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42.不良と優等生

 ♦  ☉  ♦




 ヴェルナーとライナーがいつも通りに倉庫に向かおうとしていた時。


「ここは全面的に立ち入り禁止だ。回れ右をして帰れ」


 二人の前に立っていたのは、仁王立ちしていたシャルロッテだった。

 突如現れた女学生に、ヴェルナーとライナーは目を合わせた。


「妙だね。ここは出入り自由のはずだ」

「先日、委員会の会議で立ち入り禁止が決定された。風紀及び治安の乱れが理由でな」


 ライナーの疑問に、シャルロッテは答えた。

 ヴェルナーはシャルロッテを指さし、ライナーに聞いた。


「誰だコイツ」


 答えたのはシャルロッテだ。


「私は特進術部のシャルロッテだ」

「そうですか。初めましてライナーです」

「オレァヴェルナーだ」

「話すのは初めてではないのだが……」


 二人の態度に戸惑うシャルロッテだったが、ライナーは当然とばかりに肩をすくめた。


「失礼しました。必要のない人間は無駄なので覚えない主義なんです」

「貴様……っ」


 かつて自分を負かした相手に眼中にないと言われ、シャルロッテは唇を噛んだ。


「それはそうと、ここが使えないなら他に行こうか」

「まあいいか。ここもいい加減遠いしな」


 立ち去ろうとする二人に、シャルロッテが声をかける。


「おいまて!」


 二人は足を止める。


「学命により今日から私が貴様らの監視役になった。今後貴様らの実験活動という名の不良行為は私がいる場合に行ってもらう」

「おかしいですね。校則には違反していませんよ。暴力行為にしても、ヴェルナーの行為は正当防衛の範囲です。まあ、下品で粗野が違反だと言われれば僕には何も言えませんが」

「フォローすんならフォローしろや! けなしてんのかかばってんのかどっちだ!」


 仲良さげに言いあう二人だったが、シャルロッテは取りあう気はなかった。


「貴様らがどう思おうが、上は問題視している。貴様らの行為は見過ごせん」

「そぉかよ。知ったこっちゃねぇな」

「こちらも知ったことではない。先にも言ったが、貴様らの活動は全て私が管理、監視する」


 ライナーは小さなため息を吐きながら、横目でヴェルナーを見た。


「と、優等生様はおっしゃられているけど、どうする? ヴェルナー」

「そりゃ決まってらぁ」


 ヴェルナーは好戦的な笑みを浮かべた。

 ライナーもまた同じく笑った。

 そんな2人を見て、シャルロッテは身構えた。

 そして―――


「撒いちまえばこっちのもんだ!」

「逃げるが勝ちだ!」


 ヴェルナーとライナーは逃げ出した。


「あっ、待て!」


 一瞬面食らったシャルロッテはすぐに二人を追いかけた。

 校庭や校舎、研究室いろいろなところを走り回った。


「クソッ、あいつどこまで追いかけてきやがんだ!」

「そういえば思い出した。彼女はたしか一年のときの剣錬技大会で両部門で準優勝した実力者だ。決勝で戦った気がする」

「クソっ、全然思い出せねぇぜ!」


 走りながら会話する。

 すると二人の会話が聞こえたのか、シャルロッテが憤怒の表情を浮かべた。


「ヴェルナアアア!!!」

「なんであいつあんなにキレてんだよ!?」


 走っている途中で、二人はいいところを見つけたとばかりに足を止めた。

 少し遅れて、シャルロッテも追いついてくる。


「今度はどこへ行くつもりだ!」

「トイレです」

「なにッ」


 少したじろいだシャルロッテに、ヴェルナーはいやらしく笑いかけた。


「もしかして男子トイレまで監視する気か? きゃーん、シャルロッテのエッチ~」

「クッ……!」


 苦虫を噛み潰したような顔を浮かべるシャルロッテ。

 その間に二人はトイレに入り込み、中にある窓から外へと出た。


「よーし、これならあのしつけ―野郎も――……」


 ヴェルナーが落ち着いて伸びをした瞬間。


「貴様らー!!」


 大きく回り込んだシャルロッテが二人を発見した。

 かなりの距離を回り込まなければならないはずなのに、もう追いついてきた彼女に二人はぎょっとした。


「嘘だろ! もう追いついてきたのかよ!」

「あれは相当鍛えてますね」

「今度こそ逃がさん!」


 その後も昼から晩まで彼らは走り続けた。

 数時間もかくれんぼと鬼ごっこを続けた彼らは汗だくになっていた。


「はっ、ひっ、ふうっ!」

「だ、大丈夫かライナー!」

「だ、大丈夫に決まっているでしょう! ぜっ、はぁー!」


 走っている中で、ライナーの息が切れ、足元はおぼつかなくなっていく。

 そして――……


「ヴェルナー……僕は、もう……」

「え?」


 どさりと、ライナーが地面に倒れこみ、ヴェルナーは足を止めた。

 信じられないとばかりに顔をこわばらせ、ゆっくりと倒れたライナーを抱き上げる。


「ライナー、ライナー! 死ぬな、ライナー!!」

「し、死んだ? そんな、馬鹿な……」


 追いついたシャルロッテが目を見開き、口を震わせる。

 ヴェルナーは必死の形相でシャルロッテを睨みつけた。


「よくもライナーを! テメェのせいでライナーが死んだんだ!」

「そ、そんな……そんなつもりは、私には……」


 シャルロッテが目元に涙を浮かべながら、倒れたライナーのそばに膝をついた。

 そのとき。


「嘘です」


 ライナーは起き上がった。


「え」


 シャルロッテは目を丸くした。

 ライナーは立ち上がり、砂埃を払う。


「運動は得意ではないですが、ヴェルナーといると嫌でも体力がつくんです。これくらいなんともありません」

「だ、騙された!!」


 わかりやすく顔を真っ赤にしたシャルロッテを見て、ライナーとヴェルナーは笑い出した。


「貴様らァ!!」

「ハッハッハ! 『優等生』には不良のお遊びはきつかったか?」

「いくら『天才の娘』とはいっても、こんなお遊びは習わなかったでしょうね」


 楽しそうに笑う男2人に、シャルロッテは思う。


(こんな不良たちの相手などしていられるか!!)


 憤慨しながらも、結局この次の日も、彼女は不良たちの監視を真面目に行うのだった。



 ♦  ☉  ♦   



 初めてシャルロッテが、不良コンビの監視を始めた翌日。

 シャルロッテはこの日、必須の科目の講義を受けた後すぐに講義をさぼる不良たちの監視の任務に就く予定だった。

 そして、真面目に講義を受け終え、即座に席を立って不良たちの元へ向かおうとしたとき、あることに気づく。


「ん? ……そういえば、あの二人はどこにいるんだ?」


 たまり場である倉庫を封鎖した今、あの二人のたまり場がわからない。

 昨日は倉庫への行きがけを捕まえたが、今日はどうやって捕らえようか。


(とにかく、手当たり次第に探すしかない。不良の思考パターンなど想定済みだ。どうせ体育倉庫や校舎裏に決まって――……)


 講義室から出ようとしたシャルロッテ。

 しかし、その足は扉の手前で突如止まった。


「……んん?」


 彼女は首を傾げた。

 なぜなら、彼女がいた講義室の出入り口の扉から、昨日見かけた金髪と白髪がちょろちょろと見えていたからだ。

 想定していた不良の行動と違い、彼女は戸惑っていた。


(なぜここにいるんだ? まさか、私をからかっているのか? いや、そうに違いない。どうせあそこにいるのは案山子か何かだ。私が怒鳴り込むのを見越して近くで隠れて様子をうかがっているに違いない)


 シャルロッテは即座に切り替え、毅然として勢いよく扉を開けた。

 開けた瞬間に、下から突き上げるような突風が起きた。

 彼女のスカートが吹き上げられる。


「ばッ――……!!」


 間一髪で慌ててスカートを抑えるシャルロッテ。


 ――そこにいたのは案山子ではなく、正真正銘本物のライナーとヴェルナーだった。




ベル 「男子トイレの窓の位置を知ってたの?」

シャル「そ、それは、男子トイレの形は女子トイレと左右対称だから」

ベル 「まさか、窓から覗きをしてたわけじゃ」

シャル「そんなわけないだろう!!!」

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