コウス一行は、倭台軍とハル・サイマ帝の迎えに恐縮
マイヤが右手でコウスを差し示すと、冠の男は少し驚いた顔をしたが、正面に歩み寄って深く頭を下げ、両側に立っていた役人風の男も頭を下げた。
「おう、御仁がマキム大王の皇子でござるか。余はハル・サイマと申す。はるばる倭台市までお越しになられ、有難く存じる。」
二歩前に進んだコウスは、帝を一瞬睨んで少し笑みを浮かべ、深々と頭を下げる。他の十人も習って頭を下げた。
「ハル・サイマ帝様、直々(じきじき)の御出迎えに接し、誠に恐縮致しております。手前が纏向天皇の第二皇子コウスと申します。右の者が伊勢で名高い弓士マイヤで、左の者が纏向で第一級の弓士シモンでございます。宜しくお見知り置き願います。」
自己紹介の後、まず最初に討伐応援の返礼を述べようすると、帝が小さく手を挙げて言葉を遮った。
「ここは雨上がりで寒く、立ち話は身に沁みる。早速だが、我が市の議事舎にお迎えしたい。この者が案内するので、諸氏共々お進みくだされ。」
帝に付き添っていた役人四人が、剣礼している兵の前に出て、手で促しながら桟橋を歩き始める。
三人が案内に従い、並んで後に付くと、帝がコウスの横に来たので、驚いたマイヤとシモンが後ろに下がった。その後ろを八人が二列になって歩く。
「御仁が大王の御子息、コウス皇子とは。まだ若いと見受けたが、何歳におなりか。」
歩きながら、帝は初見で感じた疑問を、小声でぶつけてきた。
コウスは今まで何度も、初めて会う首長や当代に目の前の童子が大将と示され、何かの間違いかと疑念されてきたので、もう慣れている。
「手前は十六歳です。まだ元服前ですので前髪を下ろしたまま、恵枇の国主討伐に出立致しました。行く先々で驚かれましたが、敵の嗅助の目眩ましには効果がありました。」
十六
身の丈が低く、娘子にも見紛う十六歳の童子が、勇猛で知略に長けた恵枇タケル国主を、その手で討ち滅ぼしたとは。
帝はコウスが十六歳と聞き、歩きながら自身の第一子で二十四歳のエル・サイマ帥と、頭の中で比べた。
息子は武力が確かで、身の丈も体躯も申し分なく、色好みも人一倍ある。
だがコウスの身体からから発する、圧力ある威光が息子のエル帥にはない。この威光は、依然にマキム大王からも感じたものだ。
コウス一行が隊列を通り過ぎると、兵は一斉に向きを変えて、剣礼のまま足並みを揃えて後続に付いた。
迎えの儀式に目もくれず作業していた人々が、手を止めて行進に見入る。
「倭都纏向の皇子一行が、この津に入ったそうな。ハル・サイマ帝もトウ・リン将軍も出て、立派な迎えの儀式をしていたが、どの男が皇子だ。あんさん、分かるか。」
「分かりゃせん。ハル・サイマ帝と話しとるのは童子じゃで、その後ろの背の高い男かな。」
「マキム大王の皇子が、たった十人連れで来たと。大した用じゃねえな。」
まだ討伐応援隊が、引き返し終えていない。そのため恵枇タケル国主討伐の情報は、巷に流れておらず、民は知らないようだ。
大きな倉庫や貯蔵倉を越えると、前方に赤いレンガ造りで三層の、大きな建物がそびえている。頂上に四本の赤い昇り旗がそよ風になびき、周囲の工房や作業所からは多数の煙が立ち上っている。
---赤いレンガ造りが、倭台市の政務議事舎だろう、大きいな。
帝は想像していたより、人懐っこい感じの人物だとコウスは安堵した。倭都語も達者で、話しやすそうだ。
人の話をよく聞き理解する、賢明な人物と天皇から聞いていたコウス。
だが相手は政治力のある帝だ、早急な判断はせず側近のトウ・リン将軍の動向も見ようと、気を引き締めた。




