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倭都タケル=吾のまほろば=  作者: 川端 茂
第六章
76/108

コウス一行は、倭台軍とハル・サイマ帝の迎えに恐縮

 マイヤが右手でコウスを差し示すと、冠の男は少し驚いた顔をしたが、正面に歩み寄って深く頭を下げ、両側に立っていた役人風の男も頭を下げた。


「おう、御仁ごじんがマキム大王の皇子でござるか。余はハル・サイマと申す。はるばる倭台市までお越しになられ、有難く存じる。」


 二歩前に進んだコウスは、帝を一瞬睨んで少し笑みを浮かべ、深々と頭を下げる。他の十人も習って頭を下げた。


「ハル・サイマ帝様、直々(じきじき)の御出迎えに接し、誠に恐縮致しております。手前が纏向まきむ天皇の第二皇子コウスと申します。右の者が伊勢で名高い弓士マイヤで、左の者が纏向で第一級の弓士シモンでございます。宜しくお見知り置き願います。」


 自己紹介の後、まず最初に討伐応援の返礼を述べようすると、帝が小さく手を挙げて言葉を遮った。


「ここは雨上がりで寒く、立ち話は身に沁みる。早速だが、我が市の議事舎にお迎えしたい。この者が案内するので、諸氏共々お進みくだされ。」


 帝に付き添っていた役人四人が、剣礼している兵の前に出て、手で促しながら桟橋を歩き始める。

 三人が案内に従い、並んで後に付くと、帝がコウスの横に来たので、驚いたマイヤとシモンが後ろに下がった。その後ろを八人が二列になって歩く。


「御仁が大王の御子息、コウス皇子とは。まだ若いと見受けたが、何歳におなりか。」


 歩きながら、帝は初見で感じた疑問を、小声でぶつけてきた。

 コウスは今まで何度も、初めて会う首長や当代に目の前の童子が大将と示され、何かの間違いかと疑念されてきたので、もう慣れている。


「手前は十六歳です。まだ元服前ですので前髪を下ろしたまま、恵枇の国主討伐に出立致しました。行く先々で驚かれましたが、敵の嗅助かきすけの目眩ましには効果がありました。」


十六

 身の丈が低く、娘子にも見紛う十六歳の童子が、勇猛で知略に長けた恵枇タケル国主を、その手で討ち滅ぼしたとは。

 帝はコウスが十六歳と聞き、歩きながら自身の第一子で二十四歳のエル・サイマと、頭の中で比べた。


 息子は武力が確かで、身の丈も体躯も申し分なく、色好みも人一倍ある。

 だがコウスの身体からから発する、圧力ある威光が息子のエル帥にはない。この威光は、依然にマキム大王からも感じたものだ。


 コウス一行が隊列を通り過ぎると、兵は一斉に向きを変えて、剣礼のまま足並みを揃えて後続に付いた。


 迎えの儀式に目もくれず作業していた人々が、手を止めて行進に見入る。


倭都纏向やまとまきむの皇子一行が、この津に入ったそうな。ハル・サイマ帝もトウ・リン将軍も出て、立派な迎えの儀式をしていたが、どの男が皇子だ。あんさん、分かるか。」


「分かりゃせん。ハル・サイマ帝と話しとるのは童子じゃで、その後ろの背の高い男かな。」


「マキム大王の皇子が、たった十人連れで来たと。大した用じゃねえな。」


 まだ討伐応援隊が、引き返し終えていない。そのため恵枇タケル国主討伐の情報は、ちまたに流れておらず、民は知らないようだ。


 大きな倉庫や貯蔵倉を越えると、前方に赤いレンガ造りで三層の、大きな建物がそびえている。頂上に四本の赤い昇り旗がそよ風になびき、周囲の工房や作業所からは多数の煙が立ち上っている。


---赤いレンガ造りが、倭台市の政務議事舎だろう、大きいな。


 帝は想像していたより、人懐っこい感じの人物だとコウスは安堵した。倭都語も達者で、話しやすそうだ。

 人の話をよく聞き理解する、賢明な人物と天皇から聞いていたコウス。

 だが相手は政治力のある帝だ、早急な判断はせず側近のトウ・リン将軍の動向も見ようと、気を引き締めた。

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