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灰色少女の片思い  作者: あかは
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番外編 不器用で不幸な魔術師の話3

パーティーの前にファニーを迎えに行くと。家には誰もいなかった。


(行く、と言って行かないみたいな嘘をいうやつじゃない。)


もしかして他の誰かが迎えに来たのだろうか。それとも一人で向かったか。迎えに行く、と伝えられなかったことを後悔する。


(一人で行って、招待状渡してすぐ帰るつもりか?)


キールはファニーの交友関係はほぼ把握している。それ以外でパートナーとしてパーティーに出席するような男がいるとは考えにくい。


(だけど万一そうだったら。)


我知らず胸を押さえた。なんにせよ、ここで会えなかったなら、パーティー会場に行くしかない。キールは急いで会場へ向かった。


**********


「は?誰・・?」


思わず、すっとんきょうな声が出た。ウイルドが吹き出している。


「こちら、フェリア・ストーンズ嬢だ。知り合いの商会のお嬢さんだよ。」


そこにはキールの知るファニーが、今まで見たこともないおしゃれをして、あり得ないほど朗らかに笑っていた。


(なに?フェリア?誰?)


こんなに明るく振る舞うファニーは見たことがない。頭がどうにかなりそうだった。見るからにファニーの顔なのに別の名前を名乗っている。


(そっくりな別人?でもこの間作ってもらった魔道具と同じものの()()がある。やっぱりファニーか?)


「フェリア・ストーンズです。」

「キール・コールディです。魔術師をしています。」


自己紹介をする自然な笑みに、キールはますます混乱する。


(どうしよう。凄く可愛い。)


脳内の自分が身悶えしている。するとウイルドがファニーの手を急に取った。


「では、フェリア。楽しんで。」


手そのままファニーの手の甲にキスして、ウインクした。ファニーが、頬を染める。途端にキールの頭は真っ白になった。嫉妬で何もかも焼ききれそうだ。


(落ち着け。)


まさかまたウイルドを殴るわけにはいかない。なんとか咳払いを一つして、声をかけた。


「バルコニーへ行ってゆっくり話しませんか?」

「え?」


驚くファニーに、断られたらと焦りが走った。


「だめですか?」

「いいえ。喜んで。」


柔らかく微笑まれて、キールは膝からくずれそうだ。


「では。」


なんとか耐えて手を差し出すと、柔らかな指が乗せられた。ほとんど初めて握るその手を、胸の鼓動を聞きながら引いて、外へ向かう。


冷たい空気に少し頭が冷えた。


(余った妖精の石で同じ魔道具を作って身につけて、その外見になって、別人のふりをしているのか。)


魔術系の幻はキールには効かないと言ったことがあるはずだが、すっかり忘れているのだろう。


(俺に興味がないんだろうな。)


考えて少し憂鬱になると、後ろでよろめいたようで強く手を握られた。


「大丈夫ですか?」

「い、いいえ?」


(あー。ファニーだ。間違いない。)


どうせ別人のふりをしているなら、自分も紳士のふりをしよう。


「星がきれいですよ。」


雲ひとつない夜空にいくつも瞬く星を指差す。


「本当。こんなにきれいに見れることって、あんまりないわ。」


あっとばかりにファニーが口を覆った。口調が崩れていつもの感じになっていた。


「そのままでいいよ。俺も堅苦しいのは疲れる。」

「今日は一人でここに来たの?」

「そうじゃない予定だったんだけど、そうなった。」

「ふられた?」


(この鈍感。人の気持ちも知らないで。)


「なんでかな。うまく伝わらないんだ。」

「片思いなの?」

「そう。」


こんなに目の前にいるのにな。全く伝わる気がしない。まあ自分のせいでもあるが。


「・・知り合いに似てたんだ。」


もはや、自棄だった。


「片思いの相手。」


そう言ってじっと見つめてみる。


「とても、綺麗だ。」

「え、・・キー・・」

「あ、いたいた。フェリア、ちょっと来てくれないか。」


口説いてみようとしたら、ウイルドの間の抜けた声が聞こえて脱力しそうになる。ここまでか。


「片思い、うまくいくように祈ってるわ。じゃあ、これで。」


別れ際の台詞に胸を突かれる。()()()()()()()()()()()()()()、と。


「ああ。ありがとう。」


虚しい気持ちで答えて、そのまま会場を後にする。そのまま寝床でぐるぐると思い悩み、眠れずに朝を迎えた。


(ちゃんと話したい。)


結局、大事なことはなにも伝えていない。昼前にキールはファニーの家に向かった。たどり着くと、珍しく鍵がかかっていた。


(もしかしてもう引っ越した?!)


あわてて戸を叩く。


「ファニー!いないのか?ファニー!」


何回くらい叩いただろう。叩くのをやめたら、何かが終わってしまうような気がして、やめられない。

わずかに開けてある隙間から、灰色の瞳が見えた。


「いた!ファニー、そこにいるな!」


思わず声を荒げると、ゆっくりと扉が開いた。寝間着にぼさぼさの髪。目の回りは腫れている。


「うわっ。なんだその顔、絶望的にひどいな。」

「・・何の用なの。」


早速の自分の失言に臍を噛む。


「とりあえず、中に入れろよ。」


強引に入って、椅子に腰かける。帰って欲しそうだったが、ファニーにも座るように促す。部屋を見ると、物がまとめられていた。わかってはいたが、胸が苦しい。


「・・お前、引っ越すのか。」

「キールに関係ない。父さんと母さんには、ちゃんと後で連絡するわ。」


横を向いて言われて、苛立ってつい手が出た。あごを掴んで無理にこちらを向かせる。


「俺は?」


ファニーはなにも言わない。キールは手を離して、視線をはずした。


「なあ。俺のせいか?」

「な、なにが?」

「一人立ちするって家をでたのも、今回の引っ越しも。」

「違うわよ。」

「じゃあなんで。」

「・・・・・。」


問い詰めても仕方ない。わかっているけれど止まらなかった。なんでこんな風に回り道に入ってしまうのか。


「お前、悪魔かなんかか?」


気づかれないのではなくて、弄ばれているような気がしてきた。


パーティーでのことを問いただすと、ごまかそうと俺と会ってないなどと言う。これはあの時考えた通り、別人のふりをしていたつもりだったんだな。


「俺に魔術系の幻は基本効かない。」


ファニーが青ざめる。思いもよらなかったようだ。


「誰・・?って。」

「誰かさんが、見たことも無いくらいイイ笑顔を振り撒いてるんだ。いっつも仏頂面だった、誰かさんがね?絶対着ないようなドレスを着てだ。一体誰かと思うわ。」

「は、はい。すみません。」

「ウイルドが、違う名前言うし。ホントに別人か、いや魔道具の気配あるし本人かと混乱してたら。・・・ウイルドが挑発してくるし。」


最後の声は小さくなって、呟きのようになった。ふと、キールは怯えたようなファニーの顔を見て、内心焦る。


(だめだ。このままだといつものように、ちゃんと話ができない。)


「う、うわあああー!」

「な、なんだよ。」


急に叫ばれて、思わずたじろぐ。


「死にたい・・。」

「なんでそうなるんだ。」

「うう・・。こんなはずじゃなかった・・。」

「・・とりあえず、お前に悪気が無かったのはわかった。」

「はい。」

「で?」

「はい?」

「いい加減、わかった?」

「な、なにが?」


無邪気な顔に腹が立ってきた。


「・・俺の、片思いの相手。」

「え?」


そこからなにやら考えている様子だが、どうにも的外れなことを考えているとしか思えない。実際、的外れな事を言われた。

仕方がないので、キールから見た昨日の様子を改めて説明してやる。最後はとてもファニーの顔は見れなかった。


「・・キールが私のことを好きだって言ってるみたいに聞こえる。」


すぐにそれには答えられない。


「えっ。あっいや、ご、ごめんさすがに勘違いよね。」

「・・そうだよ。」


なんとか絞り出した。


「あ、やっぱり。」


相変わらず、マイナスのアンテナが抜群だ。


「違う!俺は、お前のことが好きなの!」

「ふぇっ・・!」

「だー!もう。お前ってほんと・・。」


めっちゃ可愛い・・とは言葉にならない。


「ご、ごめんなさい。ごめんなさい。ほんとごめんなさい。」


告白して謝られるのは、お断りということか。


「まあ、わかった。なんか色々わかった。」


キールは脱力して、うつ向いて立ち上がる。


「もう、帰るわ。俺が悪かった。」

「え?」

「しつこくして悪かったよ。もう来ない。お前も来て欲しくないから引っ越すんだろ?わかったから。」


外に出ようとした体が止まる。振り向くと服が引っ張られていた。


「気のない男を引き留めたら、だめだ。鍵もちゃんと帰って来たとき、でかけるときは閉めろよ。」


服をつかむ手をゆっくり押し戻す。ファニーはなにかモゴモゴ言っている。


「何言ってるかわかんねえ。まあ、そうさせてたのが俺なんだよな。今回よくわかった。」


これで終わりだと引こうとした腕を、ファニーの手がつかんだ。


「おい・・?」

「わたし、キールが好きなの!」

「は?」


なんか今、現実で絶対聞けないことを聞いた気がした。思わず掴まれた手を握り返す。


「え、なに・・?」

「わ、わたし・・。」


聞き返すと、ファニーが横を向いた。だけど、そんなことで逃がせない。


「俺のことが好きなの?」


真っ赤な顔のファニーを覗き込むと、もう目一杯だという顔で涙ぐみつつ、首を縦に動かした。


(空耳じゃない。)


たまらず、抱きしめていた。柔らかい感触に、幸福感がこみ上げる。


「き、キール?」

「もう、無理だと思った。・・ファニー。」


確かめるように名前を呼んだ。


「な、なに?」

「ファニー、好きだよ。」


顔を寄せると、ファニーがぎゅっと目をつぶる様子がかわいらしい。思わずくすりとしつつ、唇を寄せた。


やっと幸せな恋になりそうだった。

お読みいただきありがとうございます。


本編書きながら、ずっとこういうキールを考えていました。お楽しみいただけたなら幸いです。

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[良い点] すれ違い具合がじれじれして良かった [一言] その後のデレた2人が見たいです。
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