


「最初だけ大変なんだ」


「最初?」


「一度うまくいった条件を残しておけばいい」


 材料の種類。


 量。


 魔力量。


 完成形。


 錬成時間。


 全部を書き残す。


 次から同じ条件で錬成する。


「毎回考えなくて済む」


「それは楽ね」


「だろ?」


 マードックは嬉しそうに記録を整理した。


 これなら完成品を作れる。


 同じものを何度も作れる。


 素材を売るより利益も出る。


 しばらくは日用品を作ってみよう。


 そう考えていた日の夕方。


 ローレライが工房へ顔を出した。


「マードック」


「どうした?」


「夕飯作るから、その鍋返して」


「ああ」


 試作品として使っていた鍋を渡す。


 ローレライはそれを持って家へ戻ろうとした。


 マードックは机の上にある材料を見る。


 鉄。


 木材。


 完成した包丁。


 鍋。


 そして家へ向かうローレライ。


「……料理も同じじゃないか?」


 ローレライが足を止めた。


「何が?」


「材料を加工して完成品にする」


「まあ、そうだけど」


「肉と野菜を入れる」


「うん」


「切る」


「うん」


「火を通す」


「うん」


「味を付ける」


「うん」


「料理になる」


「そうね」


 マードックは錬金窯を見る。


 ローレライも錬金窯を見る。


 少し間があった。


「駄目よ」


「まだ何も言ってない」


「その顔してるときは大体ろくなこと考えてないもの」


「料理を作れるんじゃないか?」


「普通に作りなさい」


「でも毎日作るだろ?」


「作るわよ」


「毎日同じ作業をしてる」


「料理だからね」


「毎日やる作業なら、自動化した方がいい」


「待って」


 マードックは立ち上がった。


「肉ある?」


「夕飯用なら」


「野菜は?」


「あるけど」


「香辛料」


「ある」


「持ってきて」


「夕飯どうするのよ」


「今から作る」


「あなたが?」


 マードックは錬金窯を叩いた。


「こいつが」


 ローレライは錬金窯を見た。


「嫌な予感しかしないんだけど」


「大丈夫だ」


「その言葉、去年何回聞いたと思ってるの?」


「今回は食えるものを作るだけだ」


「そこが一番心配なのよ」


 その日の夕食が食卓に並ぶまで、いつもの三倍の時間がかかった。

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