出会いと罵倒
思いついたまま気ままに書いてます、なので矛盾やおかしな点は多目に見ていただければ。基本的にはヌルイ感じのスタイルのお話にしていこうかと思います。タイトルに深い意味は多分ありません。不定期更新予定。
「とりあえず魔王様、世界征服しに行きませんか」
「は?」
唐突に魔王城を訪れた男は、何を言い出すかと思えばそんな事を言い出した。
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「と、とりあえずよく来たな、私がこの城の主であり魔王だ」
ひと呼吸置いて、とりあえず魔王はよくある名乗り文句を上げる。
玉座の向こうには、今しがた素っ頓狂な事をこちらに提案してきた男と、その横には魔王の従者であるメイドが恭しく立っている。
素っ頓狂、そう、なぜ魔王と名乗る者が狼狽えたのか、なぜなら今のご時世では男の言った世界征服等という言葉の方がおかしいのだ。
魔王の前任である先代魔王の時代、かつて争いの耐えなかったこの世界でしかし、それを無益であるとした多くの種族が寄り合い話し合った結果、多くの条件と数々のそれぞれの譲歩の元、世界的和平が結ばれ数多くの種族は平和を手に入れたのだった。
それが数百年前の話である、それから小さな諍いはありつつも戦争というほどの争いは起きず世界は平和に包まれていたのである。魔王自体、前任の魔王からその座を受け取ったがその時すでに名ばかり魔王であり、魔族全体は魔界政府が平定、魔王という名もその末席にとりあえず座を置いているだけのお飾りであり、存在としては他の魔族よりかなり強い魔力を持ってるぞ、魔王。と言った程度であった。
使える従者もなんと驚きのメイド一人。
そんな時勢に、男は「世界征服」なんてモノを持ってきたのだ。
むしろ魔王の反応の方が普通とも言える。
「お客様、申し訳ありませんが一応、あちらに居らっしゃるお方は魔王様にございます、先にお名前を名乗って頂いてもよろしいでしょうか……」
「なんでそこ一応ってつける必要あるの?」
魔王のツッコミには耳を貸さず、メイドが男に促す。
「あぁ、申し訳ありません、私はカルヴァリア・エルデリスと申します、以後はカルとお気軽にお呼び下さい」
そう名乗り跪くと男は微笑む。
―――胡散臭い。
しまった表情に出てしまっただろうか、と思うがとりあえず魔王はうむ、と頷く。
「そうか、でカルとやら、いきなり現れたかと思えば世界征服とは一体お前は何を言っておるのだ」
そう言うとカルは驚いた大仰に驚いた様な素振りを見せる。
私の反応がおかしいのか? と一瞬魔王は不安になる。
「えぇ、魔王様はそう言う事はお考えにはならないのですか? 魔王なのに? バカだからですか?」
最後に何か余計な言葉が聞こえた様な気がするがスルーする。
「む、むしろお前は何かこの平和な世界に不満があるのか?」
「……いえ、しかし魔王というからにはそう言った考えくらい持っているもの思って来たのですが」
正直がっかりです。と小さく呟いたのも聞き逃さなかったが相手にはしない。
するとメイドが口を挟む。
「僭越ながらお客様、確かに魔王様はバカですが、今の世の平和は前魔王様が苦心の末創り上げた世界。その平和を崩すなど、世間知らずで箱入りお嬢様でバカな魔王様が許しても私めが許しません」
「ちょっとメイド、私の事罵倒し過ぎじゃない?」
―――そう言えばメイドは前魔王、父上の時代から仕えてるんだったか。
「いえ、事実ですので。事実はお認め下さい魔王様」
「えぇー……」
淡々と表情を変えることなく、メイドは主人である魔王を罵倒する。
「あぁ、やっぱり箱入りなんですか魔王様」
カルは思った通りだとばかりにメイドに話しかける。
「はい、生まれてこのかた、魔王様はこの城より二百メートル以上離れた事がございません」
「ド級ですね」
「はい、私が何度外出されては? 等申し上げても外には出られず城内をウロウロするだけで早百年近くが立ちます」
「ちょっと、そういう事わざわざ言わなくていいから!?」
聞かれてもいない事をメイドはペラペラと喋る、淡々と。
「成程、確かにメイドさんがお怒りになるのもごもっとも、平和は貴重なものでしたね、世界征服とは軽率でした」
カルはメイドに向かって頭を下げる。
「いえ、ご理解頂ければ私めは。むしろ出過ぎたお言葉をお許し下さい」
メイドもカルに頭を下げる。
―――私罵倒されただけ?
「では、引きこもりを治すためにご一緒に世界一周といういうのは如何でしょう?」
「またお前は何を言って―――」
「良い案だと思われます、しかし費用等の問題が……」
世界征服の次は世界一周と言うカルの言葉を否定しようとした魔王の言葉をメイドが遮る。
「それならば冒険者として仕事をしつつ旅をすれば問題無いかと」
「成程、世間知らずで金銭感覚も無い魔王様に世間というモノを学ばせつつ、お金のありがたみや使い方を学ばせる事も出来て一石二鳥、いえ三鳥にも四鳥にもなる良い案ですね」
「いや、いやいや何を言っているのだ二人とも、私にはこの城を管理し尚且魔王として君臨していなければいけないという大役が―――」
「お言葉ですが魔王様」
慌てる魔王の言葉を再度メイドが遮る。
「この城の日々の手入れをしているのは私めでございます、魔王様は何もされておりません、食っては寝ているだけです」
「うっ……」
「またその際の食費等、生活費を日々稼いでいるのも私でございます。魔王城を観光地登録する等して生活が破綻しないよう常にやりくりしておりますが正直そろそろ限界が見えてきております」
「うぅ……と言うか観光地登録等していたのか!? 道理でこんな軽装な奴がここまで簡単に来れる訳―――」
「今はその様な話をしているのではありません」
苦労してるんですねぇ、と頷くカルを指差して叫ぶ魔王の言葉を三度、メイドが遮る。
「その状況をかんがみて、魔王様に現状の打開案を提出して頂いたカル様のお言葉、そして私に反対する権利があるとお思いでしょうか?」
淡々と、しかし普段は常に伏せられているメイドの目が、薄らと開かれ魔王を見据えている。
「ぐ、うぅ……しかしだな、その……」
力の差は歴然として魔王の方が上だが、しかし相手は自分が生まれた時から世話を受けている相手、魔王の言葉がしぼむ。
「そ、そう、今しがた出会ったばかりの男と二人で旅と言うのは安全面的にどうなのだろうか? ほら私一応性別女だし」
「まがりなりにも魔王が安全とか言っちゃうんですか……」
「ご安心ください、私も同行いたしますので三人旅となります、カル様のお手を煩わせる事はなるべく……」
メイドがカルに頭を下げる。
「そっちなの!? と、と言うかうぐぐぐ……」
「覚悟をお決め下さい魔王様」
まるで処刑台に送られる様な物言いだ。
だがよくよく考えればただ冒険者として世界を巡るというだけの話だ、何を嫌がる事があるのか。
―――不当に罵倒されまくっている気がするが。
「良いだろう、貴様ら二人の案に乗ってやるわ! ただの旅なぞ私にとって何でもないことを教えてやる!」
「教えるも何も基本的にはただの旅だと思うんですが……しかもあなた魔王でしょう」
「突っ込まないで上げてください、引き籠もりですので」
あくまで二人の反応は冷淡である。
「き、貴様らぁああああ!」
悲痛な怒号が響き渡る。
こうして魔王と二人の従者? の旅が始まった。