↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
王兄殿下は曰く付き 〜闇稼業の王子ですが、婚姻をお望みですか?〜  作者: 汐の音


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
17/23

第十六話 掃除屋は恋を戒める


 その後は駆けつけてくれた騎士たちをねぎらい、蔓でぐるぐる巻きになった令嬢がたを託したことで、事件は一旦ラルクの手を離れた。


 彼らが到着する前のわずかな時間。

 ローザリッテは、連れられた先はヘデラ侯爵邸の一室であったと話した。

 縄の代わりに用いた蔦は、窓辺に垂れていた観賞と日除けのためのもの。それらを生育魔法で一気に伸ばし、操作魔法で縛り上げたとか。


 「ちょっと手荒でしたわね」と、本人は反省していたが。



(いや……違うだろう!? 反省するところが!!)


 聞いた瞬間、ラルクは呆気にとられた。

 状況を鑑みるに生育魔法のスピードが速すぎるし、操作の精度も高すぎる。意にそまぬ婚姻を強いられて国を出たと話していたが、彼女ほどの腕があれば、どの国だって魔法使いとして欲しがるだろう。本人の望みはさておき。


(そういえば、『粛清の騎士』を騙ったのはアイビー嬢とミラ嬢と言っていたか。ヘデラ侯爵の死についても。どうやって調べたんだ??)



 ――ともあれ、重要参考人である令嬢がたを引き渡した以上、あとは治安担当の騎士や内政官たちの管轄。当事者を洗うなり、関係者をあたるなり、きっちりやり遂げてくれるだろう。



 そうして諸々の采配を終えた頃。

 ふと、同じく立ち働いていたハーネスから「殿下は?」と問われた。



「差し出がましいことかと思いますが。その……」


「ああ、うん」



 ちらちらと寄せられる彼の視線から察するに、これは、ぴったりと側にくっついて離れないローザリッテの処遇について訊かれたのだろう。

 ラルクは頷いた。



「馬車を一台回してくれ。俺が彼女をポートメアリ公爵家まで送ろう」



   ◇◇◇



「すまないな、こんな格好で」


「いえ」



 おっとりと微笑むローザリッテの口ぶりはどこまでも柔らかく、メインストリートを行儀よく北上する馬車の蹄(ひづめ)の音と妙に合致した。長閑(のどか)ですらある。

 おまけに、「どんなお姿でもわたくしにはわかりますもの」などと告げられた。ラルクは少女(ローザリッテ)の天井知らずの大胆さに、思わず赤面しそうになる。


 向かい合わせの席で必死に平静を装うラルクに、異国の令嬢はほんのりと追い討ちをかけた。



「ところでラルク様。あの場に、精霊がいましたね」


「!!!!!! え、あ……ローザリッテ嬢?」


「はい?」


「そ、そうそう。タペストリーから出た奴らだな。ふ(・)た(・)り(・)い(・)た(・)」



 一瞬、はげしく動揺した己をラルクは呪った。

 彼女の言う「精霊」とは、門番の精(ゲート・ガーディアン)たちのことだ。


 ローザリッテは少し考えるそぶりをしたあと、にこっと視線を戻す。



「……ええ。そうですね」


「ん」



 瞑目し、腕を組むことで誤魔化したが、ラルクの心臓はいまや全力疾走ものだった。背もたれに寄りかかって街並みを見るふりをするも、内心は大暴れ。


(〜〜危なっ!? しっかりしろ、俺!! シェイドとの契約が解けちまうだろっ、こんなことで!?!?)


 罵倒の先は、おおむね自分。

 真の精霊体のシェイドは契約主の【掃除屋】と、その後継者にしか見えない。

 あるいは同じ精霊族か、より高位の精霊と契約した人間なら知覚も可能だろうが、闇(シェイド)より高位のモノなど、そういないはず。


(――――だから。あいつは昔、かなりの力を割いて仮初めの姿を実体化させたんだ。代々の王たちに、王(・)国(・)の(・)守(・)護(・)を(・)実(・)感(・)さ(・)せ(・)る(・)た(・)め(・)だけに)




 契約が結ばれて数代。

 ティリエルの中枢では、【掃除屋】の存在を忌むべき悪習ととらえる風潮が生まれた。


 第一王子と第二王子は生母が同じで、王子たちは賢く、やさしかった。王も内心では憂いていたという。

 そんな彼らに現実を知らしめるため、シェイドは今の形態を選んだ。王宮全体に結界を施したのもその頃だ。


 以来、闇の精霊は【掃除屋】の専属小姓として、ごく限られた範囲で認知されている。


 当代においては国王セイン、神殿へ行ったラルクの実母、セインの母である王太后だけが。


 いずれはレオニアも、セインの妃となった暁に滞りなく知らされるのだろう。


 ――義兄が、本当は何者なのかを。





(そうなったら)


 盗み見るように視界の端のローザリッテを意識する。

 彼女は薄紫のワンピースにふわりと銀の髪をおろし、両手は行儀よく膝の上。ラルクと同じように車窓から街並みを眺めている。

 きらきらと輝く澄んだ紅水晶の瞳は夢みるようで、見つめると、なぜか甘く儚い気持ちになるのだ。


 まるで、“幸福”が少女(ひと)の形をとったようで。



「? ラルク様。どうかなさいましたか?」


「いや。……何も」



 視線に気づいた彼女が不思議そうに問う。

 ラルクは、まぶしそうに目を細めた。


(彼女は、光のなかで佇むべき女性だ。いまはとち狂ってるセインも、世話を焼いてくれるレオニア嬢も。そのうち理解し(わかっ)てくれるだろう)


 ラルクは珍しくやさしい、柔らかな気持ちに満たされた。



「何でもないよ。ローザリッテ嬢。ありがとう、いろいろと」



   ◇◇◇



 その夜。

 旧城のラルクの私室を訪れたセインは、令嬢たちの取り調べで判明した事実を、なんとも言えない顔でこぼしに来た。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。