余談 ウイルド・ワズナーの独白
ウイルド視点です。
おおよその男子にとって、好きな女の子、気になる女の子への接し方は個人差はあるものの、年齢によって変化するものだ。
気になる女の子に嫌なことを言ってしまったり、意識しすぎてちゃんと話せなかったり・・というちびっ子から思春期の時期特有の男子の振るまいは、大人になるにつれて修正される事が多い。
(キールはずっと思春期だなあ。)
ウイルド・ワズナーは友人のことを思い浮かべていた。
昨日、妖精のような美少女の姿になったファニーは本当に美しかった。まあ、キールにはファニーの姿にしか見えていないし、とくに変身して欲しいとも思ってないだろう。
『は、誰・・?』
いや、まったくあの時のキールの顔は傑作だった。あれほど愛想の良いファニーは見たことがなかったし、本人の顔がそのまま見えていたならなおさら驚いたろう。
(正直、そろそろ楽しみ尽くしたから、二人にはくっついて欲しいんだよな。)
それでファニーの手にキスして、ウインクしてみたわけだ。結果、実に久々に人からの殺意を感じた。
(さすがにあの場で殴ってこなかったのは、大人になったというべきか。)
殴られていたら、大事件である。だが、学生時代と違って友人関係以外のもっと即物的なものが強請れたかもしれない。
「ウイルド様。キール様がいらしていますが、お会いになられますか?」
受付嬢が扉の外から控えめに言う。ここは店の二階の自分の仕事部屋だ。狭いが一人二人の友人なら、入って問題ない広さだ。
「ああ。ここに通してくれ。」
ウイルドが座っている以外に、この部屋には椅子は一脚しかない。机も自分が山のように書類を積んでいるこの執務机だけ。
(予想だと二人で来ると思うんだけど、まあキールは立ったままでいいだろう。)
「ウイルド。急にごめんなさい。」
うつむきがちに開口一番謝ったのは、ファニーだった。灰色の髪と瞳の彼女は、コンプレックスのためかあまり人を正面から見ない。
「やあ。ファニー、どうしたんだい?」
「あ、あの・・。」
「キールと手をつないで来るなんて珍しいね。」
にっこり笑ってやると、ものすごい勢いで二人の手が離れた。ちなみに二人の顔はそれぞれ赤い。
(なんだこれ、面白いな。)
「まあ、ファニー。座りなよ。」
一つしかない椅子を勧めてみる。ファニーは戸惑ったように、横のキールを見上げた。
「なんだよ、お前が座れって言われてるんだから座れよ。」
しぶしぶファニーが座る。そちらからは見えていないが、後ろに立つキールはちょっと満足そうだ。
(全くもって、思春期なんだなあ。いや、ツンデレ?ツンデレってこういうのなのかなあ。)
「あの、ギルドのことなんだけど・・。」
「あ、今日引っ越しだったね。向こうもはりきって準備してくれてるみたいだから、絶対に不便はないよ。」
「それが、その・・。」
「ギルドを中心に工房がある中だからね、作業環境は間違いなく良くなるよ。」
「ご、ごめんなさい。私・・」
「どうして謝るの?友達として誇らしいよ。僕のコネじゃないからね。紹介しただけだよ。」
灰色の瞳が泳いでいる。後ろのキールがたまりかねたように口を開いた。
「ウイルド。こいつは行かせない。あと、わざと遮るのやめろ。」
(ばれてた。そりゃあなあ。)
「うーん。行かせないって言われてもなあ。違約金もかかるし。」
「俺が払う。」
「いやいや、それにこういうのって信用商売でしょ?ファニーの仕事がすごくやりにくくなるよ?」
「・・それも俺がなんとかする。」
(まあ、ずーっと好きなんだもんなあ。今離れたくないよなあ。)
「えーっと。なんかキールが凄い勢いなんだけど、二人、なんかあった?」
わざとファニーの方を覗き込む。
「なっ・・。あった?あった・・?何かって・・。」
言いながら、真っ赤な顔であたふたとキールを見上げる。こっちの顔も赤いな。
「ウイルド。ぜっっ・・たい、わざとだろう。」
「なんのことかな?二人に何かあったなら友人としても、はっきりその口から聞きたいね。」
「・・ファニーと付き合うことになった。」
「誰が?」
なるべく、邪気なく言ってみた。
「・・俺が。」
「何がどうなって?」
「・・・・体を半分ずつにしてやろうか?」
(おっと、これ以上言うなら殺すってことだね。)
王立学校で殴られたことを思い出す。あの時、殴られるとは気配で寸前に察した。もしかしたら避けられたかもしれないが、これ殴られたらなんか使えるかなって考えているうちに、しっかり殴られていた。
(いま殺されるのはメリットがなさそうだ。)
「話を戻すけど、二人が付き合って今回の工房の引っ越しに何か問題があるの?」
「え?」
「は?」
「そりゃ、仕事が通いになるから今までみたいに家に行けばいつでも会えるとはならなくなるけど。」
「ちょっ・・、え?家は?」
(書面はもっとよく読むべきだと思うなあ。まあ、僕がわかりにくくしたんだけど。)
「いまの家に住むんじゃないの?」
二人は顔を見合わせて、それぞれため息をついた。
「つまり。私が契約したギルドは工房だけを用意してくれていて、それを『引っ越し先を用意したよ』と言ったのね。」
「そして、俺には『ファニーが厳しいギルドに入って引っ越すことになってる』と、説明したんだな。」
「そうだよ?なにか行き違いがあったかなあ?」
白々しく申し訳なさそうにしてみる。もちろんわざとだ。
「くっ・・。そうだよな。そういう奴だよな。お前・・。」
キールが下を向いて拳を握る。
(殴られるかな?もうちょっと話題をそらそう。)
「ファニーへちゃんと説明したつもりだったよ。『青の盾』に紹介するけど、工房は特定区画に置くことになっていて、引っ越さないとだめだよって。」
緑色の瞳が、驚いて、次に睨み付けてきた。
「全部、お前の手のひらの上かよ。」
(そうしたくなるくらい、二人とも見え見えだったんだよねぇ。)
「どういうこと?」
ファニーが不思議そうに首をかしげる。
「『青の盾』っていうのは、仕事上で俺が一番付き合いのあるギルドなんだ。どおりでパーティーに見た顔が何人もいると・・。」
「そりゃ、昔馴染みが関係してるところのほうが安心だろう?」
(『青の盾』とのつながりが太くなるのもいい。)
睨んできていたキールが、深い息を吐いた。
「助かった。お前からは、色々と見えてたんだよな。ありがとう。」
「持つべきものは友達じゃないか。」
「照れ隠しに胡散臭いこと言うのやめろ。」
「で、家はどうするの?」
ファニーを見ると、明らかにうろたえている。
「今の家の契約終わりにしちゃった。今日はまだいいけど四日後には出ないと・・。」
「実家に戻らせてもらえよ。」
「そ、そうだよね。それから家を探すわ。」
「・・ひとまず、お前の実家に言って説明しよう。」
「えっ・・。あ、あの?一緒に行くの?」
「なんだよ。なんか文句あるのか?」
「あれ?な、なんで?」
(だめだよ、ファニー。それ、理由をいま聞いたらダメなやつ。)
「うるさい。とにかく一緒に行く。」
「・・は、はい?」
キール顔が少し赤い。付き合った上で、彼女の両親に会うのだ。どういうつもりか考えられていないファニーは罪深い。
「誤解も溶けたし、あとは二人で相談しなよ。僕もこの後、約束があるんだ。」
そう言って二人を追い出すことにした。ファニーはまだ、何か言いたげだったがキールがさっさと出ていったので、あきらめて外に出ていった。
(いいなあ。青春だなあ。・・僕も同い年だけど。)
完全に当てられている。きっと二人は幸せになるんだろう。少し、いやかなりうらやましい。
(でも、あんな回り道な恋は願い下げだ。)
本編番外編の間、このウイルドもずっと頭の中にいました。お楽しみいただけたなら、幸いです。




