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戦い、終わって

一週間ぶりの更新になります。大変お待たせしました。

今週からまた本編を進めていこうと思いますのでよろしくお願いします。

「ん……」

 広めのベッド、そこに眠っていた魔王は、ゆっくりと目を開ける。

 随分と懐かしい夢を見た気がする。

 身体を起こそうと手をつき、力を入れたところでバランスを崩し、右側に倒れる。

「――っと」

 ボスンと、柔らかいベッドシーツに再び沈み込む魔王。

「そうか……」

 包帯に覆われた上半身、その右肩、そこから腕はスッパリとなくなっていた。

 ……切り落としていたのだったな。

 魔王はまだ少し呆けた頭で、右腕の痕をさする。


「起きられましたか」


 

 声の方向に顔だけで振り向くと、ベッドの足元、椅子に腰掛けたメイドがいた。


「なんだいたのか、と言うか見ていたのか」

「ええ、可愛らしくひっくり返っておりましたね」


 メイドの言葉に魔王は顔をしかめる。


「……ここは?」

 

 包帯で巻かれただけの上半身を、掛けられた毛布で隠しながら、魔王は部屋を見渡す。

 広い部屋に派手さは無いが綺麗にまとまった家具と装飾。

 魔王がとった宿とは違う場所だ。


「カミオ様に用意していただいた部屋です、元の宿は騒ぎが騒ぎですから、戻れませんので」

「そうか……他の者達はどうした?」


 再度メイドを見る。


「カル様とリズには、街の様子を見に行っていただいております」

「……そうか」


 メイドは立ち上がると、椅子を持ち魔王の横の位置に移動する。

 そして、その手が魔王の髪を撫でる。


「無茶をされて……」

「ぬ……」


 気恥かしさにその手をどかそうとするが、次の瞬間には撫でられるだけでなく抱き寄せられる。

 

「今度からいきなりああいう事をされないで下さいね……」

「あ、アレは仕方ないだろう……悠長にしてられなかったのだ」

 

 力加減でどうにも離してくれなさそうなのを察すると、魔王はなされるがままにする。

 実際の所、頭を撫でられるのは別に嫌いではない、むしろ心地よいと感じる。


「それでも一言位頂ければ。心の準備というものがあります」

「むぅ……善処する……」

「はい、されてください」







「とりあえず服と……後、切り落とした右腕はあるのだろうな?」

 

 上半身を起こした魔王はメイドにたずねる。


「もちろん、どちらもございますよ」


 メイドは少し離れた位置にあるテーブルの上から、畳まれた服を手に抱えると、ベッドの横の小さなチェストの上に置く。

 そしてベッドの足元側、白い布でカバーされた一メートル位の四角いモノ、その掛けられた布を外す。

 布の下から現れたのは、氷の塊だった。

 その氷の中には、白い肌をした華奢な腕、魔王の右腕が閉じ込められている。


「腐敗などが起きないよう、簡単にですが封印しておきました」

「ん、助かる」


 メイドが氷の塊を一撫ですると、それは一瞬で砕け散り、空気に混ざって消える。

 台座のようになった氷の上から腕を取ると、メイドは魔王にそれを渡す。


「包帯外してくれぬか」

「はい」


 メイドは魔王の右肩上、包帯を留めていたピンを外す。

 包帯が一気に緩み、サラシのように胸を覆っていた部分を含め、腹の位置まで落ちる。

 上半身裸の状態になるが、メイドしかいないので、さほど気にする事でもない。


「肩、支えておきましょうか?」

「……多分大丈夫」


 魔王は左手に持った自らの右腕に魔力を流すと、切断された肩の部分、今は真っ平らになっている部分に小さな魔法陣が浮かぶ。

 同時に、右肩、真っ平らになった肌色の部分、本来右腕が生えている場所にも同じ魔法陣が浮かぶ。

 その魔法陣を合わせるように、手に持った右腕の肩を自分の右肩に押し当てる。

 小さく痺れるような感覚の後、右肩に連続して刺すような痛みが走り出す。

 見た目にはくっ付き、傷跡さえ分からなくなった右腕だが、繋がった部分から先の腕だけが明らかに血色が悪い。


「思ったより痛いな」


 右肩を押さえながら治癒の魔法を腕にかける。

 痛みは少し弱くなったが以前続いている。


「切れていた血管や神経、骨などを繋ぎ直しているのですから、仕方ないですね」


 メイドは、徐々に血色が良くなっていく魔王の右腕を見ながら、魔王の額に浮いた脂汗をチーフで拭う。

 ゴキンという硬い音と共に、魔王は右肩から押さえていた手を離す。


「ハッ――はぁ……」


 一息の後、深い溜息を吐きながら再度ベッドに倒れる。


「大丈夫ですか」

「あぁ、うん、もう繋がったから大丈夫だ」


 さっきの音は、恐らく肩の骨が噛み合わさった音なのだろう。

 右腕、さっきまで何も無かった場所に力を入れ、持ち上げてみる。

 ゆっくりと腕は持ち上げられ、頭上にかざされる。

 まだ血色は悪いが、しっかりと血の流れを感じる。

 手を閉じて、開いて、何度か繰り返すと、力を抜く。


「問題無いようですね」

「うむ、後は動かしていればすぐ馴染むだろう……次があるなら再生の方でやろう……」

「経験談だと再生もかなり痛いらしいですが」

「なんだと……」

「素直にその様な状態にならないようになさって下さい」

「……そうだな」


 魔王は小さく溜息を吐いた。


「では身体を起こしてくださいませ、汗をお拭きしますので」

「それくらいもう自分でやる」

「そうですか?」


 魔王は両腕を使って身体を起こす。

 少し右腕が痺れるような、ピリピリした感覚がしたがその内無くなるだろう。

 メイドから受け取った濡れタオルを、少し加熱し、温タオルにして自らの顔と身体を拭く。

  

「はぅ……」


 タオルの暖かさと、拭いた後から乾いてサッパリとしていく感覚に、思わず気の抜けた声が出る。


「……」


 何故かメイドが口元を抑えて顔を背けていたが、突っ込んでも多分答えないだろうと思い魔王はスルーした。


「ところで、あれからドレくらい経った?」

「魔王様が眠っていたのは一日ですね、まだそんなに時間は経っておりませんよ」

「そうか……それで、私を着替えさせたりしたのはメイドが?」

「はい、カル様にも手伝って頂きましたが――」



「はぁあああぁぁぁああ!?」



 メイドが言い終わるより早く魔王が声をあげる。


「お前何してるの馬鹿なの意味がわからないんですけど!?」

「魔王様口調が、あと冗談ですのでご安心ください」



「はぁあああぁあああ……」



 真顔で冗談と言ってくるメイドに、魔王は今度は魂の抜けるような溜息を吐いた。


「で、実際?」

「魔王様のお世話は私が全てしておりました、手伝うとしてもリズを使っておりましたのでカル様はノータッチです」

「それは良かった」

 

 疲れた表情で魔王はチェストの服を取ると、着込んでいく。


「実際の所、カル様には捕らえた者の対応等をお願いしていましたので、昨日は一日それに追われていたのではないかと」

「捕らえた者……あぁ」

 

 魔王は脳裏にトウカともう一人ゴツイ槍を持った男の姿を思い出す。


「奴らはどうなったのだ?」

「勇者トウカと騎士のウルレウスという者は地下牢に幽閉して、近々尋問の予定です。偽魔王は任意聴取だそうで、恐らく我々と同じように、どこかに宿を準備され宿泊しているのではないかと」


 ……あぁ偽魔王とかいたな。

 完全に忘れていたが、そう言えば最後にリズを守るような動きをしていたような気がしなくもない。

 とりあえず礼を言っておかなければならないか、と考えると同時に、尋問という言葉に少し頭を抱える。


「……尋問とかどんな事をするのだ」


 包帯や使い終わったタオルを片付けていたメイドが手を止める。


「そうですね、大戦時であればマトモな方法から、果ては外道まで色々ございますが――」

「あー、そこらへんはいい、一応書物での知識はある」

「書で学ぶ知識と現実には、時としてかなりの差異がございますよ?」

 

 指を立てながらメイドが言う。


「百も承知だ。

 しかし、だからと言って今は一応平時だろう、あまり過激な事はできまい?」

「それは、出来ないのではなく、魔王様がただしたくないだけでは?」

「……」

 

 メイドの指摘に魔王は押し黙る。

 沈黙は肯定だ、だから魔王は何も言えない。

 メイドからすれば平和ボケした、魔王らしからぬ言動なのだろう、自身でもそう思ってしまう。

 しかし思考と感情と理屈はイコールではないのだ、だから苦しむ。


「……まぁよいでしょう、その辺りはその時になればわかります」

「メイド、私は――」

「別に『魔王』らしく等と思っておりませんよ」


 メイドは組んだ腕の片手を頬に当てながら言う。


「え」

「なんですかその意外そうな声は」

「いや、いつも魔王らしくやら威厳がどうこう言うではないか」

「それはその通りですが、魔王らしく威厳を持つ事とは、つまり魔王の誇り、矜持持って頂きたいと言う事です。何も無闇に暴君であったり残虐であったり、そういう魔王になって頂きたいと言っているわけではありません」

「そ、そうだったのか」

 

 魔王が意外そうな顔をする。


「まぁ誤解なら今理解して頂ければ構いません。

 『魔王』にあなたがなるのではありません、『あなたが』魔王なのです、その誇りさえ忘れなければ、そのカタチなどあなたが自由に作って構わないのです」

「む、難しいな」

「そうですね」

 

 メイドが微笑む。


「……前から思っていて言えなかったのだが」

「なんでしょう?」

「何故メイドが『魔王』を継がなかったのだ? その方がらしかったかも知れぬし、父上も安心したのではないか」


 ふむ、と小さく頷いた後、メイドはベッドの魔王に近づくと、その頭に手刀を叩き込んだ。


「ぉぉぅう……」

 

 うめき声をあげる魔王。


「二度とその様な事を言ってはいけませんよ、特に私以外などには決して」

「は、はい」


 メイドの語気の強さに涙目で魔王は返事をする。


「私如きでは魔王になどなれません、それに、あの方が望んだのは私による魔王の後継などではありません」

「……」

「私は姫様、あなたの為だけにここにいるのです。それがあの方の望んだ事であり、私の望んだ事でもあります。ご存知でしょう?」

「う、む」


 魔王は俯く。

 その頭をメイドはゆっくりと撫でる。


「ですから、あなたは胸を張って魔王としてお立ちなさい。自らに誇りを持って」

「……ん、すまぬ」


 魔王はメイドの胸に抱きつくと謝りながらもしっかりと頷いた。

 

誤字脱字、矛盾点などありましたらご指摘頂ければと思います。

感想等もお待ちしております。

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